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六花立花巫女日記  作者: あんころもち
14日目、認識は大事なのです
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吹き荒れる③



 シーアさんは女王様に内緒でこの国に来たようです。そういえば、反対してたって言ってましたね。こうやってまだ任務に就いてるって事は、許してもらえたようです。


 シーアさんも遊びで闘いに身を投じたわけではないのです。一緒に平和な世界を取り戻す戦いをしましょう。


 それにしても、本当はお姉ちゃんと呼んでいるのですね。何度か呼びそうになっていました。隠せたつもりかもしれませんが、アリスさんも微笑ましそうに見てましたから。シーアさんの弱点は女王様、ですね。


 弄られそうになったら反撃のカードとして覚えておきましょう。


 アリスさんが静々と魔力を高ぶらせていきます。きっと浄化を一応しておこうとしているのでしょう。


「リッカさま、”浄化の光”を」

「うん」


 用心は必要です。アリスさんの提案をのみ、隊商の方たちを五人ずつ横一列に並ぶようにとクリストフさんに指示を出してもらいます。


「少々驚くかもしれませんけど、ご安心ください」


 アリスさんの浄化作業が始まりました。

 私は周りを警戒しながら、様子をみます。


 やはり、兄弟子さんから悪意感染の証である黒い霧は出ません。悪意に取り付かれる人との違いはなんでしょう。



「ご協力ありがとうございます」


 私たちの用事を終え、隊商を送り出します。


「いえ、お礼を言わなければいけないのは我々です。ありがとうございました。連絡を出さずに済むのが一番ですが……もしもの時はお願いします」


 クリストフさんが代表して挨拶し、出発していきました。



「でハ、警備をしましょウ」


 シーアさんさんが歩き出します。


 でも、私はなぜか出発した隊商から目が離せませんでした。ちりちりと頭の奥が疼きます。最善は尽くしたはず、後はなるようにしかなりません。悪い予感を気にしすぎるのが私の悪い所です。


「リッカさま」


 アリスさんが頷きます。気にしすぎず、目の前のことを。ということでしょう。


「うん。いこっか」

「まずは牧場ですネ、様子を見ておいたほうがいいでしょウ。リツカお姉さんがまた泣かなくていいようニ」


 シーアさんが私を見ながらクふふふと笑います。まったく、ライゼさんにまで似てきましたね。


「シーアさん、あまりおふざけがすぎますと……」


 アリスさんもちょっと怒ります。でも、その顔に不快感や嫌悪感はありません。軽口を言い合える仲間に私も気持ちが軽くなります。


「ふふ、そんなに泣かないよ」


 まずは国の安全を確認しましょう。いつでも呼び出しに応じることができるように。




「おいウィンツェッツ」


 冒険者の一人がウィンツェッツに話しかける。


「あぁん?」

「お前なんで巫女様とあんなに険悪なんだよ」


 先ほど睨みあって居たことは全員に見られていた。気になっても仕方ないだろう。


「関係ねぇだろ」


 だからといって、ウィンツェッツが素直に応えるということはない。


「関係ないってことはないだろ、巫女様は世界の救世主なんだから何かあったらいけねぇだろ」


 そういうと、周りの人間も巻き込んでリツカとアルレスィアの話で盛り上がり始める。


「普段の柔らかい笑顔もいいが、今日初めて見た任務の時だけ見せる凛々しい顔もいいな」

「暇がなくて休憩所行きたくても行けねぇんだよなぁ」


 こんな風に、アイドルのように扱われているとは、二人は思ってないだろう。


「……はぁ、阿呆ばっかりだ。十六のガキ相手に」


 ウィンツェッツは呆れている。


「え? 十六歳なのか?」


 盛り上がっていた冒険者の一人がウィンツェッツの発言に驚く。


「あぁ? あいつらが言ってたんだよ」


 昨日のギルドで聞いた話だ。もしこの場にレティシアが居ればウィンツェッツはいじられていたことだろう。「乙女の会話を盗み聞きするとは最低ですネ」とかなんとか。


「十八くらいかと思ってた……」

「あ?」

(十六が妥当と思うんだが、どういうこった)


 ウィンツェッツは自身が見てるものと、他人が見えてるものが違うということに疑問を持ったようだ。


「なんでそう思ったんだよ」


 ウィンツェッツが聞く。


「大人びてるし、落ち着きがあるからだが。俺の姪が十五だが、同じくらいとは思えないよ」

(あれが落ち着いてる?)


 俺よりよっぽど感情豊かで忙しないと思うんだが。とウィンツェッツは考えている。


(俺が視えるもんとこいつらが見てるもんはちげぇ。じゃあアイツらの見てるもんは……?)


 ウィンツェッツはライゼルトとリツカが見てるものが何なのか気になったようだ。


 なぜあんなにもこちらの考えを読めるのか、動きを読めるのか。自分がこのままではあの二人には勝てないと理解している男は、人を見る、知ることを始めようとしていた。


「そろそろ気を引き締めろ。ここまで来ると巫女様たちが駆けつけるまで時間がかかる。相手の襲撃をいかに防げるか、だ」


 五組目のリーダーが緊張感を持たせる。最初が肝心だ。犠牲が出れば止められないだろう。悪意の暴風は。




「おや、巫女様方。どうなさいました」


 牧場の方の一人が私たちに気づき声をかけてくれます。


「はい、見回りをしてます。今日は神誕祭の準備で人手が足りていないので」


 アリスさんが応えてくれます。昨日のことがあったので、まだちょっと恥ずかしい私を気遣ってくれました。


「巫女様方が見回りとは、心強いです。どうでしょう、軽食でも」


 そういって準備をしようとしてます。


「いえ、任務中ですので、今回はご遠慮させていただきます。ここに悪意は感じませんけれど、十分にお気をつけ下さい」


 アリスさんが一礼し、断りました。


 まだ見なければいけない場所もありますしからね。私たちが感じ取れる範囲は広いわけではないのですから。シーアさんはちょっと残念がってますけど、表情には余り出ていません。


「心遣いありがとうございます。任務が無い時に、またきますね」


 私がそう言うと、牧場の人は笑顔になってくれました。昨日のことがあったので、私が気になっていたのでしょう。


「はい、ぜひ。また三人でお越しください。注意のほうは私のほうからお伝えします。それでは」


 牧場の方はそう言って、作業に戻っていきました。



「悪意の感知ってどんな感じなんですカ」


 シーアさんが首を傾げながら疑問を投げかけます。


「胸の奥がチリチリするような?」

「頭の奥で警鐘がならされるような感じですね」


 私とアリスさんが言葉を引き継ぎつつ応えます。


「嫌な予感の最上級って感じですカ」

「そうだね。確実にそこで何かが起きる、起きてるって分かるから、誰よりも早く対応できるかな。だから本当は、警備とかは私たちがしたほうがいいんだけど……」

「そこまでしてたら身が持ちませんから」


 気配探りと違って、悪意感知は……なんか別な感じなんですよね。


「そこまでしてたラ、いざというとき動けないでしょうしネ」


 シーアさんが頷きながら私たちを擁護してくれます。


「でモ、今日は頑張ってもらいまス。私も居ますから戦いはむしろ楽ですヨ」


 シーアさんが胸を張って、頼って。と言ってきているようです。


「えぇ、頼りにしてます」

「うん、頼りにしてるよ」


 私とアリスさんがそう返します。


 少しくらい無理してでも、敵をいち早く見つけ、アリスさんとシーアさんの詠唱の手助けをしましょう。


 それでいて、咄嗟に動ける体力をなくさないようにしないといけません。長い戦いになるでしょうから、ペース配分には細心の注意をしなければ。


「休憩は小まめにとっておこうか。行動範囲広い上に、連戦になるだろうから」

「えェ、もちろんでス」

「はい、リッカさまに無理なんてさせません」


 アリスさんに当然のように無理しているのがバレています。私のことに関してアリスさんは誰よりも、私の母以上に鋭敏な感覚を有しています。


 そのことが嬉しいと思ってしまう、どうしようもない私でした。



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