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六花立花巫女日記  作者: あんころもち
13日目、日常を想うのです
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違う形で⑦



「……何をしとるんだ、あいつら」


 お師匠さんが困惑してます。まぁ、私も少しばかり困惑気味ですけどね。


「牧場のお馬鹿カップルより甘いでス」


 私があの時のカップルをお馬鹿と呼んでいるのは、このご時勢に外を散歩気分で出歩いていた迂闊さゆえです。


「それは、あいつらには言ってやるなよ。魔女娘」


 お師匠さんが苦笑い気味に私に言います。


「えェ、それくらいの空気読めますヨ」


 いじりはしますけど。


「ほどほどにしてやれ」


 カカカと特徴的な笑い方をします。私もよくエルヴィ様から言われましたけどね。いつからこの笑い方になったんでしたっけ。


「そんで、あんさんは今日どこ行っとったんだ」


 真面目な顔で聞いてきます。この切り替えの早さは驚きですね。リツカお姉さんも巫女さんもそうでしたけど、やりやすいです。


「何っテ、領収書見せたでしょウ。食べ歩きですヨ」

「ほぅ、その割にはよく食うな、大食い魔女娘。こんなに食ってんのに」


 ニヤニヤと私の渡した領収書二枚をヒラヒラさせてます。リツカお姉さんではありませんけど、これは気づいていると私にも感じ取れます。


「はァ。剣士って生き物は厄介でス」


 野蛮お兄さんが不貞腐れていたのがちょっとだけ分かりますね。


「これはただの年の功だ。で、何しとったんだ」


 まァ、隠すことでもないんですけどね。


「巫女って言うのがどういう存在なのカ、街で聞いて周りましタ」


 もっとお二人のことを知っておきたかったですし、近しい人以外からどう思われてるか気になりましたからね。


「なるほどな。だがよ、あんさん」


 お師匠さんは領収書を見ています。


「四十万ゼルって、なんだ?」

「正確には三十八万四千二百七十ゼルでス」


 お酒って高いんですね。まぁ、そう引き攣らないでくださいよ。


「なんでこんなにかかった!? 一体どこで何しとったんだ!」


 まるで父親のように私を叱りつけてます。少し新鮮さを感じますね。


「そうカッカしないで下さイ。怪しいとこには行ってませン」


 金額の大きさよリ、どこで何をしていたかを気にするなんて。お師匠さんの人柄が出ますね。


「情報を得るには口を軽くするのがいイ。そう情報部の人が言ってましたかラ。お酒飲ませて聞き出しましタ」


 故郷で習ったことです。凄く便利なんですよ。


「お酒ぇ!? お前酒場行ったんか……! 俺も連れて、いやそうじゃねぇな、酔っ払いは何するか分からんから気をつけろ」


 欲が出ましたね。お酒好きなんですかね。


「えェ、リツカお姉さんじゃあるまいシ、大丈夫でス」


 リツカお姉さんなら、必要とあらばフラフラと入っていっちゃいそうです。



「それで、分かったことですがネ」


 領収書と酒場侵入を有耶無耶にするためにささっと話題変えましょう。


「リツカお姉さんの戦いを直に見た人たちハ、尊敬というカ、戦士として見ていましたけド、それ以外は違いますネ」


 巫女様たちってどういう人? と聞いたら、大体そんな感じの結果でした。


「マリスタザリア投げたリ、大男を一捻りしたリ、剣振り回したりとか本当に出来るのか半信半疑でしたシ。まずちゃんと戦えるのか疑問視してましタ」


 一般的な意見は概ねこんな感じです。基本的には、戦えるのか疑問って話でしたよ。王国が誘導してるんじゃないか、とまで言ってる人もいました。


「かくいう私モ、初めて見たとき驚きましたけどネ。噂の巫女様があんなお姉さんだなんテ」


 強い魔力や違う力は感じましたが、普通のお姉さんでした。向かっている先がギルドでなければ、戦士とは思わなかったでしょう。


「巫女さんのほうの印象は全部一緒でしたヨ。噂通りのお方ですっテ。威厳に満チ、慈愛に溢レ、まさに神の遣いであるト」


 たまに思ってたのと少し違う、って言われていましたけど。それは皆隠してはいますが、思っているでしょうね。


 だって、普段はただの美人さんですし。それも絶世の。


「まぁな。俺もその口だ。俺は最初敵意向けられたしな。カカカッ」


 何しでかしたんですかね。まァ、今普通に接している以上、巫女さんたちの勘違いとかでしょうけど。もしやらかしてたら今こんな感じで居ませんよね。


「でもリツカお姉さんに関してはバラバラでス。血まみれの巫女、不思議な力で男を倒す巫女、給仕の巫女、巫女様を守る騎士。とかですネ。こんな風に称されますガ、最終的には噂みたいなことが出来るとは思えなイ、でス」


 確かに、男を捻ることが出来ても、マリスタザリアに出来るとは限りませんがね。


「なんでこんなにも実力を疑われているのでしょウ」


 言い方は悪いですが、私が感じたのはこれです。


 王国からの告知や噂で、マリスタザリア討伐のことは知られているにも関わらす、ここまで疑問視される事が疑問なんです。


「俺やアンネちゃん、剣士娘巫女っ娘と親しく、戦いを知っとるあんさんは思い至らんだろうな」

「ト、言いますト?」

「剣士娘は隠すのが得意だ。巫女っ娘が関わってない時のあいつの考えは俺がギリギリ分かる程度のもんだ」


 まァ確かに、のほほんとしてますよね。


「あいつが強いなんて、誰も思わんよ。そうなるように見せとる」


 どういうことでしょう。そんなのリツカお姉さんには不都合しか。巫女さんを守ろうと思ったら、むしろ自分の強さを言い触らすべきではないでしょうか。


「確かにな、だがな。あいつがもし隠すの下手だったら、どうなると思う」


 ? 深刻な顔でお師匠さんが聞いてきます。質問の意図が良く分かりませんね。


「常に気を張って巫女っ娘を守ってると見せつけ、警戒していると見せつけ、敵対者は徹底的に叩くと見せつける。こんなの、四六時中見せられたら国民が不安になるだけだ」

「ふム?」

「世界の命運を握る娘っ子が常に警戒しとる。これ以上ないほど不安だ」


 なるほど。段々分かってきました。


「だからなぁ、あいつは隠し続ける。不必要に不安を煽らんように、ここは日常なんだと思わせるように。まぁ……敵意を向けてくりゃ、別だがな」


 日常全てが”巫女”の活動って事ですか。


「これは巫女っ娘もやっとるぞ。まぁ、意識的かどうかは知らんがな」


 確かに、リツカお姉さん達がおろおろとすれば不安を感じるでしょうが、実際かなり追い詰められていますよ。魔王は絶対居るというのに、魔王の存在すら曖昧な状況ですし。マリスタザリアは今もどんどん増えてます。


「不安の種は化けもんを生む。だから、その評価でいいんだよ。巫女としての使命ってのはそういうことだ。俺はそう思うことにしとる」


 命を賭けているのに、それを誰にも知られないように振舞うって、どんな感じなんでしょう。


「でも血まみれで帰ってきたら意味ないですよネ」

「あんさんも言ってたろ。あいつはたまにポンコツだ。だから巫女っ娘と俺やアンネちゃんが居るんだよ」


 そのための手回しも何個かしとるしな。とお師匠さんがにやりと笑います。


 そういう抜けている所が、より一層噂を複雑にしてるんでしょうね。そして複雑になればなるほど、リツカお姉さんと巫女さんの術中に嵌ると。

 狙ってやってないでしょうけど、事態は好転してますね。


「仕方ないですネ。私も手伝ってあげまス」


 楽に討伐できるようになれば、少しは演技が楽になるでしょう。それに――。


「あんさんの手伝いは嫌な予感が半分するんだがな」

「失礼ナ。ちょっといじるだけでス」

「はぁ……。まぁ、それも安心を生むかもな」



 ――……。


「巫女様が世界を救うらしいわ。シーア」

「エルヴィ様。そうは言っても、巫女様は私と少ししか変わりませんよ」

「シーアだってその歳で『エム』を授かることが出来たのよ。巫女様もすごいわよ。だってすでに、キャスヴァル領では随一って評価らしいもの」


 エルヴィ様が私に微笑みかけます。少し嫉妬しますが、もうそんな年齢でもないし、私には私の出来ることがあります。


「じゃあ私も行って手伝いますかね」

「何を言ってるの、シーア。ダメよ。あなたが危険に曝されるなんてダメ」


 まだ子供扱いされてしまいます。


「それにね、シーア。コルメンス様から”伝言”があったのだけど。赤い髪のもう一人の巫女様が居るそうよ。二人居るんですもの、大丈夫よ」


 ? もう一人ですか。巫女は一人だったはずです。


「なんでも異世界からきたそうよ。話を聞いてみたいわ」


 そんなどこの誰とも知れない人、信用していいんでしょうかね。


「あ、そんな顔しちゃダメよ。シーア。コルメンス様がおっしゃってたわ。瞳に世界を救う炎を灯した勇敢な女性って。まるで革命を決意した私の支援を決めた時のあなたの目そっくりだ。って」


 そう頬を染め言います。


 革命の時のことは分かりませんが、城の人の話では、その時のエルヴィ様は真の王女だったって言ってましたね。今では妹分の私に過保護で、キャスヴァル国王に恋する乙女ですけどね。


「だからね、シーア。大丈夫よ。変な気は起こしちゃダメよ?」


 私に釘を刺します。それが目的だったようです。なんにしても、私はもう決めてるんですけどね。


「分かってますよ。エルヴィ様。大人しく帰ります」

「えぇ。それと、お姉ちゃん。でしょ?」

「……お姉ちゃん」

「なぁに。シーア」

「おやすみなさい」

「えぇ、おやすみ。シーア。また明日ね」

「はい」


 もう決めています。魔王はキャスヴァルで討ち取る。


 まだ調査段階ですけど、明らかにキャスヴァルのマリスタザリアが多い。きっとあの国に居るんです。


「ごめんなさい、お姉ちゃん。私は行きます」


 巫女様と赤い巫女様。どんな人にしろ、利用できるなら利用します。共和国を、お姉ちゃんを守るために。


「ついでにキャスヴァルも助けないと。お姉ちゃんが悲しみますからね」


 さぁ、船をこっそりもらっていきますか。

 その前に時間稼ぎになるように細工をしなければ。


 ――……。


 二人の巫女様は尊敬できる方でした。本当に世界のためなら命すら賭けるのでしょう。世界です。共和国も含まれています。死なせるわけにはいきませんね。


 それに……気に入ってしまいましたし。


「どうしたの? シーアさん」


 やっと回復したらしいリツカお姉さんが首を傾げてます。


「いエ、お師匠さんが私にお菓子買ってくれるって言ってたのにまだもらってませんかラ」

「なに? ここに領収書あるじゃねぇか」


 そういってさっきの約四十万ゼルの領収書を見せてきます。


「そレ、私の一ゼルも含まれてませんかラ」


 二枚ともお酒代でス。


「じゃあ今から買ってきますネ!」

「いってらっしゃい、シーアさん」

「いってらっしゃいませ」


 巫女さんたちが一礼します。お城での生活を思い出しますね。メイド服にしては少し、可愛らしすぎますけど。


「えェ、お二人のも買ってきますヨ! では、後ほど」


 そういって私はお店を飛び出しました。


「……ハッ。待て魔女娘!」

「ライゼさん、待ってください。お代がまだです」

「あぁ、これでいいか」

「いえ、シーアさんの分も」

「……なん、だと?」


 この国の人も悪くありません。エルヴィお姉ちゃん。

 少し口うるさいけど父親のように心配してくれて、荒く見えて心優しいお師匠さん。


 生真面目で厳しそうな印象なのに、根は優しく周りを気遣って、ちゃんと見てくれているアンネさん。


 巫女として生まれて、ずっと世界のために生きていたにも関わらず、歳相応に笑って、怒って、悲しむことができる面白い巫女さん。


 異世界からきたのに、世界のために命すら賭けちゃうお馬鹿さんで、でも人としての暖かさを持っていて、それでいて子供っぽいところもあるリツカお姉さん。


 みんな良い人たちです。ちょっと野蛮な人もいますけどね。

 共和国のためだけに来た私ですけど。世界を救う巫女さんたちのお手伝い、がんばってやります。


 そして生きて報告に帰りますね。巫女さんたちを連れて。

 でも、そろそろ国王経由でお姉ちゃんにバレるころかな。声は聞けそうですね。

 クふふふ。



『レティシア。少し王宮にきてくれ』


 あァ、早速ですか。ちょっと叱られに行きますかね。受伝拒否してましたし余計に怒られそうです。


「えェ、今から向かいまス」


 国王さんも呆れ声でしたネ。



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