違う形で
A,C, 27/03/08
朝走っている最中、横道から殺気を感じ取り向きます。ライゼさんの洗練されたものではなく、癇癪のような殺意。
「……」
早速襲い掛かってくるんですか。
でも、私に気づかれたからか、黙ったままどこかへ行ってしまいました。
(ほんとに、私標的なんだ)
本気で言っていたのは分かっていましたけど、昨日の今日で当たるようになるわけないんですけどね。
何か別の理由? ……考えても仕方ないですね。再開しましょう。
アリスさんに言うか迷いましたけど、無用に心配させるだけなので止めました。
心配そうに私を見ていたので、気付かれてしまっていたのかもしれません。
ただ、兄弟子さんが私に敵意を向けている間は気にしないことにしました。ギルドで会うかもしれないと思うと、面倒ですけど。
ギルドにつくと、椅子にどかっと座っている兄弟子さんが居ました。こちらから話しかける理由もないので、そのまま受付に向かいます。
その際アリスさんが兄弟子さんを睨んでいました。昨日のことがあったとはいえ、この睨み方は……やはり、今朝のことがバレているのでしょう。
手早く受付を済ませ、兄弟子さんから離れて座ります。
「おはようございまス。巫女さン、リツカお姉さン」
シーアさんが、まだ眠いといった風に目を擦っています。
「おはよう、シーアさん」
「おはようございます」
私とアリスさんが返事をします。シーアさんは受付を済ませ、私の隣に座りました。
「ところデ、野蛮お兄さんがずっと睨んでますヨ」
シーアさんがじと目で兄弟子さんを見ています。
「十八歳は超えてるんですよネ。大人げないでス」
ライゼさんの過去から考えるとそれくらいでしょう。二十は行ってるかもしれませんけど。というよりライゼさん、三十超えだったんですね。二十後半とは思ってましたけど。
「お二人は何歳なんでス?」
「十六歳だよ」
そういえば、アリスさんの年齢聞いてないや。なんで聞こうって思わなかったんだろう。歳気にする余裕なかったのかな。
「私も十六です。リッカさまと一緒だったのですね」
ふふふ、とアリスさんが笑顔になります。
「一緒だったんだね」
私も微笑み返します。
もう少し上かと思っていました。大人びていて、落ち着いているから。でも私に見せてくれるアリスさんの一面を知っていると、私と同じ歳でも納得できます。
一緒の年齢、巫女になったのも一緒ということになります。また共通点が増えました。嬉しいという思いが溢れてきます。
「お互イ、知らなかったんですカ」
シーアさんが引き攣った笑みを浮かべています。そこそこ長い時間一緒に居たのに知らないっていうのは、確かにおかしいかもしれません。
「何度か歳を知る機会はあったような気がするのですが……その都度何か―っ」
そうですね、アリスさんの言うとおり何かあったような――っ。
「どうしましタ?」
シーアさんが私たちを見ます。
痛む頭を押さえながらアリスさんを見ると、アリスさんも頭を押さえていました。前もこんなことが……あったよう、な?
「大丈夫?」
私はアリスさんを心配します。
「はい、リッカさまも大丈夫ですか?」
「うん。大丈夫みたい」
良く分かりませんけど、お互い無事なら良いですね。
「シーアさんは何歳なの?」
何事もなかったかのように、話題をシーアさんに移します。
「エ? えェ。十二歳でス」
シーアさんが困惑しながらも応えてくれます。
「十二歳で共和国のために」
アリスさんと同じく、この若さで国のために命を賭ける。この世界の人は、平和な世界から来た私には眩しすぎます。
何百年も前には、向こうの世界でも同じような方が居たようですけど、遠い過去ですから私には実感がありません。
私も今……賭けているのですよね。平和になったこの世界はきっと、綺麗なのでしょう。この目で、見届けたいものです。
「平和になったら、共和国にも行ってみたいな」
事を成したのち、すぐ帰るってこともないでしょうし、少し我侭もいいですよね。
「えェ、案内しますヨ」
シーアさんが笑顔で提案してくれます。故郷が好きなようです。
「雪も見れるのでしょうか。昨日北のほうにいけましたけれど、見れませんでしたから」
アリスさんも興味があるようです。
「巫女さんは雪を見たいのですカ?」
「はい。リッカさまと、見たいのです」
私の名前のことを聞いたときから、見たい思いが強くなったと言っていました。平和になったら、一緒にみたいですね。
「私も、見たいな。アリスさんと一緒に」
やりたいことは山ほどあります。想像するくらいは許してくれますよね。
「共和国の北側は雪山ですかラ。行けばみれますヨ」
シーアさんは故郷の景色を思い出しているようです。
優しい時間が、すぎていきます。
「お待たせしました」
平和な世界を想い描いていると、アンネさんが来ました。
「おい、担当。今日は急ぎのはあるのか」
今まで黙ってこっちを睨み付けていた兄弟子さんが、ようやく口を開きました。
「いえ、本日はありません」
依頼はないようです。
「じゃあ俺はもう行く」
そういって踵を返しました。
「緊急で入るかもしれませんので、”伝言”を受けれるようにしていてください」
アンネさんのその言葉に、チラと視線を向けるだけで去っていきます。あれで返事のつもりなのでしょうか。
「あれで返事したつもりなんですかネ」
シーアさんが素直に声に出します。
「でハ、私も自由にさせてもらいまス」
そう言ってシーアさんも、椅子から跳ねるように立ち上がりました。
「今日も宿のお手伝いあるのですカ?」
「はい。緊急任務がなければ入るつもりです」
「それでハ、その時に行きまス。また後ほド」
そう一礼をして、シーアさんも去っていきました。
その時になったら、”伝言”で伝えたほうがいいのでしょうか。
「私がシーアさんに連絡を取りますので、ご安心を」
「ありがとう。アリスさん」
”伝言”に至っては私、発動すら出来ませんでしたから、ね。
「いえ、その必要はないかと。お二人が働きだしましたら、宿から”告知”が出されますので」
「告知?」
「宿のサービスと契約致しますと、宿のほうから小さい黒板を渡されます。その黒板に告知が浮かびあがるのです」
そんな魔法もあるんですね。……それのせいで、昨日いきなり働き始めたのにお客さんがあんなに。
ところで、そんなサービスがあるって、私達聞いてないんですけど?
「それにお二人が働き始めると、告知より先に周囲に知れ渡るそうですから。心配はいらないかと思います」
アンネさんは特に気にしてないように言います。ですけど、それってどういうことでしょう。あとで支配人さんに確認しましょう。
私達の行動が知れ渡るって事の方が、心配なのではないでしょうか。
「平和な証拠ですね」
ふふふ。とアリスさんが楽しげに笑います。
その笑顔に私も綻びます。
そんな些細な出来事で盛り上がれるって、確かに平和ですね。そう思えば、今のままでも良いかと思えてしまいます。
「本日お二人には一般依頼をやっていただこうと思っています」
アンネさんから依頼書を渡されました。漸く、一般任務ですね。マリスタザリアが関わらない、住民からの依頼が主という話でした。
「そんなに難しいものはございません。どうぞお選びください」
選択肢は、四つですか。
・落し物の捜索。(婚約指輪) 当日のみ。
・花屋の売り子 (制服持参)
・牧場の加工場の手伝い 当日のみ。
・学校での講話 (巫女関係) 十日まで。
「落し物の捜索、加工場、講話はなんとかなるとして……売り子は私には難しいかも、物が分からないし、文字も……」
どれも簡単なものではありますけど、どうしたものでしょう。
「制服持参とはどういうことでしょう」
アリスさんが依頼書を指差しアンネさんへ聞きます。確かに、気になります。
「はい。お二人のあの制服です」
「……えっ」
「この依頼を受け取った際、巫女様方に回すかもしれないと伝えたところ、そう条件が追加されました」
宿で、売り上げが上昇した。と支配人さんが喜んでいました。しかし、いいのでしょうか。あれは宿の……。
「宿の主人に聞いたところ、休憩所の宣伝にもなるから構いません、と」
アンネさんの手回しは手際がよくそつがありません。時間稼ぎも逃げ道すらありませんからね。
「……」
物がわからないので苦労はするでしょうけど、花屋にはまた行きたいと思っていました。これはやってみたいです。
「二手に別れて、というのはどうでしょう」
アンネさんがそう言います。でも――。
「「別れては無しでお願いします」」
アリスさんと、きょとんと顔を見合わせます。
「……お二人のほうが、売り子にしろ講話にしろ喜ばれるでしょうから。それで構いません」
アンネさんが折れてくれました。ありがとうございます。
「落し物の捜索、加工場、花屋のお手伝い。でよろしいでしょうか」
アンネさんが確認します。
落し物と加工場は今日までということでしたから、そちらを優先に。
花屋は、私の我侭です。アリスさんが気を使ってくれました。
講話は十日までではなく、マリスタザリア討伐がない日、もしくは早く済んだ日に時間を作ってもらえるそうです。
「はい、お願いします。まずは落とし主の元へ参ります」
「かしこまりました。広場に依頼主の方をお呼びいたします。そちらへ向かって下さい」
広場付近で落としたのでしょうか。
「はい、では」
アリスさんが立ち上がりました。私もいきましょう。
便利屋立花さんの本領発揮です。
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