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六花立花巫女日記  作者: あんころもち
12日目、喧嘩にも色々あるのです
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初めての喧嘩②



 食事をしながら、シーアさんとライゼさんが私のことで盛り上がってます。


「血まみれですカ。見てみたかったようナ、見たくないようナ」


 赤の巫女、その赤の大半がこの血まみれから来ているのでは、と思ってしまいます。


「俺も血まみれには面食らったが、その後聞いた化けもんを投げたっつーのが気になって仕方なかったがな」


 カカカッと腹を押さえて笑っています。あぁ、こんな公衆の面前でそんな大声で言って。また広まってしまいます。もしかして……もう知らない人なんて居ないのでしょうか。


「木の棒を使わないなラ、今日見れるのでしょうカ。武術って言うのヲ。王様も言ってて気になっていましタ」


 シーアさんの興味もそちらにいったようです。分け入っても茨の道ですか。それよりも……。


「陛下が、知って?」


 情報提供はアンネさんでしょうけど、どう伝わったのでしょう。引かれてませんかね。


「えェ、相手の力を使って投げル。と言っていましたガ。噂の巫女さんの片方が肉体派とは思いませんでしタ」


 確かに、頭脳派とはいえませんね。巫女が決まった時から勉強なんて程ほどでしたし。体動かしてる方が好きですけど。


「肉体派ではありますけど、力自体は平均的ですよ……?」


 そういって腕まくりをします。


「確かニ、硬さはありますけどしなやかでス」


 これ以上筋肉つかないだけですけど。


「武術を見たいようですけど、今日は見せることはできそうにないです」


 喧嘩ですけど、喧嘩と言えるか微妙ですね。


「怪我すらしないって言ってましたけド。どういうことでス?」

「まぁ、楽しみにしとけ。魔女娘。いいもんは見れるだろうよ」


 ライゼさんも良く分かってないようですけど、どっちも怪我をしない喧嘩というので、楽しみにはしてくれているようです。


 私の想いを汲んで喧嘩を許してくれましたけど、アリスさんは、本当は嫌なんだと思います。


 自分に敵意を向けた相手にすら、慈悲をかけます。そんなアリスさんだから、守りたいのです。


 傷つけないという想いは極力守ってあげたいですけど……アリスさんが危険になれば、話は別です。


 ですけど、今回はその想いを守れそうです。船に乗っている間考えました。


 やっぱりこれが一番です。叩きのめすだけでは、兄弟子さんはまた立ち向かってくるでしょう。自身が納得するまで、何度でも。


 だから、格付けを終わらせましょう。何をしても、勝てないと。


「リッカさま?」


 サンドイッチを丁寧に食べているアリスさんが、私の視線に気づきました。


「んーん、なんでもない。おいしいね、これ」


 ホルスターンのカツサンド、でしょうか。マリスタザリア化さえしなければ、こんなにもおいしいのに。


「ふふ、そうですね。私のは卵サンドですよ」


 こぅくるぁの卵です。集落の時にも使っていましたね。鶏と比べ、白身が濃厚であり大変おいしかったのを覚えています。


「まだ、一月もたってないのに、なんか懐かしいよ」


 目を閉じ思い出します。……ゲルハルトさまの睨み顔がチラついてしまいました。


「食べますか?」

「ありがとう、アリスさん」


 そういって手を伸ばそうとしますけど。


「はい、あーん」


 ……なぜか、既視感があります。してもらったことはないはずですけど。


「う、うん」


 差し伸べられた卵サンドを食べました。集落を思い出す味に、頬が綻びます。その頬は赤く染まってしまっているでしょうけど。


「うんっおいしいねっ! 私のも、食べる?」


 そう言って私のを差し伸べます。手が震えそうになります。


「はいっ! あーん」


 アリスさんの整った小さい口が、私のカツサンドに向かってきます。


 あむっとアリスさんが頬張り、ました。


「んー! おいしいですねっ!」

「そうだね。じゅーしー、って言うのかな」


 アリスさんが笑顔になりました。その笑顔に、私の頬が更に綻びます。


 これから喧嘩がありますけど、そんなことはその場にいって考えればいいと思います。


 今は、この一時を味わいます。



「ねェ。お師匠さン。今リツカお姉さんのカツサンド、口をつけたほうを」

「魔女娘、野暮なこたぁ言うな。店員。この魔女娘にアイス頼む」


 かしこまりました、と店員が伝票に書き足し去っていく。


「いいんですカ! やっぱり野蛮お兄さんとは違いますネ!」


 すっかりアイスに注意がいくレティシアは目を輝かせている。


「まったく……つーか、野蛮お兄さんって、あんさんもアイツに何かされたんか」

「いエ。ギルドでぶつかられテ、謝られはしましたけド、態度でかくて謝れられた気がしなかっただけでス」


 アイスを待ちながらレティシアは足をプラプラさせている。楽しみを体現するような所作にライゼルトは「こいつもまだ子供なんだな」と、妙な感想を持つ。


「そうか、それなら……しかたねぇか。悪かったな、魔女娘。そのアイスで手打ちにしておいてくれ」


 ライゼルトは頭を下げる。


「なんでお師匠さんガ? 私は根に持ちまス、ですがアイスをもらってまで引き摺ることはありませン。顔を上げてくださイ」


 レティシアは不思議に思いながらも、その手打ちを受け入れた。


「感謝する。まぁ、色々な。喧嘩が終わりゃ、どうせあの剣士娘が追求すんだろう。そんときに一緒に聞いてくれ」


 苦笑いしつつ、ライゼルトがお願いをする。


「私もリツカお姉さんが負けるとは思ってませんけド、お師匠さんもですカ」


 ライゼルトのリツカが勝つこと前提の言い分にレティシアが疑問を持つ。


「あぁ、三度あの剣士娘と手合わせしたが、馬鹿弟子じゃ無理だろうよ。武術を使わんでも、木刀を持たんでも変わらん。俺でも無理だろう。今回の喧嘩の条件じゃな」


 そう言って、ライゼルトは視線をリツカに向ける。


「そうなんですカ。楽しみが増しましタ」


 おまたせしました。と差し出されたアイスをきらきらした目で見ながらレティシアが言う。


 ライゼさんとシーアさんが何かを話してましたけど、アイスを頼んでいたのでしょうか。シーアさんが食べ終わったらでましょう。




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