4人で任務⑤
やはり、感じる悪意の純度は毎回上がっています。二体同時に存在してているとしても……ここは――。
「アリスさん。シーアさん、兄弟子さん。私が熊の注意を引きます。その間にドルラームの討伐を」
そう言って、石を手に取ります。
「どれくらいもちますカ」
シーアさんから尋ねられました。
「回避に専念すれば、いくらでも。ですけど、注意を引けるのは二分から四分です。私を倒せないとなると、相手は目標を変えるかもしれません」
飽き性かどうかはわかりませんけど、長く時間を取るのは得策ではないでしょう。
「十分でス。その作戦に私は賛成しまス」
二体同時では、数で圧倒していても危険は付きまといます。分断し、各個撃破が得策です。
「リッカさま……。わかり、ました」
アリスさんが私を心配そうに見ますけど、これが最善です。アリスさんもそれは分かっています。
シーアさんもアリスさんも、防御の魔法の有無で耐えるのは私より上でしょうけど、耐えるだけでは気を引けません。
確固撃破をしようと思えば、この作戦しかないのです。
「異論はねぇ」
兄弟子さんも目をぎらつかせています。戦うのが楽しくて仕方ない。そんな目です。同じ剣士でも、ライゼさんや私とは違う光り方。
まぁ、今はどうでも良いです。
「――では、お願いします」
私は皆から離れ、石を投げ当てます。まったく……あの時を、思い出しますね。
「グル゛ッ」
熊にちゃんと当たりました。私を見ています。これでもコントロールはプロ野球選手以上ですよ。
剣を抜き、魔法を発動させ。不適に笑って見せます。余裕を見せ付けるように。……実際は、違いますけど。
「グルァア゛!!」
熊の、私への突進。釣りは成功しましたけど……体が大きい。悪意の質も高い。
その腕は熊のものですけど、殺すだけならそれで良いということです。牙は異様なまでに発達していまし、間違いなく……殺し特化マリスタザリア。嬲りたがりなら、時間稼ぎ的には良かったんですけど。
(泣き言はなし。避け続ける)
右からのストレート。ですけど、熊としてか……マリスタザリア化による強化か。兎に角力技で――曲がってきそうです。
元より、懐に飛び込むのはありえません。あの牙です、食べられちゃいます。
右ストレートに対し、左側へ。熊から見て右側へ大きく沈み込むように回避。ストレートから私を押しつぶすために無理やり叩きつけに変化します。私は敵の脇を切りつけます。刃が通りません。掠り傷すら。
(予感は、してた。でもここまで硬いと……直撃でも切れないっ!)
回避には成功します、ですけど。
(アリスさんの浄化が必須)
今は、避け続けるしかないようです。
「こちらも急ぎましょう」
アルレスィアが魔力を練り上げる。
「えェ、巫女さんは”光”をどうゾ。足止めは私がやりましょウ。兄弟子さン、サクッとやっちゃってくださイ」
レティシアも魔力を練る。
魔力の暴風ともいえる、圧倒的な奔流。
「揃いもそろって命令しやがって」
ウィンツェッツが愚痴を言いながらも剣を抜き放つ。
「私の敵に業炎の棺ヲ――」
レティシアの放った炎の魔法が、ドルラームを包みこむ。まるで棺のような形のそれは、ドルラームの一切の行動を許さない。更に、触れたところから焼けていく。体毛が黒く焦げ、熱さに呻いている。
「光炎よ、強き剣となりて悪意を打ち滅ぼせ!!」
先ほど弾かれたことを考え、より貫通力のある光の剣で射抜く。”炎の棺”を見て、より効果を上げるため”炎”を付与した”光”だ。確実に射抜く。
「流石、キャスヴァル領で随一と噂される方ですネ」
レティシアが賞賛する。
「もういいな、斬るぞ」
すでに剣を強化していたウィンツェッツがドルラームの傍まで行っているようだ。
「ここまでお膳立てされてたら、戦ってる感じがねぇな」
楽しくねぇ。と吐き捨て、首を切り落とした。
「野蛮人すぎでス。リツカお姉さんと同じ剣士とは思えませン」
レティシアが呆れている。
「ライゼさんとも、違う感じですね」
アルレスィアがそう評価すると――――兄弟子さんは目を変え、アリスさんへ歩いていきました。
「今なんつった、巫――」
全てを言い切る前に、兄弟子さんの目の前を木刀が通り抜け、岩に刺さります。
「――結構余裕あるじゃねぇか、赤いの」
怒りの矛先を私に変え、睨んできました。
(なんのつもりか知らないけど、私はアリスさんへの脅威を見逃さないと言ったはずですけど)
避け続けている最中に、アリスさんへ向けられた敵意に対し、思わず木刀を投擲しました。少し無理な体勢だったので、ちょっとだけ壁に追い詰められてしまいましたけど。
(どうやら、向こうは終わったみた――っ!?)
私の顔の横を腕が通り抜けます。結構距離はありましたけど、ちくりと痛みがあります。少し、傷が出来たようです。
「リッカさま!」
アリスさんから”光の剣”が飛んできます。背後からの強襲。当た――っ
私は、アリスさんからの援護に合わせて斬ろうとしていた体を止め、回避に移ります。
そんな私の後ろの壁に、熊の腕が刺さったのです。
「!?」
熊は、アリスさんの”光の剣”を……私のように回って避け、攻撃を繰り出してきました。
追い詰められた場所から脱出は出来ましたけど、驚愕が顔に出てしまいます。
「もう……?」
アリスさんと私、ライゼさんは予想していました。
何れ、戦いを覚えた敵が現れると。こんなにも早く、いきなりこんな錬度とは思いませんでしたけど。
「リッカさま!」
アリスさんから一旦引くようにと名前を呼ばれます。
”疾風”を使い、距離を開けました。熊はまだ、突き刺さった腕を抜きながら、私を睨み続けています。そんな所作まで、戦士仕様ですか。
「ありがと。アリスさん」
頬を手で拭いながら感謝を述べます。出血から見て、そこまで深くはないようです。
「いえ、お礼を言うのは私のほう……ですけど」
アリスさんが治癒をかけてくれます。傷が残らないように丁寧に、それでいて迅速に。
「こちらを。――無理しましたね?」
木刀を手渡しながら、少し……怒った顔で私を見ています。
「兄弟子さんが、アリスさんに向かって行ってたから」
何が起きたかは分かりませんけど、アリスさんが危険だったのは分かりました。そんな状況で何もしないなんて選択はありません。
「どうやればあんな状況で投げられるんでス? 剣士ってあんな感じなんですカ?」
シーアさんが兄弟子さんに聞きいてます。
「俺にはできねぇよ、あの阿呆なら出来るんじゃねぇか」
兄弟子さんが吐き捨てるように言います。あの阿呆はきっと、ライゼさんでしょう。……ライゼさんなら出来ても、しないでしょうね。
この行為を見たら今度こそ、ライゼさんから破門されそうです。
「リッカさまの気持ちは嬉しいですけど、怪我をしない範囲でお願いします……」
そう言ってアリスさんは、敵への警戒に戻りました。戦いはまだ終わってません。
「うん、気をつける」
熊が行動を再開します。第2ラウンド、ですね。




