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六花立花巫女日記  作者: あんころもち
12日目、喧嘩にも色々あるのです
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4人で任務⑤



 やはり、感じる悪意の純度は毎回上がっています。二体同時に存在してているとしても……ここは――。


「アリスさん。シーアさん、兄弟子さん。私が熊の注意を引きます。その間にドルラームの討伐を」


 そう言って、石を手に取ります。


「どれくらいもちますカ」


 シーアさんから尋ねられました。


「回避に専念すれば、いくらでも。ですけど、注意を引けるのは二分から四分です。私を倒せないとなると、相手は目標を変えるかもしれません」


 飽き性かどうかはわかりませんけど、長く時間を取るのは得策ではないでしょう。


「十分でス。その作戦に私は賛成しまス」


 二体同時では、数で圧倒していても危険は付きまといます。分断し、各個撃破が得策です。


「リッカさま……。わかり、ました」


 アリスさんが私を心配そうに見ますけど、これが最善です。アリスさんもそれは分かっています。


 シーアさんもアリスさんも、防御の魔法の有無で耐えるのは私より上でしょうけど、耐えるだけでは気を引けません。


 確固撃破をしようと思えば、この作戦しかないのです。


「異論はねぇ」


 兄弟子さんも目をぎらつかせています。戦うのが楽しくて仕方ない。そんな目です。同じ剣士でも、ライゼさんや私とは違う光り方。


 まぁ、今はどうでも良いです。


「――では、お願いします」


 私は皆から離れ、石を投げ当てます。まったく……あの時を、思い出しますね。



「グル゛ッ」


 熊にちゃんと当たりました。私を見ています。これでもコントロールはプロ野球選手以上ですよ。


 剣を抜き、魔法を発動させ。不適に笑って見せます。余裕を見せ付けるように。……実際は、違いますけど。


「グルァア゛!!」


 熊の、私への突進。釣りは成功しましたけど……体が大きい。悪意の質も高い。


 その腕は熊のものですけど、殺すだけならそれで良いということです。牙は異様なまでに発達していまし、間違いなく……殺し特化マリスタザリア。嬲りたがりなら、時間稼ぎ的には良かったんですけど。


(泣き言はなし。避け続ける)


 右からのストレート。ですけど、熊としてか……マリスタザリア化による強化か。兎に角力技で――()()()()きそうです。


 元より、懐に飛び込むのはありえません。あの牙です、食べられちゃいます。


 右ストレートに対し、左側へ。熊から見て右側へ大きく沈み込むように回避。ストレートから私を押しつぶすために無理やり叩きつけに変化します。私は敵の脇を切りつけます。刃が通りません。掠り傷すら。


(予感は、してた。でもここまで硬いと……直撃でも切れないっ!)


 回避には成功します、ですけど。


(アリスさんの浄化が必須)


 今は、避け続けるしかないようです。



「こちらも急ぎましょう」


 アルレスィアが魔力を練り上げる。


「えェ、巫女さんは”光”をどうゾ。足止めは私がやりましょウ。兄弟子さン、サクッとやっちゃってくださイ」


 レティシアも魔力を練る。


 魔力の暴風ともいえる、圧倒的な奔流。


「揃いもそろって命令しやがって」


 ウィンツェッツが愚痴を言いながらも剣を抜き放つ。


私の敵に(【フィアマ・セルク)業炎の棺ヲ(ュ】・オルイグナス)――」

 

 レティシアの放った炎の魔法が、ドルラームを包みこむ。まるで棺のような形のそれは、ドルラームの一切の行動を許さない。更に、触れたところから焼けていく。体毛が黒く焦げ、熱さに呻いている。


光炎よ、(【フラス・フラム】)強き剣となりて(=【シュヴェト・)悪意を打(マリス】・)ち滅ぼせ(オルイグナス)!!」

 

 先ほど弾かれたことを考え、より貫通力のある光の剣で射抜く。”炎の棺”を見て、より効果を上げるため”炎”を付与した”光”だ。確実に射抜く。


「流石、キャスヴァル領で随一と噂される方ですネ」


 レティシアが賞賛する。


「もういいな、斬るぞ」


 すでに剣を強化していたウィンツェッツがドルラームの傍まで行っているようだ。


「ここまでお膳立てされてたら、戦ってる感じがねぇな」


 楽しくねぇ。と吐き捨て、首を切り落とした。


「野蛮人すぎでス。リツカお姉さんと同じ剣士とは思えませン」


 レティシアが呆れている。


「ライゼさんとも、違う感じですね」


 アルレスィアがそう評価すると――――()()()()()は目を変え、()()()()()へ歩いていきました。


「今なんつった、巫――」


 全てを言い切る前に、兄弟子さんの目の前を木刀が通り抜け、岩に刺さります。


「――結構余裕あるじゃねぇか、赤いの」


 怒りの矛先を私に変え、睨んできました。


(なんのつもりか知らないけど、私はアリスさんへの脅威を見逃さないと言ったはずですけど)


 避け続けている最中に、アリスさんへ向けられた敵意に対し、思わず木刀を投擲しました。少し無理な体勢だったので、ちょっとだけ壁に追い詰められてしまいましたけど。


(どうやら、向こうは終わったみた――っ!?)


 私の顔の横を腕が通り抜けます。結構距離はありましたけど、ちくりと痛みがあります。少し、傷が出来たようです。


「リッカさま!」


 アリスさんから”光の剣”が飛んできます。背後からの強襲。当た――っ


 私は、アリスさんからの援護に合わせて斬ろうとしていた体を止め、回避に移ります。


 そんな私の後ろの壁に、熊の腕が刺さったのです。


「!?」


 熊は、アリスさんの”光の剣”を……私のように回って避け、攻撃を繰り出してきました。


 追い詰められた場所から脱出は出来ましたけど、驚愕が顔に出てしまいます。


「もう……?」


 アリスさんと私、ライゼさんは予想していました。


 何れ、戦いを覚えた敵が現れると。こんなにも早く、いきなりこんな錬度とは思いませんでしたけど。


「リッカさま!」


 アリスさんから一旦引くようにと名前を呼ばれます。


 ”疾風”を使い、距離を開けました。熊はまだ、突き刺さった腕を抜きながら、私を睨み続けています。そんな所作まで、戦士仕様ですか。


「ありがと。アリスさん」


 頬を手で拭いながら感謝を述べます。出血から見て、そこまで深くはないようです。


「いえ、お礼を言うのは私のほう……ですけど」


 アリスさんが治癒をかけてくれます。傷が残らないように丁寧に、それでいて迅速に。


「こちらを。――無理しましたね?」


 木刀を手渡しながら、少し……怒った顔で私を見ています。


「兄弟子さんが、アリスさんに向かって行ってたから」


 何が起きたかは分かりませんけど、アリスさんが危険だったのは分かりました。そんな状況で何もしないなんて選択はありません。


「どうやればあんな状況で投げられるんでス? 剣士ってあんな感じなんですカ?」


 シーアさんが兄弟子さんに聞きいてます。


「俺にはできねぇよ、あの阿呆なら出来るんじゃねぇか」


 兄弟子さんが吐き捨てるように言います。あの阿呆はきっと、ライゼさんでしょう。……ライゼさんなら出来ても、しないでしょうね。


 この行為を見たら今度こそ、ライゼさんから破門されそうです。


「リッカさまの気持ちは嬉しいですけど、怪我をしない範囲でお願いします……」


 そう言ってアリスさんは、敵への警戒に戻りました。戦いはまだ終わってません。


「うん、気をつける」


 熊が行動を再開します。第2ラウンド、ですね。



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