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六花立花巫女日記  作者: あんころもち
10日目、認識の差なのです
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私の先生②



 私たちの剣幕に何事か、と広場の人たちが止まってしまいます。ですけど、私はそれどころではありませんでした。


(改めて思う、ライゼさんは隙がない。不用意に飛び込めない圧がある)


 飛び込めば、確実にカウンターがくる。そう分かっていても、私にはこれしかありません。


「――!」


 地面を蹴り、矢のように間合いをつめます。格下が後手に回っては、勝てるものも勝てません。


 上段からの振り下ろし、でも……軽々避けられ、木剣が視界の隅で揺らめきます。が、私は地面を蹴り、上に跳びます。


 木剣を避けると、すかさず蹴りです。私の脇腹を狙ってきた脚の上に、逆立ちするように手をつき、そこに力を込め、宙返りのようにライゼさんの後ろへ飛びます。


「――シッ!」


 その時、斬りつけることも忘れません。


「!」


 ライゼさんは首をずらし、それを避けました。そして私の着地にあわせ、木剣を横薙ぎにしてきます。


(ガードして、わざと弾かれて距離をとる――。っ)


 嫌な予感がして、ガードではなく首をずらして回避します。私の顔の横を、ライゼさんの拳が通り抜けました。


「ぅ――!」


 私はバランスを崩しながら、急いで後ろに跳ねのきます。でも――。


「っ」


 ライゼさんの木剣がつきつけられ、動けなくなりました。



「昨日よりは、マシな動きだな。剣士娘」


 ライゼさんが構えを解き、木剣を肩に担ぎます。


「だが、これから先に行くには足りんな」


 ライゼさんが近づいてきました。一旦中断でしょうか。一応警戒はしておきます。


「あんさん、昨日なんで蹴りが避けられんかったか、わかるか」


 昨日は反応すらできませんでした。


「剣筋が乱れてましたし、ただ真っ直ぐ行ってたからですか」


 心が乱れていました。そのせいかと思います。


「あぁ、そうだな。普段のあんさんなら避けられたろう。今みたいにな。じゃあ、なんで拳んときはあんなにギリギリで、しかも反応も鈍かったんだ」


 ギリギリで避けましたから、マリスタザリアだと怪我してましたね。


「嫌な予感ってことしか、わかりませんでした。だから咄嗟に回避に変えたので、あのように」


 やっぱり、経験の差なのでしょうか。全てを読みきれません。完全に第六感便りです。


「化けもんのときも、嫌な予感ってだけで避けとるんか?」


 私に何かを気づかせようとしているのでしょうか。


「いえ、しっかりと何が来るか視えてます」

「そうか、あんさん。俺が殴るって思ってなかったんだな」


 ライゼさんが考え込むようにしてます。


「俺を化けもんと思っとったら、殴りもわかったろうな」

「ん?」

「剣士娘。これは剣術の稽古だが、化けもんに勝つための稽古だ。人間を相手にしてると思うなよ」


 えっと、どういうことでしょう。


「俺は剣士だが、殴りも蹴りもするぞ。勝つためならなんだってする。ごっこじゃねぇからな」


 ライゼさんは、そういいます。


 私はたぶん、心のどこかでこれは剣の試合と思っていたのでしょう。


 だから、昨日された蹴りはなんとなく分かったけど、殴られるとまでは思ってなかった、と。


「その意識の差は致命的だ。相手が人間に近いやつだったらあんさんそうなっちまうのか?」

「う……」

「この世界での戦いは全て命がけと再認識しろ。相手は全部、化けもんみてぇになんでもするぞ」


 ライゼさんが、また間合いをあけました。


「私は、読めなかったんじゃなく、分かってなかったんですね」


 意識から、体術が抜けていた。


「まぁ、そういうことだな。もう俺から殴られたりはないだろう。あんさんは、どういうわけか勘がいい。読みは俺と同等だ」


 ライゼさんが苦笑いしながら言います。


「まったく、ほんとに十代の娘っ子か。あんさん」


 失礼なことを言ってきます。


「少しだけ、勘を鍛えただけです」


 拗ねながら言い返しました。


「あぁ、悪い悪い。これでも褒めとる。あんさんが俺に勝てんのは経験だ」


 何事もなく会話を再開します。


「あんさんは意識を変えるだけで強くなれる。自分をもっと知ればいい」


 そう言って、講義が始まりました。


「あんさんと俺の違いは分かるか」


 性別、とかではないですね。


「経験、体格、ですか」


 戦闘経験が圧倒的に違います。命をかけた戦場に居た年数は、私が生きた歳より長いでしょう。


「俺の馬鹿弟子より出来がいいな。あいつは歳! っつってキレてたからな」


 カカカと豪快に笑います。


「それも、間違えてないのでは? 歳の差で経験と体格の差も出ますし」


 私は何気なく返しました。


「まぁな、でもあいつは本当に歳としか思ってなかった。あんさんとは違う。あんさんは理解している。歳を重ねることの生み出す強みを」


 ライゼさんが親の顔をしてます。


 馬鹿だなんだと言っても、その馬鹿弟子が気になるようです。


「だがな、この経験の差は埋められる。特にあんさんなら簡単に」


 ライゼさんが真面目な顔に戻ります。


「人間をよく見てる。観察眼は達人のそれだ。それにプラスして勘の鋭さ。後は意識さえ変えりゃいい。体格は、あんさんの魔法が体格なんか関係ねーほど力を上げる」


 そう、ですね。”強化”がないと、いくら相手の力を利用しても、マリスタザリアを投げるには至れません。


「だがな、あんさんには致命的なもんがある」


 ライゼさんが私の体を見ます。


「犯罪ですよ」


 私は自分を抱きしめ、じとっとライゼさんを見ます。


「……」


 アリスさんから銀色の煌きが迸りました。


 ライゼさんはその銀色を見る事が出来ませんけど、圧は感じているのでしょう。ライゼさんは焦るように手を上げています。


「剣士娘ぇ!? わかってやっとるだろ!!」


 まぁ、分かってはいますけど、じろじろと見るのはダメです。


「防御の薄さですね」


 私から切り出します。


「そういえば、なぜライゼさんには分かったんですか」


 アリスさんが魔力を霧散させ、疑問を口にしました。


「はぁ……助かった……。あぁ、三戦分だ、俺が剣士娘の戦いを知っとるのは。一つ目は牧場。二つ目は俺の目の前でやったな、熊だ。三つ目は港だが。まぁ二つ目の時点で確信しとる」

 

 ほんと……お母さんとライゼさんの戦いを見てみたいものですね。かなり良い勝負をすると思うんですけど。


「あの時、大きく避けたな。化けもんの攻撃を」


 しっかり見られてました。でもそれだけで分かるのは、この世界ではライゼさんだけでしょう。


「どういうことです?」


 アリスさんは、私の防御力がないのを知っているから思い至りません。知らなかったら、アリスさんも気づいた事でしょう。


「剣士娘の機動力、攻撃力を考えれば、あの時とるのはギリギリでの回避。そして確実な一撃。ギリギリで反撃を繰り出しゃ、腕は落とせたはずだ」


 その通りです。


 硬いのもありましたけど、剣先にしか当たらなかったので、切り傷だけでした。


「そうしなかった。巫女っ娘がいたからな。その攻撃を待って確実にしとめたとも見えるが、それなら腕を落として確実性を上げたい。でもそうしなかった。その理由だが一つ目んときに、剣士娘は血まみれで帰ってきた」


 思い出したくないですね。赤い巫女という微妙に不名誉を含む名前。何よりあの時の私も身勝手すぎました。


「剣士娘な、直撃はない。掠ってあぁなった。ってことだな」


 そうです、掠っただけです。


「”強化”魔法。自分を強化するっつー話だが、防御はあがらんのだろう。掠っただけであれだけの出血をするほどな」


 洞察力だけでなく、この理詰めのような思考力。腕が良いだけの剣士ではないと、再度痛感します。


「だからだろう、大きく避けたのは」


 全部あたりです。流石ですね……。


「大方、巫女っ娘に無茶すんなって怒られたんだろう。その癖三つ目んときにまたやりやがって。そりゃ巫女っ娘もきれる」


 ええ、当たりです。ごめんなさい。


「ライゼさん、その話は終わったはずです。リッカさま? 落ち込まないでください。私はもう怒ってませんよ?」


 アリスさんが慰めてくれます。


「まぁ、防御がねぇっていう話はわかったな。それをどうするかだが。剣士娘。どうする」


 私に委ねます。一つ、決めていることがあります。


 だから――。


「ライゼさん、ライゼさんの剣。少し振らせてください」


 武器の構想、私の道。



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