私は強くなる⑦
私はわけもわからないまま、自分から斬り掛かります。
回転斬りでは、負ける。脳裏に過ぎった予感のままに、上段からの振り下ろしを繰り出します。
軽々とライゼさんは避け、そのまま回転し、私を横薙ぎに斬りつけました。
私は前に転がり、回避。跳ねる様に起き、再び身構えます。
「いい動きだが、そんな単調でいいのか。あんさんらしくないぞ」
今度はライゼさんが向かってきました。
左からの横薙ぎ、前に回るようにして避けて――。
「そのまま攻撃か?」
「――!」
回るようにして避けようとした私の横腹に衝撃が走ります。
「ぁっ……う゛っ」
私の体、が……少し浮きます。
(い、た? ぁ……)
意識が飛びかけますが、視界の端に木剣が見え、とっさに木刀で自身を守りました。
ガッという音と共に、木刀ごと私は弾き飛ばされ……小屋に体を、強かにぶつけます。
「はっあ゛! う……。」
息ができなくなるほどの衝撃が、襲います。
しかし、倒れることは許されませんでした。私の脇下に木剣が差し込まれ、引っ掛ったのです。
「あんさんの負けだ」
「負け……?」
(私、負けた、の? い、いやっ……それだけ、はっ!)
私は力を振り絞り睨み付けます。
「闘志はいいが。勝てるのか、俺に」
ライゼさんが冷たく私を見下ろしています。その瞳に、私は……唇を噛み、締めました。
「あんさんは、まだ弱い。だが直に強くなるだろうよ」
「……」
「だが、今は弱い。そんなあんさんが、守る?」
ぴくりと、木刀を持つ手に力が入ってしまいます。こんな、条件反射に身を任せるだけでは、否定出来ないというのに。
「巫女っ娘は強いぞ。気軽に使える攻撃はないと言っとったが、自分の身は確実に守れるし、味方も守りきれる」
そうでしょう、私は知っています。
「あんさんも俺よりは弱いが、強い。並みの相手には負けんだろう」
凄い自信ですね。でも、そうなんでしょう。
「あんさんは弱い。そんなんじゃ、最後までもたん。どっかで死ぬだろう」
――ぃ、ゃ。
「俺の言っとる弱いって意味わかるか」
「力、でしょうか」
剣士として、人間としての力の差は、歴然です。
「違う、心の問題だ。あんさん、巫女っ娘を守ることでしか戦えん」
(バレて……?)
「それでもいいだろう。だが、巫女っ娘は守られるだけの存在か?」
「……」
「あんさんは、守ることで闘志を燃やしとるが。それだけじゃ、いつか無理がくる」
私に攻め気が、ないと?
「巫女っ娘も、あんさんを守ろうとしとるが、あっちはいい。守ることの意味が違う」
どうやら、バレてはいないようです。けど、意味とは一体……?
「あんさんの守るは一方的なもんだ。ただ守る。それも一人で勝手に命をかけてな」
勝手って……。
「巫女っ娘は支え合い守る。お互いがお互いを、な。常に一人で戦っとるあんさんとは違う」
「――っ」
「わかるか、剣士娘」
私の瞳が揺れているのが分かります。動揺、してるの?
「巫女っ娘は、あんさんに頼ってほしいと思っとる」
「いつも、頼ってます」
反射的に、答えてしまいました。
でも、毎日と言ってもいいです。私はこの世界に来てからずっとアリスさんに頼りっぱなしなのです。
「ああ、普段の生活はな。だが戦いではどうだ。戦いで、あんさんが巫女っ娘に頼ったことがあったか?」
「”光の槍”で、サポートをしてもらってます」
目の前で、実践したはずじゃ――。
「巫女っ娘の魔法は、光の槍だけか」
「……”拒絶”と、”治癒”、です」
”拒絶の槍”、”盾”、”回復魔法”、どれも強力で高いレベルで扱えます。
「”盾”を、あんさんは自分からお願いしたことはあるか」
「ないです、”盾”を使うってことはアリスさんが前に……あっ」
私は、頼って……なかった……?
「あんさんは、巫女っ娘を前に出したくないんだろう。だがそれだと巫女っ娘はあんさんを守れん」
「でも、私は”盾”に何度も」
「それは、あんさんが頼んだことか?」
そうでした、アリスさんが……間に入ってくれただけでした……。
「今回もそうだ、巫女っ娘が間に入って守る、そして安全に戦い始める。これが一番だったはずだ。あんさんら、守ると言い合ってたが、剣士娘。あんさんは守らせてくれん」
……ようやく分かりました。私は、独りよがりで身勝手だったんです、ね。
「もっと頼っても良いんじゃないか。巫女っ娘は傷つくあんさんを見たくはないはずだ」
「……は、ぃ」
「そして二人で強くなれ、そうすりゃ、自ずと守るれるもんも増える。強くなるために、二人で生き延びろ」
ライゼさんが、木剣を抜きました。
「剣ってなぁ、硬ぇとどうしても折れやすくなっちまう。もっと柔らかく、柔軟に物事を考えろ。折れちまったら守るもんも守れん」
鍛治師らしい、例えですね。ぼんやりと、そんな事を考えてしまいます。
「折れる前に、守るだけじゃなく、頼ることを覚えろ。馬鹿娘」
カカカ、といつものように笑いながら、ライゼさんが背を向けました。
「――馬鹿は、言いすぎです。でも、ありがとうございました。私、独りよがりだったんですね……。アリスさんを無自覚に傷つけて、心配させて……」
ずっと、心配させてしまいました。
早く、アリスさんに謝りたい。そして、頼ろう。
「早く行ってやれ」
「はい。――先生」
そう言って私は、アリスさんの向かった方に視線を向けました。
「先生、か。あの馬鹿に言われるより余程むず痒ぃ」
「師匠何ですから、慣れて下さいよ」
自分から師匠に立候補したんですから。
「ハッ。…………完璧に守る、そんなの無理だ。そして守っとった……あんさんにとっては巫女っ娘が傷ついちまったら、あんさんは一気に折れちまう。心に余裕を持てよ。剣士娘」
私の背中にライゼさんは、そう締めくくり笑いました。
100部デース。
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