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六花立花巫女日記  作者: あんころもち
9日目、私は身勝手なのです
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私は強くなる⑥



 すでに港は悪意に包まれていました。急がないと、犠牲が。


(アリスさんは、ああ言ってたけど、私は――――)


 そう思っていると、今まさに……手足の生えた……鮫……? のマリスタザリアが座り込んでいる男性に噛み付こうとしていました――。


「――っ!!」


 私はそれを見た瞬間魔法を発動し、疾走し――マリスタザリアの心臓目掛けて、()()をしました。


(っ浅い……!!!)


 敵にダメージはあり、噛み付きを止める事は出来ました、けれど……っ。


「キ、シャァッッ!」


 敵が私目掛け手を振り下ろします。その掌はまるで、鮫の歯のようにきざきざです。


「――っ」


 申し訳ないと思いつつ、座り込んでいる方を蹴り飛ばします。


 ギリギリで避けますけれど……腕が、少し……遅れました。脳を痛みが支配しようとします。


「っ――。ぅくっ……!」


 突いた剣が抜けません。


 両刃のせいで手を添えることも――敵が腕を横薙ぎに振りぬこうとしています。あれはまずいです。


「――」


 私は、とっさに、剣の鞘を剣の刃に添えます。


「――シッ!」


 鞘で刃を押し、敵を切り裂き、剣を奪還します。


「グォ゛ア゛ア゛アア!!」


 敵が後ろにたじろぎました。私はそのままの勢いで、首をはねるために回り、首を横薙ぎに―――刎ねました。



「ハァッ……つぅ……」


 私は手を押さえ、後ろに二歩下がります。そして、両膝をつき、座り込んでしまいました。


「お、おい大丈夫か……?」


 倒れていた男の人が心配して声をかけてきます。どうやら、先行チームのようです。


 後ろからマリスタザリアを遠距離で攻撃しようとしていた、味方と思われる方たちも近づいてきていました。


「だ、大丈夫。です」


 私は立ち上がろうとします。


「大丈夫ではございません!!!」


 アリスさんが、今まで聞いたことのないほどの大声で私を叱り付けました。


「ア、アリスさ」

「すぐに手当てをしますっ!」

「う……」


 私の返事も待たず、治療を開始します。


 その間、先行チームが哨戒してくれました。


「どうして、無茶を、したんですか」


 アリスさんは怒っています。でもその目には、涙がたまっていました。


「ご、ごめん。でもあのままだとあの人が――」

「そのための、私のはずです。私の”盾”でよかったはずです。どうして、あんなことっ!!?」


 私は、突きをしました。でも、普段は絶対にしません。


 今回のを見ればわかるように、突きは……隙を生じます。一撃でしとめられると、絶対の自信がなければしません。


「リッカさま。まだ……思いつめていたのですね」


 アリスさんが、治療を終え、私を叱責します。


「どうして、ご自身をもっとっ――どうしてっ!!」


 アリスさんが私の肩をつかみ、怒ります。


「ごめん……でも、私は……私のせいで人が死ぬのは……」

「リッカさまのせいではないはずです!!」


 私は言い訳をしてしまいました。


 アリスさんの言っている意味が初めて、私には分かりませんでした。私がギルドでふざけていたから、時間が無駄になったのです。だから、私のせい――。

 

「おいおい……こりゃあ一体どういう状況だ?」


 そんな時、ライゼさんが着きました。


「~~~~。少し、頭を冷やしてまいります……。リッカさま、申し訳ございません」


 アリスさんが私から離れていきます。


 その手をつかもうとしましたけれど、手が震えて、うまくいきません。


「お、おい巫女っ娘……。――剣士娘、あんさん、なんて顔してやがる」


 ライゼさんの静止も聞かず、アリスさんはそのまま埠頭のほうへ行ってしまいました。


「え……? 顔……」


 私は顔を触りますが、よくわかりません。


「何があった、話せ」


 有無を言わせぬ声音に、私はぽつぽつと話し始めました。




「なるほどな、巫女っ娘の怒りも尤もだろうよ」


 全てを聞き、ライゼさんがそんなことを言います。


「でも、私が……」


 私はまた言い訳しようとします。でも。


「剣士娘、あんさん、覚悟しとるんじゃなかったんか」


 真剣な顔でライゼさんが問いかけてきます。


「覚悟、してますよ。戦いは遊びじゃないんですから」


 死ぬかもしれないという覚悟はいつでも、してます。


「だからこうやって――」

「それは王国兵も選任、一般冒険者も一緒だろう」


 少しため息をつきつつライゼさんは言いました。


「でも、今回は私のせいで」

「なんであんさんのせいになる」


 最後まで言い切る前にライゼさんが割り込みます。


「あの時、馬鹿騒ぎしてたのはあんさんだけか?」


 親が子を諭すように、ライゼさんが話します。


「それは……皆で、ですけど……」


 本来なら、私が立ち直った時点で終わりの話でした。


 でも、私が子供のような理由でやり返しなんかしたから三点…。


「アンネちゃんも、巫女っ娘も、俺も、ずっと気なんか張っちょらん」


 私の言い訳はもう、聞いてくれないようです。


「そんなままじゃ、助けられるもんも助けられん。だから、気を解すためにある程度無駄話もする。あれはその範囲内だった。五分もかかっとらん。それすら許されんとなると、誰もこんな仕事就かん。」


 普通の人はそうでしょう。


 でも私は、世界を……。


「巫女っ娘にも言われたんだろう。魔王倒すのが仕事だと。それは俺らにはできんぞ。でも、雑兵の始末くらいなら俺らでもやれんことはない」


 私はじわじわと、言葉をなくしていきます。


「剣士娘よ、俺ら皆覚悟しとる。覚悟して任務に就いとる。あんさん一人が、抱え込むもんじゃない」

「っ――」

「わかったろう。もう王国兵と、他の冒険者のことを気に病むな。気に病みすぎると、俺らの覚悟すら、踏みにじるぞ」


 そういい終えます。そういえば、集落長のゲルハルトさまも、言ってましたね……。


「はい……ありがとう、ございます……」


 アリスさんに、謝らないと……。


 私は逸るように動き出そうとしますけれど、ライゼさんに肩を掴まれました。


「じゃあ、巫女っ娘がなんで怒ったかだがな」


 え――それは今。


「確かにこれが理由でもあるが、ことはそれだけじゃねぇ」


 ライゼさんはまだ真剣な顔のままです。


「あんさんは、理解しとると思ってたがな」


 そう言って、立ち上がり。また木剣を作っています。


「巫女っ娘は、頼りねぇか?」

「何を言ってるんですか、頼りにしてます。いつも助けられてます」

「巫女っ娘は、そんなにも弱ぇか?」

「弱くないです、強いです。私よりずっと」

「なんで、あんさんは一方的に守ろうとしとる」

「アリスさんはこの世界に必要な人です。私が命をかけてでも守らないといけないんです」

「巫女っ娘が怒るのも無理はねぇ。あんさんは何もわかっとらん」

 

 問答の最中、ライゼさんはいきなり私に木剣を横薙ぎにしてきました。


「――」


 私は避けます。


「なんの、つもりですか」


 私は木刀を抜き、構えます。


「俺と模擬戦しろ。あん時の続きだ」


 行き成り攻撃してきて、続きとのたまうのですか。


「怪我しても、知りませんよ」


 私の目に闘志が燃え盛ります。


「ぬかせ。今のあんさんじゃ、何も守れんぞ」


 ――。っ!!


 私は、戦い始めました。


 でも、なんの……ために……?



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