表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
六花立花巫女日記  作者: あんころもち
1日目、私って森フェチなのです・・?
10/934

私と彼女⑤



「このようにして、世界は危機にさらされ続けています。それを緩和し、平和を維持するために。私たち”巫女”は絶対に必要なのです」


 私の手の手をとり、アリスさんは私に語りかけます。悪意と”世界の死”で、色々な感情が渦巻いていた私ですけれど、たったそれだけの事で、意識はアリスさんへと戻りました。


「リッカさまがいてくれたから、結界は維持されています。ですから、違うなんて言ってはダメです。自分を追い込まないでください」


 私の手にアリスさんの手が優しく慈しむように重ねられます。暖かい……。アリスさんの優しさがそのまま、私に流れ込んでくるようです……。


「……あり、がとうございます」


 アリスさんは私も”巫女”と、断言してくれます。何故でしょう。アリスさんの言葉は私、すんなりと受け入れられるのです。雨が葉を伝い、地面に落ち、吸収される。それくらい自然に、アリスさんの言葉は私に入ってきます。


「でも、どうして結界が弱っていたのでしょう。私の前任者たち、従姉妹母祖母からは話は聞いていたのですけど、ルールを破ったことはないはずです」


 手を握られ、アリスさんの手が重ねられ、物理的な距離も縮まったことでより鮮明に、鮮烈に……私の視界全てがアリスさんに占領されています。世界の絶景名所を独り占めしているような贅沢感の照れ隠しに、私は震える声で質問をしました。


 この状況で、この質問をするべきではなかったのです。


「こちらの巫女と一緒のルールのはずです、ですから、その……」


 頬を赤らめ、少し潤んだ目で私の目を見るアリスさん。


「前任者の方々は、ルールを破っていたのではないかと。その、未婚であることと、しょ、処女であることのどちらかを」


 私の手が強く握りしめられます。私の頭は、もう、ショート寸前です。混乱状態へと陥った私は、取り繕うように言葉を続けてしまいました。


 こんな状態で話を続けようとしたのが裏目にでました。いえ、必然ですね。


「あ、あああの、未婚は守っていたみたいです。だから―――」

(……わ、わたしはなにをくちばしろうとしてるのっっ!!)

「は、はぅ」


 アリスさんが顔を真っ赤にして俯いてしまいました。顔を手で覆ったから、私の手は離されてしまいましたざんねん。


 その代わり、膝をつきそうになる体を支えるように、私の肩にアリスさんの手が置かれています。


 そしてそんな愛らしいアリスさんを私は直視できないので、空を見上げています。少し落ち着きました。そして落ち着いたのが、またしても裏目になってしまうのです。


(―――同じ、ルール?)


 私はゆっくりとアリスさんに顔を向けます。するとアリスさんも何故か顔を上げていて、二人の視線が交わります。


(同じ、ルール。つまりアリスさんも…………っ)


 ―――今度こそ私の頭は限界迎え、その場にへたりこんでしまいました。


 顔は元の肌の色がわからないほどに赤く染まり、頭に血が上ってうまく思考できません。


 顔をあげることすらままならない状況で、アリスさんへほんの少し目をむけると……何故かアリスさんも一緒の体勢になっています。


 私たちは先ほどまでこの場を包んでいたシリアスな空気を無視して、しばらくの間同じ体勢で、私に至っては、自分が湖に落ちて全身濡れていることすら忘れ、固まってしまったのでした。


 やっぱり、今日の私はおかしい。こんなにも頭の中ピンクなおバカさんじゃなかったはずです。むしろ、”神の森”のことばかり考えてた森馬鹿だったような。


 ……自己評価と現実は違うということでしょうか。



 空が少し朱に染まってきた頃、私達は再び歩き出しました。私の少し前を俯き気味に、先ほどより小さく見える背中を揺らしながら、アリスさんは足早に歩いています。


 凄惨気まずさ究極な空気の中、本来の目的である集落へ足を向けているようです。


「え、えっと。ありがとうございます、アリスさん。お陰で少し、胸の痞えがとれました」


 チラリとこちらを顔を向けるアリスさんを、じっと見つめます。その顔にはまだ赤みが残っています。


 私と目があうと、アリスさんはまた顔を逸らしてしまいました。ちょっとショック……。でも、仕方ありません。私の先程の質問はどう考えても、セクハラでしたから……。


「色々知れてよかったです。私が生きているいることで救える命があるってこと。あと―――うれしかったです。気遣ってもらえて」


 生きているだけで人の為になっていた。私が”巫女”で居る意味はあったのだと、本当に嬉しかったのです。私は自然と、笑顔になってしまいます。


 この場所にきてから一番の笑顔だったと、思います。もしかしたら、人生で一番かも。本気の笑顔を人に見られた事がないので、少し恥ずかしい。だからアリスさんが前を向いていて良かったと、思ってしまいます。だって見られたらきっと……恥ずかしくて、また歩けなくなっちゃ――。


「……」


 アリスさんがじっと、私の顔を見ていました。


(見られた。見られた、見られた見られた見られた見られた……っ)

「ぁ、ひゅぃ……」


 歩けなくなることはありませんでしたが、歩調は、遅くなってしまいました。こんな変な声出したの、初めてかも……。聞かれてないでしょうか……。


 心なしか前を歩くアリスさんの歩き方が、元気に、うきうきしているように感じるのだけが救い? なのかな――。



 しばらく羞恥に耐えていると、草花の香りに、煙の匂いが混じってきたました。どうやら、集落へついたようです。 


 この素敵な森の近くに、アリスさんと共に住む人達……どんな、人たちなんだろう……。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ