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まわりだすいのち


 姫が引きこもり、賢女達の心配を他所にあっという間に時が過ぎ、約束の百年が経とうとてしています。

姫は、知りませんでしたが、この時まで賢女達による。姫に見合う王子選びで、賢女達は大忙しでした。日夜、どこから仕入れて来たのやら、近隣の王子や貴族、騎士の名を上げては、こうではない、あーでもないと、躍起になって姫の相手を探す姿はとても賢女とは呼べない、どちらかと言えば、噂好きの侍女さながら。


 時が満ち、賢女達の厳しい審査を通り抜けた王子一行が丁度、遠駆けで、近くまでやって来た所を、賢女が声をかけ、言うのです。


「どうかお待ち下さい。みれば、高貴な殿方と拝見しました。あなた様に聞いて頂きたい話があるのです。」

「よい、話してみよ」

「ありがとうございます。

実は、この先の森の中で、棘に守られた城があり、その城の中には美しい姫が、高貴なお方の目覚めのキスを待っているのです。それと言うのも、その城の人間を百年の眠りから覚めさせるためなのです。どうか、御力をお貸しください。」

 そう言って深々と頭を下げる賢女。近衛騎士の男が王子の前に進み出て、それに続くように話す。

「その話しは私も聞いたことがあります。深い森の中、棘に守られた城の中で、城の者達を救う王子を百年待ち続けているのだと。

どうか、王子、私からもお願い申し上げます。どうか、姫をそして城の者達を御救い下さい。」

 騎士は王子の前で騎士の礼をするのを、王子はいささか困惑した面持ちでしばらく騎士を見たが、王子であるものがいつまでもほうけて、臣下に答えないままでいる訳にはいかないと、負けじと王子もそれに答える。

「…。よい、頭をあげよ。離れてはいるが、この土地は我が父王の国である。百年もの間、貴いお方が苦しめられて居るのであれば、助けて差し上げねばなるまい。」


 王子はそう言って自ら森の奥へ進んで行く。その王子の後を騎士達が追う。王子に願い出ていた騎士だけは最後に残された賢女に感謝をの言葉を伝えてからその場を去ろうとしたところ、賢女は少しの間、騎士を止め、何か話しをした。騎士は一瞬狼狽えた様にも見えたが、すぐに平常を取り戻すと王子達の後を追って行った。

最後に残された賢女は、また、要らぬお節介をしてしまったかもしれないと思いながらも、どちらに転んでもきっと姫は幸せになれると、確信していました。



 森をぬけ、棘に守られた城の前までたどり着いた一行は剣で棘を斬り進み。城の中に入ると、いたるところに眠り続ける人が廊下の壁にせをあずけながらだったり、床に踞り寝ていたり、もっとおかしいのはコックが鳥の首をつかみ、右手には包丁を持って床に大の字で眠っていた。そして、首を捕まれている鳥でさえ、眠っているのだから、この城が尋常ならざる何かによって眠りについていることを王子一行に否応なくつきつける。

そうしてたどり着いた姫の部屋。そこには姫が横たわっていました。時代遅れのドレスの袖から、痩せ気味の少し骨ばった手首がでていて、髪はパサパサで、眠っている顔。目の下には隈ができ。目尻や頬は涙に濡れています。

残念ながら、美しいとは言えない姿に、一行は同情の色を隠せずに、ただ、王子が動くのを待っていた。

そんななかで動いたのは、姫を救って欲しいと願い出た騎士でした。

王子達の横をすり抜けて姫の側まで寄ると聴こえる小さな寝息。寝台の縁に腰を掛けると沈むベッドに少しだけ身動ぎする姫に、優しい手つきで目許に残る涙をすくい唇にキスをおとす。

そこまで、流れるように自然にこなした騎士は身を起こすと、緊張した面持ちで姫が目を覚ますのを待ちます。

騎士は何か姫に語りかけようとしては止め、言葉にならず、喉を震わせ、姫のてを握り、その手と一緒に願う様に額へ持っていく。すると、わずかに握った手に姫の細い指が絡まった。目を開けるとそこには眩しそうに笑う姫が騎士を見詰めているのでした。


「ふふっ、大きくなったわね?ジュール。…会いたかったわ。」

「ええ、私も会いたかった。ずっと、あなたの話しばかり聞いて育ったんです。

私はジュールの孫のジルです。…ターリアと、お呼びしても?」

「?…。ジュールの孫…?」

「はい、ジルとお呼びください」

「ジュールの孫ということは…私のひ孫ということ?」

「そうだったのか!?ジルっ、なぜそれを早く言わなかった?」

「私の祖父ジュールはターリアが去り、一人立ちする歳になった頃。姉のオーロールと一緒に事の真相を聞いたそうです。祖父は幾つかの国を転々とした後、王子の国で騎士になり、指南役にまでなりました。それらは、ただ、母を救いたいがためにしてきたことなのです。

祖父は、自分では母を救うことが出来ないと分かり、救う事が出来る者を育てようとしたのです。だから、言えなかったのですよ。

ですが、ここに来る前に聞いたのです。私でも、救いだすことができると…。

ずっと、思っていたのです。自分でも救えるものなら、と。だから、救えると知ったとき、この役目は私がしよう、私しかいないとさえ思いました」

「そうか、ならば仕方ない。私は城主に挨拶に行くとしよう。お前も話が終わり次第来るようにな」

「はっ、…ありがとうございます王子。」

 ジルは自分や祖父のジュールが王子をターリアを救うためだけに傀儡にしようと試みた事を告発したのだ。謀叛に等しいことであり。それ以前に、王子の信頼を裏切ったジルを咎めることもなく、変わらず接する王子にジルは一層の忠誠を誓うのであった。

王子達が部屋から出るのを見送り、ターリアに向き直ったジルは深呼吸して、ターリアの肩を掴み、言います。

「では、ターリア。聞いて下さい。私はあなたがずっと好きだったのです。今日初めて会ったのにと、お笑いになるかもしれません。ですが、真実あなたを愛しています。ここにたどり着いたとき、恋焦がれていた想いが愛に変わったのです。どうか私と共に…。」

 ターリアの手をとり指先に口付けるジル。

二人だけの室内は静かすぎる静寂と緊張で、ターリアとジルを包み。部屋の外からはちらほらと、目を覚ました人々の歓声や足音がまばらに聞こえて来る。

一瞬だけ外に気がいっていたジルは、ターリアの瞳を覗く。ターリアも同じようにジルを見ていた。どちらともなく、触れあう手が震えている。

その震えを感じたターリアは少しだけ、ほっとして、口の端を持ち上げ、静かに、それでいて、しっかりと頷いたのだ。





 それからどうなったのか、少しだけ話をしよう。

ジルはターリアを連れて王子と共に王城に戻り、二人は結婚した。ターリアは不安もあったが、少しずつジルに惹かれていった。子供たちを思って傷んでいた心も、もとの明るい性格を取り戻す頃にはすっかり、隈もなくなり、パサパサの髪は艶のある髪に。そうして、もとの美しい姫に戻ったターリアは子供たちに囲まれ幸せにくらしました。

ターリアの父である王様は、百年もの間、王として何も出来なかったことから、王位を返上し、お城周辺の土地と爵位を頂き変わらずお城での生活を楽しんでいる様子。

ターリアの結婚式はお城で賢女達も喚び、盛大に祝うこともでき、大いに盛り上がった。


 では、この一言で終わりにしよう。めでたしめでたし。



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