5「ラーセラル魔道学園」
「起きなさい! 遅刻よ!!」
「は!? ち、遅刻!? なんで起こしてくれなかったの母さん!!」
「か、母さん......!?」
そこには白髪のミュリが立っていた。
「な......お前......だったのか」
「って、そんなことはどうでもいいの! 早く行かないと遅刻するってば!」
「あ、そういえば学園に行くんだったな。行く前の朝食は?」
「そんなの食べてる暇ないわよ!!」
「で、でも......」
「いいから早く!!」
「はい......。着替えるから出ていってくれませんか?」
「わ、解ったわ。早くしなさいよね!」
凌は部屋にいつの間にか用意されていた、学園の制服らしきものに着替えた。
「着替えたぞ」
「じゃあ早く飛行魔法を準備して!」
「あの......できないんですけど......」
「そ、そっか!? ど、どうしよう。......な、なら今回だけ特別に私の体に掴まりなさい」
「は?」
「だから、私があなたを連れて一緒に学園まで飛んで行くの! 早くして!」
「わ、解ったよ」
「変なとこ触ったら、空中から落とすから」
「解ってるって」
凌はミュリのお腹の辺りに手を回して掴んだ。
なんか少し手に柔らかい感触がいるような......気のせいだな。うん。
「きゃ......手、当たってるってば!」
「え? 当たってたの? 気づかなかった......」
「それどういう意味よ!? 私の胸が小さいって言いたいわけ!?」
「それもあるけど......ほ、ほら早くしないと遅刻するぞ!!」
「後で覚えておきなさいよ」
「はい......」
ま、全力で逃げるけどな。
「飛ぶわよ、しっかり掴まっときなさいよ」
「ああ」
「風の精霊よ、汝、我に力を貸したまえ <フルーレ>」
詠唱が終わり、ミュリの足の下から風が吹き出ている。
これは便利そうだな。
「とばすわよ!!」
すると凄まじい速さで空中を飛行し始めた。
「学園が見えてきた!」
ミュリの家から5分ぐらいで学園が見えてきた。
「思ったより近いんだな」
「ま、私が全力でとばしてるからだけど。って、あと5分しかない!?」
「教室まで間に合うのか?」
「学園の門さえ潜れば入ったことになるから、門に入れれば遅刻にはならないわ」
その後も凄まじい速さで学園まで飛んだ。
そして学園の門を通過した。
「よし! あと30秒残り。セーフ」
しかし
ウィィィィン
門の方からサイレンのような音が響いた。
すると校舎から教師らしき人が出てきた。
「何事ですか!?」
「あ、そっか。あなたが通ったからだ」
「お、俺?」
「うん。内の学園って、学園内に登録する人がこの門を潜っても問題ないけど、あなたみたいな登録されてない人が入ると警戒ようのサイレンが鳴るのよ」
「それを早く言えよ......」
「で、ミュリ・ミストさん。これはどういうことですか?」
凌達はあのあと女教師に軽く事情を説明するとこの一件は無かったことにされた。
「で、今はどこに向かってんの?」
「昨日、言ったでしょ? あんたをベヘル先生に見せに行くの」
見せに行くって、俺は君の所有物じゃ、ないんだけど......
「ここよ」
「凄く、禍々しいですけど。ドアが」
「馴れれば大丈夫よ、こんなの」
「馴れるのかな? こんなの」
ミュリはその禍々しいドアを叩いて
「ベヘル先生、私です。ミュリ・ミストです」
「どうぞ」
「失礼します」
凌も取り敢えず礼をする。
「なんのようかしら。ミュリ」
「連れて来ました。異世界の住人を」
すると教師は凌の方を見てくる。
そんなに見られたら恥ずかしいんですけど!?
「こんな腐ったような目をしている奴が異世界人? なんかの動物でも変異魔法を使って変身させたのか?」
この教師、さらっと俺のことバカにしたぞ。お前がいっちゃん腐ってるわ!
「本当ですよ! 信じてください。動物でもこんなに腐った目にはなりませんよ」
なんなの? この人達。俺のことなんだと思ってるの?
「確かにそうだな、動物でももっとましな目をしているな」
「でしょ! 認めてくれますか!」
「まぁ、認めなくはないが、こんな目をしている住人が住んだ世界など、とんでもない世界だな」
もしかして、俺に喧嘩売ってるの?
「でも、この人はあの<聖剣アルカナ>を引き抜いたんですよ!」
「なるほど......そなた、名前をなんとよぶ」
女教師は凌にむかって問いてくる。
「小林 凌です」
「ふむ、コバヤシというのか。......いいだろ、ミュリお前を認めてやる」
「やった!! 先生それで一つお願いがあるのですが......」
「なんだ? 言うてみ」
「その......」
なぜだ、なぜ俺は学園長を目の前にしているのか。隣にはミュリがいるが......
「それで、なんのご用件ですか、ミュリ・ミスト」
「学園長、この男をこの学園に入れてあげてください」
「......それはなぜですか?」
「実は......」
ミュリは凌がなぜここにいるのかなどを学園長に話した。
「そういうことですか。入れてあげなくもないですが、この方が心配ですね」
心配ってどういうことだ?
「どういうことって顔をしてますね」
学園長は俺を見てそう言った。
「それがですね、確かにこの学園にも他の男性が居ました。十人ほど。しかし、その内、九人がこの学園を一年以内で辞めています。」
「な、なんでですか!?」
「あなたも解っていると思いますがこの学園に通っている生徒はほとんどが女子なのです。その生徒が男性に対して、集団でいじめをおこなっていたそうで、それが原因でほとんどが辞めています。」
「その、九人って言いましたよね? あと一人はどうして辞めたんですか?」
「......」
これは不味かったか?
「す、すいません! 聞いちゃいけないことだったですか?」
「いえ、どうせこの学園に入るなら知っておいた方がいいでしょう。彼のことを」
なんだ、この空気。ヤバそう。
「彼はこの学園で一番成績が良く、魔獣、魔虫の討伐数がトップの子でした。でもあるとき、何があったのかは存じ上げませんが、何かが彼を変えました。魔獣、魔虫の討伐部隊を狩るようになったのです。そして一度は大規模な部隊が彼を捕らえる為に編成されましたが、全滅させられました。」
「大規模な部隊がたった一人に全滅!?」
「しかも彼はあなたと同じーー異世界から来たのです」
「だから、あなたが異世界の方と知られれば、何が起こるか解りません。なので......」
「身の安全は保証できないと。そういうことですね」
「それでもいいのなら入れてあげることも可能です。どうしますか?」
どうしようか。俺には今まで何の才能も無かったんだ。今さら、才能が芽生えるなんてこともあるわけないしな。まぁでも、もしこの魔法が使えるようになり、俺が強くなれれば、もう卓の時のような悲劇を起こさなくてすむ。第一、いじめなんて昔から沢山受けてきた。だから今さらどうってことない。
「この学園に入らせて頂きます」
「そうですか。解りました。歳はおいくつですか?」
「十六です」
「え!? 十六!? 一緒!?」
そんなびっくりするようなことじゃないだろ。それにお前居たのかよ。
「では、今日から2-Aに転入ということにしておきます」
「え!? あんた、私と同じクラスじゃない!?」
「なんか悪いか?」
「別に悪くないけど......」
「お二人は仲が良いのですね」
「「良くありません!!」」
「ここが2-Aか」
「君が新しく転入してきた子ね」
後ろから声が聞こえた。凌は後ろに振り返った。
「初めてまして。私は2-Aの担任のカレールといいます。これからよろしくね」
「え、えっと......小林 凌です。これからよろしくお願いします」
「まさか、転入生が男の子だったとは、先生もびっくりだわ」
「やっぱりそんなにここじゃ男って珍しいんですね」
「まぁまぁ、こんな女性しかいない学園にこれてラッキーじゃん。ハーレムじゃんか。気楽にいこうよ」
「は、はぁ」
ハーレムとか、何言ってんの!? この人!
「取り敢えず教室に入ったら自己紹介と挨拶お願いね」
「解りました」
すると先生は教室に入っていった。
「おはようございます、皆さん。今日はこのクラスに転入生が来ました。じゃあ入って来て」
皆、女の子だって期待してるんだろうな......
俺は恐る恐る教室に入っていく。
「えっと、今日からこの学園に転入することになりました、小林 凌です。よろしくお願いします」
教室が静まり返り、次に聞こえた声は全員同時だった。
「「「「「男!?」」」」」
この学園に俺の居場所、あるのかな......
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次話 第六話 「魔法学園生活」
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