4「英雄?」
「それにしてもばかでかい城だな」
「これがお城? こんなぐらい皆もっとデカイのに住んでるわよ」
凌は今、ミュリの家の目の前にきている
「で、俺は何すればいいんですかね」
「う~ん。今日は学園休みだから......う、家に泊めてあげなくもないわよ」
俺今一文無しだからな。多分どこの宿にも泊まれなさそうだし、仕方ないか。
「解ったよ。ありがたく泊めさせていただきます」
「そ、そう。じゃあ部屋に案内するから付いてきて」
凌達は家というか城に入った。
いや~流石にでかいね。記念に持ってきたスマホで写真撮ろっと。
「それじゃあ、ここを使って。私は着替えてくるからここで待ってて」
そう言ってミュリはどこかに行ってしまった。
アイツが戻ってくるまで何しようかな。
「ん......あれは本か?」
凌は本を手に取った。
この世界の文字か? 読めないな。これも写真撮っとこう。
「入るわよ」
不意にドアからミュリの声が聞こえた。
「どうぞ」
ミュリはそっとドアを開けて入ってきた。何をビビってんだ?
「ど、どう? この家は。」
「ズゲェーでかくて、まるでお城だよ。こんな所にきたの初めてだからうれしいよ」
「そ、ならよかったわ」
「で、けっけょく俺は何をすればいいんだ?」
「学園の魔法薬の先生のベヘル・モッド先生にあってもらいたいの」
「あってどうすんだ?」
「私が世界転移薬を完成させたっていう証拠がないと、ベヘル先生が認めてくれないの」
「じゃあ、別に俺じゃなくてもよかったんじゃないか?」
「それもそうね。もう来ちゃったんだからもう遅いよね。一時間たったし」
「一時間? なんのことだ?」
「わたし言わなかったけ、世界転移薬を使ってから一時間以上他の世界にいると、元の世界に戻れなくなるのよ」
「は? 戻れない?」
「うん。ちなみに一回ネズミで実験してみたら、バラバラになって帰ってきたわ。ネズミには悪いことしたわ」
「グロ!? じゃ、じゃあもし俺が今あれを使ったら......」
「バラバラになるだろうね~」
「なんでそんなに軽いの!?」
「だって、私に関係ないじゃん」
この女ヤベェー。てか?覆面ライダーまで見てなかったのに。最終回だけ。
「そういうの先に言おうよ!? もし、さっき俺の人生が終わってなかったら泣いてたよ!?」
「だから、言ったと思うんだけど......」
「絶対言ってません......」
「もういいじゃん。来たかったんでしょ?」
凌はとうとう我慢の限界に達した。
「そういう問題じゃないんだ! 覆面ライダーを最終回だけ見れないんだぞ! せめて、最終回でなければ......」
「そ、そんなに怒る必要ないじゃない!」
「はぁ? ふざけんなよ! この際だから言っておくけど、お前は常識がなってないんだ! どうせ学園でも色々なヘマを起こして問題児で成績最下位とかなんだろ!」
「うぅ......」
どうやら図星のようだ。
「どうなんだ? そうなんだろ!」
「別にあんたに関係ないでしょ!!」
「何だよ、図星か?」
「うるさいっ!!」
「俺をこの世界から出れなくして、挙げ句の果てには逆ギレですか」
「何よ! あんたが来たいっていったんでしょ!!」
「来たいとは言ったが、戻れないなんて俺は聞いてない!!」
「もういいわ! あんたなんかに構ってた私が悪い」
「待てよ! まだ話は終わってーー」
その時、ミュリの顔から雫が垂れているのが解った。
泣いてるのか? 少しやり過ぎたか、でも、全ては、アイツが悪い。俺の知ったことじゃない。
「ち......」
ムカつく。
凌はそのまま寝た。
外が騒がしいような気がする。なんだ何事だ。
凌はゆっくり体を起こしてドアを開けて外にでた。
そこには、多分この家のメイドだろうが何やら慌てている。
聞いてみるか。
「すみません!」
「へ......お、男!? お、お助けよ~!」
「お、落ち着いてください。何を慌てていたのですか?」
「え、S級の魔獣がこの屋敷の付近に出たのです!! あなたも早く逃げたほうがいいですよ!」
そういってメイドは走って行った。
S級の魔獣? 魔獣って魔界の獣? それとも魔法が使える獣? どちらにしても俺も逃げないと。
凌は逃げている途中に指令室のような部屋を見つけた。
なんだこの部屋?
すると中から誰かの声が聞こえた。
[お嬢様、その森の奥です。魔獣名はーーサイレント・スネークです。<無音>には気おつけてください]
[解ったわ]
あの女は、何をしているのだ。
「そこにいるのは誰ですか! 出てきなさい!」
「はい......。別に怪しい者じゃありません......」
「それはこちらが判断しま......って、男!?」
「あの、それさっきもメイドさんに言われたんですけど男で悪いですか!?」
「だって、この島に男なんて、手で数えるぐらいしかいないのよ」
「男の人口少な!?」
って、話がズレた。
「それはどうでもいい、あの女、じゃなくてミュリさんは何をしているんですか?」
「魔獣と戦っているのです。見れば解るでしょう」
「その、大丈夫なんですか? ミュリさんだけで」
「......解りません。なんせ相手はS級の魔獣ですから」
「その、S級ってどういう意味なんですか」
「魔獣、魔虫にはそれぞれの強さによって、F級からE級、D級、C級、B級、A級、S級、SS級さらにSSS級に別れているんです」
「じゃあ今回ミュリさんが戦っているのはS級......相当強いってことですか?」
「そういうことです。本来S級討伐には中規模ですが部隊が形成されます」
「そんな部隊が形成されるほどの敵に単独って......」
そんなの無茶だ。
そう思ったがなぜ戦うかなんて大体予想はつく。あの見知らぬ俺が泣いてるのに気づいて(どうして泣いてるいるの?)って聞いてくるやつなんて、優しすぎだ。
そんな彼女が無謀だって解っていて戦うなんて理由なんて一つしかない。
その時だ。
[きぁああぁー!!]
[お、お嬢様!! どうしたのですか!?]
[......]
「連絡が途絶えた......」
「な、何!?」
「私が行かなければ」
そう言って立とうとしたが足を怪我しているようで、立てない様子だった。
「なぜだ!! なぜ立てない!? こうなれば、足を切り落としてもお嬢様の元へ......」
「待て待て!? そんなことしてもロクに戦えないだろう!!」
「じゃあなんだ!? 目の前で死にかけている人を助けることができるのに、貴様は見捨てることができるのか!?」
その言葉は凌の心に突き刺さった。
そうだ。俺はこんな動けない人でも持っている、助けたいという思いを持っていない。そんな俺が彼女を止めていいのか。
彼女は目の前で、今にも足を切り落とそうとしている。
いいのか? この人に行かせても。
「止めろ!!」
凌は咄嗟に叫んでいた。
「いい加減にしろ!! じゃあどうすればいいというのだ!?」
「俺が、俺が行く。俺が行くから、あんたはここにいろ」
「魔法も使えないあなたが行っても邪魔者よ!!」
「魔法が使えなくても囮ぐらいにはなる。だから、だからアンタは急いで部隊に連絡してくれ。それしか方法はない。」
「......」
「信じてくれ」
「......解った。お嬢様を頼んだぞ」
「ああ」
凌はミュリのもとへと走った。
シャァァアアァァアア!!
なんなのよ、こいつ。
サイレント・スネーク、私の父親を殺した魔獣だ。父を殺したサイレント・スネークは討伐されたが、当時幼かったミュリにとってはとても悲しい出来事であり、同時にミュリを戦わせる芯になっている。
こんな所で死ぬわけにはいかないのに......。体が動かない。
助けを呼びたくてもサイレント・スネークの能力<無音>によって一定時間、声を出すことができない。
サイレント・スネークは自分の尾を高く上げ、ミュリに降り下ろそうとしてる。
せめて、アイツに謝っておけばよかった。アイツ、ウザイけど......結構かっこよかったし、アイツのこともちゃんと知りたいし。......だから、だから
まだ、死にたくない......
見つけた! あのデカイ蛇がそうか。
凌の役目はあの蛇の注意を引くこと。
アイツ倒れてる! なんで助けを呼ばないんだ? そうか、サイレント・スネーク、その名の通りサイレント。声を出せなくする能力的なのがあるんだろう。
ヤバい! あの蛇、アイツを尾で潰す気だ。今すぐいかないと。
凌は走ろうとしたが......足が止まる。
またか、またか。また足が動かない。俺はまた見殺しにするのか。目の前で声は出していないが助けを呼んでいるであろう彼女を。
無理だ、俺には。最初から解ってた。俺は弱者だからな......
あきらめるのか? あの時のように......
誰かしらないが、俺は強くない。
そう理由をつけて逃げるのか現実から
俺だって助けれるなら助けたいよ!
なら立て、闘え、勇気を振り絞れ!
誰かの声が凌を動かした。
「お......ぉおおおおお!!」
凌はいつの間に動けるようになった足でミュリの所に疾走していた。
嫌だ、嫌だ。まだ、死にたくない。私は全ての魔獣共を倒さないと駄目なの。だから、だから、まだ死ねない。
しかし、今のミュリには戦うことも助けを呼ぶことすらできない。
誰か、誰か助けて......。まだ、死にたくないよ......。
そして、とうとうサイレント・スネークは、自身の尾を降り下ろした。
グシャァ
なんの音だろうか。自分の体が潰された音? それとも怖くて漏らしたのかな、こんな時に。
しかし痛みを感じない。なぜ?
シャァァアアァァアアァァァ!!
そのサイレント・スネークの声を聞いたミュリは、恐る恐る目を開けると、そこにはサイレント・スネークの眼球に剣を突き刺している男の姿がある。
何で貴方が!?
「今、何でって思ってるだろ? それはな、お前が死にたくないっていう顔してたからだよ」
私そんな顔してたの?
「だからさ、怖いなら怖いって言えばいいんだよ。自分一人で抱えこまずに」
こんなこと言われたの初めてだ。皆、バカだ、バカだって言って助けてくれるどころか酷いことを言ってくるのに......
「だから、お前が苦しいなら俺が一緒に抱えこんでやる」
そして凌がミュリに発した次の言葉が心に響いた。
「俺がお前の英雄になってやる」
その言葉がミュリのこれからの人生を変えることになった。
動いた、動いた! これならいける! あとは<無音>さえなんとかなれば。
シャァァアアアァァァアアア!!
この蛇相当怒ってやがる。
シャァァアア!!
サイレント・スネークが動いた。鋭い牙で噛みついてくる。凌はそれを横に転がり回避した。
「どうだ!」
しかし、サイレント・スネークの狙いは噛みつくことではなかった。
横から尾が物凄い勢いで迫ってきた。避けることができず直撃し、森の中に飛ばされ、石の壁に激突した。
「ぐ......」
ヤバい、舐めすぎてた。これ死ぬやつ。くそ、せめて武器さえあれば。
凌は目を開き、武器になりそうな物がないかと辺りを見渡した。
「なんだ、あれは」
目の前に剣が地面に突き刺さっていた。
あれを使えば。
凌は力を振り絞り剣の所まで移動した。そして引き抜こうとした。
しかし、
「ぬ、抜けない!? 頼む、抜けてくれ!」
汝、力ヲ求メル者
この剣が俺に話してるのか?
汝、力ヲ求メル者
ああ、そうだ。
汝、力ヲ使イ何ヲ起コス
もう卓の時のような過ちは起こしたくない。だから、だから。俺に力を貸せ!!
我、汝ノ願イ、聞キ届ケタ
剣が抜けた。
「抜けたぞ! これならーー」
なんだ? 体が熱い。この世界に来た時にもこんなことが起こったっけ。でもそれとは違う。力が湧き出てくる。これならーーやれる。
サイレント・スネークは凌を発見したようでこちらに向かってくる。
「今回ばかりは弱者が勝たせてもらう。」
シャァァアア!!
迫り来るサイレント・スネーク止まった。おそらく<無音>をするつもりだろう。
「声を出せなくする前に倒せばいいだけのはなしだろ。」
凌は頭の中に浮かび上がる言葉を唱えた。
「剣の中に眠る精霊、我、汝の力を求める者。承認せよ!<アルカナ>!!」
その瞬間剣が輝く。剣が軽く感じるがパワーもしっかりと感じる。
「これで終らせる!」
凌はサイレント·スネークに向かって疾走する。
凌はサイレント・スネークの首に剣を突き刺した。そしてそのまま剣を下に下ろした。
シャァァアアァァァァァ......
倒したみたいだな。これでようやく......。
凌は倒れた。
マナ切れってやつかなこれが、体が動かない。まぁ、これでアイツが助かったんだから、弱者にしては上出来だろう......。
「う......。は!? ここは!?」
「ここはアンタの部屋よ」
「お前、無事だったのか!」
「認めたくは無いけど......おかげさまで」
「良かったよ。本当に」
「その......助けてくれて......ありがとう」
「気にするな。俺が助けたかったから助けただけだから」
「それと、ごめんなさい! 私が勝手にこの世界に連れてきたのに文句ばっか言っちゃって。少し、自分勝手だったわ」
「まぁ、それに関してはもうなんにも思ってないよ。俺も悪かったし」
「......貴方はこれからどうするの? 私に協力したくなかったらある程度の援助はするから、どこにでも......」
「何言ってんだ? 明日学園に行くんだろ?」
「で、でも......」
「だから、そんなに心配すんなって。生きてるんだから」
「う、うん」
「取り敢えず明日に備えて、今日は寝る! それでいいだろ?」
「解ったわ......じゃあ、お休み」
凌は出て行こうとするミュリを声で引き止めた。
「寝る前に言いたいことがある。ありがとう、お前のおかげで過去の自分に勝つことが出来た。ありがとう......ミュリ」
ミュリは笑顔で
「うん。どういたしまして」
ミュリは部屋から出ていった。
凌も寝るか。明日もめんどくさそうだし。
「それにしてもまさかあの聖剣を引き抜く者がいるなんてね」
「今まで何人もの強者があれを引き抜こうとしたが結局抜けなかったからな」
「あの子の成長が楽しみだわ」
「そうですね」
ーーーーーーーーーーーー
次話 第五話 「ラーセラル魔道学園」
今回相当長くなってしまいましたがどうでしょうか? もう少し分けたほうがいいですかね。意見が貰えると嬉しいです。
戦闘の場面もどうにかしていきます。
こんだけ長いとおそらく、誤字や脱字、間違っている部分が出てくるかもしれません。
もしありましたら、ご指摘して頂けると幸いです。