2「置いてきぼり」
「お前、だれだよ!?」
少女はまったく反応しない。
凌は生まれてから一度も自分の部屋に、家族以外の人を入れたことがない。
だから、俺がナンパして、ここまで連れて来たことは、あり得ないーーはずだ。
こんな時に誰か来たらどーー。
「凌、少し話をしたいの。入るわよ」
え? 今なんと言いました? 部屋に入る? は!?
「ちょ、ちょっと、待って!? 今、着替えてるから!」
「解ったわ。できるだけ早くして」
いったい何事だろう。母が俺の部屋に入ろうとするなんて、珍しい。というか、話をしようと声を掛けてくるのも珍しい。
取り敢えず、少女を急いでベットの布団を被せて隠した。
「いいよ。入って」
母はドアを開けて入ってきた。
「どうしたの? 母さん」
物凄く、険しい顔をしていた。
「あのね、凌。私達引っ越すの」
正直、少し驚いたが、そこまで驚くようなことではなかった。この後の言葉さえ聞かなければ......。
「そうなんだ。何処に引っ越すの?」
「ごめんなさい。教えられないの」
「え......。なんで?」
「あなたは、ここに残って高校に通うからよ」
「え......」
その一瞬、母の発した言葉の意味を理解できなかった。
「その、だから、高校生活頑張ってね。あと1時間後には、私達ここを出ていくから。家のローンとかは、もう払っておいたから、心配しないで。生活に必要な物も全て置いていくから。定期的に仕送りもするから。心配しないで」
母はそう言って凌の部屋を出ていった。
やっと母の発した言葉の意味を理解した。
捨てられるのだ。家族から。家族だけは、俺を見捨てないと思っていたのに。
凌は必死に涙をこらえようとしたが、雫は頬を伝って、落ちていく。
「どうして、泣いているの?」
不意に背後から声が聞こえた。凌は、声がする方に振り返った。
そこには、さっきの寝ていた少女がいた。
「どうして、泣いているの?」
どう答えたらいいのだろうか。今、俺が喋れば間違いなく、八つ当たりしてしまうだろう。
「少し、そっとしていてくれ」
凌はなんとかその言葉を言い切った。そして、そのまま床に蹲った。
そこから記憶が途切れた。