第三章:竜界と真実
〜〜翌朝〜〜
『ふぁぁぁぁ。』
亮は欠伸をしたがら目覚めた。
〔今日から夏休みか〜。暇だな〜。
そういえば今日、倉庫の掃除するんだっけ?〕
亮はそのことを思い出すと。眠たい目を擦りながら起き上がった。
服を着替え、朝食を済ませると亮は倉庫に向かった。
倉庫の扉を開けようとすると、
『……あれ?』
扉には鍵は掛かっていないのだか暫く開けていなかった為か少し動いただけだった。
仕方がないので家から太い鉄の棒を持ってきて梃子の原理を使って扉をこじ開けようとした。
だが扉は、なかなか動かない。
亮が全力で開けようとすると、
ガチャーン!
バキ!?
扉が開いたと同時に直径3cm位ある鉄の棒が折れた。亮はその折れた勢いで前に吹っ飛んだ。
〔こんなに太い鉄の棒が折れるって俺どんだけ怪力なんだ?
つーか、鉄なんだから折れるんじゃなくて曲がるだろ作者ぁ!〕
心の中で作者にキレる亮。それをスルーする作者。
まぁ、とにかく亮は倉庫に入っていった。
中に入っていたのは、義父が昔使っていたと思われるゴルフの道具や義母が若い頃買っておいて途中でギブアップしたダイエット食品(賞味期限20年過ぎている。)
………などガラクタしか入っていなかった。
亮が倉庫を整理していくと何やら変わった本(ノート?)を見つけた。
その本には亮が今まで見た事のない字がづらづらと綴[ツヅ]られていた。
しかし、亮が見た事のない筈の字なのに何故か亮にはそれを理解する事が出来た。
亮は本に書いてある一つの単語を何も考えず口に出してみた。
『ムーヴ…』
その時、亮は急に身体が重くなるのを感じた。
すると、一瞬目の前が真っ白になり、気が付くと亮は薄暗い倉庫から雲一つない草原に立っていた。
〔あれ、ここどこ?俺もしかして死んだ?じゃあ、ここは死後の世界?〕
亮が呑気にそう思っていると、
〔匂いがする。何か近付いて来るなぁ。〕
亮が感じ取った匂いは、人間の匂いでも犬の匂いでもなく何となく少し自分の匂いに似た匂いがした。
〔とにかく隠れよう……って無理か。〕
辺りは草原。隠れる所などない。
暫くすると亮が眺めていた方向の空に黒い小さな点が見え始めた。
その点はどんどん近付いて来ると同時に姿形がはっきりしていった。
それは、巨大身体と翼、鋭い爪、迫力のあるオーラ。
そう、それは
ドラゴンだった。
そのドラゴンは亮の目の前に降りた。
『死後の世界にはドラゴンがお迎えに来るのか……変な話だな。』
【死後の世界?ここはそんな所ではありません。ここは竜界ですよ。因みにリョウ様がおられた世界は人間界と読んでいます。】
その声は音として聞こえたのでなく、直接頭に入ってきた。また、その声も暗号じみた言葉で、少なくとも日本語ではなかったが自分には理解できた。自分も竜だからであろうか。
『竜界?』
【はい。
竜界は我々竜族、竜王様であられるギガ様が治めておられる世界です。この世界には人間はおりません。
他にも人間の他、魔族がいる魔界もあります。リョウ様の母方様、マリア様は魔界出身であられました。】
『ふ〜ん、そうなんだ。
ところでさっきから気になってたんだがなぜ俺の名前を知ってる?しかも、なぜ敬語?』
亮は異世界に来たという事実にはあまり驚いていないようだ。
【竜王様のご子息の名前を知らない訳ないじゃないですか。匂いも竜王様のものと似てますし。】
その竜は微笑みながら言った。
『はぃ!?という事は俺の親父って竜、しかもその長なのか?』
亮にとってそっちの方が驚きだったようだ。
【はい。ですからあなたには今、竜王様でおられるギガ様と偉大な魔導師であられたマリア様の血が流れておられます。
……っあ、そうだ。リョウ様、我々はここで立ち話をしている場合ではありません。
わたくしはこれから竜王様のお言付けによりリョウ様を竜王様のところへお連れします。話は飛びながらでお願いします。
えぇっと…竜にはなれますか?】
竜は心配そうな顔で聞いた。
『あぁ。まだぎこちないけど飛べるぞ。』
亮はそう言って竜化した。
【では、行きましょう。】
その竜が飛び立つと亮も後に続いて翼をばたつかせて飛んだ。
【そういえば、君の名前は?】
亮はまだ名前を聞いていなかったことに気が付いた。
【あっ、私としたことが…
私の名はジョゾです。今後リョウ様のお世話をさせて頂きます。】
ジョゾは焦りながら言った。
【おう、よろしくな!】
取り敢えず挨拶をする亮。
【宜しくお願いします。】
【さっきの続きなんだけど、何で今まで俺は人間界にいたんだ?】
ジョゾの顔が曇った。
【それは…】
【それはリョウ様がまだ赤児だった頃、
当時、竜界にいたマリア様が急遽[キュウキョ]人間界に赴くことになりリョウ様を連れ人間界に行くことになりました。
ギガ様はそのことについて反対しませんでした。もし、あの時ギガ様が反対しておれば……
マリア様はリョウ様を抱え詠唱しました。】
【詠唱って俺がここに来る時に言った言葉か?】
【リョウ様がどんな詠唱をしたか知りませんが恐らくそうでしょう。
しかし、マリア様はあろうことか詠唱に失敗してしまったのです。
時空移転の魔法は滅多に失敗する事はないのですが十億分の一くらいの確率で失敗します。失敗すると確実に死にます。
詠唱に失敗したマリア様は火達磨[ヒダルマ]になりながら移転しました。
恐らくその時、マリア様はリョウ様を何らかの方法で守ったのでしょう。】
ジョゾがそこまで言うと亮は目が熱くなるのを感じた。
【そうゆう事だったんだ。】
亮はぽつりと呟いた。
【最後の質問だが俺がこの世界に来る2日前、人間界にある魔鬼山という山に空から黒い光が差したんだ。
そこに行くと辺りの草花が焼き払われて狼みたいな魔物がいたんだが、あれはどういう事なんだ?】
ジョゾは少し考えてから答えた。
【それはアリステル現象でしょう。
アリステル現象とは、魔界と人間界との間で千年周期で起こる現象です。
その現象が生じると一瞬の間ですが魔界と人間界が繋がります。そこにリョウ様が見たというウルフの群が飛び込んだのでしょう。
これはあくまで私の推理ですが】
【なるほど、そういう事か。】
亮は納得したように言った。
【もう暫くで着きます。】
すると、ジョゾは徐々に高度を落とし着陸する体制をとった。
亮の前に見えるのは大きな洞窟のある大きな岩山、ジョゾはそこに降りるようだ。
着陸すると亮の目の前に巨大な洞窟が現われた。
ジョゾが岩山に着陸するのを見て亮も後に続いて着陸し、ジョゾは岩山の巨大な洞窟に入っていった。
【こちらです。】
ジョゾはそういいながら亮を洞窟の中へと導いた。亮はジョゾに導かれるままに洞窟を進んだ。
洞窟の中は真っ暗であり、普通の人間であれば何も見えないであろう。
暫く歩いていくと行く手に光が見え、更に歩くと洞窟を抜けた。
洞窟を抜けると周りが岩の壁で覆われた広い広場に出て、空から光が差込み吹抜けの状態になっていた。そして、中央には大きな樹があり樹の下に大きな竜が寝そべって、しかもその周りにも何頭かの竜がくつろいでいた。
【リョウ様をお連れしました。】
ジョゾが叫ぶ。
その声を聞いた真ん中の竜は目覚めて起き上がり、それ以外の竜は慌てて姿勢を正し亮達に頭を下げる。
【おう、久し振りだなぁ。元気にしてたか?】
真ん中の竜が尋ねる。
【おう、元気だ。
ところで……………。
あんた、誰?】
亮が平然とした顔で尋ねた。
【おい!父親との再会という、感動的なシーンを“あんた誰”なんかでぶち壊しするなよ!】
真ん中の竜がつっこんだ。
【父親!?あぁ、なるほど。
あんたが俺の親父、ギガか。〔なかなかキモい親父だな。〕】
【キモいとは何だキモいとは。】
〔心読術ですか?〕
【その通りだ。】
〔読むな!〕
【…で、何で俺をここに呼んだ?】
【何でって、お前の匂いがしたから。
せっかくこっちの世界に戻れたんだ、父親と再会してもいいだろ?】
【まぁ、それはそうだな。】
【強いて言えばお前を鍛える為でもあるがな。】
【どういう事だ?】
【お前は俺の息子そして、第104代竜王候補つまり竜王子だからな。】
【現在ギガ様は第103代竜王であられますから、ギガ様のご子息であるリョウ様が次の竜王候補と言う事です。】
ジョゾが亮に耳打ちした。
ギガが話を進める。
【竜王たる者、力が無ければどうしようにもならん。だから、今日から軍団長であるジョゾに鍛えてもらう。】
【ジョゾ、お前軍団長だったのか。】
亮は驚いて言った。
【はい、軍団長兼リョウ様の世話係となっております。】
【稽古[ケイコ]って絶対に受けないといけないのか?】
【次期竜王の候補なんですから仕方ありませんね。】
ジョゾは微笑みながら答えた。
〔はぁ、仕方ないか。まぁ、夏休み中やる事バイトぐらいしかないし別にいいか。ここに居たら金を稼ぐ必要もないし。〕
【あぁ、分かった。稽古を受けよう。】
亮は仕方ないという感じでギガに向かって言った。
【よく言った。息子よ、頑張れよ。
ジョゾ、リョウが死なない程度に鍛えてやれ。】
ギガはにやつきながら言った。
【はっ!
それではリョウ様、早速稽古をしましょう。】
そういう言うとジョゾは外に向かって歩き出した。
【あ、あぁ。】
そういって亮はジョゾについて行った
ジョゾの後について行くと、洞窟を出て広い草原に出た。ジョゾはそこで立ち止まった。
ジョゾは振り返り亮と向かい合った。
【今日は身体的な稽古はしません。今日は我々竜についての講義をします。リョウ様はまだ自分の事をよく分かっていない様なので…。】
【分かった。
あと頼みがあるんだが、俺に対して敬語は止めてくれないか?あまりいい気分になれないのたが……。】
【いいのですか?】
ジョゾは驚きの表情で亮に確認した。
【ああ。】
亮が頷きながら答えた。
【分かった。じゃあ、これから敬語なしで話そう。】
ジョゾが早速敬語を省いて楽に言った。
【それじゃあ講義を始めるぞ。先ずは竜族の歴史からだ。】
【は〜い。】
亮が小学生のように生返事をする。
ジョゾは講義をし始めた。
【俺たち竜族は今から約100万年前に誕生した。そしてその時からこの世界を我々竜族が治め始めその頃からこの世界を竜界と呼んだ。】
〔竜族の歴史ってやっぱ長いんだなぁ。〕
【その頃竜界には、俺たちアリソナ種の竜とゴブサルト種の竜がいて、その2種族間の関係は険悪だった。そして遂に70万年前にアリソナ種とゴブサルト種との間で竜戦争が勃発した。
20万年にも及んだ戦争はアリソナ種の勝利に終わった。戦争を収めたアリソナ種の長、ソウもお前と同じ竜人だったらしい。
それからゴブサルト種の長は一族を率いて魔界に移住する事を決心した。
しかし、一族の一部はまだこの竜界に息を潜めているらしいがな。】
ジョゾがここで一度話を切った。
【ふ〜ん。それじゃあ、今でもアリソナ種の竜とゴブサルト種の竜は仲が悪いのか?】
亮が質問した。
【あぁ、確かに戦争の後和解はしたが仲がいいとは到底言えんな。】
ジョゾが答えた。
【それじゃあ、今度は使い魔について話そう。
竜である俺たちは魔物に分類される。だが、厄介なことに魔界にいる人間の魔道師は魔物を使い魔にする事ができる。
竜は使い魔として最上位のSクラスの使い魔にあたり、才能のある魔導師にしか召喚できないのだが、現に竜界の竜の約一割は人間と使い魔の契約をしている。もし、契約者が使い魔を必要とする時、その使い魔は最優先で契約者の命令を行使しなければならない。その命令によっては同じ魔族同士、竜族同士と殺し合いをしなければならない時もある。】
後半部分ジョゾは暗い顔で言った。
【そんな……。】
亮は言葉を失った。
「まぁ、でも竜の中でも召喚されやすい竜とされにくい竜がある。
俺みたいに強い奴やリョウみたいに竜王の息子みたいな地位の高い竜はまず召喚される事はないだろうがな。それにリョウは竜人だから対象にはならないかも。】
ジョゾは表情を明るい顔に変えて言った。
【そうなのか、それじゃあ一安心だな。】
亮は安堵の表情をして言った。
その後、亮はジョゾから竜の寿命は一万年前後だということ、竜の食料や竜の日常生活についてなど沢山の事を教えてもらった。
太陽が沈み、辺りが暗くなってきた。
【……ということだ。
よし、一応必要な事は全部話したから今日のところはこれで終わりだ、明日からみっちり鍛えてもらうぞ。明日は早朝から稽古だ。】
この世界には時計という物はない。だから、ジョゾの言う早朝はどのくらいなのかは分からない。
ジョゾはにやつきながら言った。ジョゾの顔からして相当キツい稽古になりそうだ。
【あぁ、お手柔らかに頼む。】
亮は少し憂鬱そうに言った。
〔そういえばジョゾ、最初会った時よりもキャラかなり変わってねー?敬語を省いたせいか?
最初の時よりもかなりドSになっている気がするんだが……〕
そう思っている亮も第一章の頃と比べそれなりにキャラが変わっている事に気付く作者…。
亮が洞窟に帰ろうとした時、
【あぁ、そうだ。言い忘れてた。】
何かを思い出すようにジョゾが言った。
【何?】
亮はばたつかせていた翼を止めて言った。
【この竜界にいる間は竜化を解くなよ。】
【何で?】
【リョウはまだ竜に慣れていないだろ?だかる。マリア様も苦労しておられた。】
【ふ〜ん、分かった。じゃあ、また明日。】
亮はそう言って頷き、翼をばたつかせて自分の寝床に飛んで行った。
言い遅れたが竜界での亮の寝床とジョゾの寝床の場所は違う。
亮みたいな王族(と言っても亮とギガしかいないが)は先程の安らぎの場(護衛付き)を寝床にしている。
一方軍団長のジョゾは、その近くの洞窟(護衛付き)を寝床にしている。
亮が寝床の洞窟に着くとそこにはギガがいた。
【おぅ!愛しき我が息子よ、おかえり〜】
〔“愛しき”って…やっぱこの親父キモい。〕
【あぁ、ただいま。】
亮の愛想ない挨拶。
愛想ない挨拶だが亮は内心嬉しかった。
人間界にいた頃、1年間亮は家に帰っても独りぼっちで家に帰って挨拶をしても挨拶が返ってくることはなかった。だが、今は多少キモい父であるが本当の家族がいる。家に帰った時挨拶をしてくれる人…じゃなくて竜がいるのだ。
亮はなぜか今までになく心が温まる感じがした。
亮が洞窟に入った時、亮は洞窟の奥にある本の山に目がついた。その内の一冊を手に取ってみると亮が倉庫で見つけた本に似た表紙だった。
【おい、親父。これ何の本?】
亮は気になったので親父に聞いてみた。
【ん?あぁ、それかぁ。それはマリアの形見だ。】
【マリア?あぁ、母さんのか。で、何の本?】
【知らん。】
胸を張って言った。
〔胸を張って言う事じゃないだろ。〕
【なぜ知らない?】
【本を見れないからだ】
【なぜ見れない?】
【ページが捲れ[メクレ]ないからだ。】
【何で捲れないんだ?】
【当たり前だろ!俺たち竜がそんな器用な事ができる訳ないだろ!】
つまらない質問に遂に嫌気がさしたのか親父は少々キレ気味に言った。
亮が竜の大きな指でページを捲ろうとしてみるがなかなか捲れない。
〔なるほどね〜。〕
人間の指であれば簡単に捲れるだろうが竜の指は力が強い代わりに柔軟性が悪く物を握ることぐらいしかできない。だから本を捲る事ができない、無理に捲ろうとすると鋭い爪で本を引き裂いてしまう。
【仕方ない。】
亮はそう言って竜化を解いた。
ジョゾが体へ異常な負担が掛かると言っていたが、亮にはそれがどういう事かまだ分からなかった。
竜化を解いた亮は早速本を読み始めた。
〔やっぱりこの文字か。〕
その本に使われていた文字は倉庫にあった本に使われていた文字と似ていた。だから亮には一応、その本に何と書かれているか分かった。
本の1ページ目には“初めての魔導書”と書かれていた。恐らくこの本のタイトルだろう。その本には以下のように書かれていた。
魔力を消費することによって火を創造したり水を創造したりする力の事を魔法と言う。
魔力とは身体の体力、精神力の総和の事であり魔力の高い者は数多くの魔法を使用する事が可能である。
しかし、魔力の消費が著しくなると目眩[メマイ]、疲労感などの体調不良を起こし、最悪の場合死の危険性がある為、常に魔力の消費には十分注意すること。
魔力は食事、睡眠、休養または魔力剤の処方によって回復することが可能だ。
また、魔法には火、水、雷、風、土の五大属性に加え光、闇の特殊属性がある。人間はこれらの七属性の内必ず一つに属する。
(補足:上記の属性の他、五大属性の他特有の魔法が使える無属性が存在するがこれは非常に極稀な者にしか使用出来ない。)………
というようなことが記されていた。
亮は三時間掛けて第一章まで読むと急に咳込んだ。咳と一緒に血も出てきた。そして、咳込んだ後今度は急に体が重くなるのを感じ目眩がした。
【そろそろ竜化しとけ。もうお前の体が限界だ。】
亮の体調を見た親父が言った。
亮は言われるままに竜化した。すると先程の症状は嘘のように治まった。
〔体に負担が掛かるってこうゆうことだったんだ。これじゃあ、母さんも苦労する訳だ。〕
【大丈夫か?】
亮の体調を心配した親父が言った。
【あぁ、もう大丈夫だ。】
【そうか。】
親父は安心した様に言った。
【今日はもう寝る。おやすみ。】
【おう!おやすみ。】
亮はそれから深い眠りについた。