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黒き竜  作者: copan
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第十章 体験授業

『ミリーのやつあんなに食っておいてまだ食うのか。』

 

沈黙の帰り道、初めに亮が口を開いた。 

「だから、言ったでしょ。足りない、って」

 

ルルが微笑しながら言った。

 

『確かに言ったけど、まさかまだ食べるとは…』

 

「彼女の胃袋はブラックホールだからね。」

 

ルルの微笑みにつられて亮も微笑んだ。

 

二人が話しているうちに三人は亮についた。ルルは寮に入るや否や亮とスヒルに別れを告げ移転して行ってしまった。

 

「リョウ、今朝のことを覚えているか?」

 

ここでスヒルがやっと口を開いた。

 

『ああ、覚えているとも。

 

お前の部屋の前まで連れていってくれ。』

 

亮が言うとスヒルは静かに頷き、亮の肩に手をあて、移転した。

 

移転先に着くと、目の前に1991と金色の文字で刻まれたドアの前に立っていた。

 

「ここが俺の部屋だ。」

 

スヒルはそう言ってドアに手をあて、ドアを開け中に入って行った。亮もスヒルのあとに続き部屋に入ると、リビングがあった。スヒルは寮に入ってから家具の移動などをしていないらしく、家具の配置は亮の部屋と同じだ。

 

「掛けてくれ」

 

スヒルはソファーに腰を掛け、亮に向かい側のソファーに座るように言った。亮は言われるままにソファーに腰を掛けた。


 

『話って言うのは何だ?』

 

亮は分かっていたが、これを言わないと永遠に沈黙が続くと考えたので取り敢えず聞いた。

 

「もったいぶらず率直に聞こう。」

 

スヒルが柔らかい口調で言った。

 

「お前は人間か?」

 

普通の人間にこんな質問をしたら相手は怒るか質問者を馬鹿にするだろう。だが、亮の場合は別だ。

 

『……』

 

「初めて会って握手をした時、お前の中から人間とは別の何かまた異質的なものを感じたんだ。」

 

『……』

 

「それに昨夜、俺は確かにドラゴンと闘った。あれは夢じゃない。そのドラゴンとお前とが同じ感じがしたんだ。

 

つまり、お前は…」

 

スヒルが何か言いかけた時、


『そう、お前が闘ったと言う昨夜のドラゴンだ。

 

そうでなければお前は昨夜の時点で死んでいただろう。』

 

亮はスヒルがそこまで分かっている時点で言い逃れできないことを悟り、自ら告白した。

 

「やっぱり、そうだったのか…」

 

スヒルは表情ひとつ変えずに言い、話を続けた。

 

「だが、一つ分からないことがある。

昨夜のお前の最後の一撃は確実に俺に当たった。そうでないにしてもあの高さから落ちては無事ではいられないはずだ。

それなのに、なぜ俺は生きている?」

 

『ああ、確かに最後のファイアボールはお前に命中した。だが、俺は炎の温度を自由に変化させることが出来るんだ。だからあの時、お前に当たったファイアボールはただの見せかけだ。

 

その時、お前は都合よく気を失ってくれた。そこで俺が落下しているお前に物体浮遊魔法で地面への直撃を避けた。

と言う訳だ。』

 

亮がスヒルに昨夜の経緯を微笑しながら説明した。

 

「そういうことか…」

 

『で、真実を知ったお前はこれからどうするつもりだ?

 

やっぱり、俺を魔物として殺すのか?』

 

亮は急に真顔になって聞いた。亮は既に戦闘態勢になっている。

 

「フッ

安心しろ。俺はお前を魔物としてではなく人間…

いや、友としてみている。他のやつにも言うつもりもない。

少なくともお前は俺の任務の対象の竜ではないだろう。」

 

スヒルは鼻で息を一息吐き、微笑して答えた。


 

『そうか…

ありがとう。』

 

気づくと亮の目から一粒の涙が頬をつたって流れ落ちた。

 

亮は初めからスヒルが自分を殺そうとはしまいと思っていたが、まさかスヒルの口から友という言葉が出るとは思わなかったのである。

 

「お前の事を知っているやつは俺以外に誰がいる?」

 

『人間にはお前以外誰も知らないはずだ。

人間以外なら、お前の使い魔、テトとルルのマナ。そして、俺の使い魔、ジョゾが知っている。そいつらとは竜界からの仲でな。』

 

「そうか。」

 

『それじゃあ、話は終わりか。帰って良いか?』

 

亮はソファーから腰を上げようとすると、

 

「待ってくれ。」

 

亮はスヒルに引き止められ、動きを止めた。

 

『何だ。』

 

「俺がこの事実を知ってもお前とはこれからも友達として接していくつもりだ。

だから、お前も今まで通りに接してくれないか?」

 

スヒルが真剣な表情で言った。

 

『お前がそんな事を言ってくれる奴だとは思ってもみなかったよ。

勿論だ。これからもずっと友達でいよう。』


亮はとても嬉しくなり、涙と共に微笑みも出た。


亮はそのまま、スヒルの部屋をあとにした。

スヒルの部屋をあとにした亮は自分の部屋に移り、まだ物足りない空腹感を簡単な亮の手料理で賄い、勉強に移った。

 

時計を見るとまだ七時半だった。

 

〔七時半か、勉強しないとな。授業の遅れを取り戻さないといけないしな。〕

 

亮はそれから深夜二時まで竜界で目覚めた記憶力をフル活用し、部屋にある魔導書を引っ張り出して暗記した。

 

そして、亮はそれを何日も続けクラスのみんなに追いつこうとした。

 

 

 

そして、十月の定期試験。この世界も人間界と同じ様に定期試験というものがあるらしい。

亮はその試験で今までの努力が実ったのか、テストで平均点を優に超え学力ではクラスの上位に立つことができた。

また、実技も今では剣術の授業でスヒルには劣るが、クラスNO.2のミリーに打ち勝つことが出来る程であった。

 

そんな亮は今では学力の面でクラスのレベルに達したことから、ただの勉強だけでなく剣術にも打ち込むようになり、亮は学校が終わると、学校の剣術訓練場でスヒルを誘い日々剣術の訓練に打ち込むのであった。

 

だが、スヒルは全く歯が立たなかった。

この間に成長したのは亮だけではない。

 

性格は相変わらずなのだが、ノベスも亮が来てから遅刻、居眠りをしないようになり、勉強に打ち込むようになった。そのお陰からかノベスの学力は最下位から一気に真ん中にまで追いつき、剣術ではルルを下し四位に入る程であった。だが、相変わらず使い魔には馬鹿にされている。

 

〜〜定期試験返却の翌日のHR〜〜

 

 

 

今日から基本魔術は課程を修了したので、全て属性魔術に入れ替わった。

 

属性魔術は、それぞれの属性の魔法を学ぶ授業でり、各属性別々に授業をする。

 

だが、問題は無属性のスヒルと亮で、属性魔術をほぼ完璧に扱えるスヒルは大丈夫なのだが、全く無知な亮が問題だった。

結局、自分の取りたい属性の授業を受け不足分は補修か自学習ということになった。

 

「実は明日、授業でギルドの体験任務を行う。

 

ギルドの任務内容は基本的狩りになる。まあ、狩りと言ってもウルフなどの下級魔だがな。任務は安全の為、五人チームで行う。だから、これからそのチームを作ってくれ。

 

だが、チームが強いとそれなりに難しい任務を渡すぞ。」

 

担任は最後に付け足して言った。

担任が話を終わらせると、クラスは一気に五月蝿くなった。


 

「リョウ、ルル一緒に組もうぜ。」

 

ノベスがミリーとスヒルを引き連れて亮とルルをチームに誘った。

 

『おう』

 

「ええ」

 

亮とルルはその誘いに乗り、チームは亮、ルル、ミリー、ノベス、スヒルとなった。

 

「結局、いつものグループになっちゃったわね。」

 

ミリーは嬉しそうに微笑みながら言った。

 

『しょうがないだろ。他に誰も誘ってくれないんだから。』

 

亮がそう言うとみんなが微かに笑った。

 

「それ、言えてる。」

 

それはこの五人が嫌われている訳ではなく、ただ単にクラスの上(特にスヒル)と組むと任務内容が面倒くさくなるのでみんな避けていただけだ。

 

「よ〜し、決まったな。

 

じゃあ、チームの代表者は前に来い。」

 

担任はある程度チームが決まったところで言った。

 

「代表者?

じゃあ、俺だな。」

 

調子に乗っているノベスが教室の前に飛び出そうとした時、、、

「う、ぐはぁ‥」

 

ノベスの悲鳴声が聞こえた。亮が振り返って見ると、ノベスの背後にいたミリーが彼の首を締め付け、ノベスの前にいたルルが彼の体を押さえつけている。

 

「リョウ、早く行って!」

 

ミリーが五人の中で一番前にいる亮に鋭い目つきで言った。

 

「え?あ、ああ。」

 

亮はこうゆうのをノベスにやらしてはろくなことが無いということを思い出し、ミリーに言われるままに前に出た。それでもノベスはまだもがいている。

 

担任は代表者のチームのメンバーを見てから、封筒を渡している。

 

「やっぱり、そのメンバーか、こういう事を予想してお前たちにちょうどいい任務を見つけたぞ。」

 

担任が不気味ににやつきながら、言った。亮はその封筒を恐る恐る受け取りルル達の元へ戻り、ギルドに詳しいスヒルに封筒を渡した。

 

「ハァハァ、スヒル。どういう任務だった。」

 

ノベスを取り押さえるのに必死だったミリーが尋ねた。

 

「ああ、大した任務じゃない。簡単な任務だ」

 

スヒルは平然とした表情で答えた。

「そう、それなら大丈夫ね。」

 

ミリーはホッと安心して言った。だが、ルルは何だか納得がいかないようだ。

 

「ねぇ、スヒル。

大した任務じゃない。って誰が基準?」

 

「それは勿論、俺に決まっているだろう。」

 

「「「『え……』」」」

 

四人の表情が一瞬で曇り、空気も変わった。

 

「その任務って……」

 

ミリーが恐る恐る聞いた。

 

「ああ。最近、西の山でケルベロスが増えすぎて人間を襲うらしい。だから、そのケルベロスを何頭か退治して欲しい。というAランクの任務だ。」

 

スヒルは軽く言ったが、他の四人には重く聞こえた。

 

「マジかよ。俺まだ死にたくないぜ。」

 

『俺もだ。』

 

「大丈夫だ。ケルベロスなど問題にするような相手ではない。それに四人もいれば尚更だろう。」

 

「え、ちょっと待って。今、四人って言った?」

 

スヒルの発言に違和感を感じたルルが、もしやと思いスヒルに確認した。

 

「ああ、言っていなかったか。

明日。俺、ギルドの任務で授業に出れないんだ。」

 

スヒルが言った瞬間、四人の呼吸が止まった。

「う、嘘だろ?」

 

ノベスは狼狽えるように言った。

 

「俺が嘘をつくように思えるか?」

 

スヒルは首を傾げ[カシゲ]て言った。

 

「まあ。今、嘆いても仕方ないから、明日の今頃無事に生きていることを祈りましょう。」

 

ルルは一息吐いて言った。

 

 

「よ〜し。これでいいな。明日は、教室に来ないでそのまま任地へ赴いてくれ。じゃあ、今日のところはこれで解散。」

 

担任の声と同時に生徒が次々と席を離れ教室をでていった。

 

「じゃあ、明日は朝九時に広場に集合ね。」

 

ミリーの提案に三人が同意した。

 

 

〜〜翌日、広場〜〜

 

 

「おう、亮。

おはよう。」

 

亮が広場に姿を現すとノベスが元気な声で挨拶をかけてきた。

 

『ああ、おはよう。』

 

亮が来たときにはもう、ノベスの他、ミリーやルルも集まっていた。

 

「揃ったわね。

それじゃあ、行きますか。」

 

ミリーが言うと

 

「俺、まだ逝きたくないな〜」

 

「何言っているのよ。しょうがないでしょ。ノベスが封筒を取りに行ってたら、ドラゴンの退治だったかもしれないんだからそれよかマシよ。」

 

ぼやいているノベスにミリーが声を張って言った。

山までの移動手段は徒歩だ。本来なら、使い魔を使って行けばすぐに行けるのだが、今回は学校からの命令で使い魔は緊急時以外使用禁止となっている。

 

〜〜ラウス、西部の山〜〜

 

 

ラウスの西に位置するこの山は亮が現れた南の山に比べ獰猛な魔物が多く、また自然も深い。なので、常に周りを警戒する必要がある。

 

〔!!!〕

 

四人が山の奥へ突き進んで行くと亮の嗅覚が反応した。

 

亮は足を止めその場に立ち止まった。

 

「どうしたの?亮。」

 

不審に思ったルルが亮に尋ねた

 

『囲まれた…』

 

亮が呟くように言った。

 

「え…」

 

ルルは驚いて辺りを見渡したが一見変わったところはない。だが、目に魔力を集中させてもう一度見ると、暗い茂みの中から赤く光る二つの目が四人を睨みつけ取り囲んでいることに気がついた。

 

「みんな、魔器を出して囲まれているわ。多分ウルフよ。」

 

ルルは大きな声で言った。

その声と共に四人は次々に魔器を呼び出した。

四人が魔器を装備したちょうどその時、一頭のウルフの遠吠えと同時に四方八方からウルフが飛び出し、四人を襲った。

 

ザシュ、

キャン!

 

亮がウルフを斬る毎にウルフの断末魔が聞こえる。亮も青い返り血を浴びるが、そこに感情を付け入る隙もなく次々とウルフが飛びかかってくる。

 

亮は魔物を殺すのはこれで三回目だが、他の三人は初めてらしくいつもとはまるで別人のような顔をしてやけくそに魔器を振り回していた。(ルルの場合は矢を乱射。)

 

「くそ〜、どんだけ数がいるんだよ!

これじゃあ、ケルベロスと闘う前にくたばっちまう。」

 

ノベスは悲鳴のように叫んでいたが今のところ無傷だ。しかし、ノベスだけでなくみんなの息は確実に荒くなっている。

 

亮が十頭目のウルフを斬ったときここでやっと恐れをなしたのか、ウルフ達は一斉に引き揚げていった。

 

「ふ〜ぅ。助かった〜。死ぬかと思った。」

 

ノベスがその場に寝っころがった。だが、辺りはウルフの死骸があちこちにあり、しかも生臭い血の臭いが立ちこめている。

 

「ええ、いくら魔物と言えど生き物。それを殺すのはあまりいい気がしないね。」

 

ルルは顔や衣服についた返り血を拭きながら言った。

「そうね。」

 

ミリーも息を荒くしながら小さく頷き言った。

 

「ちょっと、ここで休憩しようぜ。もう、体力がヤバい。」

 

ノベスが地面に仰向けに寝っころがりながら言った。

 

「私も疲れた〜」

 

ミリーもその場で座り込んでしまった。

 

「じゃあ、しばらくここで休憩しましょ。」

 

『ああ』

 

ルルの提案にみんなが賛成し休憩をとることとなった。

 

血のついた服は基本魔法で綺麗にした。だが、ウルフの死骸が周りに散らばっている中では身体的に休まっても、精神的には休まらない。

それでも、体の疲れをとるためにノベスは寝っころがり、亮、ルル、ミリーはその場に座り込んでいた。

 

そしてしばらくの間、四人は無言でいたが、もうしばらくすると雑談で賑わっていた。だが、その雑談もウルフの血の臭いから腐敗臭になるにつれ会話も減って行った。

 

『そろそろ、行くか。』

 

亮が立ち上がると、三人も立ち上がった。

 

「はあ、また探し歩くのか〜。面倒くさいな〜」

 

ノベスが身支度をしながらぐちぐち言う。

 

『仕方ないだろ。相手にとっては俺達の都合なんか知りもしな…

 

ノベス!危ない!』

 

とっさに亮はノベスに飛び蹴りを食らわした。

 

「ぶはぁっ」

 

亮に蹴られてノベスは吹っ飛んだ。


「なにすんだよ、リョウ!」

 

地面から起き上がったノベスは自分を見ずに茂み一点を睨んでいる亮に怒声を散らした。

 

『死ぬよかマシだろう。』

 

ノベスはこの時になってノベスが立っていた傍にあった木が炎をあげて燃えていることに気がついた。

 

「え…?」

 

ルルやミリーもあまりに突然のことだったので何が何だか分からないようである。

 

すると、亮が睨んでいた茂みの中から三つの頭を持っち、長い尻尾をつけた大型の犬が出てきた。

 

「ケルベロスよ!」

 

ルルはとっさに叫んだ。

 

〔ちっ、ウルフの腐敗臭で鼻が利かなかったか。〕

 

亮は舌打ちをすると持っていた剣を強く握り締めた。

 

すると、反対側からも、右からも、左からもケルベロスが出てきた。全部で七頭だ。

 

「何で?何で一気にこんなにケルベロスが出てきているのよ。ケルベロスって普通、単独行動でしょ。」

 

ミリーはヒステリックになりかけている。

 

「ええ、でも侵入者を退治する時は協力して行動するわ。」

 

ルルの声は落ち着いていたが、体は確実に震えている。

『ランス!』

 

亮は手を一頭のケルベロスに向け、火属性魔法で先制攻撃を仕掛けようとした。

 

すると、亮の手から炎が飛び出した。これは昨日習ったばっかりのレベルが低い火属性魔法だ。

そのためか、飛び出した炎には勢いがなく、目標のケルベロスは軽々と横に飛び亮の攻撃を避けてしまった。

 

〔やはり、魔法攻撃はまだ無理か。〕

 

亮は一息吐いてから攻撃を避けたケルベロスに切りかかった。

 

亮とケルベロスが闘っている時、他の三人も他のケルベロスと戦闘になっていた。

 

ノベスは叫びながら、鎚を、ルルは時折、風魔法を放ちながら近距離戦に苦手な魔器の弓矢をしまい店で購入した短剣を、ミリーは巨大な鎌を振り回してる。みんな、ケルベロスに苦戦しているようだ。

 

ケルベロスも三つの頭から次々に炎を吐き、敵を噛みちぎらんとばかりに大きな口を開け襲いかかってくる。

 

 

『ランス』

 

亮はもう一度ケルベロスに向かって魔法攻撃をしたが、やはりケルベロスは横に飛び攻撃を避ける。


だが、それが亮の狙いだった。

亮はその頃合いを見計らい、魔法攻撃直後、亮はケルベロスの着地地点を割り出しそこに目にも止まらない速さで突進した。

 

ケルベロスは亮の読み通りに着地し、その直後、亮は竜牙剣を右から左に大きく振り、ケルベロスの三つの首を順に跳ねた。

すると、頭を失ったケルベロスは三つの切り口から青い血を勢い良く吹き出し、胴が倒れた。

 

〔やった!〕

 

亮は心で叫んだが、言葉で叫ぶ余裕はなかった。

 

残った二頭が同時に攻撃してきたがらである。

 

二頭のケルベロスは十字方向に火を吐いた。この場合、横にも縦にも避けられないので亮は高くジャンプした。だが、上に高く跳ぶことはかなり危険だ。

 

シュン。バチン!

 

『ぐはっ』

 

亮が跳んでいる無防備の間に一頭のケルベロスが亮に飛びかかり長い尻尾を鞭のようにしならせて亮に叩きつけた。

 

亮は鞭に叩きつけられ、さらにバランスを崩し地面にも叩きつけられた。 

更に、もう一頭がとどめを刺そうとケルベロスが亮に飛びついた。

 

だがこの時、亮に功を奏したのは魔器を離さなかったことだ。

亮はとっさに竜牙剣をケルベロスの大きく開いた真ん中の口に突き刺した。その剣は、頭から腹部までを貫き、その直後、残った二つの頭が断末魔を上げて倒れた。

ちょうどその頃、ノベスと闘っていたケルベロスの残った頭にノベスの巨大な鎚が直撃し、そのケルベロスは息絶えた。

だが、ノベスもケルベロスに噛まれたのか、至る所から出血してまた、所々に火傷の痕があり木にもたれ掛かって座り込んで気絶している。

 

そこに亮に尻尾で攻撃をした先程のケルベロスがハイエナの如く忍び寄っていく。

 

亮はそのケルベロスに切りかかる。だが、ケルベロスはそれに気付き、それをかわす。ケルベロスは目標をノベスから亮に切り替え、亮に火を吐く。亮はその攻撃を魔器で防いだり、かわしながらケルベロスに再び斬りつけた。

 

ギヤァァァァ

 

ケルベロスが叫びあげる、急所は外れたが左前足を切り落とす事はできた。 ケルベロスは三本足でバランスを保ちながら、亮に向けて炎を乱射する。

 

だが、これがそのケルベロスにとって最後の攻撃となった。亮は炎を避けながら再びケルベロスに急接近し、ケルベロスを縦に二分した。ケルベロスは断末魔を上げる隙もなく息絶えた。

その頃、ルルとミリーはやっと相手のケルベロスを倒した。だが、二人は無傷ではなく、ノベスと同様、あちこちに傷跡や火傷があった。特にルルは魔力の消費が激しく、魔量が乏しくなっていた。

 

ミリーは自ら負傷していながら、ルルを水属性の魔法で治療を始め、亮も同じ魔法を使いノベスの治療にあたった。

 

見たところ、ノベスの傷跡はそれほど深いものでなく、また急所も全て外れていた。十分もすると自分の健闘ぶりをみんなに自慢するほどだった。

 

だが、問題はルルの方で、急所は外れていたもののいくつか深い傷がある。しかも、魔量も少ない。脈拍、呼吸はあるのだが意識がない状態だった。

 

亮はミリーと治療を交代し、自分の魔力の一部をルルに分け与えた。

 

〔これで魔力の心配はいらないな。問題は傷か〕

 

亮やミリーが会得している水属性の治療系は簡単な魔法で深手の傷にはあまり効果がない。

 

『仕方ない。ジョゾで学園まで運ぼう。』

 

「ええ、頼むわ。」

 

ミリーは心配そうな顔をしながら頷き言った。

 

その後、亮はジョゾを召喚し、重傷のルルと付き添いとしてミリーをジョゾの背に乗せ、学園へ向かわせた。

『さてと、俺たちも帰るとするか。』

 

「そうだな。帰ってスヒルやクラスの奴らに俺の健闘ぶりを自慢してやろう。」

 

ノベスはにやつきながら言った。

 

『スヒルには言う必要ないだろう。』

 

「え!?」

 

『もう、出てきていいんじゃないか?スヒル。』

 

亮が言うとノベスの傍の木の上から何かが飛び降りた。

 

「スヒル!?」

 

ノベスは目を丸くさせ驚いている。

 

「気づいていたか。」

 

スヒルは何食わぬ顔で言った。

 

「ああ、俺の感覚をナメるなよ。」

 

実際は嗅覚と言いたかったが近くにはノベスがいる。

 

「ところでお前、任務はどうした?」

 

亮はふと思い出し、聞いてみた。

 

「任務?ああ、あれはお前たちの実力を見るためについた嘘だ。」

 

「じゃあ、最初からついてきてたってことか?」

 

今度はノベスが質問する。

 

「まあな。お前たちが危ない状況になったら、助太刀するつもりだったんだが。」

 

〔危ない状況って何回かあったろ。

現にルルは重傷だし…〕

 

亮はそう思ったが、口には出さなかった。

「こんなとこにいても仕方ないから、俺たちも帰ろうぜ。」

 

『ああ。』

 

そして、三人は学校の前に移転した。

 

校門には担任が心配そうに立っていた。

 

「おお、お前たちは大丈夫だったか。」

 

担任が安心した顔で言う。

 

「心配するようなら、難しい任務をやらせるなよ!」

 

ノベスが多少キレ気味に言った。

 

「いや〜。すまん。すまん。

でも、お前達のチームにはスヒルがいたからな〜。」

 

担任は頭を掻きながら、言った。

 

『それより、ルルの様態は?』

 

亮は心配で聞いてみた。ノベスも表情が一変して心配そうな顔になった。

 

「ああ、ルルは大丈夫だよ。まだ眠っているが傷は癒えたし後は目が覚めるのを待つだけだ。」

 

それを聞いて、二人は安堵の表情に変わった。

 

「医務室に寝ているから見舞いにでも行ってやれ。多分、ミリーもいるだろう。」

 

『はい。』

 

〜〜医務室〜〜

 

 

 

「ルル…」

 

ルルが寝ているベッドの傍でミリーが暗い顔をして呟いた。

 

「私にもっと魔法の知識があれば…」

 

ミリーは自分の拳を強く握りしめた。

 

コンコン

 

ガチャン

 

病室のドアがノックされ開いた。

ドアの奥から出てきたのは、亮とノベス、スヒルの三人だった。

 

『ルルの様子はどう?』

 

亮、ノベスとスヒルが心配そうにミリーに聞いてみた。

 

ミリーは暗い顔を止め、いつもの明るい表情に戻した。

 

「ええ、まだ寝ているけど傷の方はだいぶ回復したわ。」

 

ミリーの話を聞き亮はルルのベッドに近づいた。ルルは整った呼吸ですやすやと寝ている。

 

「私がもっと回復魔法を勉強していれば…

私のせいだわ。」

 

ミリーは暗い顔をして言った。

 

亮が何か言おうと口を開いた時、

 

「そんな事はないぜ。

ミリーはこれまで一生懸命に頑張ってきたじゃないか。」

 

ノベスが久しぶりに真顔になり言った。

 

「それに回復魔法は昨日やったばっかりなんだろ?ミリーはちゃんと習った事を実際に役立てたじゃないか。

だから、ミリーは悪くない。誰のせいでもないんだ。」

 

ノベスがミリーに熱弁した。

 

それから、暫く沈黙が訪れてミリーが口を開いた。

 

「…ノベスもたまには良いこと言ってくれるじゃないの〜。」

 

この時、ミリーの口は笑っていたが目には涙が溜まっていた。

 

「ありがとう。」

 

そしてミリーが付け足して小さく言うと、目に溜まっていた涙がこぼれ落ちた。

「あっ、ちょっ。

 

泣くなよ。俺が泣かせたみたいじゃないか。」

 

ノベスはミリーの涙を見ると焦って言った。

 

「そうよ。ミリーには涙は似合わないわ。ミリーは笑顔が一番。」

 

聞き覚えのある声が聞こえた。

 

「そうそう、だから泣く…え!?」

 

ノベスは途中で口を閉ざし、四人は先ほどの声の発声元を見た。

 

四人の視線の先には、

 

ベッドから体を起こし微笑んでいるルルの姿があった。

 

「ルル!」

 

ミリーは泣くことを忘れ、笑顔で叫んだ。

 

「心配させて悪かったわね。」

 

「ううん。意識が戻って本当に良かった。」

 

ミリーの目から先ほどのとはまた別の涙が流れ落ちた。

 

ルルが目を覚ましてから五人で喜びの言葉を言い合った。医務の先生にこの事を伝えると、あと一日くらい入院したら様態によっては退院してもいいと言った。

 

それから、亮達は時ルルに励ましの言葉を言って医務室を後にした。


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