3 兄より優れた弟は
3-K
「結構遅くなってしまった。ヤングクルッポーの尾羽が必要なんだけどあいつら6時過ぎたら全然出てこないんだよ。」
「鳥目だからかなー」
そっか、門限かと思ったけどそっちの方があり得そうな設定だ。
「今日は色々あったし練習も出来てないから諦めるか…」
ブンブンとニケさんが首を振る。
「壁、今度こそ出来るから一回だけ!」
強い眼差しでじっと見られる。
他人のクエストなのにこんなに必死に手伝ってくれるのか。
「わかった、もう一度挑む時間はありそうだ、でも危なくなったら下がるって約束して。」
「ううん、壁は下がらないの」
約束するか悩んだのか少し間があった。
「言ったでしょ、命に代えても守りますって、だから約束な。」
頭をポンポンと軽く叩く。
「あ、あうー」
頭を両手で抱えながらグルグル回し、足をドタバタしている。
「ご、ごめん、アタマを触られるの嫌いだったんだね。もうしないから行こうか。」
何か言いたそうにしてたけどお巡りさんを呼ばれては敵わん。冤罪怖ひ、わー逃げろー。
再び北の高台へ、
道中のモンスターからは全て逃げた為結局ニケさんが戦ってるところはアオイアイツ達との戦いしか見れなかった。
ビリビリッ!
え?姿は見えないのにモンスターに見つかった?「あ、足元に影があるよ、これかな?」ニケさんがしゃがんで影を叩いていた。
空を見上げると二体のハト型モンスターがこちらを見ていた。
《特殊個体 ヤングクルッポーブラザーズが現れた。》
《通常より強い個体との戦いになります。戦闘が始まると逃げる事が出来ません。》
見つかった感覚もいつもと少し違った。
どうしよう。連携も出来てないのに勝てるのか。
『ヒャッハーーー!俺たちに出逢っちまうなんてお前達ついてねぇっポォ!ここらは俺らのグループ《クルッポーファミリア》のナワバリなんだポォー!」
『穀物類は全部置いてくポォー!』
片方は通常よりも黒くてサングラスの形も楕円ではなく先が尖っている。
もう片方は白く、通常のヤツや黒い方より少し大きい。
特殊個体は喋る事が出来るのか、なんだか随分とオラついたヤツが出てきたけど…こいつらから醸し出される雑魚臭…勝てる…!
「戦おう!打ち合わせ通りにお願い!」
「あい!」
ニケさんが武器を構えて前にでる。
『おい!先制攻撃は俺たちからポォー!』
『順番は守るんだポォー!』
「あ、それはどうも失礼しました。」
「いやいやいや!そんな決まりないよ、そのまま攻撃しちゃって!」
「むー、騙したなぁ」
《スキル発動・ストーンウェポン》
ニケさんのスキルが発動、
武器に土属性の力が宿る
ユグドラシルでは大きく3種類の攻撃に分けられる。
レベルが上がる事で習得する
種族特有の技
武器の熟練度が上がる事で
習得する技術
剣やオノ、槍など分類毎に熟練度が上がる。
自らの種族属性の魔法
ストーリーを進めればもう一種類だけ選んで覚える事が出来るらしい。
魔法レベルが上がるほど発動時間・威力・範囲・数を強化・短縮・圧縮等を自由に設定できる。
『なんだぁ、オノに石が纏って原始人みたいになったポォー』
『野蛮ポォー!』
二匹目が特になんかウザい!
でもちゃんとコンビの気を引くことに成功している。
《魔法詠唱開始》
飛んでいるコンビを落とす為に魔法を選択、レベルが低い為発動には10秒掛かる。
ヤングクルッポーはニケさんに攻撃を仕掛ける。
《スキル発動・羽よ降り注げポォ!》
『羽の雨に苦しめポォー』
『アニキィ!かっけーポォ!』
二匹はニケさんを左右上空から自らの羽根を飛ばし、体力を削りにきた。
ぐるぐると逃げ回るニケさんを二匹で追いかけ回す。「いやー、チクチクするよー」
いくつかの羽が刺さって不思議生物になっているがダメージは少なそうだし、そのまま頑張って!
《魔法発動・乱気流》
上空でランダムに風が巻き起こり二匹はバランスを崩し落ちてきた。
「今だ!地上に釘付けにするんだ!」
「あいさー」
《アーツ発動・スラッシュラッシュ》
ブンブンと自分を起点に斧を振り回しコマの様に回りだす。
『んぎゃーーーーーーーー!』
『アニキィ!アニキィ!』
今の攻撃でクルッポーアニキのアタマをボコボコにした。
クルッポー兄はぶくぶくと泡を吹いて倒れた。こいつらは二匹で一体のモンスターだから片方を倒しても消えないのか。
ユニークの割にそこまで強くはなかったな、
2人でもう片方を叩けば終わりだ。
『よくも!よくもアニキを!』
《特殊スキル発動・アニキの仇は俺が取る》
クルッポー弟から金色のトサカが伸びる。
こいつ!まさか!
「あーもしかしてニワトリさんですか?」
「やっぱりそうだよね!とんだチキン野郎だったわけだなー」
『うるせぇぇぇ!身体はニワトリィ!心はハァトォ!誇り高きクルッポーファミリアの末弟だぁ!!』
《アーツ発動・魂の叫び》
キィン!
ぐわ!凄い声だ!マトモに食らってしまった。三半規管が揺らされ、立っているだけで精一杯だ。ニケさんも食らった様で尻餅をついて、くらくらしている。
そうか、本当の特殊個体はこっちだったか!
『だれが臆病者だってぇ!?』
コケコケ言いながら走り回る。
目で追うのがやっとの速さでたしかに凄いが、「やっぱりお前まんまニワトリじゃねーか!語尾を付けるの忘れてるぜ!」
『だまれぇ!』
速度を落とす事なく突っ込んでくる。
うまく挑発に乗ってくれた。
ニケさんが回復するまでは僕が壁に回る。
怒りに任せて真っ直ぐ突っ込んで来たところを紙一重で躱す。
「それともニワトリじゃなくてイノシシか?猪肉の方が高級だしそっちの方がいいんじゃないか?」
『ゴケェココココ!』
完全に正気を失っている。
チャンスがあるとすれば怒らせたままの方がいい。
もう一度真っ直ぐ突っ込んでくる。
この攻撃だったら避ける事に専念したら時間は稼げるはずだ。
『オマエラブッコロシテヤルゥ!!!』
《アーツ発動・魂の叫び》
突っ込みながらさっきの攻撃を仕掛けて来た。走りながらも発動できるのかよ!
慌てて耳を塞ぎさっきほどのダメージはないが、「うわぁぁ!」
体当たりを避けきれずに吹っ飛ばされる。
強い衝撃を受け少し息が詰まるような感覚があったが、リアルな世界でもゲームであり痛みはない。
まともに食らってしまい総HPの半分は減った、残りは3分の1もない。
直ぐに起き上がろうとしたがチキンの追撃は早い。
あぁ、折角手伝って貰ったのにまたこの大陸からでれないのか。
「だめぇ!2人で雲海見るんだもん!」
ニケさんが僕の前に飛び出しチキンの攻撃を代わりに受ける。
「ぎゃう」
ニケさんがこちらに飛ばされてきたのを反射的にキャッチする、それでも勢いは止まらず2人して飛ばされる。
キャッチしたニケさんと目があった。
「ニケさんや」
「あい」
「雲海見たかったの?」
「うん!」
それでこんなに一生懸命だったのか…
こんなにボロボロになって…
ふふふ…ホントこの人面白い…
いいね…
「じゃあこいつをやっつけて二人で雲海を見よう。雲海だけじゃない、他の大陸全てを冒険して見た事ない物全部見よう。ついてきてくれる?」
「ついてく!ついてくさせて!」
キラキラした目で見てくれるなぁ
「じゃあ先ずはこいつを倒す為に良く聞いて。いい?僕が合図をしたら………」
「わかった!任せて!」
『最後の悪あがきは決まったのかぁ!?あーん?』
「わざわざ待ってくれてたのか?お前は案外良い敵だったよ。」
『今更オイラ達の素晴らしさが理解出来たかぁ!でも手加減はしてやらないぜぇ!』
「今褒めたのはお前だけだよ。兄より優れた弟はいないって言うけどありゃウソだな。弟が戦ってんのにまだ伸びてやがる。最高にダセー」
『あ、あ、アニキは最高にカッコいいポォ!!!!』
よし、これでまたこっちに気を惹きつける事ができた。
後はニケさんとの連携がうまくいくかどうかだ。
《スキル発動・軽やかな足運び》
足元に光の翼が現れる。
身体が軽くなった感覚した。
これで回避率が高まり反応が速くなる。
『お気楽なバカのクセにオイラ達兄弟の絆を舐めるんじゃないっポォ!』
《特殊スキル発動》
《兄弟の絆は本物ポォ!》
『このスキルは防御力を素早さと攻撃力に回す最期にして最高の切り札ポォ!』
「切り札を教えてくれるなんて何処までお人好しなんだか」
「お鳩好しかなー?」
ニケさんが少し離れているのにわざわざ訂正をいれる。
『お前達みたいな最後まで能天気な奴ら初めてポォ、怒りを通り越して正面から戦いたくなったポォ』
僕は大剣を構え正面にチキンを見据える。
今までに無いくらい集中している。
遠くの風の流れまでも不思議なくらい解る。
きっとあの追い風に乗って動く。
ニケさんに目で合図を送る。
《魔法詠唱開始》
発動までは5秒、このタイミングで完璧だ。
4
3
2
1
チキンが動いた。今まで以上の速さに風が追いついて一瞬にして視界から消える。
《魔法発動・ストーンウォール》
僕の足下からせり上がる土の壁に足を掛けて上空に飛翔する。
チキンは急に現れた壁によって視界を遮られ、同時に空高く翔んだ僕を見失ってる。
落ちる力を利用して渾身の一撃をがら空きの頭上に振り下ろす!
「喰らえ!これで終わりだ!」
全てを出し尽くした二人の最高の一撃を喰らったチキンは立ち上がることはなかった。
はずだったんだが…
《魔法発動・ストーンウォール》
僕の足下に現れる筈の壁が2m程前に出現し、まさかの事に僕はジャンプを出来なかった。しかし、『クルッポォォォ!!??』
ドカーーン!ガラガラガラ!
土の壁にチキンが激突しそのまま壁が崩れて下敷きになった。
あまりの結末に僕は呆然としてしまい、ただ目の前の現実を見つめていた。
ふと後ろを振り向くとニケさんと目があう。
トテトテと歩きガレキの上に飛び乗る。
「これで雲海見れるね、こよったん!」
こよたん…?名前より長くなってるけど初めてアダ名で呼ばれたかもしれない…
意外と悪くない。
「1人じゃ絶対に勝てなかったよ、ありがとう、ニケたん」
夕焼けの為かニケたんの顔はほんのり赤みを帯びている。
3-N
《魔法詠唱開始》
《発動まで残り5秒です。発生箇所を設定して下さい。》
え?初めて魔法使ったけどただ押すだけじゃダメなの?どうやって決めるの?
4
ヤバイ、ヤバイよ!こよみさんに足元にって言われたのにこのままじゃ折角の作戦が!
3
目の前の地面に光る輪っかが出現してる。これだ!これであってて下さい!
2
どうやって動くの!?念じてみる!?
動けぇ〜!動けぇ〜!動いてよぉ〜!
光のサークルが動き出します。
動いたぁ!
1
いやぁぁぁ!
行き過ぎたぁぁぁ!!!
《魔法発動・ストーンウォール》
『クルッポォォォ!!??』
ドカーーン!ガラガラガラ!
ひぃぃ、ニワトリさんが壁に突っ込みました!だれかぁ!救急車呼んでぇ!
…………
そ、そっちが、急に飛び出してきたから!
私悪くないよね?
それでも捕まっちゃうのかなぁ…
ゴメンねチルちゃん、お姉ちゃん少しの間臭いご飯食べてくるね。
お勤め果たすまで1人になるけど強く生きてね。
fin
いやいや、これゲームだし大丈夫ですよね?
こよみさんがこちらを振り返る。
ふう、なんとか勝ちましたね。
私はガレキの上に登りこよみさんに改めて向かい合います。
「これで雲海見れるね、こよったん!」かぷ
噛んでしまいました。
こよみさんは一瞬だけ驚き少し考える様なそぶりをしてから
「1人じゃ絶対に勝てなかったよ、ありがとうニケたん」
ニケたん…って呼ばれた。
これはこよたんって呼んでも良いって事だよね?
ニケたんこよたん…
何だか嬉し恥ずかしで顔が熱くなりました。
この後ヤングクルッポーブラザーズはスタッフで美味しく頂きました。
もちろん冗談ですよ?私だって偶には冗談も言えるのです。クルッポーお兄さんの尾羽は引きちぎり、ニワトリさんは瓦礫から出して兄弟並べて寝かせて置きました。
《最北の高台》
やって来ました。念願の高台です。
何だか空気が違います。
不思議なところです。
「ここは特別なエリアでイベントとかの為に作られた場所なんだよきっと」
こよたんが崖っぷちに咲いている花を取ってから手招きをしています。
あの花と尾羽を持って行く事でこよたんは他の大陸に行く事を許可されるクエストをクリアできるそうです。
「ふわぁー」
あまりの絶景に口を開けたまま魅入ってしまいます。
(このノームの身体は意識して閉じないと、お姉ちゃん口が開きっぱなしになってるよっとチルちゃんに言われてしまいますが。)
下方に広がる一面全てが雲の海、果てしなく、何処までも続く空、正面からは夕陽が私達を照りつけ暖かくしてくれます。
「折角だし少しの間ゆっくりしていこうか」
あまりにもステキな提案が嬉しくてこくこくと強く頷きます。
2人で隣り合って座り先ほどの戦闘の話になりました。
あの兄弟面白かったね、まさか兄を倒したら弟がパワーアップしてそれがニワトリになるんだもん、訳わからんかったな
こ、穀物類全部置いてけってのが面白かった!
あれな!奪うなら荷物全部持ってばいいのに鳥にはエサだけで充分なのかなー
そ、そうだ、あとこよたんの魔法かっこよかった。あのマジックスタンバイやマジックスタートってやつ
ああ、あれは魔法の設定で読み方を登録出来るんだよ、他にも魔法の基本効果は決まってるけど威力や範囲、詠唱速度なんかを自由にレベルを振り分けて自分だけのオリジナルの魔法が作れるようになってるんだ。
それで私のには名前出なかったんだ。
後で設定してみる!
知ってる?魔王の炎は不死鳥なんだよー
えええ!?そんなの使われたらどうしよう!
あはは、最近読んだマンガであっただけだからこのゲームでは流石にないよ
ほ、他には?どんなのがあるの?
そうだなー、同じマンガではねー
………
…………
私は妹に誘われてユグドラシルを始めた話や、こよたんが最初の頃強いモンスターから逃げ回った話、昔見たアニメの話、ウチで飼っているネコの話、たわいもない会話は尽きることなく、日が暮れて寒くなって来ても飽きることなく続いた。
途中、言葉が詰まったり、出てこなくても待ってくれて急かしたりしない。
人見知りで男の人と話す事が全然できないけど今日は不思議なくらい話す事が出来た。それはきっとこよたんが楽しくて優しくて人の気持ちがわかる人だからだろうな。
もう少しだけこのまま…
ビーーービーーーー!!!!
鳴り響く警報音
《エマージェンシー・エマージェンシー》
《隠された戦闘大陸条件解放》
冷たくて心地良かった風が急に止み、高台の入り口からタイマツを持った沢山のクルッポーさんが広場を照らしながら近づいてきます。
何だろうこれ…怖い…またバトルするの?
次回更新は3/7 21時予定です。
「ねえ、こよたんどうして二日後にしたの?焦らしてるの?」
「違うよ、ニケたんまだ馴れてないから確認する時間とか欲しいんだよ」
「え?誰か見てくれてるの?」
「いいじゃない!夢くらい見させてよ!」






