87・下っ端の独白がヤバイ⑤
陵辱中であるB子を助ける。これは本当だ。
しかし、それをする際にランクの低い冒険者であるA太を連れて行く必要はない。
自分の手で彼女を助け出したいという彼の意思を尊重するにしても、指示に従うことを促したり、安全な後方で様子をうかがうとか、誰か余裕のあるものが彼のフォローを請け負う等の取り決めをしてから行くのが普通だろう。
しかし現時点でそれはしていない。軽い自己紹介や一緒に救おうと言うような意思表示をお互い行いはしたが、安全についての確認は誰もしていないのだ。
興奮しているせいかその違和感にA太は気づいていない。
B子を助け出すことと、ゴブリンに対する恨みで頭がいっぱいのようだ。
そして穴場に向かい、大量のゴブリンとの戦闘が開始される。
これはゴブリンが増えすぎないようにという管理と、ゴブリンは共食いも普通にするので適度に死体にして餌集めというのも兼ねているので、殺しまくることは問題ない。
その際、みんな自分の戦闘にに手一杯だというふうに戦う。なぜなら、大量のゴブリンに対処しきれずに、また囲まれてしまったA太を助けないことに違和感を持たせないためだ。
A太はゴブリンに取りつかれ、噛みつかれ、叫びを上げる。
しかし助けない。今度はゴブリンにA太が瀕死になるまで痛めつけさせる。
程なくして、A太は四肢を食いちぎられ、体中傷だらけになり、死ぬ寸前というところまで追い詰められる。
この時A太を襲っているのはほとんどが召喚ゴブリンで、殺さないようにギリギリの痛めつけ方をするよう指示してある。
召喚魔物と言っても所詮はゴブリンなので、知能は低い。そんな魔物にそんな指示をしてしまえば勢い余って殺してしまいそうなものだが、ゴブリンの場合余りそれはない。
なんでも陵辱を逃れるために激しく暴れる女性に対し、逃げないように四肢をもいで食い、痛めつけて苗床とするというやり方を本能的にゴブリンは知っているらしく、どうすれば人間が死ぬか、ギリギリ生き残るかの加減はお手の物らしいのだ。
ゴブリンが世界中で嫌われている理由がよくわかる。
A太が満身創痍になったタイミングで、仲間のダンジョン使いがダンジョンの能力でA太の意識を奪う。
それは二度と意識が目覚めることがなくなってしまうという呪いのような能力だ。
人の精神に働きかける能力というのは珍しい上にかなり難しいらしく、相手がダンジョンマスターの場合はまずその能力が十全に働くことはないらしい。
特に永続してその効果を持続させるとなると、不可能に近くなるそうだ。
それが可能であるのはA太が瀕死であったことと禁制魔導具による補助があったからだ。
かけた能力は魔導具の補助の関係上かけた本人でも解くことができないそうなので、A太は何か奇跡でも起きない限りは四肢を失い、植物状態で生き続けることになる。
そうした下準備を整えた上で、満を持してB子の救出をする。
陵辱されながらでも意識があってこちらを認識している可能性があるので、できるだけ自然にゴブリンを下がらせつつ、戦いながら彼女を救出する。
ゴブリンに襲われた女性というのは大体酷い有様になっている場合が多い。
まともな精神を保てている女性は少ないし、暴れまくった場合四肢のいくつかとか全てを失っている場合がある。
ゴブリンが腹を空かせていた場合は指や耳などをつまみ食いする場合もある。一応召喚ゴブリンに命じてそういうことは禁止するように言ってあるが、やはりどうしてもそこは知能が足りずにそういう傷物にしてしまう場合がある。
B子の場合は五体満足で欠損もなく、大丈夫そうだった。
虚ろな目をして全身の至る所に陵辱の跡が残る彼女を手厚く保護する。
もう大丈夫だと声をかけ、女性の仲間に身体を清めさせ、その肌を晒さないように布をかぶせてやる。
彼女が襲われたのは数時間だ。たった数時間とはいえ、その身体と心は深すぎる爪痕が残っただろう。
何も言葉を発さない彼女をそっと抱えてその場を離れ、街に戻る。
死なないよう処置を施したA太も一緒にだ。この時できるだけ彼の姿を彼女の目に届かせないように心がける。
今のタイミングでA太の惨状を知ってしまえば本当に精神が壊れる可能性がある。
彼女が正気を取り戻し、現実を受け入れられるようになるまではA太のことは話さない。場合によっては数日はA太のことを黙っていることになる。
なぜなら彼女には、A太のこと以外にもつらい現実がある。
B子のお腹には確実にゴブリンの子供を孕んでいるだろうことだ。
放っておけば数日で膨らんでしまうお腹に彼女は絶望することになるだろう。
奪胎には危険も伴うし、費用もかかる。産んでしまってからゴブリンを殺す(自分の子供であっても、契約魔物でない限りゴブリンの飼育は禁止されている)ということもできるが、それも危険があるしつらいだろう。
奪胎するなら早いに超したことはないので、彼女に意思を仰ぐ。無論、金がないなら貸せる人を紹介するといった上でだ。
B子は奪胎を選択し、金を借りた。それからしばらく病院に入院して塞ぎ込んでいたが、数日経って彼女からA太のことを聞かれる。
だいぶ精神が落ち着いてきていることを見て、俺は彼女に事の成り行きを説明し、A太の現状を見せる。
そして言うのだ。
A太は君を助けるために冒険者を雇い、共に戦って君を助け出そうとした。
しかし、思った以上にゴブリンの数が多く、戦いは熾烈を極めて彼は瀕死になってしまった。
周りの仲間も余裕がなくて、なんとか死ぬ前に助けることができたが、ずっと意識が戻らず、治療師によればいつ回復するかもわからないそうだ。
このまま意識が戻らなければ、今彼に施されている延命処置は解除され、彼は死ぬことになるだろう。
なぜなら彼は君を助けるための冒険者を雇うために借金をしている。その上でこのまま意識が戻らないとなれば、治療費を払う能力がないと見なされてしまうからだ。
誰かが彼の借金の責任を含めて身柄を保証し、治療費を払うと言うなら別だが。
カップルの新人を潰す場合はこのように片方を潰して、片方に借金や治療費などの支払いをさせるケースが多い。
男の冒険者としての素質に伸び代があれば女の精神を破壊し、男に素質がなく女が身体を売れるだけの魅力を備えていたら男を破壊する。
B子は美人ではないが可愛らしいタイプの女だった。
自分を助けようとしてくれたA太の治療を続けることを選択したB子に、俺は心苦しそうに夜の仕事に詳しい知り合いを紹介する。
村を出て、もはや冒険者を続けたくないであろう彼女が取れる選択肢はこれくらいしかない。
それに、魔物に一度襲われてしまった女性は自分の身体の価値を下げてしまうことで、精神の安定を測ろうとすることが多い。
安い体を襲われただけだから大丈夫だと自分に言い聞かせたいのだ。
それに目覚めるかもしれない彼に尽くすという悲劇的状況も彼女を奮い立たせる。
目覚めたら嫌われてしまうかもしれなくても、自分がこうしていられるのはこの人のおかげだからと頑張ってしまうのだ。
俺が知っているB子はここまでだ。
俺の他にこの新人潰しをやっている奴の中には自分が借金漬けの娼婦にした女に客として会いに行く物好きもいるらしいが、俺はそこまでのことはできない。
それに噂によると、娼婦というのはつらい職業らしい。
金は借金や治療費に消える上に避妊用の魔導具などの費用は自腹だったりするらしい。
その上に精神的に参ってしまった娼婦には快感を数十倍に高める違法の禁制魔導具を使わせたりもするらしい。
性交というのはただでさえ快感や幸福感が伴う行為だ。その快感や幸福感を数十倍に高めてしまうことには危険を伴う。
なぜなら、その魔導具を使った性行為以外に幸福を感じられなくなってしまうからだ。
そうなった娼婦はその魔導具を使わせて貰うためになんでもする様になる。
そして最終的には狂い、その精神を壊してしまう。
新人潰し参加者である俺も噂でしか聞いてない話だが、そういう狂った娼婦はゴブリンの苗床にして、最終的には彼氏共々餌にしてしまうという話も聞いた。
文字通り骨まで食い尽くすわけだ。さすがに噂にすぎない嘘だと思いたいが。
これがこの街で行われている新人潰しの一例だ。
他にも様々な手法やシナリオによって、新人に借金を背負わせ、治療費を払わせ、労力として搾り取っている。
自分もその歯車の一つとはいえ、やはり反吐がでる。
今の俺のターゲットである二人組。
こいつらは情報によれば、この街で有名な例の幽霊付き物件を買って、やはり引き払おうとしているような馬鹿らしい。
大方あんな価格で家を買えるのであれば幽霊くらいと思ったのであろうが、あそこの霊はちょっとした心霊現象でなく、かなり激しく心霊現象を起こす。
除霊などそう簡単にできるものでもないし、あの激しい心霊現象を耐えきって住むなんてことはできないはずだ。
今の所まだ家を引き払ってはいないようだが、それも時間の問題だろう。
うさ耳の方は多少イケメンであるが、今までやった依頼が雑用系のみであり、午前の人の少ない時間に主に活動しているせいか目立っていない。
何より、バカは騙しやすい上に比較的罪悪感が少なくて済む。その分もらえる金も安くなりがちだが。
なんでも2人とも読み書きのできるバカのようなので、冒険者でなくとも労力としては使いやすい。ただのバカよりは金をもらえるだろう。
あんな家を買って散財したのだ。この街に出てきて雑用しかしてないような新人冒険者なら、多少金に困っているはずだ。
もしかすれば戦闘系の依頼を受けてみようかという話になっているかもしれない。
もしそれが違っても、うまくやればゴブリンを大量に倒せるという話を聞けば、バカだから乗ってくる可能性は十分ある。
さあ、今日の仕事を始めよう。
次話から主人公視点に戻ります。




