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85・下っ端の独白がヤバイ③

いきなり儲け話を振ったところで、警戒されるのがほとんどだ。

A太とB子もその例に漏れず、俺のことを警戒して来た。

だけどそれも、出来るだけ身なりの整った格好をしておくことと、こちらの事情をある程度でっち上げておくことでカバーができる。

警戒するA太とB子に俺は『実は君たちにこの話を振ったのは、昔の自分と彼女を見ているようだったからだ』と言った。

これの効果は劇的だった。警戒こそ取れなかったが、俺の話を聞いてみようという体勢に彼らがなったからだ。

それから俺の話した内容はこうだ。


俺も実は君たちと同じように、将来を誓い合った彼女とこの街に出て来た。

早く結婚したくて頑張っていたが、なかなか稼ぎが良くならず、焦っていた。

焦った結果、普段入らないような強い魔物が出るところまで足を伸ばして討伐数を稼いでいた。

強い魔物が出るが、ランクの高い人くらいしか入らないせいかそこはランクの低い雑魚が狩り残されて多めにいて、美味しかったのだ。

数回そんなことをやってうまくいったものだから、調子に乗ってちょくちょくそこに稼ぎにいっていたのだが、うまくいくのはそう何度も続かない。そんなことをやっているうちに強くて凶暴な魔物に見つかってしまった。

俺はなんとか助かったが、彼女は守ることができずに死んでしまった。

君たちを見て、彼女のことを思い出した。

今の俺はCランク冒険者だ。彼女を守れなかったことで死に物狂いになって鍛えてここまでランクをあげられた。

しかし、いくら今強くなったところで、彼女は帰ってこない。

その代わりに、自分に似た境遇の誰かを助けることはできる。

どうか君たちの手助けをさせてくれないかと。


こんな話をすれば、村から出て来たばかりで人を疑うことを知らない若者たちはころっと騙される。

A太とB子もその例に漏れず、俺の話を聞いてA太は神妙な面持ちになって、B子は目に涙を浮かべていた。


もちろん真っ赤な嘘であるこのシナリオだが、これは俺が考えたわけじゃない。

これを考えたのは上司であるニタニタ男だ。

ニタニタ男は俺に新人潰しの際に使うシナリオパターン集のようなものを作っている。このシナリオ集を使えば大体どんなパターンの新人にも対応できる。

このシナリオ集を俺はニタニタ男に暴力によって無理矢理頭に叩き込まれた。最初は俺はそんなシナリオ集だけでなんとかなるのかと半信半疑だったのだが、これがびっくりするくらいよく引っかかる。

まあ、金に困った新人というのがそれくらいワンパターンであるという話なのかもしれないが、それでもやはりそれに合わせて騙せるシナリオを構成するというのはすごいことだろう。


犯罪者になってみて初めてわかったことだが、悪人にも才能というのがある。

悪知恵が働くとか、人の騙し方がめちゃくちゃうまいとか、人を殴ったり殺したりするのに躊躇いを持たずにやれるとか、悪事を楽しめるとかそういうものだ。

ニタニタ男にはその才能がある。俺は正直そんな才能は持ってない。悪人としても中途半端なのだ。

まあ正直悪人として大成したいなんて思っていないから、そんなものなくてもいいんだがな。


とにかく、その時A太とB子は騙されてくれた。そして俺の言葉を信じて簡単について来てくれた。

俺が連れていったのは初心者にオススメで穴場であるゴブリンの狩場だ。

初心者御用達である害魔物であるゴブリン。こいつらはなんでも食べるし繁殖力も高いので倒しても倒しても湧いて出て来てしまう。1匹見かけたらそこの森には30匹はいると思えと言われ、嫌われている。

まあでも、新人冒険者が毎年腐る程集うこの街ではそんなゴブリンの繁殖力も形無しのようで、さほど数がいない。おそらくはランクの低い冒険者によって、見つけた端から倒されて繁殖なんてする暇がないのだろう。

ゴブリンはとても弱い魔物だ。サイズはデカイ奴でせいぜい大人の腰ぐらい。力も弱ければ足も遅く、知能も低いので攻撃もワンパターンで対処がしやすい。

そんな魔物だ。雑魚中の雑魚、初心者でもお手軽に狩れる。


その穴場では少し回っただけで何体もゴブリンが狩れるのだと俺は2人をその狩場に連れて行く。

そして実際一緒にその狩場を回って、何体ものゴブリンに遭遇させるのだ。

普通なら一日歩き回って3から5体くらいしか遭遇しないはずのゴブリンに、そこら辺を回らせるだけで1時間のうちに一日分のゴブリンと遭遇するのだ。

2人は本当にそこは穴場なのだと認識するだろう。

俺はその理由を、どうやらこっちの方面は餌の関係や新人冒険者の回るルートから外れている関係で、ゴブリンが集まりやすくなっているらしいと話す。

実際、地形は新人冒険者があまりこないだろうところを選んでやっているが、これはでっち上げた嘘だ。

実際のところは、このゴブリンはダンジョンで繁殖させた養殖ゴブリンで、この地形に新人が寄ってこない理由も、ダンジョンの効果や協力者である冒険者の配置で、悟られないよううまいこと新人や他の冒険者が寄り付かないように調整しているに過ぎない。


ちなみにゴブリンの繁殖は重犯罪だ。

魔物をダンジョンで繁殖させ、素材を安定的に確保するために飼育、繁殖するというのはよくやられている。

しかしそれは個人で使うものを個人的に繁殖させる分には構わないのだが、魔物の種類や規模によって、または素材等を他人への販売をする場合には資格が必要になる。

その資格はしっかりとした教育受け、審査をクリアしなければ取れないものだ。しかも定期的に更新も必要といったほど、徹底して安全性を管理されている。


その中で、ゴブリンの繁殖というのはそもそも禁止されている。

禁止されている魔物は何匹かいるのだが、その禁止理由は大体飼育や繁殖をするリスクが高すぎることにある。

例えば毒性が強すぎて周辺に被害が出るとヤバイとか、同種の魔物を呼び寄せる習性があるので飼育するうちに周りがヤバイことになるとかだ。

その中でゴブリンの危険性とされるのはその繁殖力の高さと習性だ。

ゴブリンは人型であればどんな女性襲って子種を注ぎ、ゴブリンを産ませることができるという特性がある。

しかも増え方や育つスピードも早いので、管理に失敗すれば大災害になりうる。

それにそもそもゴブリンは素材として全く使えない。つまりはリスクしかなく、利点がないのだ。

あるとすれば、隠れてそれをやればギルドでの討伐ポイントをうまく稼げるといったところだろうか。

リスクに対して見合うとは全く思えないが。


先ほど弱いといったゴブリンだが、それでも危険視され、嫌われて、狩られ続けているのには意味がある。

こいつらは数が増えてしまうと格段に厄介になるのだ。


なぜ厄介かは、この穴場を教えられたA太とB子の末路と一緒に説明しよう。

思った以上に長くなってしまってます。申し訳ないです。

こういう話の説明系脱線をしてしまう小説を書く奴なのだと認識して、できれば脱線を楽しんでもらえれば幸いです。

残虐っぽい表現は今回すでに匂わせてますが、次話でさらに掘り下げ広げます。

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