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8・村に貴族がやってきてヤバイ①

俺はそれから急いで村の広場に向かった。

なんでも、村に来た貴族はそこに馬車を止めて今年のダンジョンコア授受者を待っているらしい。


広場の近くまでついた。遠目に眺めているだけの群衆に混じってやって来たという貴族を眺めた。

どうやらやって来た貴族というのは女性らしい。

それは金髪の少しウエーブがかかった眺めのの髪の毛を後ろで縛り、まつ毛がすごく長いクールビューティな人だった。

背筋が整った立ち姿とこんな村でも洗練されて感じるしっかりとした作りの衣服は、自己紹介をされなくても自分は貴族であると語っているかのように見えた。


「あ、あいつっす。あいつも今年この村でダンジョンをもらったやつの1人っすよ」


そう俺を指差して言ったのはクエンだった。

気付いてなかったが、クエンとレッサーはすでに今年ダンジョンを得たものとして貴族の前に集まっていたようだった。

ネネコはまだ来ていない様子なのが救いか。

俺を指差して貴族に知らせたクエンに思わず舌打ちしたくなった。

なぜなら俺は貴族がどんな奴か確認しに来ただけで、まだ貴族の前に立つつもりがなかったからだ。


貴族が直接こんな村にやってくる理由として俺が思いつけるものは一つしかない。おそらくはネネコをなんとか手に入れるためにここ来たのだ。

今年ダンジョンを得たものを呼び集めていることからもそれは明らかだと言えるだろう。

実は俺が広場まで貴族の姿を確認しに来たのは貴族からの呼び出しに応えるためではなかった。

逃げるべき敵の人数を確認しに来ただけだった。やって来た貴族が連れた人数次第ではネネコを連れて逃げ切れるかもしれないと思って観察しに来たのだ。村周りの地理はこちらに有利があるから、相手の人数次第ではもしかすればと。

見た感じ、貴族の連れている人数は2、3人といったところでこれならばもしかすれば逃げおおせるのではと思えた。

だからこそここで見つかってしまうのは痛い。


「君も今年ダンジョンをもらったのかい? すまないが、こっちにきてもらってもいいか? 話を聞きたいんだ」


貴族の女性が俺の方を見てそう言った。

一瞬無視して逃げようかと思ったが、こんな風にすでに顔を見られてかつ近い距離でバレてしまっている状態で貴族や貴族の従者相手に逃げ切れるとは思えなくて、逃げることは諦めた。

近寄ってからクエンに小声で文句を言う


「(なんで俺がいるってこと伝えちまったんだよ! 様子だけみたらネネコ見つけて連れて逃げようと思ってたのに!)」


「(あ、わりぃあんま深く考えずに呼んじまった。でも大丈夫じゃねえか? そんなに悪い人にゃあ見えないぜ?)」


「(貴族に悪意がなくったってこっちにとっちゃ都合の悪い話ってのもあるだろうが! 平民なのに貴族と結婚できる話を持ってこられたら喜ぶだろうと思って来てるとかだったらどうするんだよ!)」


「(・・・本当そうだな。マジで悪りぃ。なんも考えてなかったわ)」


「あー、できれば私を話しに混ぜてくれないか? 不躾だとか言うつもりはないが、さすがに無視されて話ができないのはあまりいい気持ちではないからね」


「あ、すいません!」


言われてとても失礼な行いをしていたと気付いた。

貴族を前にして平民が延々と内緒話とか、下手すれば切り捨てられてもおかしくない行動だ。


「いいよ。気にしなくて。こう見えて実は私も元平民でね、貴族になった身としてはあまり良くないことなのかもしれないが、あまりへりくだられるのに慣れていないんだ。まあ、だからと言って貴族に全く敬意を払うなと言うのも酷だろうから、各々楽な接し方で接してくれればいいよ」


「あ、マジで? いやさ俺敬語使うのとかマジで苦手・・・ぐふぅっ!」


速攻でフランクに喋ろうとしたクエンの腹を思いっきり小突く。

と言うかお前はさっきも別に敬語は使ってなかっただろうが! 語尾を『なになにっす』にするだけの舎弟言葉は敬語とは言わないからな!


「(バカかお前! 何速攻でフランクに接そうとしてんだよ!)」


「(いやだって相手がオッケーしてんだぜ? なんでダメなんだよ)」


「(ここで本当に敬語使わないやつは、敬語使わない奴じゃなくて敬語使えない教養がない奴だって思われるんだよ! あと、この貴族自体が良くても、周りに従えてる従者が主人に対してそういう接し方をされてたらどう思うかも考えろ! 村の年上が敬語使わなくていいってのと状況が違うんだぞ! ガチの身分違いなんだから!)」


「(・・・まあ、なんかよくわかんないけど、わかったよ。つーか俺あんま喋んないほうがよさそうだな。黙っとくよ)」


「(そうしてくれ)」


クエンはこういう時まったく臆せず行動するところは割とすごいところではあるんだが、少々考えなしに行動しすぎるところがたまに傷だ。

ちなみにさっきから一言も発していないレッサーだが、貴族を前にして緊張しまくっている。こいつは長い物に巻かれすぎるところがあるからな。貴族に少しでも気に入られようとか、もしくは気を損ねないようにしようと色々考えすぎているせいで、色々考えすぎて何も言えなくなっている状態になっている。

こいつら足して二で割ったくらいがちょうどいいのにな。


「本当にフランクに接してくれて構わんのだぞ? 貴族と言っても同じ赤い血の通った人間であることは変わりない。変にかしこまりすぎなくともいいさ」


「貴方がもし王様に敬語を使わなくていいと言われて敬語を使わずに話せる人間ならそうしますが、そういう方には見えませんので自分はやめときます」


「・・・ほう、なるほどな。確かに自分が目上の者に対する礼儀を忘れないのに、他人に礼儀を忘れることを強要することはできんな。ここは私の負けだな。いやはややはり元平民だからか詰めが甘いな。ハッハッハ」


目の前のパツキンポニー貴族はそう笑いながら、目はまったく笑ってなかった。

そこに怒気などは感じないが、まるで獲物を見定める肉食獣のような視線の鋭さは感じる。

俺の感覚での判断でしかないが、この目の前の貴族はクエンが感じた通り、悪い人ではないのだろう。

そして、頭の悪い人でもない。この上なく厄介だ。


「それで、貴族様はなぜこの村にいらっしゃったんですか?」


「ロイン=キポニーだ」


「ではキポニー様と」


「いや、家名はおそらく今代限りだ。それにちょっと気に入ってないところがあってな。ロインで頼む」


「ではロイン様、質問を繰り返しますが、なぜこの村に?」


「ああ、実はな、この村に用があるのは私というわけではないんだ。その方は私の上司にあたる貴族の方なんだが・・・こちらの方では名前は知られてるかな? ゼロット=アーブソリュー公爵という方なんだが」


「・・・『氷の支配者』『絶対零度領域』『氷神の想い人』?」


「おお、こんな小さな村でも二つ名まで知れ渡っているのか。さすがあのお方だ」


二つ名どころか今言っただけでも3つあるから四つ名まであるんだけどな。

ちなみにこれらは自国であるこのスンリビラ王国で広まってるものが主で、他国や敵国からは、『青い死神』『氷雪の悪魔』などとも呼ばれているらしい。

そう、ゼロット公爵は自国のみならず他国にまでその勇名が届く貴族であり、また、アーブソリュー家は長きにわたり国を守り続けてきた大貴族の家系だ。

貴族オブ貴族、正真正銘の大家紋。


俺はその名前に思わず冷や汗を流す。

どうあがいても逃げられる気がしないからだ。

この場を逃げきてたところで相手は国が誇る大貴族。その気になれば何百、何千、何万という人間を動かせる相手だ。

平民が1人でなんとかできるレベルではない。それこそ一国を動かせるほどの力がなければどうしようもない相手だろう。


「あのお方が言うには、どうもこの村で今年ダンジョンコアを授かった者の中に、とても珍しいダンジョンコアを手に入れた人物がいるらしくてな。その人物を連れてきてほしいと言う話だった。なんでも大事な話があるらしい」


おそらくネネコのことだろう。サイズが貴族級で、しかも三ツ星のレアダンジョン。貴族が用がある人物と言われればこの村ではネネコ以外には思いつかない。

しかし、それを言ってしまったらおしまいだ。学園に通うことで紳士協定が働いているとは言え、それがどの程度の強制力があるのかはわからない。現にこうやって来ないはずの貴族が来てしまったのだから。

となれば、ネネコがこのロインという女に着いて行って何事もなく返されるというのは楽観的過ぎる物の見方だろう。


「アーブソリュー公爵が直接お見えにならなかった理由はなんなんですか?」


重ねて冷や汗をかきつつも、疑問に思った点を聞いてみる。もしもこの状況に突破点があるとすればここだろう。

用がある本人でなく、代わりの者が来ていること。これは本人が来るのとはかなりの差がある事象だ。


「ゼロット様はかなりお忙しい方だからな。本当は本人が来るつもりだったらしいのだがどうしても折り合いがつかず、手の空いていた私が来ることになったんだ」


少し予想外だった。

平民を呼び出すくらいに公爵は動けないと言われるかと思えば、公爵本人が来るつもりだったらしい。

それほどまでにネネコは確保すべき人材だと考えたほうがいいということか。

しかし、少しだけ光明が見えた。

公爵本人が来れなくても、これ程早く迎えをよこしたということは、やはり急ぎの要件なのだ。

なぜ急いでいるのかはわからないが、予想としてはやはり例の紳士協定を破るにあたってあまり悠長に時間をかければまずいとかそういうことなんじゃないだろうか。

つまりは、ここでうまいこと時間を稼げれば、もしかすればネネコはやはり一年間の時間は最低でも稼げる可能性が出て来る。


公爵といえどさすがに何度も国から命じられた紳士協定の違反をするわけにはいかないだろうし、急いでることからも何かしら事情があることは確かなはずだ。

となれば取るべき手段は一つだな。


「そうですか。わかりました。その珍しいダンジョンコアを授かったというのは自分です。なので自分を連れてってください」


そう、俺がネネコの代わりに貴族のもとに馳せ参じることだ。

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