78・面倒な少女に気に入られてヤバイ②
「どうするかを決める前に聞いておきたいのですが、お嬢様はどうやってここに出てきているのですか? やはり公爵令嬢が簡単に屋敷から抜け出すわけにはいかないでしょう? 屋敷にいなければさわぎになるでしょうし」
「わたくしのレアスキルは一つではありませんわ。他のスキルのうちの一つと『幻想世界の着せ替え人形』を組み合わせることで、影武者を作ってますの」
「へえ、どんなスキルですか?」
「ダンジョンバトルをするのですから、黙秘しますわ。まあ、残り二つのうち一つは従者にも隠してないので、調べればバレるかもしれませんが」
「ちなみに幻影の能力を知っている従者はいないのですか?」
「いませんわ。だからこそ貴方にバラしたというのもあります。わたくしは今、従者の認識ではレアスキルのうち一つだけを使えるようになったということになってますわ。レアスキルを持っていても、すぐに使えるようになるとは限りませんから、一つしか使えないというのは珍しくはありませんの」
「実のところは三つ全部使えるんですよね」
「そこは黙秘しておこうかしら。もしかしたらまだ二つしか使えないかもしれないし、三つ使えるかもしれないと悩んでくださいまし」
「・・・お嬢様の脱走を知っているのは俺だけなんですか?」
「ええ。そうなりますわね」
「ちなみにちゃんと屋敷には毎日帰ってるんですよね? 宿を取ってたり、こんな家を買ったりしてますけど」
「帰ってますわね。宿を取ったのはこちらで手に入れた荷物を持ち帰るわけにいかなかったからですわ。フェイカーの影武者を作ってそれに宿で宿泊させて、荷物を管理させてましたの」
あれだけ大量に服やらなんやら買ってたからな。
確かにあれだけの荷物を隠し通すのは無理だろう。
「・・・宿のこととか、あまりお金がないような感じでしたけど、それはなんでですか? 公爵令嬢ならお金とか持ってそうなイメージですけど」
「令嬢だからこそ、現金は持ち歩きませんの。基本的に買い物はこちらから出向くのでなく、お店の方がうちに来ますし、出向く場合でもこれが欲しいと言えば、支払い関係は従者と店の間で行われますわ。財布やらカバンやらを身につけるのは上級貴族としてはみっともない事とされてますから、仕方のない事ですわ」
「なんかそれ、逆に縛られてる感じがしますね。ほかに人がいなければ何もできないし、不便そう・・・」
「・・・貴族にとっての見栄というのは、家の持つ権力を誇示するためのものであったり、それこそていよく貴族の子息や令嬢を縛るために作られているものですの。財布やカバンを持ち歩かないというのも実はそれをやれば身体のラインが崩れたり、見えなかったりということを防ぐためもありますからね。言うなれば有力貴族から少しでも抱きたい身体だと思わせるための努力とか、女性同士での誇示による牽制が激化した末で恒常化したものでしょうからね。貴族の習慣にはつき詰めれば意味があるのですわ」
「思った以上に大変そうですね、貴族というのは」
ロインが子供を貴族にするつもりはないと言ってたのも頷ける。
意外と大変なことが多そうだ。
「まあ、ノブリスオブリージュという言葉があるくらいですからね。貴族として生まれて来たものの義務として、当然ですわ」
「脱走してますけどね」
「・・・息抜きくらいさせなさい。それに市政を知るのも貴族の義務のうちですわ!」
物は言いようだな。ピョコ(俺)の着せ替えとかは市政を知ることには繋がらないだろう。
まあ、そういうのは指摘するだけ無駄だろうし、思い出したくないことだから触れたくないけど。
「それじゃお金はどうしたんですか? それなりにはあったみたいですけど」
「最初は手元にあるものを高価なものを何か売ってお金を手に入れようかと思っていたのですが、貴方と話して家にあるものは手放せばそこからいずれ足がつくかもと思ったのでやめましたわ。わたくしが脱走したとバレるだけならまだしも、盗みに入られたとか、従者の中に盗人がいるんじゃないかと大騒ぎになる可能性もありますからね。武器庫からこっそりくすねた剣も返しました。それで結局、手放しても問題ないようなものを見繕っていくつか売りはしましたが、それだと二束三文でしたわ」
「確かに・・・じゃあ、手持ちのお金は冒険者報酬とそのお金だけだったと」
「そうですわね。思った以上に金銭というのは稼ぐのも使うのも大変だとわかって、やり繰りが大変でしたわ」
なるほど。フェイカーのケチはそこから来てたのか。
俺は衣食住を公爵に手配してもらっているのと、物欲がそんなにない方だから午前に依頼をチョコチョコと受けるくらいでお金はそこまで気にしてなかったが、お嬢様のように外に宿を取ろうと思ったら午前の依頼だけだと大変だろう。
3万イェンの家購入もそのせいか。外での拠点購入と、荷物をほとんどタダで置いておける場所が欲しかったと。
「俺が脱走を報告してしまえば、お嬢様の脱走は難しくなるのですか?」
「どうでしょう。わたくしはこってり怒られた上に、見張りをつけられて脱走は難しくはなるでしょうが、絶対に無理とはならないでしょうね。貴方のように『幻想世界の着せ替え人形』を見抜ける人間というのは稀ですから」
「見張られたら脱走はやめますか?」
「それは貴方が報告したという前提ですの?」
「まあ、そうですかね」
「黙秘しますわ。わたくしがどうするか聞いてから報告するなんてのは、ズルいですもの」
「確かにそうですね・・・では、正直に聞きたいのですが、お嬢様はこれからも冒険者や市民のフリというのを続けたいと思ってますか? それとも俺を見張っていたいから仕方なくやっていたのですか?」
「・・・最初は仕方なく、でしたわ。ですが思った以上に冒険者や市政というものがわたくしにとって刺激的だったのは確かです。それに先ほども言いましたが、貴方と共に過ごすと、知らなかった世界に触れられることが多い気がします。続けたいかと聞かれれば、もしかすれば続けたいのかもしれません」
続けたいかもしれない、か。
これまでお嬢様と関わって来てわかった生態から考えて、ここでダメだと突っぱねてしまうのはどうなのだろう。
・お嬢様はすごくプライドが高い。特に自分の恥となる行動(お漏らしは特に)に対してはかなりの拒絶反応がある。
・話を聞いていると頭は悪くはない。ただ、感情的になると衝動で行動してしまいポカをする。
・衝動で行動した後は時間が経つと落ち着いて来て自分のやった行動を後悔する。
・自分に絶対的自信があるせいで、それを基準にしかものを考えられない時がある。
・色々世間知らず。ただ、頭は悪くないので間違いに気づいた時は割と素直に認める。
・父親である公爵をかなり意識している。
これらの性格から考えて、やはり、ダメだと禁止されると余計にこのお嬢様は反発しそうだ。
俺や従者にバレなければいいのだと、隠れてコソコソ出かけてしまいそうな印象がある。
その上で衝動で行動してしまい取り返しの無い事態になんてなってしまえば、大事だ。
俺や従者は知っていてなぜ放置していたのかということになりかねない。
「わかりましたお嬢様。それならばできれば、俺と一緒に冒険者を続けて欲しいです」
サイの最後の発言は策略あっての発言なのでそのまま鵜呑みにしないでください。
策略は次話をお待ちください。




