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7・俺の股間は噂でヤバイ

俺は学園に通うことを目指すにあたり、まずはネネコに昨夜の話を含めて話を聞いてみようと思っていた。

ネネコは学園入学の手段を喋ってしまうと入学資格を取り消されると言っていたが、ある程度のヒントを喋るくらいなら大丈夫なのではないかと思うからだ。

やはり手段を探すにあたり、なんの取っ掛かりもなく始めるというのはキツイ。

そういうヒントを出すこと自体が禁止されている可能性もあるが、聞いてみて損はない。


それに、俺も学園入学を目指していることをネネコに伝えておきたいしな。

目指したからといって必ず入学できるわけではないだろうが、そういう行動を取っているのだということをネネコには知らせておきたい。

まあ、もしかしたらこの知らせておきたいというのは自己満足の可能性もある。

もしもネネコが学園での過ごし方などに対して何か決心を固めていたとすれば、俺がそこに入っていこうとすることはネネコの決心に対して水を差す行為であるとも言えるからだ。

だけどもそれ以上に、俺はネネコと一緒にいるために何も行動しないのだと思われることが嫌だ。

結果はまだわからないが、ネネコのために行動を起こすことは伝えておきたい。


とまあそんなことを考えながら村を歩いてネネコを探していたのだが、なかなか見つからなかった。

ネネコの家では朝早くから何処かに出かけていったと言われて、行き先も知らないそうだった。

そのあと村人にネネコを見なかったか聞いて歩きながら探し回っていたのだが、目撃情報を聞いた場所に行ってみてもいなくて、そこでまた誰かに話をしてネネコの目撃情報を聞いて探してを繰り返している。

その繰り返しを何度かやっているうちに、どうやら避けられているのではないかと感じてきた。

何故ならネネコの目撃情報に一貫性がないからだ。朝早くから出かけたにしては何かするような場所には行ってないし、散歩にしてはあまりにルートが変だ。

それに、何度もネネコの行方を聞いてるのに見つからない様子に、村人たちが俺とネネコが喧嘩でもしているのかと聞くようになってきた。

狭い村だ。村人は全員顔見知りだし、つながりも深い。

こんなふうに人探しをしている人がいたら、いずれ伝言ゲームで誰々が探していたという情報が相手に伝わって割とすぐ出会えるはずなのだ。

それなのに結構長い時間探し続けているから、こんなふうに変な勘ぐりをされ始めてしまっている。


これはまずい流れだ。この村は狭くて何もない村だ。狭くて何もない村だから、娯楽が少ない。

そんな村で唯一の娯楽が何かと言えば、人の噂話だ。

このまま俺がネネコを探し回り続けていると、絶対変な噂が立つ。

そうだな・・・、俺がネネコに捨てられて避けられてるのに追い縋っていたとかそういう噂が明日には村中に広がってしまうんじゃないだろうか。


そんなことを考えていると後ろから背中を叩かれた。

振り向くと見知った顔の村のおっさんがいた。


「おうサイ坊! お前昨日の夜遅くにネネコと外でヤろうとして失敗して痴話喧嘩してるんだって? あんまアブノーマルなプレイしようとしてたら捨てられちまうぞ?」


手遅れだった! しかも思ってたより酷い噂が広まってる!


「いやいやいやいや、なんでそんな話になってんだよ! 普通に話したいことがあるだけで、そんな話は一切ない!」


「だって薄らハゲデブのところの美人のカミさんが見たって話してたぞ? 夜中にヤるとかヤらないとか、大声出しても聞こえない場所がとか言いあいながら村はずれの方に歩いて行くのを」


薄らハゲデブといえば、村の端っこ近くに住んでる気のいいおっさんだ。

実際はそこまで禿げても太ってもないのだが、奥さんがかなりな美人さんのため、その奥さんを狙っていた他の村人たちにやっかみを込めてそう呼ばれている。

まあ、薄らハゲデブのおっさんの方はおっさんの方で、そんな悪口を言われても、『そんなに太ったかな? 幸せ太りかもね』みたいな返しを毎回して村の男たちに歯噛みさせてるので、さほど問題のある悪口というわけでもないだろう。

なんというか、じゃれあいみたいなものだ。どっちかが本気でそういう悪意を持って言っていたり、言われるのを本当に嫌がったりしていたら問題なんだろうが、言う方も言われる方も楽しんで言い合ってる節があるので問題はないと思う。


そんな話はさておき、とりあえず今は自分に掛かっている疑いを解く方が先決だろう。


「いやそれ遠吠えの話だから! そんなアブノーマルなプレイをやるやらないの話はしてないから!」


「おいおい、いくら言い訳としてもその言い訳はひどいぞ。なんだよ遠吠えの話って。子供でももうちょっとまともな嘘をつくぞ。照れるのはわかるが、お前らもそう言うのを覚え出す年代ってのは俺らもわかってるからさ。大丈夫、みんな通って来た道だ。認めちまった方が楽だぞ?」


「いやいや、だから事実無根なんだって! それにさすがにそう言うのはちゃんと場所とシチュエーションを整えてから、できれば結婚後にって・・・」


「えっ、そのセリフ、お前らあんだけ年がら年中発情してるみたいにくっついて歩いてんのにまだヤッてなかったのか!? 健全な男子がそんなの耐えられるわけ・・・はっ! まさかお前あれか! なるほど、それは隠したくもなるわな。・・・わかった。俺がなんとかしてやる! こうしちゃいられねぇ! これは村中で協力してなんとかしてやらねえと!」


そういっておっさんは走り出す。


「ちょ! 待ておっさん! 絶対なんかスッゲー勘違いしてるって! ・・・行っちまった。よくわかんないけど、マジですげー嫌な予感しかしないんだが・・・」


さて、どうしようか。

このままネネコを探してもいいが、そうすると今広がってる噂を余計に酷いものにしそうな気がする。

ここは一旦帰って、ちょっとほとぼりが冷めるのを待つか? なんでかわからないけどネネコにも避けられているようだし、ちょっと日にちを開けてから行動に出た方がいいかもしれない。

そう思って、とりあえずうちに戻って何か家の仕事の手伝いでもしようかと歩いて帰った。


帰り着いて、玄関のドアを開ける。

すると家にいたお袋が俺を見つけ、開口一番に言った。


「サイ! あんた昨日の夜にネネコちゃんに迫られたのに、肝心なところで男性が機能しなかったんだって!?」


「話がとんでもない方向に捻じ曲がってるっ!?」


「捻じ曲がって機能しなかったのはあんたの股間のブツでしょうが! まったく! あんないい子に迫られといて機能しなかったなんて、女の子に恥を欠かすんじゃないよ!」


「いやいやいやいやいやいや、マジでそれ違うんだって! 俺もなんでそんな話になってんのかわかんないんだけど、そんな話は一切なかったんだよ!」


「そうだぞ母さん。そういうのはちゃんとサイに事情を聞いてから話さないと」


玄関で言い争いをしていると俺の後ろから声がした。

振り向くと親父がいた。

どうやら、俺の今置かれている状況が全て誤解なのだということを理解してくれているらしい。


「親父・・・やっぱり最後に信じられるのは親父なんだな」


「ああサイ、信じてくれていいぞ。ゴホンッ。母さん、聞いてくれ」


親父は俺と位置を入れ替えて俺とお袋の間に立った。

どうやら、俺の代わりにお袋の誤解を解いてくれるつもりのようだ。

俺はこんな親父のもとに生まれて、なんて幸せ者なんだ!


「母さん、男はな、初めてで緊張しすぎると機能しないことがあるんだ。これは相手に魅力がないとか、好意が薄いから機能しないわけじゃなくて、あくまで、相手を思いやりすぎてとか、うまくやれるか心配とかそういう事情で機能しなくなってしまうんだ。むしろ相手を思いやりすぎたから機能しなかったとすら言えるんだよ」


「信じた俺がバカだった! やっぱり親父も誤解してんじゃねえか!!」


「誤解なんかしていない。むしろ私はサイの理解者と言っていい。実は私もね、初めての時は機能しなくて焦ったことがあるんだよ」


「いやいや親父の性事情とか全く聞きたくないから! 変な噂がどんどん一人歩きしてる上に親父の性事情まで聞かされるとかどんな拷問だ!」


「ちょっと待ちな。あんたあたしと初めてした時に、お互い初めてだったって言ってたじゃないか! でもその時は不能なんてことはなかった。むしろ獣のように荒々しい感じで・・・」


「いやいやいやお袋もマジで生々しい話はやめてくれ! てかなんなんだこの状況! どうして今俺はこんな状況に巻き込まれてるんだよ!」


「しまった!! あの話は母さんには秘密だった!」


「あれ、もしかして俺関係なくなってる? でもなんかこの空気修羅場っぽくない?」


「・・・あんた。正直にこの場で喋るか、喋るまで私にボコボコに殴られるのどっちがいいか、選びな」


「あ、これ修羅場だ。間違いない」


「いや母さ・・・へぶっ!?」


何か喋ろうとした親父にお袋が容赦ない右ストレートをかます。


「あたしの質問の答え以外の返答だったら私の答えも殴りになるから、そのつもりで発言するんだよ?」


「・・・・・・ぼばぁっ!?」


「3秒以上の沈黙も一緒だよ。ついでに逃亡も殴るからそのつもりでね」


「・・・しゃ、喋ったら殴らないのか?」


「・・・わかった。正直に喋れば殴らないでやるよ」


・・・俺、どうすればいいんだろう。黙ってすっと出て行ったらマズイのかな?

いやでもちょっとだけどうなるか気になるし、このまま見ているのもいいかな?


「じ、実は私は同じ歳や近い歳の男連中の中で私1人だけが女性と寝た経験がないっていう状況になったときがあって・・・今思えばなんてバカなことだとわかるんだが、それがとても恥ずかしいことのように思えた時があってな・・・」


「そうだね。あの時はあの女がいたからね」


「あの女って誰?」


なんだか2人だけが認識している女性がいるっぽいので聞いて見た。

答えられなければそれでいいと思ってたので小声でだ。


「昔、この村にとんでもない女がいてね。相手が妻子持ちだろうが、毛も生え揃ってないようなガキだろうが誰彼構わず頼まれれば、いや、頼まれなくても寝る奴でね・・・あの時は家庭やらなにやら全部がヒッチャカメッチャカになって本当に大変だった」


お袋は俺に律儀に教えてくれる。

そんなお袋の後ろに回るように、親父が抜き足差し足で逃げようとしていた。

それをお袋が俺の目線だけで察して、後ろを振り向かないままに裏拳を繰り出す。


「へぶぅっ!」


「逃げるんじゃないよ! 話の続きだ」


「いや、その、なんだ。それでそんな風に恥ずかしがっている私に対してその女性、通称『ビッ痴女さん』が迫ってきたわけなんだが、緊張しすぎてたのと、当時から好きだった母さんの顔が浮かんで全く機能しなくてな。だから、何もなかったんだ。母さん、信じてくれ!」


「・・・その話は本当なんだろうね」


お袋が親父が『当時から好きだった母さんの顔が・・・』のくだりを聞いて少し照れながらそう聞いた。

年甲斐もなく顔を赤くしたりしないでくれ。息子からしたらその顔は気持ち悪い以外の何物でもない。


「誓って本当だ。嘘なんか一つもない」


「・・・わかった。なんだかまだ納得いかないけど、今は信じておくよ。それで、あたしの時はまるで獣みたいに襲ってきたわけはなんだったんだい?」


「ああ、あれは当時、一番物知りだったばあさんにそういう時の特効薬を教えて貰って使ったからなんだよ。男性の不能に効く特効薬あれはすごく効くからな」


「なるほど、お袋との時はそれを使ったから獣みたいになってたわけなのか」


ぶっちゃけまったく知りたくなかった情報だがな。


「そうなんだよ。いざという時にと思って用意してたんだ。母さんには恥ずかしくてずっと黙ってたんだがな」


息子に語るのはもっと恥ずかしいことだと思うんだがその点はどう考えているのだろう。


「ちなみにその親父が不能でヤれなかったビッ痴女さんってのはどうなったんだ?」


「もともと流れの女冒険者だったからね。村人の大体の男に手を出した後は『私よりも性欲が強い男に会いに行く』っていって、割とすぐにまた冒険に戻って行ったよ。あの人はどうなったんだろうねぇ」


「どうでもいいよそんな話は。あの時の村の惨状は思い出したくもない。親父と息子が●兄弟みたいなとんでもない状況はね。今はサイの不能についてだろう」


いや、俺は不能とかそういうことはないんだが・・・。

だけど、もはやここまで拗れてしまってはどうやって誤解を解けばいいのかわからなくなってくる。


「ああ、そうだった! 実はサイに用意しようと思っていたのもその薬なのさ。今は季節が合わないから調達できるまでにまだ時間は掛かるが、効果の方は信じてくれていいぞ。飲むタイミングは絶対に間違えるなよ? 父さんは物は試しと飲んで見ただけだったんだが、その時に薬の効果で村一番乱暴で通称『女鬼番長』って呼ばれて恐れられてた女性が世界一の絶世の美女に見えてな。勢い余って口説き落として襲ってしまって、最終的に引くに引けなくなってしまったことが・・・あっ」


親父が口を滑らせたことに自分で気付いた時にはもう時は遅く、お袋の足は天高く振り上げられていた。


「正直に喋ったら殴らないって話じゃ・・・」


「殴りだけはしないさ。蹴飛ばして、締め上げて、頭突いて、踏み潰して、すりおろすからね」


「わーお・・・」




・・・そこから起こった壮絶な光景は親父の名誉のためにも俺の胸にだけしまっておこう。

まあなんだ。うちの家にボロ雑巾が一枚増えたとだけ伝えておく。


「ただいま! お兄ちゃんいる!?」


俺が哀愁漂う目で、哀れなボロ雑巾を眺めていると、1人の女の子が叫びながら家に帰ってきた。

一つ下の妹、トモイだ。どうやら慌てているのか足元を気にしてなかったようで、無残な姿のボロ雑巾を踏みつけながら入ってきた。


「ん? なんか今ものすごい気持ち悪い感触のゴミを踏んだような・・・」


妹よ、言ってやるな。その男は今日家族に踏みつけられるのが2人目の、かわいそうな男なんだから。


「そんなことよりお兄ちゃん! あ、いた! お兄ちゃん今、村中がすごい騒ぎになってるよ!」


「トモイ、にいちゃんの名誉のために一つだけ言わせてくれ。それは誤解なんだ。にいちゃんは決して不能なんかじゃないからな?」


「なにその話。帰ってきた妹にいきなりセクハラやめてくんない? 普通にキモい。じゃなくて、今すごい村がすごい騒ぎになってるんだよ!」


「ん? だから、俺とネネコが昨日の夜にって話じゃないのか?」


「え、とうとうネネコねえとヤっちゃったの? 種族の壁を乗り越えてついに結ばれたみたいな? なにそれすごい気になる! でもその話じゃない! もっと大変な話!」


「とりあえず落ち着けよ。お前、さっきからすごい騒ぎってだけ言ってて話全然進んでないぞ。ほら深呼吸」


トモイは俺の言葉に素直に頷いて、一旦深呼吸する。


「落ち着いたか?」


「うん、たぶん」


「それで、村が大騒ぎってのはなんなんだよ」


「それがね! 村に急に貴族の人が来ちゃったんだよ! 連絡もなしに急に来て、今年のダンジョンコア授受者を連れてこいって言ってて!」


「へっ?」

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