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60・木刀を使った訓練がヤバイ②

◇◆◇



俺が今日、木刀でヨロインの剣を受け止めようとした回数は合計5回。

たった5回だ。


今まで毎日素振りは何百回としてきたし、木刀同士ではあったが撃ち合いもしていた。

つまり何が言いたいのかと言えば、それに対して5回という回数はあまりにも少ないということだ。

しかし俺はそのたった5回で疲労困憊になっていた。


身体には4カ所のアザが出来ていた。

木刀で止めきれずに鉄剣を受けてしまった箇所のアザだ。

俺は結局5回のうち1回も木刀を折らずに鉄剣を受け止めれていない。

骨も折れて折らず、アザで済んでいるのは、ヨロインが打ち込む箇所や絶妙な力加減で調整をしていてくれたからだろう。

つまりは、俺の木刀はヨロインの鉄剣を止められないという前提で打ち込まれているということだ。

そして俺の息はとても上がっている。

たった数回の出来事に、精神も肉体も疲れ切って息が上がっているのだ。

散々訓練して鍛えてきたつもりなのに、たった数回でこの状況。

その事実がたまらなく悔しい。


4回のうち3回は、ちゃんと領域テリトリーを維持したまま鉄剣を受けることができている。

しかしその3回とも、鉄剣を受けるには木刀の硬さが足りず、木刀はへし折られ、俺の身体に鉄剣は打ち込まれた。

言い訳はいくらでも思い浮かぶ。

こんな短期間でそんなことをできるわけがない。

やり方を教わりもせずカウントダウンが始まったら焦ってしまって集中できない。

打ち込まれたアザは痛みを残し、それも集中を阻む原因になっている。

次々と俺がそれをできない原因は思い浮かぶ。

だけどそれはやはり言い訳でしかないのだ。

俺は鉄剣を受け止めようとして、できなかった。

それだけが事実だ。

もしかすれば同年代には同じことを一発で成功させるダンジョンマスターがいる可能性だってある。

それは才能やダンジョンの基礎能力の差だと言ってしまうのは簡単だろう。

しかし俺の目標は未だ見えてすらいない背中に追いつくことだ。

できない言い訳探しよりもどうやればできるのかを探した方がずっと建設的だ。


俺は折れてしまった木刀を脇に捨てて、また新しい予備の木刀を拾おうとする。


「今日はこれくらいにしておきやしょう」


するとガーショからそんな声が掛かった。


「まだ、やれます」


「勘違いしないでくだせえ。これはサイのお客人の身体を慮って言っているのではないでありやす。今のお客人のダンジョン操作技術では拠点ベースから離れた位置の領域テリトリー展開も、支配力をあげた木刀の強度強化も魔力の消費がかなり大きいはずでありやす。このまま続ければそれだけで魔力は尽きて、気絶してしまうでありやしょう。だからここで一度切り上げて、通常の組手や筋トレに戻れという指示でありやす」


「・・・・・・」


俺は唇を噛む。

魔力の操作にも慣れてきたので、俺は自分の魔力の総量や後どのくらい残っているかが感覚的にわかる様になってきている。

その感覚からすると、俺の残りの魔力はあと三分の一程度になっていた。

たった5回で残り三分の一だ。その事実も俺自身の不甲斐なさを後押しする。


「・・・まあ、確かにこれで終わりじゃ本人の気が収まらなかったり、次に向けての活力が出てこない可能性がありやすね。なんで、明日までにやっておくべき宿題を出しやしょう」


「宿題・・・ですか?」


「ええ。サイのお客人は『ドラゴンハウス』の二つ名を持つ、モリーン=ヒッキンコーの嬢様を覚えていやすか?」


「はい、覚えてます」


というか忘れたくてもあの強烈なキャラは忘れられない。ドラゴンが生えてくる家をダンジョンにした引きこもりのAランク冒険者で、ガーショなんかに求婚するほど婚期がヤバイ合法ロリ。

俺の人生の中でも一、二を争うレベルで濃いキャラだった。あれはそうそう忘れられない。ちなみにキャラの濃さで争ってるのは主にガーショだが、その点はまあいいだろう。


「では、モリーンの嬢様がダンジョンを操る時にしていた行動を覚えてやすか?」


「ダンジョンを操る時にしていた行動?」


「ええ、俺っちの頭にレンガを落とした時や、ドラゴンを家に生やして飛び去る時に、それをしていやした。覚えてやせんか?」


言われて俺は考える。モリーン嬢が何をしていたか。

・・・ロリ体型なのに裸にシーツだけ巻いて出てきたこととか、『結婚マリッジ (オア) 死か(ダーイ)』と鬼気迫る表情でガーショに迫っていた様なシーンがどうしても浮かんできてしまって、それを思い出すことを妨害してくる。


それでもなんとか頭を回して思い出す。

確か、こう、指を・・・。


パチンッ!


俺が思い出すと同じくらいのタイミングで、ガーショがそれを実際にしてみせた。


「モリーンの嬢様はこういう風に、ダンジョンを操る時に指をパチンと鳴らしてやした。それを覚えてやすか?」


「・・・はい。確かしていたと思います」


「これがサイのお客人にして欲しい、明日までの宿題でありやす」


「え? 指を鳴らせるようになれってことですか?」


それなら子供の頃に練習したことがある。今だってできないことはないが、それになんの意味があるんだろう。


「さすがに違いやすよ。モリーン嬢が指を鳴らしていた意味があるのでありやす。それのことでありやす」


「指を鳴らす意味・・・」


「そういえば、サイのお客人は公爵が自分のダンジョンに転移する瞬間も見ているんでありやしたっけ?」


「公爵が転移ですか?」


「ほら、氷の塊を足元に叩きつけたら公爵が凍って砕け散る、何回見ても心臓に悪いあれでありやす」


「ああ、それなら見たことがあります。あれって転移だったんですか」


あの時はなんの説明も受けずに公爵が砕け散ったので、本当に焦った。

なるほどあれは転移だったのか。

しかしなんであんなに見ている人の心臓に悪い様なことをするんだろう。


「あの公爵が足元に叩きつける氷なんかも、大きく見ればモリーンの嬢様が指を鳴らしていたことと近いでありやすね」


「あれと指を鳴らすことが近い?」


ちょっと意味がわからない。


「前に一度いいやしたが、ダンジョンというのは世界を切り取って自分の世界に塗り替えたものなんでありやす。つまりダンジョンを操作するということは、世界を塗り替えることである。これはわかりやすよね?」


「・・・はい、なんとなくは」


領域テリトリーを操作する感覚というのはまさしくそれだ。

世界を自分の世界に塗り替えていく。

拠点ベースほどの強い感覚ではないが、領域テリトリーであってもそれは変わらない感覚だ。


「実はその世界の塗り替えをダンジョンマスターがしやすくなる行為があるんでありやす」


「本当ですか!?」


思わず俺は身を乗り出す。

今俺はかなりそれに苦労している。それがしやすくなるというのなら、それを知りたい。


「ええ、それがモリーンの嬢様の指を鳴らす行為であり、公爵の凍りついて砕けるというあれなんでありやす」


「・・・へ? どういうことですか? やっぱり俺も指を鳴らせばダンジョンが操作しやすくなるってことですか?」


「そういう意味じゃありやせん。ダンジョンを操作する時に大事なもの、それを演出するための行為としてモリーンの嬢様の指を鳴らしたり、公爵の氷を砕くという行為があるということでありやす」


「ダンジョンを操作する時に大事なもの・・・」


「ダンジョンを操作する時に大事なもの。それは自分の世界観でありやす」


「世界観?」


「ええ。たぶんモリーンの嬢様も公爵も、指を鳴らしたり、氷を砕いたりをしなくても、やろうと思えば転移やらダンジョンを操ったりはできるはずでありやす。でもそれらをするのは自分の世界観を大事にしているからでありやす」


世界観を大事にする。そのための行為としての指を鳴らしたり、氷を砕くという行為。

なんとなく理解できてきた気がして、俺はそれを言葉にして聞いてみる。


「つまり自分のダンジョンのルールのようなものを作るということですか?」


「まあ、それに近いでありやすね。ようはダンジョンは実際の世界でなく、自分の世界なのだから、自分がこうした方が効率がいいのではないか。こうした方が格好いいのではないかと思ってやってみる行為は、結構本当にその通りになるんでありやす。モリーンの嬢様の場合は指を鳴らした方がダンジョンがいうことを聞いてくれる気がする。かっこいい気がするみたいに思っているから、それをしているんでありやす」


「それをするとしないに差があると?」


「あると思いやすよ。例えばそれは魔力の燃費が良くなったり、支配力が高まって威力が上がったりという形になってるはずでありやす。実際に学園で研究されて、その効果が実証されていることでもありやす」


「どのくらい変わるものなんですか?」


「個人差はありやすんでなんとも言えないでありやすが、本人が特別視している行為ほどその効果が高いみたいでありやすね。ちなみに言えば俺っちのこの口調も世界観の一環でありやす。その時の状況によって口調を変えることで、ダンジョンをうまく扱えるような気がするんでそうしてるんでありやす。普段はこんな口調で戦闘時とか重要な時は口調を変える、こういうのも結構地味に効果があるから不思議なもんでありやす」


お前のキャラはダンジョンのためだったのかよ。

思うところはあったが、わざわざそれを指摘するのはガーショを意識しすぎてるようで嫌だったので言わずにおく。


「特別視している行為ほど効果がある・・・」


「公爵が氷を砕くのもそれに近いで行為でありやす。あの場合転移という行為に限っていやすが、特定の行為を特別視して、その行為をする時だけにする行動を作るのも、技の燃費や威力をあげる事に繋がるんでありやす。公爵の場合は転移する時には氷を砕くというのをルールにする事で、燃費やら効果の底上げをしているんでありやしょうね」


それを聞いて思い浮かべたのはフェイカーの『幻想世界の着せ替え人ミラージュモーフィング形』だ。

フェイカーもあれを特別視して技名を作って、それを唱える事で効果の底上げをしていたのではないかと。

確かフェイカー自身も、あれをやるのは難しいと言っていた。だからこそ底上げが必要で、そのための口に出しての詠唱だったんじゃないのかと。

なんでわざわざ技名なんて唱えるのかと思っていたが、思った以上に意味のある行動だったようだ。


「ということで、これがサイのお客人に課す宿題でありやす。できれば明日までに、自分のダンジョンに効果的だと思う行為を考えてきて欲しいんでありやす。まあ、それをやってすぐに効果があるかどうかは個人差があるんで微妙なところなんでありやすが、そういう行為を作ってそれを習慣化する事で段々とそれが特別な行動になっていくということもあると思いやす。ぜひそれを考えてみてくだせえ」


「はい、わかりました」


「・・・それだけじゃちょっと張り合いがない気がしやすね。・・・そうだ。じゃあ、ヨロインの一撃を木刀で止めることができたら、冒険者ギルドで討伐系の依頼を受けることを開始していい。というのはどうでありやしょう」


「討伐系の依頼を受けるための課題ということですか?」


「そうでありやす。俺っちも正直いつくらいから初めていいと言っていいか悩んでいやしたからね。早く次の段階に進みたければ、真剣に考えてみてくだせえ」


「わかりました。考えてみます」


自分の思う特別な行為。

それはどんな事だろう。

俺は次のステップに進むために、それを考え始めた。

病院行ってきました。

血液検査の結果異常なしなので、薬を出すからもう一週間症状が続いたらまたくるようにとのことです。

治ればいいんですが・・・。

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