50・謎の男との関係がヤバイ
「ああ、これはお嬢様にこっぴどく怒られてしまう。ちょっとの出費をケチったばかりにこんなミスをするなんて・・・」
「剣を買うのがもったいなくて、従者としてもらった装備を持ち出して来たとかですか?」
「ああ。一応そういうのを揃えるためのお金も貰ってたんだが、少しケチれば自分のものになると思ってついね」
貴族の従者なのにケチ臭いやつだな。さすがにそれを口に出していうつもりはないが。
「しかもお嬢様から命じられて見張っていることまで見破られて・・・どうして分かったんだ?」
「いや、それは勘でそうかなって思ってカマかけただけで、確信はなかったですよ?」
俺がそういうとフェイカーは膝から崩れ落ちて両手を地面につける。
「・・・なんてこったい。失敗に留まらず自白までしてしまうなんて・・・僕はもうおしまいだ!」
「あの、えっと。うまく言えませんが、なんかごめんなさい」
いろいろ自業自得過ぎるとは思うが、なんとなく罪悪感を感じて俺は謝る。
「同情するなら今すぐ記憶をなくして最初の出会いからやり直してくれ! お嬢様からうまく仲間になって情報を送るように言われていたのに・・・これじゃ仲間になんてなれるわけないじゃないか!」
「え? 仲間の件は別にいいですよ? お嬢様に情報を送るってのも継続してやって貰って構わないですし」
「・・・・・・はっ?」
フェイカーは顔を上げて不思議そうな表情で俺を見る。
「だから別にお嬢様に命じられた通り、俺と一緒に行動して、情報を渡して貰って構わないって言ってるんです」
正直、お嬢様に監視されるのは構わない、というか仕方ないという気がする。
自分を見てくれない父親がなぜか気にする平民の男だ。情報を得たいと思わない方がおかしいだろう。
「何を言ってるんだ君は。サイ君はお嬢様とダンジョンバトルをするのだろう? それなのに自分の情報を渡しても構わないだなんて」
おっと、その点については何も考えてなかった。
実はわざと負けるつもりもあったからそこはあまり気にしてなかった。
しかしここでわざと負けるつもりだからと言ってしまうのはダメだろう。
流石にそんなことを思ってるなんて知られたら、お嬢様のプライドを傷つけてしまうかもしれない。
お嬢様は自分を差し出してまで俺とのダンジョンバトルをしようとしたのだ。
それに対して俺がダンジョンバトルを受けた本当の理由は、お嬢様を仮想ネネコとして、自分が追いつこうとしているものを見ておきたかったから。
その事実を知った時、お嬢様がどう思うかはわからない。
もしかすればそのあまりの無礼さに激昂して、俺を殺そうとしたりする可能性すらあるのかもしれない。
まあ、流石にそこまでのことはないかもしれないが、進んで自分からそのような危険性のあることを言う必要はないだろう。
「まさか、その程度の情報を渡しても、お嬢様程度なら簡単に勝てるという自信からか?」
「いや、違います」
「じゃあ逆に僕からお嬢様の情報を引き出したり、偽の情報を渡させたりして、二重スパイのようなことをさせる気とか?」
「それも違います。えっと、俺がそれでもいいというのは、フェイカーさんが原因ですよ」
「僕が原因?」
「はい。俺が冒険の仲間が欲しいっていうのは本当ですからね。事情があって、俺の仲間って普通の人だとちょっと問題があるかもしれないんですよ。俺は公爵に命じられて、一年以内にBランクになることを目指してます。でも、それは俺の事情で、仲間になる人には俺のそんな事情は関係ないでしょう?」
「なるほど、だから僕か。そんな事情に巻き込むことにはなるけど、その代わりに僕はお嬢様に情報を流すのだから、そのくらいは大目に見ろと」
「ええ。そうしてもらえたらありがたいかなって。それにさっきの話だとフェイカーさんはレアなコアを持ってるんですよね? あてにするつもりはないですが、協力して貰えるんならありがたいです」
「事情はわかった。しかし本当にいいのか? 私はお嬢様に情報を流すんだぞ? 君はダンジョンバトルではかなり不利になるかもしれない。それにもしかすれば食事に毒を入れるなんて悪どいことをする可能性だってある」
「情報に関して言えば、俺が奥の手は隠し続けてればいいだけですし、毒に関しては、そんなことをするお嬢様なら愛称で呼ぶ仲になるなんてごめんですからね。まあ勘ですが、そこまで悪どいことはあのお嬢様はしないだろうって思いますし、その点は大丈夫でしょう」
「フ、フフフ、ハハッ。いや君は非常に面白いな! なるほど、あいわかった。僕はサイ君のBランクへの昇格に協力し、お嬢様に情報を流すという仕事も続ける。それでいいんだな?」
「はい」
「ならば改めて握手しよう。この奇妙な関係の成立に」
フェイカーがもう一度手を差し出してくる。
「わかりました」
そう言って俺はフェイカーの手を取ろうとすると、フェイカーはその手を避けた。
なんだと思ってフェイカーを見ると、フェイカーは不満そうな顔をしてこう言った。
「いま、僕はお嬢様の命に従ってここにいるが、表向き僕は従者としての仕事に一月の休暇を貰っていることになっている。つまり僕は休暇中だ。君が丁寧な言葉遣いをしていたら、僕も客人に対する接客として仕事の口調をしなければいけなくなる。できれば休暇中に友人になりたい相手と喋る時には、砕けた口調で喋りたいんだけど?」
そう言って目だけでどうするのかと聞いてくる。
俺は観念して、手を出したまま言った。
「わかった、よろしく頼むよ」
それを見てフェイカーは満足そうに笑って俺の手を取る。
「ああ、改めてよろしく」
こうして、スパイと客人の奇妙な協力関係は始まったのであった。
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