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43・公爵の要求は無茶振りでヤバイ②

「もう一つの理由は、占い師からの情報で、先週、急に君が私の望むものを手に入れる確率が上がったことに起因する」


「先週に確率が上がったんですか?」


「ああ。0.1パーセントから0.4パーセントまでな。報告書で君がその頃に何をしていたのかはわかっている。キポニー騎士爵によって領域テリトリーの強制展開を受けていたタイミングだ」


キポニー騎士爵というのが一瞬誰だかピンとこなかったが、一度だけロインが名乗っていた家名がキポニーだったことを思い出した。

そして強制展開によって俺が公爵の望むものを手に入れる確率が上がったという話。


「つまり、俺がダンジョンを使えるようになったことで、公爵の望むものを手に入れる確率が上がったんだということですか?」


「状況から見るのならそういうことなのであろうな。それ以外の理由が思いつかん」


公爵の言葉に、俺は少し考える。


「あの、少し思ったのですが、その占い師というのは本当に信頼できるのですか? それこそ公爵の敵によって偽の情報を流されている可能性はないんですか?」


「・・・もしそうであったとするのなら私が君を支援したり、報酬を支払う理由が無くなるのに、それを私に聞くのか?」


言われて気づく。

確かにもし占い師の話が敵によってもたらされた偽の情報なら、公爵が俺になにかをしたりさせたりする理由は無くなる。


「言われるまで気づきませんでした。確かにその通りですね」


「いや、その着眼点だけを見るのならいい着眼点だとは思う。まあそれに気づいても、自分の不利になる相手に伝えてしまうのはどうかと思うがな。しかしもしかすれば、しっかりとした教育を受けさせて、指導すれば、貴族相手でもなかなかいい腹の探り合いができるような知恵者になれるかもしれんな」


「・・・・・・」


公爵に褒められているのかなんなのかよくわからない評価をもらって、反応に困る。

こういう時はどう対処すればいいんだろう。ロインに習ったマナー講座にはそんな内容はなかったが・・・。


「まあとにかく、占い師については心配いらないだろう。『星見の算術師』の二つ名を持つあの占い師は、貴族の間で手を出してはいけないのが不文律になっている存在だからな。頼りにしている貴族が多いから、もし彼の者にいらぬ手出しをしようものなら他の貴族たちが黙っていない。私に偽の情報を渡す為だけに手を出せるような相手ではない。それにな、私は公爵だ。相手が嘘をついているかどうかくらいは見抜ける。それくらいできねば人の上に立つなどできんさ」


敵も味方も多い公爵にとって、もしかして相手に嘘を吐かれているというのは日常茶飯事の出来事なのかもしれない。

そんな相手に対して騙されてないのかなどと俺は確認したということを今更ながら実感してしまう。


「すいません。変なことを聞いてしまって」


「気にするな。疑問を持つというのは自然なことだ。特に君の着眼点は悪くない。そこから先、持っている情報から自分で答えを導き出したり、答えを見つけないまでも状況を自分の有利になる状況に変えれるようになれば、君はより上に向かえる人間になるのかもな」


そう言う公爵からまるで獲物を見るかのような視線を感じた。

それはほんの一瞬のことだったので、気のせいかと思い俺は気にしないことにする。


「とにかく、君がダンジョンを使えるようになった時、君が私の目的を手に入れる確率は上がったのだ。そのことから私が君にBランク冒険者になることを望むもう一つの理由が導き出されるわけだが、その理由がわかるか?」


公爵から聞かれる。

あまり考えずに答えは見つかったので、それを言ってみる。


「俺がもっとダンジョンを使いこなせるようになれば、公爵の目的を手に入れる可能性はもっと上がるかもしれない。そのダンジョンを使いこなせるようになる目標として、一年以内にBランクというのはちょうどいい指標になるし、確率が上がるかどうかを試す期間としても長すぎず短すぎない。とかでしょうか」


「その通りだ。ふむ、君には期待してみるだけの価値はあるようだな。他に何もないなら先ほど言ったように君の指導者を呼ぼうと思うが、何かあるか?」


「・・・いえ、ないです」


「そうか。スチュワード、聞いていたな。彼につける予定の指導者をここに呼んできてくれ。指導内容についての説明や彼の生活する場所の確保も頼む。私はこのまま仕事に戻るから、後のことは頼んだぞ?」


「かしこまりました」


部屋の隅で控えていた執事長が礼をして部屋の外に出て行く。

それを見届けて公爵が言った。


「すまないが、私もあまり長い時間はここにいられないんだ。後のことはスチュワードと指導者の男が引き継いでくれるだろう。もう行かなくては」


そう言って公爵は手を上に広げた。

すると公爵の手のひらの上にこぶし大ほどの氷の塊が形成された。


「それではまた会おう」


そういうと公爵は形成された氷の塊を自分の足元に叩きつけた。

氷の塊は地面の上で砕け、足元に広がる。

何をしてるのかと俺が思っていると、砕けた氷の破片が地面に広がっていき、公爵の足元まで凍りつかせる。

そのまま氷は公爵の足、膝、腰と、徐々に上に広がって行った。

唐突すぎるその光景に俺が唖然としているうちに、氷は公爵の頭まですっぽりと覆ってしまう。

次の瞬間、パリンという音とともに氷は砕けた。

氷は粉々に砕け散り、その粒は空気に溶けるように消えて行く。

砕けたのは氷の中にいた公爵ごとだ。

結果として、氷も公爵も、影も残さず砕け散って空気に溶けてしまったのだ。


「・・・・・・へ?」


目の前で起きたあまりの事態に頭が追いつかず、しばらくしてから俺はようやく一文字だけ言葉を生成できた。


俺の目の前で公爵が凍りつき、砕け散ってしまった。

白昼夢でも見たのかと思い自分の頬をつねった。

痛い。どうやら夢じゃないようだ。

やはり俺が今見たことは現実らしい。

ということは公爵はやはり砕け散ったということになる。


しかも公爵は自分で自分を凍らせていたように見えた。

つまり公爵は自分を砕け散らせたのだろうか。

唐突に自殺を? いや、公爵はそれ以前にまた会おうと言っていた。

死ぬつもりの人間がそんなことを言うだろうか。

言わない気がする。つまり公爵は死んでないんじゃないか?


さっきのあれは公爵のダンジョンが持つ能力か何かで、実際は公爵は砕け散ってないんではなかろうか。

そこまで考えて、俺はようやく混乱が少し収まってくる。

あの砕け散った氷にどういう意味があるか知らないが、たぶん公爵は生きている。

そう思うことで徐々に自分を落ち着かせていった。


しかしやはり完全には自分の予測を信じられなくて、どこか落ち着かない。

だからと言って取り乱して公爵が砕け散ったと騒いだりして、予測通りそれは公爵の能力を使っただけの話だった場合、俺の赤っ恥だ。

とりあえず先ほど出て行った執事長が帰ってくるのを待って、それとなく公爵が砕け散ったことを聞いてみるのがいいのではないか。


そう思って、そわそわしながら執事長を待つ。

すると程なく、何者かが俺のいる部屋の方に向かってくる気配を感じた。

執事長かと思い身構えていると、何やら騒ぎ声のようなものが聞こえてくる。


『お待ち・・・! 今ご主人様はお客様と・・・!』


『お客様がなんですか! 私は公爵の・・・! お客様に挨拶するのは・・・!』


何やら言い争いをしながらこちらの方に向かってくるのがわかる。

声の高さからすると、どうやら向かってくるのは女性のようだ。

何事だろうと思いながらも、何もできずにただそわそわしてしまう。


程なくして、気配は扉の前までつき、気配の主がドアをまるで蹴破るかのような勢いで開いて入ってきた。


「失礼します!」


開いたドアの向こうには、俺と同じ年頃の青い髪をしたきつそうな美人の女の子が立っていた。

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