27・1匹目の住人がヤバイ②
ロインと俺がそんな風に話し合っていると、迷宮車からガーショが降りてきた。
「ロインの姐様、到着したなら声をかけてくだせえよ。油断してて全く気付きやせんでした」
「・・・貴様が仕えているはずの私に運転を任せて呑気に昼寝しているように見えたんでな。まさかそんなことがあるはずはないと思って迷宮車を止めて待ってたんだが、その様子だと本当に寝てたようだな」
「いや、そんな。寝ていたわけじゃないでありやす。あれはちょっと考え事をしていただけで・・・ほら! サイのお客人に教える拠点の使い方のこととか!」
マジかガーショ。こいつ仕事中に呑気に昼寝しやがったのか。
今、必死に言い訳を言っているが、それは俺でも嘘とわかった。なぜなら。
「言い訳ならいい。口元によだれの跡が残ってるからな。これはちゃんと報告しておくから、次回の査定は楽しみにしておくといい」
その言葉にガーショは慌てて口元を拭う。
「ちょっと待ってくだせえ! えっと、これは寝てたから出たよだれでなく、ロインの姐様でエロいことを考えてたらよだれが出ただけでありやす!」
ドゴン!
もはや恒例となってきた回し蹴りがガーショの左わき腹に炸裂する。
ガーショは言った後に蹴りが来る気がしたのか腕で頭をガードしたのだが、ロインはそのガードをまるで読んでいたかのように避けてわき腹を蹴り飛ばしたのだ。
蹴られるかもって分かってるなら言わなければいいのに・・・。どうやればこんなにもダメな大人が生まれるのかわからない。
「言い訳にしてもあまりアホなことを言えば蹴り飛ばすぞ」
「だから蹴り飛ばしてから言わねえでくだせえ! わき腹は死ぬほど痛いでありやす!」
「死ねばいいのだ死ねば。とりあえず一度泉で顔を洗ってこい。話はそれからだ」
「わかりやした、ちょっと行ってきやす。・・・ん? サイのお客人、頭にゴミがついてやせんか?」
そう言って俺の横を通り過ぎようとしたガーショは、俺の頭に生えている芽に気づいて、それを取ろうとした。
するとするりとそのガーショの手を、するりと俺の頭に生えている芽が避けた感覚があった。
「ん? なんか避けられたでありやす。もう一回」
そう言ってガーショがもう一度手を伸ばす。しかしそれもするりと俺の頭に生えた芽は避けた。
「なんだか是が非でも捕まえたくなるでありやす。そりゃ、そりゃ!」
何度もガーショが俺の頭の芽を捕まえようと手を伸ばすが、そのことごとくを芽はかわしてみせた。
「ぜえ、ぜえ。なんなんでやすかこれは。見た所植物のようでありやすが、まるで生きてるみたいに避けられてしまうでありやす」
「それはサイ君の頭に生えているんだ。先ほど頭に急に生えてきたらしくてな。どうやら魔物らしいんだ」
「急に生えて来た? もしかしてあの鳥の糞に植物魔物のタネでも混ざっていたのでありやすか!? ブハハハハ、それで頭から草が生えるって! きっと14歳なのに色ボケしてるののバチでも当たったんで、ドゴボっ!?」
俺の頭の現状を知って、大笑いしだしたガーショのわき腹を再度衝撃が襲った。
しかし今回ガーショのわき腹を攻撃したのはロインではない。
「ほう? まるで君をばかにされたことを怒って攻撃したように見えたな。その植物」
そう、俺の頭の芽がガーショの横腹に伸ばした蔦を叩きつけたのだ。
ガーショに攻撃を加えた後はすぐに伸ばした蔦を引っ込めて、元のサイズに落ち着いている。
「ちょっと気になるな。どれ、試してみるか」
そういうとロインは、持っていた木刀を俺に向けて一閃する。
俺は唐突な事態に思わず目をつぶってしまう。すぐに木刀による衝撃が来ると思ったが、それは来なかった。
不思議に思いすぐに目を開けた。するとロインの木刀は俺の体ギリギリで止まっていた。
寸止めでもされたのかと思ったがよく見れば違う。先ほども見た蔦が木刀に絡まってその攻撃を受け止めていたのだ。
次の瞬間ロインが高速で動いた。先ほどのガーショと同じように芽が蔦を伸ばして攻撃してきたのを避けたのだ。
「き、危険な魔物でありやす! 人間を攻撃してきやしたよ! 処分しないと!」
ガーショが大声で叫ぶ。それに対してロインは冷静だ。
「いや、その点は大丈夫だろう。ガーショ君に関してはサイ君をバカにしたから。私に対しては芽のほうでなくサイ君を攻撃したのに対して防御と反撃を・・・おっと」
しゃべっているロインに対して、芽はロインから受け止めていた木刀を奪い、それを振って攻撃を加えた。
それにさほど驚く様子はなく、ロインは避ける。
「どうやらその植物は私に敵意を持ってしまったらしいな。よっ。しかもなかなか攻撃が鋭い。ほっ。油断すればあたりかねんな。ほいさっ」
喋っているロインに植物は何度も攻撃を加えようと蔦を伸ばす。それらをロインは全てゆらゆらとかわしてみせる。
「ど、どうしたらいいんでしょう。というか、これはどういう状況なんでしょう」
「どうやらその植物は君を守っているようだな。よいしょっ。頭の居心地でも気に入られたんじゃないか? ほいっ」
ロインは普通に喋って避け続けているが、蔦からの攻撃の激しさは増し続けているように感じる。
「じゃあこの植物の攻撃はロインさんが無力化するまで続くんですか? どうやったら止められるんでしょう」
「んー、とりあえず普通に攻撃をやめるようにサイ君が言ってみたらどうだろう。よっとっ。ガーショの喋ってたことがわかったようだから、それなりに知能は高いみたいだし」
ロインの言葉に、そんなことで止まるのかと思いつつ俺はロインが言う通り頭の植物に言った。
「ロインさんへの攻撃をやめてくれ! その人は無害だから!」
俺がそう言うと、頭の植物は振り回していた木刀から蔦を離し、シュルシュルと長さを縮めて元の頭にあった芽のサイズに戻った。
「ほう。まさか本当に君の言うことを聞くとはな。よほど気に入られているらしい」
「そ、それでも人を攻撃したことに変わりはないでありやす。やっぱり処分しないと!」
ガーショは植物に蔦で殴られたことに未だにご立腹らしく、そんなことを言う。
それに対してロインは言う。
「それは君がサイ君をバカにするようなことを言ったからだろう。それよりもひとつ気になってたんだが、どうして迷宮車で寝てたはずの君が、サイ君の頭に鳥の糞が落ちたことを知ってたんだ? 私は植物魔物が生えたことは言ったが、鳥の糞の話はしてないよな? まさか客人の頭に鳥の糞が落ちていることを知っていて、私に伝えなかったのか?」
「・・・・・・えっとあの、ちょっとまだ寝ぼけてるみたいでありやす。顔を洗って来やす」
そう言って逃げようとするガーショの肩をロインが掴む。
「泉に顔を洗いに行くなら私が手伝ってやろう」
「へ?」
次の瞬間ロインはガーショを勢いよく投げ飛ばした。
「ぎゃああああああああああああぁぁぁぁ・・・・・・!!」
空高く投げられたガーショは情けない叫び声をあげながら綺麗な放物線を描き、飛んで行く。
そして少しして、遠くの方でドバーンという大きな水音とともに、大きな水柱が立ったのだった。




