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213・Bランク冒険者との試合がヤバイ 前編

◇◆◇


『レディース エィーンド ジェントルメェーン!

いま、この闘技場で初めて行われる歴史的な試合。いえ、この闘技場に限らず他の全ての闘技場においてもまず見ることのできない試合が行われようとしています!

試合の内容は、なっ、なんとDランク冒険者 VS Bランク冒険者!!! 通常であればまず組まれることはなく、勝敗も明らかなので見るに値しない試合です。普通であればそうでしょう。しかし、ここに集まった観客はそうは思っていないのです!


御覧ください! この超満員の観客席を! 少なくともここに集まった皆さんは、これから行われる試合に対して、勝敗の決まりきった退屈な試合とは考えていないのです!

それもそのはず。今回戦うDランク冒険者のサイ選手は、5日前に闘技場で初試合を行って以降、ただの一度も敗北をしていません! 同格のDランク冒険者と試合をしてそうだというわけではありません。Dランク冒険者同士の試合で5連勝をできる闘士は多いでしょう。

しかし彼は違う、なんとサイ選手が試合を行った相手は全て格上のCランク冒険者なのです!


サイ選手は初試合からスカウト判断による特別処置で、格上であるCランク冒険者と試合をしています!

これ自体は珍しくはありますがたまにあることです。しかし彼はそこから異常なまでの実力を発揮して5連勝。それも、辛勝だとか運良く勝利を重ねたわけでなく、実力でそれを勝ち取ったのです。

対戦相手が弱かったわけでもありません。彼らもCランクの闘技士たちの中で実力を認められている選手たちでした。

そんな相手を5日で5人相手取り、その全てに勝利した。

信じられない話です。しかし、それは紛れもない真実なのです!


闘技場スタッフは、このことから特別処置で彼とBランク冒険者との試合のマッチングを企画しました。

実力的にはサイ選手は十分にCランク冒険者。それも上位の実力を持っています。

ですが、彼は未だにDランク。この理由は、手続き上の関係で彼のランクアップには一週間ほどの手続きが掛かるからです。彼ほどの実力があれば、数日後に彼がCランクになっていることは確実でしょう。

Cランクの冒険者が勝利を重ねて、Bランクの冒険者と試合を行うことはあります。さほど珍しいことではありません。

そう、これは実力を期待されたサイ選手がDランク冒険者のままでBランク冒険者と試合できる最初で最後の機会なのです!


その試合に対する期待値は、この超満員の観客席をご覧いただければ分かるでしょう!

彼がもしこの試合に勝利すれば、歴史的な快挙です!

ここに集まった観客の皆さんは、もしかすればサイ選手であれば、本当にそれがあり得るのではないかと期待しているのです! そうですよね!?』


実況の盛り上げに対し、ワァーッ! と、観客から歓声が上がる。

なんというか、自分のことでこんなにも盛り立てられてしまうとかなり気恥ずかしい。


『司会と解説はわたくし、ミズーネがさせていただきます。ちなみにサイ選手をスカウトしてきたスタッフは私です。サイ選手がかなり活躍してくれているおかげで、私は評価も上がってボーナスも出て、いろいろウハウハ状態です。いやー、本当に掘り出し物でした』


観客から笑い混じりに、ウザいとか、早く試合を始めろとヤジが飛ぶ。

本気で怒っているわけではなさそうで、あくまでアットホームなヤジだ。

闘技場で5回ほど試合をしたが、ミズーネが司会をする時が一番盛り上がっている気がする。

盛り上げ上手なのかもしれない。


『さて、注目の試合前に少し選手の紹介をいたしましょう。サイ選手はさきほどある程度紹介いたしましたので、次はサイ選手の対戦相手。

サイ選手がDランクがBランクを破るという快挙を成し遂げる壁となる選手の紹介です!』


俺の目の前に立っている対戦相手は、真っ黒なローブで全身を隠していた。

ローブで全身を隠していても、その体躯の大きさは分かる。

目の前の相手は身長が高く、体つきもがっしりしている。


『今回のサイ選手の対戦相手は・・・コギムーコ選手です!!』


ミズーネがそう紹介すると同時に、目の前にいた対戦相手は、その黒いローブを脱ぎ、投げ捨てた。


脱いで出てきた相手を見て、俺は愕然とした。

愕然とするしかできなかった。


『コギムーコ選手は、この闘技場では『パウダーキング』の二つ名で知られる・・・』


「しっつれいねぃ!! パウダーキングじゃないわぁん! アーシはパウダークイーンよぅっ!!」


され始めた紹介に対し、目の前の対戦相手が大声で吠える。

低音のよく響く大声が実況をかき消し、観客席まで響き渡る。


目の前の人物、いや、人であるのか俺には確信を持てない存在は、強烈なインパクトを持った姿をしていた。

まず、顔と思われる部位は、ただでさえ骨格の時点から濃い作りになっているのに、その上からさらにかなり濃い目の化粧が施されている。味噌汁の塩分の濃さで例えるのなら、水を入れ忘れた味噌汁と言った印象だ。毎日食べてたら数日でダメになるだろう。

ほっぺたはピンクに塗り、目の周りは紫、唇は真っ赤な口紅で毒々しく彩っている。

口元やあごに生えた髭もアーティスティックに狂気を型取り、もはやこれは顔というよりは作品といった印象だ。できれば厳重な警備の上で火山の火口に永遠に安置しておいてほしいレベルの出来栄えだ。厳重に人目に触れさせないでくれればいいのに。


そして身体。ローブを着ていたときから思っていたが、やはりでかい。

身長は2メートル以上あるだろう。

身長の高さもそうだが、横幅もデカイ。筋肉質なガッツリとした体つきの上に、大量の脂肪を重ねているだろうと言った印象の、とにかくデカイとしか言えない体型だ。

そんなどでかい体を、あろうことかピッチピチで今にも破れそうなロリーでフリフリの衣装が冒涜的に飾っている。

その姿は、似合わないというのもここまで思い切ってやれば、振り切って三周回ってやっぱり吐気がすると思えるほどほど似合っておらず、特にスカートの丈が短すぎて女性物下着によって隠された汚物が垣間見えてしまっているところなんかはポイントが高い。大量破壊兵器の性能として扱うのであればだが。


そんな身なりのある意味極まった存在が、くねくねと身体を女性的に動かしながら喋っている。

動くとまた圧巻である。止まっていてもすごいのに、動いているのだ。

見ているとこちらの心臓のほうが止まることを選びそうだ。


そうだな、あれだ。一言で言うのなら、めちゃくちゃ気持ち悪い。ただただ気持ち悪い。


出会ってまだ数十秒だが、今まで俺が人生で出会った濃いキャラランキングを断トツでぶっちぎって一位で燦然と蠢き濁っている。

ガーショやモリーンのキャラがモブキャラに見えるくらいのインパクトが目の前に存在した。

今までの人生にないくらいの凄まじい経験ではあるが、できることならこの経験は一生しなくてよかった。いやほんとマジで。


『・・・・・・失礼しました。えっとこの、自称『パウダークイーン』。コギムーコ選手は、見た目の凄惨さとは裏腹に、この闘技場で確かな実力を認められているBランク冒険者です。扱うダンジョン能力も、その見た目に負けず劣らず強力で強烈な物を持っています! もしサイ選手が本当に彼を・・・』


「『彼女』よぅっ!」


『・・・失礼、この怪物を倒すことができれば、サイ選手の実力は世間に広く轟くことは間違いありません! しかし、それは簡単なことではないでしょう。コギムーコ選手は負ければDランク冒険者に負けたBランクの汚名をかぶることになります。それを阻止するために全力をつくすはずです。さあ、注目のこの一戦! 10秒後のゴングと共に開始になります! 10・9・8・7・6・5・4・3・2・1ッ!』


試合会場に甲高いゴングの音が響き渡り、俺とBランク冒険者の試合が開始された。

前編、中編、後編の三話構成予定。

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