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198・闘技場での試合がヤバイ②

「ペッ、『ベテラン踏み台』か。正直あまり好きな二つ名じゃあないんだが、あの二つ名のお陰で固定のファンが付いてファイトマネーが上がってるてぇ部分もある。俺みたいな負けの多い選手はそういうことでもなきゃファイトマネーで十分な稼ぎにはならねぇからなぁ。のっぴきならない話だよ全く。ペッ」


俺の対戦相手、チャメコーザは小太りで髭を生やした少々不潔感が漂う男だった。

装備はギリギリ片手でも振り回せそうなくらいの大剣。

まだお互い距離を取っているせいもあるだろうが、構えすら取らずに気だるそうにしている。


対する俺の装備は片手剣一本だ。

俺の使っていない余剰な領域(テリトリー)の範囲はさほど大きくない。この片手剣を領域(テリトリー)で包めばそれで余剰は尽きてしまう。

まあ、領域(テリトリー)で固くすれば防御にも使えるし、素手よりはいいかという判断で持っている面が多い。

ガーショから剣術を習いはしているが、習い始めて一ヶ月だ。それだけで勝負を決められるほどの剣術とは言えないだろう。


「ペッ。お前さん、若くみえるな。歳はいくつだ?」


のんびりとした足取りで少しずつ俺との距離を縮めながら、チャメコーザはそう言った。

いまだに戦闘をするといった歩調には見えない。

俺は構えを解かず、集中してその動きを見極める。


ミズーネがこの男は新人相手であれば勝率9割だという話をしていた。

初見では対処しづらい何かを仕掛けてくる可能性がある。

隙を見せるべきではない。


「ペッ。おいおい無視かよ。期待の新人さんはこんなうだつの上がらなそうなオッサンと会話するつもりすらないってことかよ。ペッ」


この男、会話中にやけに唾を吐くな・・・。

ん? まさか・・・!


思い当たった瞬間、チャメコーザが地面を蹴り、俺との距離を大きく詰めて大剣を振り上げる。


俺はそれに対して後ろに飛びのいて避ける。

大剣の間合いがまだわからないので大きめにだ。

チャメコーザの大剣は俺から大きく離れた位置で振り下ろされた。


俺は気を抜かずチャメコーザを観察する。

・・・何かあるかと思ったが、特に何もない。


俺の思い違いか? チャメコーザは不必要に多く唾を吐いていた。

あれはなんらかの能力や行動のための鍵行動キーアクションだと思った。

しかし今の所、変なことは起こってない。


「ペッ。サイって言ったか? お前、俺の試合を見たことはあるか?」


俺は答えず、警戒を解かずにチャメコーザに向き合う。

今度はこちらから切り込むか?


「ペッ。まだダンマリか。もしかして、ビビって声も出ねえのか?」


安い挑発だな。特に会話をする必要を感じない。

先程急に切りかかってきたということもあるし、警戒をとかずに集中を保っていたほうがいい。

そしてまた唾。唾はもしや鍵行動(キーアクション)じゃないのか?

いや、それを決めつけるのは早計か。


試合開始と同時に、チャメコーザは闘技場に領域テリトリーを広げたのがわかった。

試合開始時点の俺とチャメコーザの距離は7メートルはあった。

最低でも領域テリトリーの半径は7メートル。

いや、基本は自分を中心に広がる球体である領域テリトリーの形を変えて、俺を包む形に変えた可能性もあるから、それもブラフの可能性があるのか。


なるほど、これが相手の能力を知らないダンジョンバトルか。

全ての行動が怪しく見えるし、罠に見える。

初見だと勝ちにくいなんて情報を持っていたらなおさらだ。


「ペッ、しかしお前さん、変なダンジョンの広げ方してるな。頭周りにだけ領域テリトリーを広げるなんて。範囲を狭めることで、支配力を高めてるのか?」


チャメコーザがそう聞いてくる。

なるほどな、情報がないのはお互い様か。

相手もこちらの情報を探っている。


俺が頭に広げているのは領域テリトリーでなく拠点ベースだ。

おそらく領域テリトリーの感知感覚でそれを感じ取ったんだろうが、そこが俺の支配領域ということはわかっても、領域テリトリーなのか拠点ベースなのかまでは感じ取れていない。

いや、そう見せかけて実はわかってて嘘をついてる可能性もある。

うむ、結論が出ないな。こういう風に相手に考えさせて動きを鈍らせるってのがそもそもの策略ってこともある。

変に相手の言葉だけにとらわれてもダメだな。


ちなみにだが、今回の試合でピョコの強化魔法を使うつもりはない。

あれは強力すぎるし、目的は勝つことじゃなくダンジョンの使い方や戦い方を学ぶことだ。

相手を舐めてるようなことにも思えるが、そもそもこの闘技場は冒険者の育成が目的という側面をもつところでもある。

必ずしも全力でぶつかり合う必要はないだろう。


「ペッ、頑なにお喋りは拒否か。オジサン寂しい・・・よっとぉぅっ!」


喋りながら踏み込み、チャメコーザが切り込んでくる。

今度はこちらからも仕掛ける。

大剣で大振り、間合いは先程見た。

いつまでも大きく避けてばかりでは試合も進まないし相手のダンジョンの使い方も読み取れない。

今度はこちらも仕掛けよう。


俺はチャメコーザの大剣による大振りな攻撃を最小限の動きで避け、その攻撃後の隙にこちらからの攻撃を打ち込もうとした。

その様子を見たチャメコーザの口角が上がる。

チャメコーザは攻撃前の踏み込みが終わっている。

そしてすでに振られ始めている剣の軌道をここから変えるのは不可能だ。


いや、不可能だと思っていた。

最小限で避けたつもりだった剣戟が軌道を変えて伸びてきて、俺に迫る。


一瞬のことだ。後の先に合わせて動かしていた俺の剣は防御に間に合わない。

チャメコーザの大剣が俺の腹を捉える。


金属の塊である大剣の質量に俺の身体は大きく吹き飛ばされた。


チャメコーザは苦々しい顔をして俺を見る。


「ペッ、手応えが甘い・・・まさか初見で防がれちまうとはな。ん? お前さん、そんな植物さっき頭に生やしてたか?」


「サンキューピョコ。助かったよ」


『ピョコ!』


実は試合前にピョコには髪の毛に偽装してもらっていた。

強化魔法は使うつもりはないが、試合に協力は普通にしてもらうつもりだったからな。

契約魔物、召喚魔物の闘技場での利用はありだ。


先ほどの大剣の攻撃は、直撃直前にピョコが擬態を解いた蔦で受けて衝撃を受け流してくれたのだ。


俺はニヤリと笑ってチャメコーザに言った。


「最初の攻防の駆け引きは引き分けってところですかね?」


それを聞いたチャメコーザは表情を笑顔に変えて剣を構え、答える。


「ペッ。ふん、どうやら新しい新人はずいぶん生意気で厄介な奴みたいだな」


闘技場での初試合は、まだまだ始まったばかりだ。

最初の試合は解説こみだしゆっくりやります。

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