152・フロアマスター達との買いものがヤバイ②
今、俺の頭の上には植物は生えていない。
しかも、俺の髪は黒色だし、髪は短髪なのだが、今の俺の髪は肩まで伸びた長さの髪を後ろで縛ってあり、色は緑色だ。
そう。これがピョコの新しい能力だ。
ピョコは髪の毛や髪飾りに擬態できるようになったのだ。
長さや色は自由自在。帽子だとか猿人族以外の耳のフリなんてのも対応できるらしい。
実はこれ、俺が頭ダンジョンを操る上で頭を悩ませていた部分だった。
俺の拠点の最大半径は15センチしかない。
俺のような小さなダンジョン使いは、この半径15センチの球体状の体積をできるだけ節約して使うわけだ。頭の形にできるだけそった形で支配範囲を広げ、余分な部分を作らず頭の体積分だけを支配する。その上で結構ネックになっているのが髪の毛だ。
実のところ、俺の支配範囲は毛根は支配しているのだが、毛先の方はほとんど支配していない。
これは強制展開によって拠点を広げた当初からそうだった。
実は、支配範囲というのは細くできる最小の幅というものが存在する。
これは拠点でも領域でも共通で、支配をする場合、必ずその幅以上の太さを持たないと支配をできないという空間の幅が存在するのだ。
もし、どこまでも細い幅で支配範囲を作れるのなら、糸よりも細い支配範囲をかなり遠くまで伸ばして、なんてことも可能になるのだが、そううまい話はないのだ。
支配範囲の最小幅は個人差があり、自分が通れるサイズ以下の幅の支配範囲を広げられないとか、それこそ糸並みに細い幅の支配範囲を広げることも出切る人などピンきりだ。
基本的にダンジョンコアの大きい人の方が最小幅が太く、小さい人は細くなりがちという話だ。まあ、例外はあるらしいが。
で、肝心の俺がどのくらいの幅で広げられるかと言えば、俺の場合は自分の親指くらいの太さ以下の支配範囲を広げられない。
だから、髪の毛を操る場合、思った以上に体積を使用してしまうことになる。支配範囲同士重なったところは節約できると言ってもこれは少々厄介だった。
毛根は拠点化しているので、新しい髪の毛を生やしてという手段は一応ある。
色の違う髪の毛を、髪質を変えて伸ばし、整える。みたいな方法だ。
しかしこれは毎回毎回伸ばし直さなければいけないので時間がかかるし、伸ばした後に切って整えなくちゃいけない。
そして元の髪型に戻す時も伸ばし直して切ってをやるわけだ。
変装のたびにそんな手間をかけていたのでは時間が勿体無い。
だからピョコがこの能力を手に入れてくれた時は大いに助かった。
その時点ではまだ変装の手段はなかったわけだが、いずれはできるようになると思っていたので、早く使えるようになろうというモチベーションにも繋がった感じだ。
まあとりあえず俺は今、別人の顔、別人の髪型で街をぶらついている。
顔の造形もできるだけ普通に、イケメンだったりとか目立つ風貌にはしてないので、俺を気にするような人はいない。
成功と考えていいだろう。
「・・・なんか気のせいか、頭に圧迫感がある気がするな・・・変身ミスか? それともなんか病気かな」
最初の目的地である調理雑貨屋に向かう途中、なんとなく違和感を感じてそれを口にする。
『ん? それは多分私がご主人様の後頭部をおっぱいで挟んでるせい。どんな人でも多少は霊感があるから、ご主人様はそういう形で感じてるんだと思う』
「(ああ、なるほど。ユーレのおっぱいか。それなら大丈夫だな。・・・・・・って大丈夫じゃねぇよ! なんでそんな唐突な変態行為をしてるんだ!)」
『え? だって、ご主人様この間夢ダンジョンに戻ってきた時、キッシュに胸で頭を挟ませてた。そういうプレイが好きなのかと思った。あ、それとも、霊感で感触を付与しておっぱいの感触がちゃんとないと嫌だった? てっきり、女性をぞんざいに扱うことで、自身の嗜虐心を満たしてるんだと思ったんだけど』
「(俺にそんな特殊な趣味はねぇ! あれは黒の触手に対抗するために必要だっただけで、胸で頭を挟ませることの方が目的じゃねぇから!)」
あの戦闘、よくよく考えれば本当にシュールな光景だと思う。
おっぱいで頭を挟まれながら戦うって正直意味がわからない。
『そうっスよ。マスターは嗜虐よりも被虐の方が好みなんっス。押し倒すより押し倒されたい派で・・・』
「(キッシュ、おい、マジでやめろ!)」
『なるほど、私はもっと積極的に責めるべきだったのか。メモメモ』
「(メモるな!)」
性癖把握されてるのは本当に厄介だ。キッシュには後で俺の性癖は絶対に公言しないようにキツく言っておこう。
とりあえず俺はユーレに例の後頭部おっぱいの説明にキッシュの感覚付与が接触したままでないと行えないことを説明する。
『なるほど。その手があった。私も今度感覚付与する時は、下半身をつなげた状態でないとできないことにする』
「(いや、今まで普通に付与されてたんだからそれで騙されるわけがないだろうが。・・・一応聞いておきたいんだが、ユーレの場合感覚付与はどうやってやってるんだ? やっぱ一回は触る必要があるのか?)」
今までの戦闘では問題にならなかったが、今後もそうとは限らない。
感覚付与に何か条件があるのなら把握しておきたい。
『私の場合、ご主人様に取り憑いている形になるから、身体に触れてなくても繋がりがある。それを通して付与できるから、接触は必要ない。ただ、繋がりを維持するために定期的にセックスが必要ってことにする』
「(・・・非接触でいいのか。感覚付与に関してはユーレが一番得意な感じか)」
後半のくだりは無視する。もう疲れた。
そうこう言っているうちに目的地の調理雑貨屋についた。
ここにきたのはキッシュに与える予定の調理器具を買い揃えるためだ。
買わなくても領域で夢ダンジョンにコピーはできるが、基本的にお店での領域使用は禁止されている。
商品のコピー防止だとか、ダンジョン化しているお店の場合、ダンジョン機能が損なわれる可能性があるからだ。
ガーショの迷宮車の内装であるとか、こういうお店のダンジョンは、機能優先で作ってあり、他人のダンジョンと争うことは全く想定していない作りになっている。
そうしないと魔力や精神力を大量に消費することになってしまうし、それを想定したダンジョン操作というのは技術も必要になる。
戦闘用のダンジョン操作と商売用のダンジョン操作というのは別物なのだ。
お金は余裕があるので、キッシュに気にせずに欲しいものを言うように言ってそれを買っていく。
正直、夢魔が料理をすると言うのには少々違和感があるが、本人がしたいと言うのだから止めるべきではないだろう。
この後はユーレ、ピョコ、シルモクスの順で買いたいものを揃えていく予定だ。
今までずっと訓練やら戦闘やらばっかりだったし、たまにはこういう日があってもいいだろう。
シリアスが長かったのでしばらくはほのぼの予定です。




