123・夢で色々起こりすぎてヤバイ⑤
「自分がダンジョンマスターから吸精するときは、仲間の力を借りてるっス。その仲間は、夢魔とは違う方式で精神に働きかける魔物なんっス。その仲間と協力することで、自分はダンジョンマスターの精神防御を突破して精を吸うことができるんス」
「夢魔とは違うタイプの精神に働きかける魔物・・・。もしかしてその魔物は夢魔ではないのですか?」
「はいっス」
「その魔物をここに連れて来たいってさっき言ってたんですよね? ちなみに、どういう魔物なのか聞いても大丈夫ですか?」
「・・・言わなきゃダメっスか?」
「連れてきていいかどうか聞くのにどんな魔物か言わないというのはどうなんですか?」
「・・・確かに、そのとおりっス。わかったっス。驚かないでくださいね? 自分の仲間というのは・・・『吸血鬼』っス」
「吸血鬼・・・」
俺はその言葉を聞いてめまいを覚えた。
夢魔の次は吸血鬼ときた。
吸血鬼も、夢魔と同じく災害指定されている魔物だ。
吸血鬼は人の血を吸う人型の魔物で、特徴としては人間より大幅に高い身体能力、それに血を吸った相手を奴隷のように従わせるという話も有名だ。
それに気に入った人間を自分と同じ吸血鬼にすることもよく知られいて、特に容姿が優れた人間ほど血を吸うにしても仲間にするにしても吸血鬼から選ばれやすいといわれている。
弱点も多く、太陽の光に弱く、夜行性であるとか、ニンニクが苦手、招かれていない家には入れないとか、流れる水の上を渡れないとかいろいろ言われている。
他にも影ができないとか、鏡に映らない。霧やコウモリに変身するなんて話もあるが、弱点も含めてその真偽は不明。
それでも、特徴的なその性質から小説や演劇などの創作物で非常によく扱われる魔物であり、魔物の中では人気や知名度が極めて高い魔物でもあるだろう。
吸血鬼の起こしたとされる事件も多い。
一夜にして住民が消え去ってしまった街や、地方領主が吸血鬼と入れ替わり、その領主が収めていた地域を人の血を集めるための牧場のように扱ったという話。規模の大きな事件の黒幕として吸血鬼が関与していたという話はかなり多い。
だからこその災害指定魔物なのである。
しかし、吸血鬼はここ数十年その関与が疑われる事件や、被害者などの情報がない。
この国の人間がダンジョンマスターに、他国でも人間の強化といえる技術が発展して以降、人間は吸血鬼のただの餌と言える存在ではなくなった。
人間の精神抵抗が上がったことにより吸血による奴隷化は難しくなり、秘密裏に事を運ぶことが難しくなった。
それらが原因で今まで闇に潜んでいた吸血鬼の存在は日の目に晒され、その全てが討伐され、すでに滅んでしまったのではないかという話すらある。
滅んだ可能性のある災害指定魔物。
それが滅んではおらず、災害指定魔物である夢魔と手を組んで行動していたというのか・・・。
厄介ごととしてはこの上ないレベルで厄介な話だ。
「・・・吸血鬼と夢魔が手を組んだのはわかりましたが、なんでDランクからCランクの男性冒険者なんて、偏った犠牲者を出していたんですか?」
「それは吸精と吸血の両方をする関係上、あまり体力がなかったり弱い人だと殺してしまって事件になってしまう可能性があったのと、逆に高ランクの冒険者だと発見されたり精神抵抗が高過ぎて吸精と吸血ができない可能性があったからっス」
なるほど。吸血鬼と夢魔が協力する事を選んだが故に、偏った被害が起こっていたということか。
死者を出してしまえば事件は深刻化し、その原因を探るために冒険者ギルドなどが本格的に動き出す。
しかし事が体調不良であるのなら、真剣にそれを探ろうという組織や人は少ないだろう。
「それでも長くチョットーイに潜んでいたら偏った体調不良になる人間が増えて、怪しまれる結果になるんでは? 場所を変えなかった理由はなんですか?」
実際、俺が公爵にチョットーイに行くように言われた理由もそれが原因だしな。
吸精などをしても体調不良程度で済むのなら、街から街へ移っていた方がその存在を露呈しにくいだろう。
街で何人かD、Cランクの男が体調を崩した程度ならだれも気にもとめないだろうし。
「自分たちもそのつもりだったんっスが、それができなかったんっスよ。実は自分も仲間も長距離移動は苦手なんっス。だから移動する際は冒険者に便乗する形で移動する形になるんっスが、チョットーイの街はちょっと特殊で、長距離の移動をするD、Cの冒険者が少ないんですよね。護衛依頼を頼むなら長距離かつ危険地帯を通るからBランク以上の冒険者が多くなるっス。街の周りの魔物はそこそこ強敵が多いからD、Cランクは街から出なくても食っていけるっス。初心者でも狩れるランクの低い魔物はこの辺にはあまりいないのでEランクが出て行くことはあるんですけど、二人の燃費の関係上、旅の途中一回も食事をせずにというのは無理そうで・・・入ってくるときはよかったんっスけど、うまい具合に街を出られない状況に陥ってしまってっスね」
「長距離移動が難しい・・・便乗・・・そういえば俺についてきたってことは、俺に便乗してチョットーイを出たって事ですよね? つまりは俺や仲間に一度もバレずについてきたって事ですか?」
「まあ、そうなるっスね。まさかあの街から1時間で領主館のある街まで来ることになるとは思ってなかったっスけど。チョットーイはどの街からも絶妙に離れた位置にあって、道の関係上、どれだけ急いでも半日がかり、緊急時でなければ野営をして一、二日かけて別の街に移動するってのが普通っスから」
やはり俺に便乗してきてたのか。
それには全く気づかなかった。夢魔の便乗は夢ダンジョンにユーレが基本詰めているから無理だろうし、吸血鬼が一緒に移動してきていた、なんてのもちょっと信じられない。
あの狭いマックススピードフォームの迷宮車の中で、誰にも気付かれずに便乗するなんてことは可能なんだろうか?
少し悩んだ末に、俺は結論を出す。
「・・・・・・ピョコ、拘束を解いてやってくれるか? 彼女が連れて来るっていう仲間と会ってみようと思うから」
「・・・えっ、いいんっスか? 自分が逃げるとは考えないんっスか?」
「まあ、貴女の説明は一応筋が通ってますし、嘘はついてないと思いますからね。一度信用してみようと思います。俺の信用を裏切らないでくださいね?」
「(本当にいいピョコ? 逃げちゃう可能性も高いと思うピョコ)」
俺が決めたことに対してピョコがそう小声で聞いてきた。
「(実はもう、逃げるなら逃げるでいいかとも思ってるんだよ。夢魔に吸血鬼なんて俺が対処できるような問題に思えないし、聞いた話的にもほおっておいて問題ない気がするしな。一つの街に止まったりしない限り、風邪をひくようなもんだろ?)」
「(いつまでも無害なままとも言いきれないピョコ。放っておいたら大きな害になる可能性もあるピョコ)」
「(それを言ったら人間だっていつ殺人鬼に変わるかわからないだろ? 俺に何か害をもたらされたんならともかく、何もされてないし今まで危険なことをしてないやつを危険になるかもしれないって理由で殺してしまうなんてのは俺はできねぇよ)」
「(・・・わかったピョコ)」
ピョコは納得してくれたようで、偽ネネコの拘束を解いてくれた。
それを見て偽ネネコは嬉しそうな表情をしてこう言った。
「信用してくれてありがとうっス! すぐに仲間を連れて来るっス!」
そういって偽ネネコはある程度移動して、消えた。
夢ダンジョンの外に出たのだろう。
このまま戻ってこないことも想定しておくべきだろう。
十分くらい待ってみて戻ってこなければ諦めて、いつも通り戦闘訓練でもしよう。
・・・・・・あれ、そういえば何か忘れている気がする。なんだったか。
まあ、思い出せないということは大したことじゃないだろう。
そんなことを考えていると、夢ダンジョンの中に訪問客が現れた。
その訪問客は茶髪で大人しそうな顔をして、とても肉付きのいいムチムチとした身体つきをした女性だった。
ユーレ「・・・・・・・・・・・・」




