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僕らの箱庭

君の心に

作者: 東亭和子

虹色幻想「いつか」とリンクしています。

 好きな人が出来た。

 初めて自分から好きになった人。

 その人は同じクラスにいて、一緒に授業を受けている。

「なぁ、佐伯。お前の好きなものって何?」

 友人の曽我春樹から質問された彼は短く答えた。

「オレンジ」

「オレンジ!?」

 その会話を盗み聞いて子供みたいだ、と思わず笑いそうになる。

 そうして佐伯君は友達からも同じようなことを言われてむくれていた。

「別に何を好きでもいいだろう?」

 そう言う声は不満そうだった。

 確かに、何を好きでも良いと思う。

 でも何故オレンジが好きなのだろう?

 気になった。

 それ以来、梨香は佐伯慶治を気にするようになる。


 何気ない動作や言葉、それに声。

 ゆっくりと話す声は梨香の心に染み込んだ。

 彼の全てが梨香の心を騒がせた。

「佐伯君の大人な彼女が校門にいるんだって~」

 親友の美耶子の話にびくりと体が震えた。

 彼女がいたのか、とショックを受ける。

 そんな自分にもまた驚いた。

「…もしかして梨香って佐伯のこと?」

 あー!と慌てて梨香は美耶子の口を手で塞ぐ。

「それ以上は言わないで!」

 梨香は赤くなった顔を隠すように俯いた。

「分かった。言わない。でも意外だな」

 そう言って美耶子は笑った。

 結局、彼女ではなく姉であると分かったのは後日。

 だが、私は気づいてしまった。

 佐伯君はお姉さんが好きなのだ、と。

 苦しいのだと。

 私では彼の心を軽くすることは出来ないのだろうか?


 梨香の言葉は慶治を刺激してしまったようだった。

「うるさい!」と怒鳴られて体がすくんだ。

 ああ、余計な事を言ってしまった。

 これでは嫌われてしまうだろう。

 なんて私はバカなんだろう。

 そう思った。

 ぐいっと体を引かれて唇を塞がれるまでは。

 驚いて目を見開く。

 視線の先には泣きそうな慶治の顔があって何も言えなくなった。

 だからそっと手を背中に回して抱きしめた。

 私で代わりになるのなら、それでも構わない。

 そう思えたから受け入れた。

 唇が離れても梨香は慶治を抱きしめた。

 大丈夫だからと抱きしめた。

 やがて梨香の肩に慶治が頭を乗せた。

 男の子は可哀想だ。

 泣く事も出来ないなんて。

 梨香はゆっくりと慶治の頭を撫でた。

 どうか、悲しみが癒えますように。

 苦しみが消えますように、と。

「私、佐伯君が好きだよ。ずっと好きだよ」

 その言葉に縋り付くように慶治の腕に力が入った。

 

 どれくらいそうしていただろうか、不意に慶治が「ごめん」と告げた。

「酷いことした」

 そう言いながら体を離す。

「そう思うなら、もう一度して」

 梨香の言葉に慶治は驚いて顔を赤くした。

「おまっ!何を…!!」

 慶治に抱きついてキスをねだった。

 赤い顔を背ける姿は可愛らしい。

 きっと今、佐伯君の心は私でいっぱいなのだ。

 そう思うと嬉しくなった。

 ガラリ、と教室の扉が開く。

「あれ、お前達ってそういう関係なの?」

 曽我春樹がちょっと驚いた顔で教室へ入ってくる。

「あ~忘れ物取りに来ただけだから。

 気にしないでいちゃいちゃしててよ」

 春樹の言葉に慶治は慌てる。

「春樹!違うんだ!」

「何が違うの?

 さっきまでキスしてたじゃない」

 梨香の言葉にピシリと固まる慶治。

 そんな私達を見て春樹はニヤリと笑った。

「そうか、そうか。

 やっぱりそうなんだな!

 じゃあ、俺はこれから皆に報告してこよう」

 そう告げると春樹はさっさと教室を出て行く。

「待て!春樹!」

 慶治の叫びが廊下に響く。

 きっと今日中には噂は広がるだろう。

「観念して付き合っちゃおうよ」

 梨香の言葉に慶治はうなだれたのだった。


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