序章 錆の騎士9
「おっもいーつっかれた、ライ持ってー」
「街出てからまだそんなに時間経ってないだろ。働け」
「あんたの馬出せばいいじゃない」
「嫌だよ俺が疲れる」
「私は疲れないでしょうが!」
「うるせぇ働け」
「働いてますー荷物背負ってるから、ライとは違って働いてますー仕事熱心ですぅ」
「ほぉ感心したぜ。そんなお前には俺の武器も背負わせる名誉をくれてやる」
「やーめーてー」
リュックを背負うフィラキは腕はぶらぶらと、足取りはふらふらと歩き。
ライは、街でも視線があまりない道でも変わらぬ、堂々とした足取りで。
主人と奴隷。
絶対的な力関係であるはずの両者であるが、洒落てはいないが、軽口を叩きながら歩いていた。
「…………」
そんな二人の関係が気になりつつも、ティクはライから貰った味気のない棒の堅パンを黙々と食べながら歩いていた。
より正確に表現すると、ティクには話す余裕がなく。
食べて歩くしかなかった。
街の時と比べライとフィラキは明らかに、ティクに合わせて歩速を緩めていたが、それでもティクはどこまでも子供だ。
早く姉を助けたい。無事を見たいという逸る気持ちはあるが、それに子供の体力が付いてきてなかった。
疲れを感じ休みたいとティクはライに伝えてみたら、それはそれで。
「じゃここでお別れだな」
初めて酒場で会った時の信頼感はどこへやら。
本当に別れてしまいそうな気配を出し歩いていくライに、ティクは口答えがまるでできなかった。
「水飲む?」
「ありがとう……」
そんな中、ティクの救いは、ライとは違い色々と気を使ってくれる心優しいフィラキだった。
いつの間にやらリュックをライに押し付けたフィラキが、少し中身の減った水筒をティクに差し出す。
水筒にはコップがないため、フィラキのような年上の美女との関節キスをすることになる。
九歳とは言え、健全な男子。多少なりとも異性を意識を始める年頃ではあるが、すでに疲労困憊なティクにはそんな浮わついた考えを浮かべる余裕すらもなく。
口端から水が零れる勢いで飲み、歩きながら食べていた堅パンのせいで乾いた喉を潤す。
「零れてる」
「…………」
本当に仮に犯罪奴隷ならば、奴隷になった時没収されて、持っていること自体がおかしい。
単色だが、肌触りのよい。
売れば相応の価値があるハンカチでティクの口を拭うフィラキに、ティクは疑問は浮かべるが。
目の前で、深い谷間を作り出す双丘を前にして、顔を恥ずかしさで逸らす。
だが、ティクがフィラキを拒絶しないのは。
まだ誰かに甘えたいという欲求を完全に振り切れていない証拠であるが、それを嘲笑う様に指摘する者は誰もいなかった。