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序章-エピローグ そして、もう一人……

ラタン村の騒動から三日経った。


「…………」


この頃、不健康生活により、少し乱れた赤髪をするフィラキは、ずっと不機嫌だった。

その理由は、青と白の髪を持つ少女は知らないが、この場にはいない。

出かけているライには、よく分かっていたことだろう。


青い輝石から生まれた。青と白という奇妙な髪に、一等星の瞳を持つ少女。

ラタン村にて出会い、何をトチ狂ったのかライが引き取った、少女の存在だ。


そして引き取った理由を、ライは骨人であることを晒しても、怯えなかった。

あと、可愛いから気に入った。


そう言って、実際に、無垢な赤子ですら怯えるという、逸話すらある。

骨人のライの顔を見ても、確かに怯える様子がなかったネージュであったが。

まだある、女の感が告げる閃きに、フィラキはライにつめ寄り。

正直に白状させて、理由を聞いた時。

フィラキの機嫌は悪くなった。


「初恋の人に似ていた」


知らんわ。

フィラキは激怒し、絶対にまだ裏があるとさらに追及し。

怒るなよ。

そう前置きをするライは、もっとも重要な理由を、フィラキに素直に白状した。


「この子は、俺のかつての名を口にし――止めろバイザーをガチャガチャするな」


フィラキはさらに激怒した。

ほとんど過去を語りたがらない男の名を、何故唐突に表れた小娘が知っているのだ。


私ですら知らないのに!


そう、フィラキの怒りの正体は、有り体に言えば嫉妬であるが。

ライに指摘された所で、フィラキは関係なく怒り。

やけ酒して寝て、起きて飲んで寝て、起きて飲んで寝て、起きて今に至る。


「…………」


記憶の大半を無くした少女、ネージュ・ルクリア。


ネージュの名は、記憶に微かに残されているらしく。

少女がたぶんとそうだと名乗り。

ルクリアの姓は、ライが付けた。由来は初恋の人の略名、だと言う。

フィラキは未練がましいと、嫌味を零してみたが。


初恋の女性が、既婚者だった話でも聞きたいか。

あまりにも身も蓋もない事を言い始め。

フィラキは、あぁここからやけ酒を始めたんだったと思い出した。


「ライはどこ行ったの?」


一般常識はなぜか大よそ備わっているが、念のためと。それと、時間潰しの為に。

子供向けの、識字力を向上させる本を持ち、古服を着ているネージュ。


その服は部屋を借りた、宿の女将から好意で貰った。

上等とは言えない、女将の娘のお下がり。つぎはぎがある、お世辞にも良いとは言えない服を着ている。

ライの黒いマントのみよりは、遥かにマシとは言え。


その顔と漂う雰囲気から、安物の服はあまりにも、ネージュには似合わない。

何一つ悪くない女将が、頭を下げる理由がないはずなのに、下げたくらいだ。


当のネージュは特に、柄や質は気にしていないようだが。

早急に、相応の品格ある服屋に世話になるべきだろう。

ネージュのような、相応の美しい見た目の人物には、相応に着飾る義務があるといってもいい。


そして、その人物が12か13。

白竜教会圏内では大よそ、15辺りに行う、成人の儀によって、成人扱いされる為。

成人しておらず、保護されるような年齢ならば。

洒落に無頓着なネージュに、非難が向かうよりも先に。

保護するライの品格が、疑われるものなのだ。


あくまでも。ライの為であると、フィラキは思ってはいるが。

嫉妬の原因である。ネージュに対してであっても。


何かしてあげなくては。フィラキがそう思わせる程の、高貴な者達が共通して持つ気品を。

ネージュは生まれながら。

石からある程度育って、知識もあって生まれたのだから。

少しおかしい気がフィラキにもしたが、生まれながら持っている。


何にせよ、その生まれながら持っている気品と美が。

ますますフィラキが、ネージュの事が気に入らない理由だ。

もっとも、潜在的にあるのは。ライとの聖域が、侵されるのではないのかという、危機感だ。


そして、ふとフィラキは思い出す。

こんな経験が、以前にもあったのだ。

そう、今のような思いを抱かせたあの女は。凛とした雰囲気を持ち、藤色の髪をした。

ライが今も大事に手入れをする。月明りのような光を持つ、ハルバードを持つ女だった。


あぁなんだかまた腹が立ってきた。

フィラキは、今日の予定を、注いだぶどう酒を呷りながら決めた。

酒を飲んで、ぐっすり眠ろう。どうせ、白竜騎士の連れとしての仕事は休みだ。奴隷に休みはないかもしれないが、フィラキは知ったことかと、心中で吐き捨てる。


ライはラタン村の件、その後始末で奮闘しており。

暇潰しをしようにも、下手に動けるだけ。そして誰もが目を惹くような容姿をしている為。

赤子よりも目が離せない。そんな同室の少女は、無口で何を考えているかまるで分らず。

試しとばかりに、縛眼を使ってみたが。純粋な腕力は少女の癖に、縛る効果が発揮されない。

とことん不気味なネージュに、フィラキは飲み干した酒と共に。

ぐるぐるとした感情が、大鍋でかき乱されているような気分になる。


それはさておき。

大鍋に煮詰まった感情を、そのままネージュに当てるのは。

親を知らず、先祖も知らず。

持って生まれた体質により。

自身ですら、ろくな生まれではないだろう。そう思っているフィラキではあるが。

美醜の区別くらいはしているので、棘は生やすが、ネージュの質問には答えた。


「……見に行ったのよ」

「何を?」


きょとんとしている事は分かるが。

年齢の割には、まだ幼過ぎる精神故か。

骨顔しているライ以上に、感情が読み取れない顔をするネージュに。


フィラキは、ライが向かった先の意味を考え。

少し、間をおいて言葉を紡いだ。


「夢の果て。……かしら」


――――――――――――――


誰かが、責任を取らねばならない。

そして責任を取る上で、その犠牲者は量よりも質を尊ぶ。


黄金帰教団団員の女の処刑、そして。

ラタン村に住まう異教の神の信徒、ポート族族長の【息子ギョウ】の処刑。


それが、ライ達のいる街の広場にて行われていた。

だが、黄金教団の危険性は白竜教会を通して、処する立場の者達には、重々承知されている。

もしものことを考え、すでにルマは死んでいる。

そしてついでのように、ギョウもすでに息絶えている。


処刑というよりも実際には、見せしめの意味合いが強い。

死体晒しだ。

ライの周囲には、石を持ち。正亜大戦を終わらせた偉大なる神白竜を信じず。

異教の神を信じる愚か者達に。


正しく、そして聖なる制裁を行い。

愚か者達の罪を罰し、己のテロスを、天より見ている白竜に認められ、より高めることが出来る。

大真面目に、そう思っているから。

広場の住人も、通りすがっただけの旅の者もそうしている。


「兄ちゃんもやらねぇのか?ほら石あるぜ」

「…………」


比較的背の高い部類に入り、武器に錆びた甲冑とライは、人込みの中でも目立つ。

隣にいた男は、まだ石を投げていないライに、善意で石を渡したが。

ライは無視をした。ライはただ、見に来ただけなのだ。


「……ふん」


訝し気に、ライを見た男だったが。相手は錆びた甲冑を纏い、武器を背負う騎士。

態度に腹をたてて、喧嘩を売ったところで、返り討ちにあうくらいは、男には予想できた為。

変な騎士を、鼻で笑ってそそくさと去っていった。

やはりライは、気にしなかった。ただ、見ていた。


「…………」


ルマの死体は、悲惨そのものだ。

ヴェッセと違い、大きな情報を得られないと判断され。

僅かな期間であるが。

徹底的な拷問を加えられた痕は、フィラキによる傷を隠していた。

もっとも、死んだ以上、ルマには何の慰めにはならないだろう。


今回の件で、黄金教団から分かったことは。

黄金教団にはある黙示録があり。

そこには、再来せし黄金時代。その破戒者は、青い心臓持ち光放つ者。

これを直ちに排除すべし、さもなく破戒者により、黄金時代の再来は永遠に失われるだろう。


つい最近。青い心臓と光を放ったライからすれば、ろくでもない預言書があるということ。

海に沈んだと、ライが虚偽の報告をした。

ネージュが閉じ込めれていた、或いは孕んでいた青い輝石にはやはり。

白い輝石と、同等の力を秘めている事。


そして、白と青、それが合わさった時に、生まれる紫胞の鍵。

ヴェッセが使用した姿を見て、化物になっていく様を直に見たライは。

鍵の存在と生産方法、そして利用法を知った時。


元より、自身の過去を何故か知っており。

どう扱うかはさておき。手放す気はあまりなかったが。

迂闊に、再び青い輝石となる可能性が捨てきれないネージュを、離す訳にはいかなくなり。

今回の白竜教会の詰めの甘さ、ネージュのこと、紫胞の鍵、様々なことに大きな危機感を抱き。


ネージュの件含めて、ライの上長である、冥炎三獣騎士団団長。

明日からの、帰還へ向けて行う旅の目的地。

豊穣と寝起くの地、エーリス。


その地を治め、白竜騎士最強の名を、数百年保持しているライの師匠。

アーディッシュに報告した。


もし仮に、白と青の輝石の合成物、紫胞の鍵による、化物の量産化。

などと言う悪夢が起きたら、東の地に押し込んでいる状態である。

白竜教会と黄金教団の勢力図が、大きく変わっていたかもしれないからだ。


元々黄金教団が秘術を使うまでもなく。腐物や、化物と言うのは正亜大戦の頃より、一定数いたが。

10年ほど前から、腐物や化物の被害が、目に見えて増えているのだ。

その裏には、黄金教団が間違いなくあり。

そして10年前に、黄金教団が持ち去ったという。

白い輝石の存在が、間違いなく関わっているだろうことは、想像するに難くはない。


そして遠くないうちに、熱狂的再征服運動。

数多いる国々が人を、黄金教団支配する東の地に派遣し。

かつてあった大戦。正亜大戦直後は、全て白竜と聖王の土地だった物を、略奪した黄金教団から。

正義と神罰の名のもとに、再制圧或いは略奪を行う大軍。


聖白竜旗|カタラゲー・カタルシス《呪いの地、浄化》軍。


主に、浄化軍と呼ばれる。

数年に一度の祭り事のように、白竜教会は適当な征圧と、狂った略奪を。

ライが生まれる前から、何度も行ってきたが。

事の次第によっては、大真面目に。


黄金教団自体の殲滅か。

最低でも、腐物化物を生み出す。謎の白い輝石の奪還まで、征服しなければならない。

いや、しなければ。

やがて、白竜教会圏の土地を覆いつくす腐物、選りすぐられた強い化物が人民を襲い始め。


対応しようにも、白竜騎士には数の限度があり、不死身ではなく。

それらの手が届かぬ地の人々は、蹂躙され、略奪される。


最悪、今白竜教会が発行している。

地図の半分以上は、黄金教団の勢力図になるまで、逆に征服され追い込まれるだろう。

それが現実にならないことを、今回の仕事が運よく。

最悪を偶然回避できたと、ライには不安を残しつつも、思うしかなかった。


一方で、ラタン村の長の息子。と言うことになっているギョウ。

長の息子ギョウが、ポート族の嘆願書を持参し。

責任を負い、自ら自首したと聞いたライは。ラタン村の領主や、白竜教会の。

後処理を任せられた者達から、確認はされたが、ただ静かに頷いて返した。


ギョウであれ、キーナであれ。

ポート族が二度と過ちを起こさない為の、見せしめの犠牲だけは。

どれだけライが、統治者を噛みつける権力を持っていたしても。

より多くの人々の為には、避けられない。その犠牲は必要なことだ。


だが、わざわざ指摘して。

ポート族の死体が二人よりは、一人で済むならば、それでいいではないか。

ライはそう思っただけだ。そこに、ポート族達や、ギョウへの慈悲はなかった。

きっと、なかった。


それよりもライは、徹底的に。

ラタン村の領主に、今回のラタン村の事件に対しての、統治の責任を追及した。

ポート族であれ、なんであれ。

黄金教団に、軽戦艦という戦力が完成させるまで長期間。


黄金教団へ大きな対策をしなかった所か、甥が殺さるまで存在に気が付かなかった、領主の血族全員に。

白竜教会の立場から、統治者としての責任を問うた。

そして、これは領主だけではない。

ラタン村近隣の、治めるだけの権力を持つ者にも、書類にて追求した。


これは、あくどい宣伝だ。

ライの意図に気付き、同乗して、領主の統治能力の責任を問い。

我こそは、真にラタン村に平和を齎す者なりと。統治権を求める声が出れば。

完全に乗っ取るまでは出来ずとも。


今回の件で、白竜教会から信用が落ちた領主ということもあり、ラタン村が共同統治になれば。

領主は今までのように、ポート族に、悪戯に手出しする訳にはいなくなる。

土地に住まう者達は、治める者達の財産だ。

そしてそれが共同であれば、共に治める相手の物を傷つけることになるからだ。

白竜教会も、この反省とばかりに、しばらくの間は、領主が蛮行せぬように、目を見張る事だろう。

ラタン村の事件で、白竜教会も少なからず、損失は起きたのだから。


だが、全てうまく事が運んだら。

という前提の話だ。

しかし、もし全てうまくいったら。

勇者ギョウの犠牲と、ライを送った数枚の書類で。

残されたポート族は救われる。


と、思うかもしれないが。

ライからすれば、ここまでやってようやく。

残されたポート族の者達が、死に体の状態から立て直し。

これから始まる、真の戦いに気が付けるだろう程度の認識だ。


真の戦いとは、これから間違いなく入植されるだろう、身分の低い正人達の存在だ。


ポート族は今まで以上に、重い税を課せられる。

これもまた、避けられない。彼ら全員が背負うべき責任だ。


当然、100人と少しの人数で納めていた税を、女子供含めて。

30人と少し程度しか残らなかった彼らに、納められるわけがない。

けれども税は、納めなければならない。


治めなければ、今度こそポート族は滅亡するまで狩られる。

だから、今まではポート族と言う、亜人のみで閉じた村だったラタン村に。

大量の貧困している正人が入植し、共に生活を始める。


何年もすれば、ポート族の子供達は大人になり、子孫を繁栄し。

先祖の負債を返すべく、恨みながらもせっせと働くだろう。


ここの子孫繁栄が問題だ。

閉じた村でなくなった以上、正人とのまぐあいは。

純粋な結びであれ、領主や白竜教会の、余計な政策であれ。行われる。

その時だ。


獣のような耳、魚のような姿といった。亜人達のように、体にこれといった大きな特徴がない。

正人。

その唯一にして、最凶と言える力が発揮される。


それは、他の亜人を孕ませ、孕む力だ。

白竜の加護なくとも。

その力だけで、正亜大戦の混乱の後に、肉体は優れている亜人を追いやり。

正人優位の社会が出来上がったと、断言しても良い。


獣の亜人と、魚の亜人がどれだけ交わっても、子は成せない。だが、正人は出来る。

獣の亜人と正人の混ざり者、彼らも魚の亜人と交わっても、子は成せない。

だが、獣の亜人と正人の混ざり者と、獣の亜人と正人ならば問題なく。子を成せる。


これがどれだけ恐ろしいことか。

言うならば、正人による長期的なポート族の文化浄化だ。


領主たちの間に、ポート族文化の保護などいう思想が現れない限り。

確実に純血ポート族の人々は、正人の血により。

混ざり者となって消え去り、混ざり者が増え。

さらに正人の血が増して、正人に近い混ざり者の子が生まれるにつれて。

ポート族の人々は、こう思うだろう。


いつからだ、元からいる地にいる自分達が、圧倒的少数派になったのは。


結局のところ、ギョウもライも、何も救えてはいない。

ポート族そのものが滅びる速度を、一時的に緩めただけだ。

遠くない滅びの未来は、何も変わってはいないのだ。


ライは、拳でアーメットを叩き。

チンチンと音を立て、首を振った。

ここまで考えること自体、余計だったのかもしれない。


結局は強き者が生き残り、弱き者が死ぬ。

白竜教会(ライ)黄金教団(ヴェッセ)ポート族(ギョウ)

この中で、今は強いのが白竜教会だった。ということだけだ。


弱き者は、滅びを受け入れるべき。

滅ぶのが嫌ならば、足掻き続けるしかない。

強き者も、一度ならず足掻いたのだから。


帰ろう。

ライは見続けた所で、何も変わらない死体を見るよりも、歩き出すことにした。

だが突然、周囲が騒ぎ出して、ライは足を止めた。


「何だ何だ!」

「誰かが罪人の元に走ってるぞ!あぶねぇ石投げるな!」


ヴェッセ達とはまったく無関係の、黄金教団の仲間が潜伏しており。

異教徒に晒される同士ルマの、死体だけでも取り返しに来たのか。

ライは、腰のサーベルを手をかけ、広間の中心にある死体に向かう人物を見て。


「――止めろ」


思わず、そんな言葉を出してしまった。

死体に、ギョウの死体向かう人物は、キーナだった。


ライは瞬時に、キーナがやろうとしていることを悟った。

その動作は、迷いさえなければ一瞬で事済む。

だから、周囲への衛兵では間に合わない。


だがライには、まだ間に合うと確信していた。

凶行を止められると確信して、飛び出した。


死んでほしくはなかった。


キーナが死んだら。

何の為に、ギョウが生贄になったのか。

何の為に、ギョウ達戦った者達が命を賭したというのか。


それをキーナが知らないはずはない。

だから、キーナは生き続けてくれる。彼らの想いを背負い。

彼らの守りたかった物を、これから始まる戦いを、戦い抜いてくれる。


その道にあるのは、生半可な苦労ではないだろう。

けれども足掻き生き続け、どんな苦境の中でも。

あの善良なポート族の誰もが、結束し歩き続ける意志を、持ってくれる。


そう思ったからこそ、ライは少ない慈悲を与えたのだ。

そう思ったからこそ、ライはギョウの嘘を見逃したのだ。

それが、こんな下らない場所で散らしてなるものか。

こんなにも早く、一人目の脱落者を出して堪るか。


ライは民衆をかき分け走り、キーナを止めようとした。

このままならば、俺ならば間に合う。

そう確信していた。


(何故だ……)


だが、ライの体は、急速に勢いを無くし。そして止まった。


群衆をかき分ける甲冑姿は目立ち、ライに気が付いたキーナは。

僅かな驚きの表情と共に。

申し訳なさを含めた、困ったような笑みを浮かべて一言。ライに言葉を口の動きだけで、告げた。

それが、金縛りの力でもあるかのように、ライを止めたのだ。


「ギョウ、いつまでも一緒です。愛しています」


そして、止められる者がいなくなった。

それ故に、事は一瞬だった。


ギョウが持っていた銛、隠し持てるように短くされた銛で心臓を一突き。

一切の迷いなく刺し込まれた銛は、キーナの命を確実に断ち。

静かに倒れるキーナを、駆け付けようとしたライは、誰よりも近くで見るハメになった。


「い、いやぁああああああああああ!!」

「何だ!何だ!?さっきから何なんだ!」

「分からん逃げろ!」


広場の人々は、物言わぬ死体を見て。石をぶつけに来たのであって。

人が死ぬ様を、見に来たのではない。

最初から処刑と言う手筈を踏んでのことならば、ここまで混乱は起きなかったかもしれない。

だが、悪評名高い黄金教団。そして仲間意識が、正人よりも比較的強い亜人への見せしめ。


これに激怒した、どちらかの者達による、報復の合図だ。

過剰と言えば過剰であるが、馬鹿にできない。

そんな被害妄想によって起きた、混乱が混乱を呼び、周囲は大慌て。


衛兵も、混乱によって起きる怪我人を抑えようと、鎮圧に動き。

突然飛び込んだライも、自殺したキーナも気には留めなかった。


「―――ッ!」


そしてそれは、対応としては正しかった。

あらん限りに拳を握るライは、怒りで包まれていた。

仮に化物が現れようとも、武器に頼らず。素手で殴殺できるまでの怒りに、包まれていた。

その拳の、憂さ晴らしの先に、幸運にも、衛兵は選ばれなかった。


広場で一人、立ち尽くす中。ライはキーナの事を考える。

ギョウへの操を立てているつもりなのか。死んで何か意味があったのか。

こんなことをしたところで、先に死んだ者達の裏切りにしかならないと、分からないのか。

何故、命を思いを託されて、歩き続けてくれないのか。


ライの心の中で、徐々に荒れていく感情。そして、その中で中心となる疑問。


「ありがとう」


何故ギョウを、戦った大人達を、ポート族を死に追い込んだ者に。

こんな瀬戸際で、そんなセリフが言えるのか。


「醜く恨めよ……狂うまで怒れ!屍肉食の獣が如く。喰らいつき!生き続けろ!!」


ライは死んで天にいるか、地にいるか分からない相手に、声を張り上げて主張する。

ライが生き残ったキーナから聞きたかったのは、感謝の言葉ではない。


恨み込めた目で、汚らしい怒りの言葉を吐き。ある条件を除き、不死身に近い。

骨人ですら、死に追い込むような苛烈な殺意なのだ。

生き続ける意志なのだ。


「生き続けろよ……そんな生き方をして、厚顔無恥に生き続け、殺し続け。歩き続けている俺が、ここにいるんだよ……!生きるのは恥ではない。恥ではないんだ!!それなのに――ぐっ……何故……あんな言葉を言ったんだ……」


ライには、自ら死を選んだキーナが分からなかった。分かりたくもなかった。

自分で死ぬような弱者に、光輝く強者でありたいライは理解したくなかった。


「…………」


長いため息が、ライから零れ出た。

それはもう、今度こそ見るべきも、何もするべきでもない。

そう代弁しているかのような、ため息だった。


とても不愉快で、とてもとても腹立たしい。

決して空しいだなと思ってなるものか、決して悲しいなどと思ってなるものか。

ライは、ポート族のギョウ、キーナ。その他黄金教団の取るに足りない者達。

全て怒りとして喰らい、心の底にある闇に飲み込み。


静かに震える肩を、冬へ向かい寒くなる。秋空の仕業と思い込み。

ライは、歩き出した。


三人称なのか、一人称なのかごちゃまぜになっている気がする文章を、ここまで読んでいただき、ありがとうございました。

書いていけば慣れるようなので、これからも精進しとうございます。


序章はひたすら、何か起きた→解決するの繰り返しでした。

その中で、序章1ではティクから見たライ、2ではフィラキから見たライ。そして3ではライ自身と。

錆びた甲冑を纏い。救いが欲しいけど、そもそも救いとは何ぞやと悩み。

悩みを信頼できる相手にすら打ち明けず。骨を削って戦う騎士ライと。


そんなライが好きになったばかりに、いつかぶっ壊れるのではと不安を抱く。

余裕のあるお姉さんキャラを被った。実際には、ガッチガチの怪物。

でも、逆に壊れかねない程繊細で儚いフィラキ。


恋人のような、相棒のような。

そんなライとフィラキの過去がまったく出ず、序章が終わり。

そしてもう一人、ライ達の旅に加わったネージュが登場して、次回から1章です。


他の作家方の例にもれず。

私も評価クレクレクレクレクレ。

感想クレクレクレクレな人なので。

気が向いたらブクマなり、評価なり、感想なりお願いします。


ではまた書き終わりましたら投降します。

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