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序章-3 夢の果て18

ラタン村の避難所は、軽戦艦を停めてあった、入り江と決まってた。

ギョウが入り江にたどり着いた時。数少ない生き残った者達から。

戦いから逃げて、生き残った裏切り者と、非難の声が上がると思っていたが。

全身に、決して軽くはない傷を負い。


長の娘であり、初夫婦の相手となるキーナを、見捨てず守り切ったギョウに対し。

よくぞキーナと共に生き残った。

そう、歓迎はされたが、非難の声は一つとして上がらなかった。

ギョウは年甲斐もなく、その温かさに、心の中で泣いた。


「残ったのは、これだけか……」


ポート族の生き残りは、そう多くはない。

多くの大人が犠牲になり、女子供も焼夷弾の火により少なくはない犠牲が出た。

100以上はいた、けれどもギョウには、ほぼ全員の名前が言える、知人の大半を一夜にして失った。


全員、意気消沈していた。

希望に満ちるはずの明日を考えるのが、怖かったのだ。


「船の化物が!」

「船が壊れていく……」


黄金教団による裏切りで、長ギョルドは殺され、村が焼き払われたのは知っている。

どういう経緯があったのか、何故か突然、船から根が生えた、恐ろしい化物になったのも知っている。


何十というポート族の大人達を、斬り殺しておきながら。

裏切った黄金教団の砲撃を止め、化物となった船と天を駆ける馬に乗り、戦い討伐した。

錆びた甲冑の騎士の活躍を、残された人々は入り江より見て知った。


そしてラタン村から、化物の脅威は消え。

無差別の砲撃から、火からは一応助かった。その事実を少しばかり喜んだ。

だが。


「……どうすんだよ」


誰かが呟いた言葉に、話はふりだしに戻った。

そう、その錆びた甲冑の騎士の正体は、白竜騎士だ。

異教徒を、討伐する為に来た。そしてその異教徒とは、黄金教団であり、ポート族である。


殺される対象が、黄金教団と化物から、自分達に変わっただけではないか。

そう話が発展し、あとはあとはこれやと言っている内に。


「戦おう……」

「そうだ!先に死んだ奴らはポートンの為に誇り高く戦ったんだ!俺達も続くんだ!」

「僕たちもやる!」


ギョウが最も恐れていた事態となった。

玉砕だ。


今度は大人だけではない。女も子供も混じった、民族総玉砕と言う名のただの集団自殺だ。

確かに、ライは化物と戦い消耗しているだろう。


だが、そんな理屈だけで。

化物を屠ったライと、ほとんど戦の経験がない者達が。一斉に集団で襲ったくらいでは。

ギョウは確信できる。ライには通用しない。


そう、戦の端くれでも知るギョウでは、絶対と言える程には、ライには実力があり。

一度殺すと決めたら、どこまでも慈悲なく殺せることを、ギョウは知っている。

ギョウからすれば、彼らの言葉は。

殊勝にも、ポートンの信仰の為に、勇気ある戦いに挑む者達ではない。


俺達自殺します!!

私達自殺します!!

僕たち自殺します!!


そう言った、自殺宣言にしか聞こえないのだ。

冗談ではない。ギョウの肝が冷え始め。


「ギョウ!頼む俺達を導いてくれ!お前がいるなら、怖い物なんてない!」

「そうよ勇者ギョウ!」

「ギョウ!ギョウ!ギョウ!」


ギョウ!頼むから死んでくれ!お前が死んだら俺も死ねる!

そうだ先に死ねギョウ!

死ね!死ね!死ねぇ!


愛すべき仲間達の口から、そんな幻聴すらギョウには聞こえ始めた。

冗談ではない。ギョウの肝がいよいよ凍り。


「止めてくれ!!」


あらん限りの声で、ギョウは叫ぶ。

ポートンへの信仰の為に、戦い死ぬ。それならば、ギョウもやってみせる。

何故ならそうすることで。

ポートンへの信仰は、残された者達に"残り"、彼らが生き。

子孫へ、ギョウというポート族の人がいたと、語り継いでくれるならば、死も意味がある。


だが、今を生きる者全て消える。何も残らない戦いは、まったくの意味を成さない。

それにも関らず、何も残さないというのに、運よく生き残った者達は、戦おうというのだ。


「嘘だろギョウ?」

「しっかりしなさいよ、勇者でしょ!」

「勇敢なギョウはどこ行ったんだよ!」

「駄目だ!!」


喉が裂けてしまっても構わない。ギョウは無事とは言えない体に、鞭打ち再び叫ぶ。

そして生まれて初めて、ポートンにではなく。

同郷の人々に、仲間達に平伏した。

この程度のことで、勇者などというプライドを折る程度で。

彼らの凶行が抑えられるならば、ポート族が生きる道が残せるならば、ギョウには安いくらいだ。


「駄目だ……もうこれ以上誰も、誰も死なないでくれ……頼む……」


それは懇願であり、ギョウの紛れもない、心の底から出た本心だった。

ポート族という民は、重大な出血した。これ以上血を流したら、ポート族そのものが死に消える。

消えてしまったら、ポート族だけが信じてきた。

偉大なる海の神、ポートンはどこへ消えてしまうのか。

先祖が信じ、生きてきた証である自分達と神は。


いったいどこへ消えてしまうのだ。

分からない。怖い。ギョウにはそれが、怖くて怖くて、恐ろしくてたまらなかった。

何もかも消えてしまうのが、ギョウには恐ろしかった。


子供の様に、縮んで震える。

ポート族の勇気の象徴である勇者の、悲しくもあり、偽りもなく願う姿には。

ライと戦う以前に、ライという白竜騎士の力を、ろくに見てすらもおらず。

運よく火から逃れ、生き残った者達は、口を閉じる他なかった。

ただ、納得しない者はまだいる。


「ふざけるな!俺はあの騎士が許せねぇ!」


戦いの際。殺されるまでは。巻き込まれなかった。

けれども、ライによって、見知った仲間が殺される姿を見た者は、それで納得はしない。

ライが仇であることは変わりない。


「俺は行くぜ!このまま、生き恥を晒すのはごめんだ!ただ生きて、白竜へ改宗するのもごめんだ!」「それでもいい!消えるよりはいい!何故だ!?ライを見たらならば、何故死に行こうとするのだ!?」

「今誇りある死の方がいいからだ!明日に待つ,みじめな人生よりはずっとマシだからだ!!いいや、そもそもだ。領主も、白竜教会も連中も、ただで俺達を許しやしねぇだろ!」

「それは……」


そして、やはりふりだしに戻るのは、そもそも今回の件の責任をという話だ。

黄金教団にかかわり裏切った。

そんな亜人のポート族が、何をしたら許してくれるというのか、という話だ。


領主も、白竜教会も、ただでは絶対に許さない。それだけは確か。

死ぬ寸前まで貧困に追い込むような、過剰な課税だけ。領主の兵も、白竜教会の兵も司祭も殺した。

ポート族という、個人ではなく集団を許しはしない。


ならば、ポート族が生き残る術はただ一つ。殺しをしたら、殺されなければならない。

つまり、死は必要だ。


生き残った中から。異教の神を信じる者達に、自ら進んで平伏して、許しを貰う為に死ぬ。

その役割を仲間から選び、異教の神に、贄を出さなければならない。


彼らにとって、圧制してきた異教の神に、媚びへつらう為に死ぬ。

誰もが首を振る、贄が必要だ。


「誰がこの責任を取るって言うんだよギョウ!俺達どうすりゃいいんだ!!?」

「…………」


どうすればいい。そう問いかけた男に、ギョウはライとの会話を思い出し。


『やはり神に聞いてくれ。まぁ、俺も一度聞いてみたが、神は何も教えてくれんかったよ』


ギョウは、心の中でポートンに、そっくりそのまま問いかけてみた。

そして周囲が沈黙に包まれた状態で、じっと答えを待っていたが。

ライの言う通り、ポートンは何も教えてはくれなかった。


「責任とる。でしたら、適任がいるではないですか。長の娘である私が」


そんな中である、いつからか起きていたのか。

だが、普段にはない凛とした声で話すキーナ。

そこには、その先にある。

絶対に避けようがない結末を、理解して尚。受け入れる意志を固めた目があった。


「だから、もう止めましょう。我らの偉大なるポートンも、皆がいなくなってしまっては、きっと悲しむことでしょうから」


優しく諭すようなキーナの言葉に、ようやく生き残った全員が。

玉砕を諦めた。


この、偶然長の娘として生まれただけの女が、真っ先に自分達の罪を、全ての背負うと言った。

一人では、異教の神に身を捧げ。

ただで死ぬことが出来ない者達の代わりに、キーナが身を捧げると言ったのだ。

ただの死ぬ事だけは、恐れる者達に。異を唱えることは、誰も出来なかった。


「ギョウ」


ギョウもまたその一人であった。


嘘だと言ってくれ、そんなことをする必要はない、そんなことをさせる為に、身を張ったのではない。

死ぬならば、勇者などと呼ばれて、思いあがった俺が死ねばいいのだ。


そう、様々な言葉が浮かんではいるが、消えていき。喉元から出ることはなかったギョウ。

けれどもキーナは、ギョウを傷ついた頬を、愛おしそうに優しく撫で、語りかけた。


「あの人に、言ってください。私を助けてくれてありがとう。ギョウを救ってくれてありがとう。と」


しかし、その言葉が切っ掛けで、ギョウに悟った事がある。

ギョウには知らぬ絶望の果て、ライは神を嫌いなった。だが、自分はまだポートンを信じられる。


何故なら今。ここに自分が生きているのが、ポートンによる啓示にしか、ギョウは思えなかったのだ。

同時に、今は亡き友に心の中で呟く。


すまぬ友よ。俺は勇者失格だ。

夢は現実に出来そうにない、けれども勇者として、最期に希望だけは残してみせる。

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