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序章-3 夢の果て16

召喚馬というのがある。

それは見た目こそ馬ではあるが、普通の馬と比較し。


勇敢にして忠実。

屈強なる力を持ち。

地を踏み、水を踏み、空を踏み。

騎手をあらゆる場所へと、運ぶ。


だが、同時に謎の多い生物でもある。

契約者が名を呼び空を切る、その動作により召喚される。


まったくもって、生物というには謎な現象により、出現する。

しかも、飯は干し草や果物といったものではなく、契約者のテロス。

繁殖方法も不明、召喚されていない間、どこにいるのかも不明。


ただ、判明している召喚馬の共通点は、戦う者には、誰もが羨む最上級の馬であること。

持っている者は皆、相応の強者と呼ばれる者達であること。

額には、契約者のテロスの性質を表すという、玉が埋め込まれていることだ。


そんな見た目は馬ではあるが、やはりただの馬と言うには、別物故に召喚馬。

ライは、軽戦艦と同化した化物と言う、巨大な敵を相手にする為。

テロスの消耗が激しい愛馬、デロスをバスタードソードで空を斬り召喚した。


「ブルゥオオオオオオ!!」


逞しい筋肉を覆う灰色の馬鎧、そして黒い色の玉が額に埋め込まれているデロス。

勇ましい声と共に、ライの召喚に応じて参上する。


「行くぞ、デロス」


ライは軽くデロスの首筋を叩いから、飛び乗る。

謎だらけであるが、頼りになる馬には、人と言うのは愛着を持つ者だ。

ライもそこは例外ではない。


だが、スキンシップをする時間があまりない為。

ライは左手に手綱を握り、右手には武器であるバスタードソード。

ない眼を、軽戦艦の船首を削りながら迫る。

ヴェッセに狙いを定め、甲冑の靴の踵にある拍車で、横腹を叩いて合図を送り。

デロスが地を強く踏みしめ、疾駆する。


「そこかぁああああああ!!?」


その馬にして大きな、駆け出す音で、ヴェッセがライに気が付き。

右腕の巨大な腕剣を、ライに向けて振り下ろす。巨大故に、その動きはやはり鈍重だ。

しかし、強大な建物が落ちてくるような、威圧感があることには変わりない。


並みの馬ならば、怯えていたが。デロスは違う。

並みの戦士ならば、引き返していたが、ライは違う。


ライ達は真っ直ぐ突き進む。

なぜなら、デロスは勇敢で。

ライはバスタードソードで、ヴェッセの腕剣を受け止める自信があるからだ。

だが、それはスマート(賢明)ではない。


「はっ!」


ライは再びデロスに合図を送り、デロスはライの考えを読み取り、寸分違わず実行する。

ヴェッセは確かに剣を振った。その大きさに見合った威圧感もあり、威力もあるだろう。

だが、当たらなければ意味がない。

デロスはヴェッセの剣を、タイミングよく跳躍して躱し、そのまま。

振り下ろされたヴェッセの腕剣に乗り。

肩であろう部位に向けて、駆け上がる。一人と一匹、その行動は息が合っていた。


何故ライが肩に向かうのか、理由は当然。その先にある、ヴェッセの頭を斬る為だ。

化物であったとしても、人型の形をしている以上。やはり基本は頭か心臓が、生物として、弱点と言える弱点なのだ。

違うとしても、とりあえず殺すために斬ってみる場所として。この二点の以外を選ぶ理由はあまりない。


「ぬぅぅううう小癪な!」


しかも、ヴェッセはわざわざ乗られている腕から、根のような触手を生やして抵抗しているのだ。

守ろうとしているということはやはり、斬られたくはないのだろうか。

ライはそう判断し。

右手のバスタードソードを、忙しなく振るって根を斬り落とし。

ダン、ダンとデロスが腕剣を強く踏み、空を踏み。周囲が線に伸びたかと、錯覚する程の速さで走り。


「おのれぇええええ!!」


頭部、というには少し奇妙。

口のように動く部位があるが、全体的に根が丸い形を作って、ただ蠢いているようにしか見えない顔。

その顔の真横から、バスタードソードで横に斬った。


「――なんだ?」 


だが、違和感を覚えたライは。

デロスに空を踏ませていると、消耗するテロスが激増する為、着地するべく軽戦艦の甲板へ落ち行く中。

握るバスタードソードを、改めて確かめるように握り直す。


剣を通じて木の枝を、何本も束ねたような物を、斬る感触自体はライは感じた。

実際に、ヴェッセの顔を半分以上は斬った。

だが、もっと生々しい感触を、ライは得ていない。


致命傷所か、傷を与えられている感触自体、ライは取れなかった。

その証明のごとく、化物であっても一応は流れている血が出ておらず。

大した問題ではないとばかりに。

根が、斬り裂いた箇所から生え始め、すぐさま顔の再生を始めた。


さてどうするか。

ライは思考を始めたが。


ライとデロスが、甲板に着地した瞬間。

目の前からは根の触手、周囲には根を体内に埋め込まれ、無理矢理体を動かされている腐物。

後方からは左腕がふじつぼ、あるいは、ぶどうのよう。

もっとも豊穣を齎す実ではなく、死と破壊しか齎さない大砲である。

そんな、ラタン村を焼き払った16門に加えて。

払わなかった16門が追加されて、32門の砲口が、ただライ一人とデロス一匹を狙う。


(弾はもうないと思ったんだが)


砲弾は自体は、ライはある程度は使い物にならないように細工した。

砲門を向けているが、無意味では。

そんな疑問を浮かべたライに。


バババババババ――!!


並みの大砲ではありえない連射速度で、砲から弾が飛んだ。


砲弾を飛ばす起の火薬の代わりに、砲弾を発射させるのは。

化物になったことで、ヴェッセが得た、黒いテロスの放出。


そして弾は、頭、手、腕、肩、腹肉、膝、脛、脚。

おそらく軽戦艦と同化した際に、飲み込まれた腐物か黄金教団の同士達の物であろう人体。

名付けるとしたら、肉砲弾。


なんとも、悪趣味な砲弾だろうか。

直撃こそライは避けているが、黒いマントと、デロスの馬鎧が。

黒い血と肉が付着し、染められていく。


だが注視するべきではそれだけではない。

甲板からぞくぞくと生える根の触手も、腐物も相手にしなければならない。

ライは、意味はないはずの、一呼吸すると。


甲板上でデロスを縦横無尽に、ライは駆け巡らせ。

右手にはバスタードソード、左手にはセレネスのハルバードで。


斬、斬、斬、斬、斬、斬。


目に見える物、目に見えない物。

いや、そもそも骨人であるライには目がない。

訂正しよう、敵と危険と認識した物を全て、ライはただ両の手を振るい斬り捨てる。


「ふっ――」


デロスに乗って世界が、自分が加速されたような錯覚の中で。

ライはもし落馬したならば、何らかの原因で骨人とバレたら。

そして、"骨人が持つ唯一無二の弱点"がバレたら。

戦いの中で忘れてはならない。

命を守る上で重要な、最悪の状況を考え続ける思考が。


バッサバッサと、根を、腐物を、肉砲弾を斬っていく中で。

まったく気の抜けない。

落馬したら袋叩きになろう、危険の中で。もしかしたら、有りうる死の上で。

沸き上がる高揚感により、思考がかき消されていく。


ライは今だけは、骨人であることも、白竜騎士である事も忘れ。

瞬間、瞬間を生きる者として、生という名の美味を、喰らう為に戦いに集中する。

甲板の上で生き残るべく。生きて化物を殺すべく。殺して勝つべく。勝って優越感に浸るべく戦う。


ライはこんなときにこそ、思う。

戦いだ。こういった戦いはいい物だ。


俺は決して、命の危機が感じられないような。

肉体的にも、社会的にも弱者である者達を、甚振る低劣な男ではない。

生と死を、行ったり来たりと繰り返し。

堂々として、誇れる。命の危機ある戦いの上で、勝利をもぎ取る強者でありたい。

誇り高く、光輝く、強い者でありたい。


そうであってこそ、俺は光輝くのだ。

もっと強く、光輝けるはずなんだ!

光り続けた先に、救いはあるはずなんだ!!

なければいけないんだ!!!


「オオオオ゛オオオ゛オオォォ!!」


ライの放つ咆哮は、気品を良しとする騎士の像とは、かけ離れた狂気。

けれどもライが戦いの中で、生き、戦い、勝ち、光る為の声なのだ。


「失せろ破戒者め!!」


ヴェッセが腕剣を振り下ろす。

その先に、ライがいるが、同時に自らの体である軽戦艦もある。

躱せば自滅するかもしれない。だが、ライはあえて受けて立つ。

無論、狂気だけに満ちた。馬鹿の考えなしではない。確かめたいことがライにはあった。


それでもやはり。無駄に腕剣を受け止めようと、ライは考えているのだから。

隣にフィラキがいたならば、やはり馬鹿と罵られるだろう。

だが、ライはそれでも。


「はぁあ!!」


振り下ろされるヴェッセの腕剣。その巨大な刃を、自らの右手にある漆黒のバスタードソードで迎え。


今夜二度目の轟音が鳴り響き。


「何だと……!?」


ライは、バスタードソードと自らの力で、遥かに巨大なヴェッセの腕剣を受け止めた。


その代償であるかのように、ライとデロスとヴェッセの剣の重みに耐えかね。

甲板が割れ、床に穴が開く。

普通ならば、ライがデロスごと船底に落ち。剣がせり合う状態になるのは、不可能だ。しかし、召喚馬。空を踏むデロスの上では、最初から地の上だろうが、船の甲板の上だろうが関係はない。


だが、ヴェッセが驚いたのは、召喚馬ではない。それは今更だという物だ。

ヴェッセが驚いたのは、ライのただ純粋なまでの力。


振り下ろしと振り上げ。

どちらがより、力を発揮しやすいかは。

馬上の騎士と、地にいる兵士。

古来からどちらが優位とされるかを、想像すれば容易い。


挙句。ヴェッセには、体となっている軽戦艦と言う。

土台があるにも関らず、ライは鐙があるとはいえ馬上。

条件は遥かにライが悪い。それでもライは、拮抗する所か、押し返し始めていた。


ヴェッセはようやく。

最初に討ち合った時に、途中でライがわざと、力を抜いたから飛ばされたにも関らず。

打ち勝ったと、だから二度目はライが腕剣を脅威と感じたから避けたと。

誤った認識をしたことに、気が付いた。

そしてヴェッセは、一度目の時点で、もう一つの事に、気が付くべきだった。


ライはバスタードソードを右手で振り上げた。

片手で、振り上げた。


バスタードソードとは、片手で持つには長く。両手で持つには短い。

雑種混血を意味する物だ。

そして、何も片手だけで振るう物ではない。


「うぉおおらぁあああああああああっ!!」


ライはバスタードソードが、腕剣とせり合う中で。

ハルバードを、馬鎧の留め具へ預けると、左手をバスタードソードの柄に掴み。

ライの両手で握られたバスタードソードは、両の手から流れる。

ライのテロスの恩恵を得て。

ヴェッセの腕剣を、ヴェッセのテロスを切断した。


「ブルォオオオオオオオ!!」


それが合図かのように、咆哮をあげる。

主は勝った。そう宣告するかののように。


「無駄だぁああ!!」


だが、決着はまだ終わってはない。

ヴェッセは死んではいない。

腕剣を斬られたことは、ヴェッセには想定外だったかもしれないが、切断面からすでに、根が生え再生を始め。一先ずは、剣の攻撃を諦め、左腕の大砲達でライを撃つ。


化物は、殺させねば全て無駄なのだ。しかし、それを知らないライではない。

ヴェッセが叫ぶ前には、肉砲弾を避けて動き出していた。

狙いは変わらず、ヴェッセの頭。

デロスは、太くなく足場の悪いマストを、知らぬとばかりに駆け上がり。

その背の上には左手にハルバードを持ち直した、腕を逆十字に構えたライ。


「暴食の破剣」


技を唱え。

両腕を広げると、漆黒のバスタードソードが赤黒い光に包まれた。

そして再び。ヴェッセの頭上まで、デロスと共に駆け上がると、ライは自らが使えるテロスに限界を感じ。消耗が激しいデロスの召喚を、解除すると同時に跳躍。


迎撃とばかりに、撃ち出される肉砲弾を、ハルバードで斬り捨て。

顔の周囲から放たれる。

根の触手達を抑えるべく、ライは願い呼べば、回収できるハルバードを一度手放し。


重く丈夫な、毒草の彫刻短銃。

化物を相手にする為に、特注で作らせた。

その、破壊力のある銃弾に、耐える為に作れた。


特別な短銃を、ライは取り出し。

触手達に、引金を引く。

幸い的となる相手の顔も、人に比べれば巨大。

利き手ではない手であっても、ライの狙い通りに着弾し。

爆発によって、根は飛散、あるいは燃えて、根から生まれる触手の勢いはなくなった。


「うぉおおおおおおおおお!!」


そして、暴食の破剣。

ライのもっとも強力な一撃で、ヴェッセの頭上から心臓を巻き込むように。

腹までその赤黒い光で、真っ直ぐと振り下ろし、喰らい斬った。


「クックックッ……ハーハッハッハッハッハッ!愚か!愚かなり破戒者よ!無駄だ無駄だぁ!この程度の傷、意志様の加護を得た、私には軽い!!」


だが、それでも尚、ヴェッセは殺す事は出来なかった。

嘲笑い、ライを挑発するヴェッセの言う通り。


暴食の破剣による傷は、咬創。

それ故に傷治りは、例え化物であっても、多少は遅れているが。

頭上から、腹まで縦に斬り裂かれたとしても。

それだけ、大きな傷が生んだとしても。

殺さなければ化物は、体を治すことが出来てしまう。


治るのだ。だから、ライはじっくりとその傷の治り方を見て。


(……下から再生か)


嘲笑うヴェッセを無視してライは、自身の中で。

化物ヴェッセとの決着がついたせいか、闘争の熱が、ライからスッと消えていた。


そして、ヴェッセが傷を治しているからか。

根の触手や。根によって操られているに過ぎない、腐物の動きが遅いこと。

これらの条件を、冷静に機と見たライは、セレネスのハルバードを呼んで回収し。

肉やら血やらで、無残な状態になっている甲板を、足踏みで割り。

暗い船の通路を歩き。


「…………」


激しい頭痛と、骨人にはないはずの、心臓から青い光を発生させる。

そんな、謎の現象を起こした。青い輝石。

その前に、ライは再び立った。

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