表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
46/65

序章-3 夢の果て11

「軽戦艦はちょっと予想外だったなぁ。だが辻褄は合った」


文字通り、斬り取った家の壁を一先ず防壁にしておき。

あちこちで上がる戦火で、葉巻に火をつけて。

ライは口に咥えて、少し考えに耽る。


漁村の時点で、黄金教団の狙いは海路、つまり船が出ることは、ライにも想像できていたが。

せいぜい、ライの目標であるヴェッセとルマという名の二人組と。二人が大切に運んでいる積み荷を、海路で運ぶ為に、偽装を兼ねた商船が来るだろうな。

程度の考えでライはいたが。

ライの予想に反して、相応の資金と時間が必要な軽戦艦。

しかもいざ航海に出て海賊が現れても、戦える軽戦艦が、すでにそこにあった。


これは決して、あり得ない話ではない。

おおよそ、数か月という準備期間。

元より海に生きる民ポート族。


彼らの船の知識と、船の製造の為の技術力があるラタン村の住人達の協力があれば、資材と資金が確保できれば、軽戦艦ならばできても不思議ではない。

そして、船を動かすのは、物資等の調達は出来ないが。雑務程度ならば肉石の操作で出来、裏切られる心配がない腐物だ。


船が完成し、積み荷を運び終えた時点で。

所詮、白竜教会にも疎まれ。黄金時代の素晴らしさを理解できない。異教徒の亜人が住むラタン村を焼き払い。一時的に港としての機能を壊滅させ、追手が出る前に、逃げ切れる算段がついたからこそ。


腹いせに、白竜を信仰する領主の甥は殺して、今も丁寧に、散々邪魔をしてきた自身を焼き殺そうとしているのだろう。そこまでライは思考し、葉巻を投げ捨てる。


やってられるか。


葉巻には、ライのそんな思いが込められていた。


「あーもう葉巻臭い」


火をつけ、口に咥えた時間はごく僅かだと言うのに。

隣で嫌な臭いを嗅がされたフィラキは、ライに苦情を申し立て、ライは主人としての威厳なく粗暴に返す。


「うるせぇ」


周囲は阿鼻叫喚だ。それでも、ライとフィラキのやりとりは普段通りだった。

言うなれば、軽戦艦の全砲門を向けられ火の手が上がり。

腐物が待ち受けていようが、化物が出てこようが、ライにとっては苦境の内にすら入らない。


何故なら化物を殺せねば、白竜騎士は名乗れない。

軽戦艦一隻程度、単騎で潰せねば白竜騎士は名乗れない。

相手が何であろうが、ライはやるだけなのだ。

すくりとライは立ち上がり、まるで一杯飲みに行くかのように軽やかに言った。


「さてと、さっさと軽戦艦ぶっ壊すか」


世の中に、こんな言葉を吐き捨てられる人間が、そう多くはいない。

だが、フィラキは戯言とはまったく思わない。

ライならば例え一人でもやってのけると、まったく疑うことなく、信じているからだ。

だからこそ、ライの腕がもう二本あったならばと考え、フィラキも立ち上がる。


「じゃ私は化物の相手をするわ、どうせ出してくるでしょうし」

「頼んだ。あとラタン村の連中が出たら……縛眼はもう使っていい」

「異教徒狩りなんて、してる暇はないものね」

「あぁ、もう十分殺したさ」


祈りの言葉を言わず、襲いかかって来たら殺す。

それがラタン村の人柄を見て、ライの裁量で決めた。ラタン村の人達に対する、白竜騎士としての断罪の動機だった。

襲い掛からなければ、ライは黄金教団は除くが。

ポート族に対しては、無用に血を流させるつもりはなかった。


そしてそれは、フィラキの眼をもってすれば、稀にいる耐性のある一部を除いて。動きを封じ込め。

とりあえず無理矢理、無罪を押し付けることも出来る条件でもあった。

フィラキの眼の使用を許可したのは、もう誰一人としてラタン村の人々を殺す気はない。

軽戦艦を真っ先に壊すのは、これ以上黄金教団にラタン村の人々を殺させはしない。

フィラキにしか伝わらない、ライの意志表明だ。


後世の人間は、ライ達の行いをどう評価するだろう。

神聖なる神の威光を異教徒に示した豪傑だろうか、はたまた無慈悲な殺戮者だろうか。

ライには分からないことで、特に興味はない。


ただこれから行うことは、救う為である。

ライはそう意志を込めて、左手に月光のハルバードを。


ただこれから行うことは、滅ぼす為である。

ライはそう願いを込めて、右手に漆黒のバスタードソードを。

二つの武器を両手に掴み、防壁を飛び出した。


ラタン村の戦いは、ようやく始まった。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ