序章-3 夢の果て11
「軽戦艦はちょっと予想外だったなぁ。だが辻褄は合った」
文字通り、斬り取った家の壁を一先ず防壁にしておき。
あちこちで上がる戦火で、葉巻に火をつけて。
ライは口に咥えて、少し考えに耽る。
漁村の時点で、黄金教団の狙いは海路、つまり船が出ることは、ライにも想像できていたが。
せいぜい、ライの目標であるヴェッセとルマという名の二人組と。二人が大切に運んでいる積み荷を、海路で運ぶ為に、偽装を兼ねた商船が来るだろうな。
程度の考えでライはいたが。
ライの予想に反して、相応の資金と時間が必要な軽戦艦。
しかもいざ航海に出て海賊が現れても、戦える軽戦艦が、すでにそこにあった。
これは決して、あり得ない話ではない。
おおよそ、数か月という準備期間。
元より海に生きる民ポート族。
彼らの船の知識と、船の製造の為の技術力があるラタン村の住人達の協力があれば、資材と資金が確保できれば、軽戦艦ならばできても不思議ではない。
そして、船を動かすのは、物資等の調達は出来ないが。雑務程度ならば肉石の操作で出来、裏切られる心配がない腐物だ。
船が完成し、積み荷を運び終えた時点で。
所詮、白竜教会にも疎まれ。黄金時代の素晴らしさを理解できない。異教徒の亜人が住むラタン村を焼き払い。一時的に港としての機能を壊滅させ、追手が出る前に、逃げ切れる算段がついたからこそ。
腹いせに、白竜を信仰する領主の甥は殺して、今も丁寧に、散々邪魔をしてきた自身を焼き殺そうとしているのだろう。そこまでライは思考し、葉巻を投げ捨てる。
やってられるか。
葉巻には、ライのそんな思いが込められていた。
「あーもう葉巻臭い」
火をつけ、口に咥えた時間はごく僅かだと言うのに。
隣で嫌な臭いを嗅がされたフィラキは、ライに苦情を申し立て、ライは主人としての威厳なく粗暴に返す。
「うるせぇ」
周囲は阿鼻叫喚だ。それでも、ライとフィラキのやりとりは普段通りだった。
言うなれば、軽戦艦の全砲門を向けられ火の手が上がり。
腐物が待ち受けていようが、化物が出てこようが、ライにとっては苦境の内にすら入らない。
何故なら化物を殺せねば、白竜騎士は名乗れない。
軽戦艦一隻程度、単騎で潰せねば白竜騎士は名乗れない。
相手が何であろうが、ライはやるだけなのだ。
すくりとライは立ち上がり、まるで一杯飲みに行くかのように軽やかに言った。
「さてと、さっさと軽戦艦ぶっ壊すか」
世の中に、こんな言葉を吐き捨てられる人間が、そう多くはいない。
だが、フィラキは戯言とはまったく思わない。
ライならば例え一人でもやってのけると、まったく疑うことなく、信じているからだ。
だからこそ、ライの腕がもう二本あったならばと考え、フィラキも立ち上がる。
「じゃ私は化物の相手をするわ、どうせ出してくるでしょうし」
「頼んだ。あとラタン村の連中が出たら……縛眼はもう使っていい」
「異教徒狩りなんて、してる暇はないものね」
「あぁ、もう十分殺したさ」
祈りの言葉を言わず、襲いかかって来たら殺す。
それがラタン村の人柄を見て、ライの裁量で決めた。ラタン村の人達に対する、白竜騎士としての断罪の動機だった。
襲い掛からなければ、ライは黄金教団は除くが。
ポート族に対しては、無用に血を流させるつもりはなかった。
そしてそれは、フィラキの眼をもってすれば、稀にいる耐性のある一部を除いて。動きを封じ込め。
とりあえず無理矢理、無罪を押し付けることも出来る条件でもあった。
フィラキの眼の使用を許可したのは、もう誰一人としてラタン村の人々を殺す気はない。
軽戦艦を真っ先に壊すのは、これ以上黄金教団にラタン村の人々を殺させはしない。
フィラキにしか伝わらない、ライの意志表明だ。
後世の人間は、ライ達の行いをどう評価するだろう。
神聖なる神の威光を異教徒に示した豪傑だろうか、はたまた無慈悲な殺戮者だろうか。
ライには分からないことで、特に興味はない。
ただこれから行うことは、救う為である。
ライはそう意志を込めて、左手に月光のハルバードを。
ただこれから行うことは、滅ぼす為である。
ライはそう願いを込めて、右手に漆黒のバスタードソードを。
二つの武器を両手に掴み、防壁を飛び出した。
ラタン村の戦いは、ようやく始まった。
 




