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序章-3 夢の果て3

夜が深い中ではあるが、ライとフィラキはラタン村に突入した。

そして、青い肌に鱗。見るからに正人ではない村人を発見すると、ライは近づき。

一度視線を、遠くにある木陰に向けた後。


「旅の者で名をライという、この村に宿はあるか?」


警戒心を剥き出しにして、銛の先端をライに向ける魚人の亜人に対して。

剣を握らず、両手を軽くあげながらただそう問いかけた。


「…………」

「そう警戒しないでくれ、何かあるって疑ってしまうぜ?」

「甲冑を纏い武器を持つ者を、警戒するなと言う方が無理があるのでは?」

「そうだな。だが、武器ってのは手に持たねばただの重りさ。銛を魚じゃなく人に向けるよりかは、両の手をひらひらさせてる奴の方が、健全とは思わないか?」


武器を持たず。交戦の意志がない事を両手で示し。要求するとしても、宿はあるかとしか聞いていないライ。ライを見かけるや否や、銛を構えてすぐにでも突き刺そうと姿勢を構える魚人の亜人。

名をギョウというが、今どちらが好戦的か分かるだろう、というライは問いかけに。


「…………」


ただ沈黙で返す。

ギョウは長であるギョルドに、ラタン村に近づく者は殺せと言われており、すでに幾人かそのヒレのある手でかけてきた。その中に、傷つき、命乞いをしてきた者であったとしてもだ。

ギョウも、殺したことを後悔しているが。

殺した以上、彼らの命の責任を負い。使命を全うする覚悟があった。


また、黄金教団の言う。

ポート族に伝わる神、ポートンを堂々と信仰しても良い。

東にある、黄金の地というものに興味があり、新天地へ向かう計画には賛同していた。

他にも、ライがいつ暴れだしても取り押さえ。

すぐに殺せるようにしなければならない、その理由もあった。


「…………」


ライも沈黙したままだった。

宿を尋ねる目的だったら、当然銛を向けて、話す気がまるでない、ギョウでなくてもよいが。

ライの本当の目的は、ラタン村に住まう者達を見る為にある。

積極的異教狩の許可、これによって無差別な殺戮を許されているが。


それとは別に、ライはラタン村の人々を見定めておきたかったのだ。

彼らは皆が救いようもなく、殺して冥府送りにする他ない。

指令書に書かれていたような、非道な人々なのか、ライは自らの目で確かめたかったのだ。


もし、ギョウが武器を向けるだけ何もしない。

そんな現状のような、閉鎖的な土地に突如現れたよそ者に対して、まだ健全といえる抵抗程度ならば。

ラタン村の人々に不必要な被害が出ないよう、立ち回ることを視野に入れるつもりだ。


だがよそ者だからと、問答無用で襲い掛かろうものならば。ライはギョウの持つ銛が、そこにない以上貫かれても。これといって、特に意味はないが、ない心臓を穿つよりも早く。

即座にギョウの首を、絞め殺し。

黄金教団はもとより、ラタン村の人々全員に対する異教狩を遠慮なく遂行していた。


ギョウの行動により、ライの裁量の基準が左右するのだ。

より正確に言えば、ギョウを含めた、場にいる"三人の動き"によって、ライの裁量が変わるのだ。

だが、それをギョウが知る訳がなく。じりじりとライの隙を伺う。


(……仕方ねぇ)


大義名分はあるが、それでもライは気乗りはしない。

刹那ごとに自らの命を確かめるような、熱のある戦い好きだ。

殺しをした事のある人間が自然と放つ、特有の雰囲気を持つギョウならば少しは、ライの期待応えるだろう。だが、それを過ぎたら大半は、間違いなく一方的な虐殺であり。

そちらはライは好みではない。戦いは好きだが、戦争のような行為は、略奪のような行為は。

多数や、多数に匹敵する力ある個人が、弱者を甚振るような行為は、ライは好きではなかった。


だが、好みであろうがなかろうが。

各地にいる民から、やれ農地の利用料や、水車風車の利用料と言い吸い取った金。で肥える貴族から。

さらに金を吸い取って、ついでに民からも吸い取って、成り立つ白竜教会。


その最高権力者である、聖王直属の、白竜騎士としての務めを行い。

民や貴族から対価を貰う以上。

白竜教圏内の、より多くの民と、少数の貴族の秩序を守ることが、ライの勤めであり。

それが出来る。数少ない力のある人として、自分がやらねばならない。


白竜騎士(貴族)である以上、高貴が強制される。

ライは自身が高貴であろうとは、微塵も思ってはいないが。

貰う物を貰っておきながら、怠けるようなことはしたくない。

だから、やれることを、ライはやるだけだ。

ライは未だに隠れたままの木陰に、意識を向けたまま。わざと、気を緩めてギョウの攻め入る隙を出し。


「――!」


魚人だけに、釣られたギョウはライを一突きしようと足のヒレを広げ、飛び出そうとし。

ライもそれにすぐ対応できるように、ギョウの一挙一動見逃さず。僅かな動作で躱して、首を脇で絞殺そうとしたが。


「ギョウ待って!」


静止を呼びかける声に、ライとギョウはそちらへ首を向けた。


「来るなキーナ!」

「駄目よ!この人はまだ何もしてないわ!」

「今はな!だがよそ者達はいつかする!そう長も言っただろ!?」


割って入ってきた女の声。

キーナにギョウは叱るが、銛をライに向けたまま。

すぐにキーナをライから庇う様に前に出る。


「女か……」


衣服の下からでも微かに見て取れる、胸の膨らみや腰つき。

亜人であっても、人である以上。

人特有の女らしい場所は女らしく、男らしい所は男らしいものであり。声も同じくだ。


それ故に、ライは飛び出してきたキーナを声と見た目から、女と判別したが。

このような行為は所謂。


値踏みをするかのような視線というものであり、ライの下卑た視線に気が付いたキーナは、両腕で体を隠しながら、さっとギョウの背に隠れ。

そして、ライの後方の草陰に隠れているフィラキから、軽蔑の視線をライは受けた。


(こりゃ箱入りだな)

「貴様!何を考えた!?」


仕草もあるが、どことなく雰囲気がキーナという名の娘が。

おそらく村の中でも、大切にされてきたこと。それに加え、ギョウが変に必死だった理由を理解したライは、キーナを見るのを止め。


恋人を嫌らしい視線で見たライという男に、さらなる怒りに震えるギョウの心情を、ごもっともとライは思いながら。

アーメットを拳でチンチンと叩き。

ふぅと、実際には出ないため息を吐きながら両腕をだらりと下げた。


「……?」

「……何のつもりだ?」


これには、ギョウとキーナも困惑したような顔をした。

最悪亜人を悪趣味な貴族に売り払う。人攫いか何かだと思っていただけに、ライの気の抜けた態度は。

悪意に満ちた領主の血族や、人攫いの類とは違っており不自然に映った。


「あぁ……お前さんが引けない理由がよく分かっただけさ。フィラキ」


ライの声に、少し離れた草陰から荷物を背負ったフィラキが現れ。


「どーも、こんばんは。フィラキ・ピュラーよ」

「あ、こちらこそ挨拶が遅れました。キーナと申します」


ペコリと頭を下げると、ますます困惑を深めるギョウだが、キーナは律義に礼と挨拶を返していた。

ライが改めてキーナが箱入りだと認識した瞬間である。

そして、村のような少人数の組織内における、箱入り娘というものは、その組織内ではどれだけ重要視されるのか。

今はもうない村出身であるライは、上役に対する立ち振る舞いを理解している為。

怯えさせない様に、張っていた気をさらに緩める。


「こっちも女連れでな。旅の疲れを癒したいから、ちゃんとした所で休みたい訳だ。まぁ忙しそうだし、他を当たるとするさ。邪魔したようで悪かった。そちらのお嬢さんも」


逢引を邪魔した詫びとばかりに恭しく、やや大げさにお辞儀をするライ。

その所作は、簡素であるが洗練されており。

からかう意図があって、知ったか知識で行う者達とは、振る舞いが明確にかけ離れていて。

煌びやかな衣装を纏っているわけではない。一般的に汚れていると揶揄されかねない、錆びた甲冑を身に纏う。ライの立ち振る舞いは、とにかくギョウ、そしてキーナには不自然にして、不思議で。

やけに、目が惹かれていた。


だからだろう、ラタン村に近づく者は例外なく殺せ。

ギョウも殺し自体は乗り気ではないが、夢の為ならばと私心を殺して、殺してきた。

だが、ライのその隙だらけの動きを前にして。

今ならば殺せると、思ってはいても、ギョウには何故か出来なかった。


「ではな……行くぞフィラキ」

「はーい」


そして、すれ違う両者に、ギョウは思わず。


「待て」


そう、言ってしまった。


「何か?」


ライとフィラキは立ち止まり、ギョウを注視する。

それに対し、ギョウは少しぎこちなく言葉を、何とか捻りだす。

村の奥に入らせるにはいかないという、考えよりも先に。

本当に、ギョウはつい、ライ達を引き留めてしまったのだ。


「少し、キーナと待ってほしい。先にある鳥罠を見終わったら、俺の家に案内しよう」

「……いいのか?」

「あぁ空きの部屋がある。そこで良ければ、だが……」


ライがフィラキという女連れだったから、何か起こさないだろう。

武器を持っているが、だいたいのよそ者が漂わせていた、悪しき気配を感じず。

最初から乱暴するような気配は、微塵も出さなかった。


誘った理由はいくつかギョウにはあるが、一番の理由は。

名前から亜人らしいライという人物が、今まで会ってきた人達と何かが違う。

ギョウはライという人物を、もう少し見てみたくなったのだ。それが殺せと言う命令に、一時的に背くとしてもだ。


「世話になる」


そう言って、歩を止めたライにギョウはどこかホッとしながら。

キーナにライから念の為に、離れろ目配りをするが。

それよりも前にライはさっとギョウの方へ、キーナから大股で数歩離れ位置に移動し。

両掌を見せるように広げた状態で腕を組み、待機していた。


そのライの気配りは、例えよそ者の顔で、アーメットで隠した人物であるが。

長の娘で大切に育てられ、胸を張って美人だと言える恋人のキーナと交際するに当たり。

何かと細かな騒動はあり。

原因となった男達を見てきたギョウからすれば、村の男連中も、もう少し見習ってほしいくらいには完璧だった。だからこそ、やはりライは、よそ者は乱暴者と凝り固まった観念を打ち崩し。

どこか他者とは、違うとギョウは改めて惹かれていた。


一方でライも、賢い"三人"の動きに免じて。

一先ず、ラタン村の人々を問答無用で殺する。それは止めようと思い始めていた。

その村に住んでいる人柄なんてものは、三人も見れば十分だからだ。

そして少なくとも、彼らが信仰する異教の神と思想はさて置き。

異教徒は皆、滅ぼすか腐物化物に変える考えしかない。

そんな考えを持つ黄金教団よりも、健全で賢い行動は取れている。


賢いということは、まだ共存できる道もあるということであり。

愚者には出来ないことで。愚者ならばライはそれを狩るだけだ。

最も、どこにでも生えてくるのが愚者と言う物ではある。場にいる三人がそうであっただけで、他はやはり皆同じと言う訳にはいかないのだ。

ライの観察はまだ続く。

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