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序章-3 夢の果て2


月明りが照らす、ラタン村の入り江。

そこで"()"に"大きな青い輝石(希望)"を運ぶ魚人の亜人達。

彼らを遠くで見守る。

少しばかりの金糸を使われた、黄金布を首に巻く男と。他の雑多な黄金教団員と変わらぬ、黄布を首に巻く女がいた。


「ようやくね。ヴェッセ」

「ようやくだともルマ。ようやく我らが黄金の地に、希望を届けられる」


ヴェッセ・ハーカーとルマ・リッジ。それが、どちらも正人である男と女の名前だった。

二人は黄金帰教団の同士であり、恋人でもあった。


「素敵ね……」

「あぁ……」


唇を重ねるヴェッセとルマ、最初は浅く。

けれども、幾度か繰り返していくうちに、徐々に深くなっていき。

劣情赴くままに、身を強く引き寄せ、徐々に互いの衣服を脱がしていく途中で。


水を差すかのような、生臭い香りとおぞましい見た目の姿に、二人の気分は一気に萎え。

匂いの元である、魚人の村長に対し。

ルマは苛立ちを隠さない顔をしていたが、ヴェッセは眉を寄せながらも。


「おぉギョルド殿、これまでの数々の協力。心より感謝する」


当たり障りない顔を浮かべ、対応した。

それに対してギョルドは、ヴェッセの対応に特に気にすることなく。

長い二本の髭をピクリピクリと動かしながら、感極まっているかのように、生臭い涙を流し。


「これが、これが我らポートを新天地へ連れてゆく船……なんと雄々しき姿!」


そう、喉を震わせ声を張り上げた。

無理はない。


彼らは常々せっせと税を納める領主から、虐げられてきた側で、それからようやく解放されようとしているのだ。

彼らは決して、好きで他種族に嫌われる匂いを、発している訳ではない。

自分達の容姿が決して、醜いだとは思ったことはない。


それでも尚、先祖より伝わる神を否定し、白竜を崇めよという者達は。

領主と同じく白い目で見て避け、歩み寄る気もなく。ただ改宗せよとだけ強要し。

断るならば、暴力をもって迫り。


そして、例え改宗したとしても。

飢えや病、税や領主の漁と言う名の暴力で同胞が苦しんでも、白竜教会は何もしてはくれない。

ギョルド達、魚の亜人などという名ではなく。

古い海の神の血が、僅か流れると伝承されてきた、ポート族は今まで。

耐えて耐えて、税を納め続けてきた。


だが、ギョルドは運が良かった。

ギョルド達は、運よく協力者という名の、力を手に入れたのだ。

数月前のことである。黄布を首に巻く者達がやってきて、ギョルド達ポート族にこう告げたのだ。


『我らは解放の使者。我らは自由の使者。来たる夢が、来たる希望を乗せ、貴方達を黄金の地に導こう』


当初は当然、ギョルドは黄布の者達、黄金教団の者達を疑った。

だが、彼らは新しい技術を持ちながら、白竜教会と違い。


傲慢と威圧的に満ちて接することなく、約束通りに古い神を信じる自由を認め。

亜人であっても、異教の神を信じる者であっても、虐げられることのない地へ。

資材や、船知識等の協力をするならばという約束の元、この数日に至っては、本格的な帰還計画を始動するに当たり、領主や白竜教会が送る兵士から、共に身を守ってくれた。


ギョルド含む、ラタン村の多くにとっては黄金教団は間違いなく。

今の世界から抜け出させてくれる、救いの手だった。

そして、船に青い輝石が乗せられた時。


ラタン村の村民の、安寧と言う夢が完成させる時が来たのだ。

ギョルドが感極まるのは当然であり、荷を運ぶ者達が活気に満ちているのもまた、当然だった。


「…………」


だからこそ、彼らは夢に酔い。気が付いていなかった。

そもそも、救いと言う物に対し。対価を要求する時点で、そこにあるのは。


白竜を信仰することで、安定した価値を誇る白竜教会が発行する貨幣と、漁によりとれた魚を流通させ。

道具や薬といった、一族が生きるための物が欲しかったポート族と同じく。

生々しい人の懐事情。


黄金帰教団のヴェッセとルマの心中にある。

ギョルド含む、ラタン村に対する者達への思惑に、気が付いていなかった。


「ところで、ギョルド殿。何用でこちらに?」

「おぉ!おぉおぉそうでしたヴェッセ様。何やら錆びた甲冑を身に纏った者と、赤い髪の女が、このラタンに来たと若い衆が言ってましてな」

「錆びた甲冑……彼らには何と?」

「殺せと、命じました。我らもう引き下がれぬ身、来た者には恨みはないですが。もはや止められませぬ」

「素晴らしきご決断。敬服致します」


恭しく頭を下げるヴェッセに、ギョルドは少しばかりの、罪悪感による心苦しそうな表情を浮かべ、船を再び眺めた。彼は、夢と希望に夢中だった。

そんなギョルドを、忌々しそうに見るルマの目と。錆びた甲冑、つまりは錆の騎士がすぐそばに来ていることに対する焦りを。下げた頭、視線は地面に向けて、ぐっと抑えるヴェッセの顔が。

彼らの関係をよく表していた。

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