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序章-2 修道院の朝にて2


「冷えた体に、温めたぶどう酒は体に染みるわぁー」


暖炉の火を前にして、下の肌着以外は全て乾かすために脱いだフィラキは。

服が乾くまで、部屋に有ったシーツに包まり。

暖炉で温めたぶどう酒を飲む。これがたまらないから暴風の中耐えられたと言っても過言ではなかった。


「そいつはよかったな」


一方で骨人であるライは、暑さや寒さを多少は感じることがあるが、肉体を持つ人達と比べてそこまで深刻ではなく。

ざっと甲冑から水気を取ると、フィラキの状況()に配慮して、暖炉には背を向け。

濡れると一番深刻で高価な武具である。毒草の彫刻が刻まれた短銃一式の手入れをしていた。


起の火薬が、翔の火薬を起こし、裂の火薬が詰まった弾を飛ばす。

その破壊力たるや、化物相手に使うことを前提とさせただけに尋常ではなく。

もう少し再装填が早くなり、連射できるようになれば。

威力でいうと、子供ですら化物を殺せる代物だ。

ただ、致命的な弱点があった。


事情があるとはいえ、ライの短銃とにかく重い。

ライの短銃は、究極の完成を追い求めるあまりに。

日々火薬を舐めているせいか、頭の中が爆発している。知人の錬金術師が作り出した、他の錬金術師達と比較し極めて質の良く安定した火薬。

だが、従来の火縄や火打ち式の銃では活かすことの出来ない程、強力過ぎる火薬の力に耐えるために。


その材質は全て。

権力と財の暴力で収集した最高品質の鉱石を、世で最も進歩した冶金技術を持つ職人達と、最も優秀な鍛冶職人達に作らせた物だ。

並みの土地付き屋敷が2、3建つ。

それくらいの原価と労力で作られたが、同時に一般的な武器としての観点で見れば無価値。

そんな可笑しな短銃だ。


理由としては、武器としての価値を見出すには、ライの短銃は人が持つにはやはり重いのだ。

大剣の中でも、特大の重さを持つ剣。

それを片手で持て、かつ磁石やらを仕込んだ特注の小型の鞄に入れるだけで、持ち運べる大きさまで。

なんとか、小さくさせた物をトチ狂ったのか銃にさせたと、言うべき重さなのだ。


並みの鍛え方をしている程度の大人では、両手であっても、持ち上げられたら御の字。

それを発砲しようものならば、先の錬金術師達の火薬に込められた執念の力で、逆に身体が吹き飛びかねない威力を誇る。


挙句、白竜教会において銃と言うのは、持つのは褒められた物ではないのだ。

火薬は大体は黒色で、黒は悪しき骨人の持つ武器や化物達の色という理由から。白竜教会において忌色。そして製造方法も、汚れを知らない者達からすれば、見ていて気分のいい物とは言えなかった。


そして、ただ引金を引くだけとはけしからん。己が肉体のテロス(完成)を高め、飛び道具ならば弩は多少目を瞑るが、弓を使うのが好ましいという考え。

そして、弓で威力が足りぬのならば神術があり。

始祖聖王アインの言葉が刻まれた、アインの聖刻具から放たれる。

万物を構成するテロスを力に変える神術こそが、もっとも素晴らしく、気高い力であるという考え。


そして、銃や火薬といった物は。出自は白竜教会の圏内ではなく。東にある未開の地を支配する、黄金教団の圏内から生まれたという、事情もある。


とにかく、銃と言うのは白竜を信仰する者達には、嫌われ物の武器である。

それでも、ライが銃を使うのは、白竜や白竜教会への嫌がらせではなく。

第一に弓が下手であり。弩は化物を殺すには威力が少し不足であるということだ。


白竜騎士に相応しく並外れた力を持つライならば、一般人には問題となっている重さは関係なく。

狙撃は出来ないが、元より主力は剣と斧槍であるライには、多少の遠距離攻撃が出来るようになるだけでも、持つ理由には十分。


そして撃つだけで、堅い皮膚を持ったりする化物相手でも確実な被害を与え。

持ち運びしやすく、万が一敵に奪われても再装填しなければ、一発しか撃てず。

そもそも力がなければ、標準を定められない程重いので使える代物ではない。持ち去られたとしても、本格的な整備が必要になった際に。

整備できる技術を持つ人達との、人脈と高い金が必要という。

ありとあらゆる欠点が、ライの前ではなくなっているのだ。


唯一の欠点があるのならば。

人に向け撃つと、体をバラバラにしてしまい。それが、あまりにも残虐で撃つ人物まで印象が悪くなってしまうので。可能な限りライも、人へ使うのは控えている。

最も、化物相手ならば容赦する理由がない為、やはり欠点はあってないような物だ。


これらの理由でライは重くやたら金を喰う短銃であるが、愛用していた。

そして、仮にも大金を稼ぎ蓄える手段のある貴族でありながら、絵画や宝石類のような物に微塵の興味を持たない。

かといって、性格と体の事情で、世にいる美女を貪るようなこともしない。


結局のところ、白竜騎士としての仕事という名目で。

敵に飛び込み武器を振るう。そんな戦うことだけが趣味と言えるライの、数少ない嗜好品であり贅沢品だった。


「手入れは終わった?」

「それなりにはな。お前の方は乾いたか」

「んー……これくらいなら大丈夫ね」


フィラキは乾かしておいた、普段着を手に取り。

生乾きで少し冷たいが。ちょっと体を冷やしたくらいでは、体調を崩さない。

そこらの正人や亜人と比較しても、体が丈夫なフィラキは、もう服を着てしまうことにした。


フィラキが下から上へと、普段着を着ていくと。

パチパチと暖炉で燃える薪の音に紛れて、フィラキの白い肌と衣服が擦れる音が鳴る。

そんな中、ライはフィラキに声を掛ける。


「フィラキ」

「なぁに?」

「銃ってのはいいもんだな」


どういう意味だろうか。

着替えを進める手を緩めて、フィラキはライの言葉の意味を考えてみたが、珍しくライの考えが読めなかった。


銃の手入れを終えて、柄にでもなく悦に浸っているのだろうか。

どこか部品が壊れて皮肉の一つでも言いたいのか。

考えてみたが、どれもしっくりこなかったフィラキに、ライは答えを伝えた。


「着替えが覗ける」


フィラキはバッと顔を振り向かせて、視線をライの方へ向け。

全て金属で出来た短銃の、金属光沢による反射を利用して。はっきりとは見えないが、確かに見えなくはない。

わざわざ角度を調整してまで、覗きを行ったご主人様に、フィラキは顔の位置を戻し。

着替える速度を速めて、ただ一言。

呆れを多量含めてライに述べる。


「馬鹿」


自分の体は、いつ見られてもがっかりさせるような体をしてないと、フィラキは自慢の胸を張って言い放つことが出来るが。だからといって、見られるのは別の話であり。

相手がライだとしても、覗くなんてことは、もっての外なのだ。


「へッ」


だが、ライは覗きで見える美女の肉体よりも、フィラキのそういった反応が見たかったとでも言いたげな。反省する気が微塵もないない、そんな軽笑いを飛ばした後。

ゴトン、と一応は覗くのは止めたという意味で。机に短銃を乗せる重い音を立てた。


フィラキは顔が少し暖炉の火とは別の熱で、熱くなっているのを感じながら。

首輪を隠すマフラーを、首に巻き終え着替えが終える。


「飯を集りに行くか」


直後、何らかの手段でずっと見ていたのではないのか。

そんな風に疑いたくなるような、タイミングの良い食事の誘いに。フィラキもつい、ライへの悪戯心が目覚めた。


「入れる臓物もない癖にぃ?」


骨人は肉も血もない。それ故に食えない、飲めない。

化物と同じく、飲まず食わずで生きられる存在だからだ。

それでも、フィラキが食事を取るのならば、ライは時折食べ、飲む。


一人だけでは化物と同じく、骨人が食事を取ることに意味がないとはライは思っている。

だがライは誰かと共に食事を取り、酒を飲むことには。

周囲に怪しまれない為とは、別の意味をライは見出すことにしている。


そうでないと、骨人も結局は、正亜大戦において同じ陣営だったらしい腐物と化物のような、無価値の存在達と大きく変わりないのではないのか。ライはそんな不安を感じているのだ。

だからこそ、人であることを確かめる様に、ライは食べ飲むのだ。


無論そういったライの考えを、知らないフィラキではない。

ライが食事に誘うならば、フィラキは断る理由がない。

寧ろ、それで一人で行けと言った日には。フィラキは一日中不機嫌になり、ついでにライを食事に無理やり連れ回すぐらいはする。


「それは言わない約束だろ」

「お返しよ」


今度はライが、フィラキに対して呆れ混じりの声を上げたが。

フィラキにも言い分があるので、ライに抗議して口を締める。

そして、互いに無言でじっと見つめ合うが。緊迫とした雰囲気はなく。

ほぼ同時に、ふっと呆れ笑いを浮かべ。


「行くぞ」

「えぇ」


ライとフィラキは二人で、食事に向かった。


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