序章 錆の騎士27
白い日が昇り始めた。
日の明るさは、多くの人々がいる街を照らし。
例え人がもういない廃村であっても、関係なく照らす。
そんな、秋の朝空の下。
焚火で暖を取りながら、携帯椅子に腰掛け。味気ない堅パンを食べる若い女が一人。
名はフィラキ・ピュラー。
監獄にいた赤い髪の女という、名付けた者に幾度か文句を吐き捨てた女だ。
「暇ねぇ……」
フィラキは一人、クラナス村に残り。
時折現れる腐物を小剣で斬り裂きながら、ライを待っていた。
何故フィラキ一人だけなのか。
理由は単純だ、もうフィラキはライからの役目を終えていたのだ。
地下遺跡で黄金教団に捕らえられていた人物達と。
横暴に権力を振りかざす。
聖王の力と権力の代理人たる白竜騎士様の勅命で、夜通しで、要救助者たちの保護活動をさせられた。
哀れな白竜教会の聖職者達を、街へ立つ姿を見送った後なのだ。
飢えや乾きで苦しむ者。
今回の件で何かしらを失い、心に大きく傷を負った者。
そんな彼らの癒しを与えるのは、自身ではなく。
各々に役割と物資を持つ白竜教会の者達であると、フィラキはよく分かっていた。
それ故に地上へ出た後。助け出した者達から感謝の言葉を受けても、それ以上彼らに対して、フィラキは要求せず。
干渉することはなかった。
「何やってんだか」
ライが遺跡で、化物に殺され死んだとは、フィラキは一切思ってはいない。
化物と戦ったとしても、血を流すことのないタフな骨人であり。血の癒者による癒しは受けないが、別手段の回復方法があるライは、その精神が折れない限り。絶対に立ち上がり、前へ歩み続けるのがライだ。
そして、しぶとさだけで今まであった、数々の戦いを生き残っていた。
そんなライだからこそ、黄金教団の化物程度では、ピンチの内にも入らず。フィラキはライが生きて帰ってくることを疑いもしなかった。
ただ、フィラキ自身気が付かぬうちに。何とも暇な時間を過ごしていることに、少し拗ねた顔をしながら、旨くもない堅パンを食べ。ライを待っているのだ。
「ん――?」
そんな中、少し地が揺れた気がしたフィラキは。
椅子から腰を上げて、突如鳴り響く爆音と共に。
馬の鳴き声と言えば、ヒヒーンが一般的だが。
「ブルゥオオオオオオオ!!」
そんな勇ましい、馬に似つかないが一応馬の鳴き声と。
「うわぁああああああ!!」
「きゃぁああああああ!!」
空を飛ぶのが初めてだろう。
地を粉砕し、空を踏み。朽ちた家よりも、高い位置にいる灰色の馬鎧が、光を放つ馬の馬上で。
仲良く可愛らしい悲鳴を上げる混ざり者の姉弟と。
「舌噛むぞー」
必要がないのに。
自慢するかのように、愛馬を空へと駆け上がらせている人物の抜かす言葉を聞き。
フィラキは堅パンを咥える口の端を上げた。
そんな特別な馬を持っている人物は、フィラキの知る中では片手で足りるからだ。
全身に明灰色の馬鎧を身に着けた空海地を走る、特別な馬。
ライの声で召喚に応じる愛馬、召喚馬。名はデロスだ。
「おっかえりー」
フィラキはいつも通り、そう声を掛け。
「あぁ戻った」
どうやらライの機嫌が良いのか。
曖昧ながらも返してきたので、フィラキは一先ずやるべきことが終わった。
そう実感するように、浮かべていた笑みをより、明るくするのだった。




