序章 錆の騎士13
昨夜の出来事で、自業自得であると注意されたが。
血を吸われたことに対する畏怖に、少しばかりフィラキに危機感を抱く事になったティク。
しかし、いったいいつ食事と睡眠をとったのか、そもそもアーメットの下にある顔すらも見たことない。
そんなフィラキの相方であるライは。
相も変わらず、歩幅を合わせるだとか、休息というものを知らず。
遠慮なくグングンと歩き続けるので、否応にもティクは昨日と同じく、無心でひたむきに歩き続ける。
「大丈夫?」
「……喉がちょっと」
「はい水、頑張れ」
そんな中で、危機感を抱き始めた相手であるフィラキが差し出す水筒を、ティクは疑うことなく受け取り喉を潤した。
例え血を吸ってきた相手だとしても、すでに同じ釜の飯を食って、一つの天幕の下で一夜を共にして、朝早く挨拶を交わすことになった相手なのだ。
またいつ血を吸ってくることやらと不安こそあるが、やはりライという比較対象に比べれば、フィラキは遥かに気遣いの出来る、優しい人なのだ。
そんな相手に疲労が高まる中。水を差し出され、今更疑って意地を張って我慢できるほど。ティクは辛抱強くはなかった。
もっとも、差し出す相手がライであったとしても、ティクはそこまで疑うことはない。
遠慮なく歩く姿に厳しいと思うのは確かだ、少しでも折れそうになった途端突き放そうとする言動に、冷たいと思ったのもまた確かだ。
だが、ライは良くも悪くも、出会った当初から態度が一貫している。
助けてやるという言葉がどこまで当てはまるかは、ティクは分からないが。
食料をろくに持たずに、そのまま街から連れ出されたとはいえ。
腹が減れば、料理を作り腹を満たしてくれ、少しでも体力の回復が出来るように快適な寝床を提供した。
つまるところ、助けてやるという約束を、ライは今の今まで一度として破ることなく。守っているのだから。
「置いていくぞ」
そう、こういった言葉も、きっとライは遅れて見失うことを恐れ、心配して気にかけているのだ。
寛容な心で構えてみれば何だライも、悪そうには見えないではないか。
そうに違いない。そう思おう。
何だか心のゆとりを得たティクは、少し大人になった気分になるが。
残念なことに、体はそれについていかず。心のゆとりは、歩いていくうちに、あっという間にすり減り。
とにかくライは厳しい奴だ。ティクはそう思った。




