表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
11/65

序章 錆の騎士11

眠るティクの覚醒を促したのは、空いた腹を刺激する料理の香りだった。


「起きたか。飯だ」


天幕から瞼を擦りながら出るティクに声を掛け、香りの発生源である鍋をかき回すのは、自称奴隷のフィラキではなく、仮称主人のライだった。

当のフィラキはというと、主人のライはそこらに有った石の椅子であるにも関わらず、椅子に座って食事していた。


「椅子あるわよ」


そうフィラキが鉄製スプーンで差す先にあるのは、背もたれも、肘置きもない、所謂組み立て式の携帯椅子だ。

言われるがままに、恐る恐る尻を天幕よろしく、支柱で支えられている布に落とし。

思いのほか、丈夫でしっかりと支えてくれることに驚いた。


ライとフィラキが背負ったリュックが、妙に大きいことに、何が入っているのかと不思議に思っていたティクだが。

天幕といい、椅子といい。

野宿でも快適に過ごせるように、様々な道具が詰め込んであることが分かると、リュックが大きい理由に納得する。

だが、同時にこれらの道具を揃え、手入れを続けられるだけの財力と知識、そもそもそれらを作り出す。

木工やら冶金や鍛冶職人との、強い繋がりをライが有していることにティクは気が付く。


「ライって金持ち?」

「何だいきなり」

「いや、その……」

「……まぁある程度持ってないと、旅は出来んな」


素朴にして単純な疑問をティクはライに問いかけ。

武器やら甲冑やら色々持っている者の返事に、素直に納得せざる負えなかった。


「ほれ」


ライがスプーンと共に手渡す皿に、目の前で盛られたのは。

南の土地が原産という赤色だったり黄色だったりする酸っぱい野菜。

所謂トマトとぶどう酒の煮込みシチューだ。


中の具材は芋と豆。味付けは塩のみ。

質素だ。だが、それはこの一週間。

堅く古いパンと、捨てられた残飯を口に入れてきたティクにはごちそうだった。

意地の悪いライが別料金と称して金を請求するだとか、姉に散々食事前にはしっかりと白竜に感謝の言葉を言いなさいと言われてきたが。

そんなことを考える前には、スプーンに具を乗せティクは口に運び、運び、食べ尽くす。


「ふはぁ……」

「お気に召したようでなによりだ。もう一杯いるか」

「うん……」


こくりと素直に頷くティクに、ライはバイザーを少し上げ。

ぶどう酒の入った水筒を一口分流し。再び皿に盛って、差し出す。

これを何回か繰り返し、腹が温かく満ちたティクは満足気に頬を緩ました。


「ライって良い奴なんだな」

「へい良い奴、もう一杯」

「飯だけでそう言われるなら、安いもんさ」

「……ライは食べないの?」


フィラキの皿に盛りつけるライに、ティクはまた問いかける。

ライは、少し考える素振りを見せ。

鍋をかき回す右手はそのままに、左手を胸に当て。

宣言をするかのように、高らかに声を出す。


「我は誓わん。白竜佇まぬ土地での飲食を自らに命じ。空腹飢え、苦しむ者達に我がテロスと彼らに食が渡る機会を捧げ候」

「んん?」

「要するに断食だ。食うのもテロスを高めることであるが、飢えに耐えるのもまたテロス高め、旧欲の完成へ至らんが為ってな」


ライが骨人であるということを、ティクは当然知らない。

少なくとも、同じ鍋で作った物を、ライの間違いなく味方であるフィラキが口にしている時点で、何か毒を混ぜているとは考えにくく。

先の宣言が、明日に戦いをする者が口にするにしては、冗談にしか聞こえず。

冗談ということには気が付いたが、なぜそんな冗談を言っているのか、ティクにはそこまで考えが及ばなかった。


「そんなことして明日動けるのかよ」

「いざって時に体を動かすのは腹じゃねぇ、意志だ」


その意志が宿る場所が心臓だとでも言いたげに、胸を叩き。

先ほどとは違い冗談の気配がなく、堂々と言い切るライだが。

ティクにはいまいちライの言葉の意味が理解出来ず、首を傾げ。

参考になるかとフィラキにティクは視線を向けてみるが、フィラキは素知らぬ顔をしながら、酸っぱいシチューで舌を楽しませていた。


「なぁライ。意志ついでに聞きたいんだけど」

「何だ」

「何で、俺を助けてくれたんだ」


その言葉をティクが出した途端、ライが鍋をかき回す音以外鳴り止む。

先ほどの、わざとらしく考える姿勢すら見せず、だが真剣に考え込んでいる。

という気配は微塵もライからティクは感じなかったが。

かき混ぜる音すらも、止まった時ティクは思わず息を飲む。


「必要か、理由が」


その答えは、答える気があるとも、ないとも取れる。とにかく曖昧だった。

だが、アーメットの閉じられたバイザー、その奥底の暗い闇から。

敵視するかのように、鋭く刺してくる眼光のようなものを感じた、ティクは僅かに身震いする。

それでもここで、その眼光から一度目を逸らした時。


ライはきっと、真剣に答えない。

出会ってからの時間も短く、口数もそんなに交わしたわけではない。

それでもそう確信しているティクは、力強く頷いた。


それは明日、自身の命がないかもしれない。

そんな危険地域に向かうことに対して、少しでも味方のことを知っておきたい。

打算で言えば安心感、打算でなければ単純な興味。

ティクは、自身が助けてくれとは言ったが、なぜライが助けてくれようとしているのかが気になっていた。

例えそれが、金の為と言われたとしてもだ。


「哀れ。チンピラ共に騙された挙句、ボコボコにされたガキに。燻っていた我がキシドーセイシーンとやらが、叩き起こされたからだ。という理由でいいか?」

「馬鹿にしてるのか!?」

「当たり前だろ」


即座に返された言葉に、ティクは続く言葉が、非難するような視線により出せなかった。


「騙された。金を取り返そう。殴られて怪我をした。挙句ナイフを向けられた。お前、あの時俺が助けなかったら、どうなっていたか想像してみろよ。ワクワクしねぇか?」


言われなくても分かる。

そう言おうと思ったティクだが、ライのなお続く厳しい視線に押し黙る。

仮に言葉を発せれた所で、ライは即座にティクを意見を否定していただろう。


「蛮勇と勇気は違うとはよく言った物だ。明日の為にも忠告するが、お前の意志で行動をするなら、俺は誓って文句は言わん。

だが、動くなら勇気と責任を持って、賢く動け。昼間のお前は、蛮勇で無責任に動く馬鹿そのものだ」

「……勇気を持って賢く動けって、何すればいいんだよ」


嫌味や皮肉がたっぷりと含まれた言葉に、ティクは悔しそうに歯を食いしばると同時に。

少しでもライを良い奴だと思っていた振り子が、反対方向に大きく動いた。

だが、生まれて九しか年を経ってないティクには、ライを言い負かせるほどの知識はなかった。

その為、素直に耳を傾けることにした。だが、やはり返された言葉は正論他なかった。


「逸る気持ちを抑えて、食うもん食ったらしっかり寝る。これが、今お前に出来る一番勇気があって賢い行動だな」

「完成に導きし糧をお与えいただき、偉大なる白竜様に感謝します!!」


信仰心が欠けた者はかんかてと略す、食後の挨拶を律義に唱え。

食器類をやや雑に置いて、ティクは天幕に入り込む。

ここで、ライ達が用意したからと天幕に入り込まず、ライが用意した火の付近にも腰を下ろさず。

どこぞへ離れるという行動をしない程度には、賢い行動をしたティクにライは特に言及も実力行使もせず。

ティクが使った食器類を軽く水筒の中に入っていた、水を掛けて汚れを落とす。


「騎士道精神ねぇ」

「なんだよ文句あるか?」


ここでしばらくは静観に徹していた。

堅パンをシチューに付けて食べるその様も、見る物には色気があるように映るフィラキにライは視線を向け。


「姉を助けたいって姿を気に入ったから。って言えばいいのに」

「…………」

「第一。クラナスの件がなくても、斬られる前には止めてたでしょアンタ」


スプーンで今度はライを刺すフィラキに対して、ライは沈黙するが。

その沈黙は肯定する意味でしかなかった。

事実でもあるからこそ、ライには返す言葉もなかったのだ。

だが、このまま沈黙するのが癪なライは、主従であるからこそ効果がある命令を下す。


「うるせぇ子守でもしてろ」

「お酒飲んだ後でもいい?」

「駄目」

「飲むもーん」


ぶどう酒が入った水筒を巡って、二人に一悶着起きたが。

結局は根負けしたライによって、フィラキはぶどう酒を、その露やかな唇で飲み込むことに成功した。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ