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序章 錆の騎士10


日が落ち始め、夕方となった。

ほとんど休憩なく、歩き疲れてぐったりとしているティクに、ライはようやく休むことを決めた。

道の離れに、石や雑草をライとフィラキは、ナイフ片手に取り除き。

ライとフィラキ。交代しながら背負っていたリュックから、野宿用の道具一式を取り出す。


寝る際に地面や、完全に取り切れない小石、草根による。でこぼこした感触を無くす為に、厚手の布を敷き。

支柱を立て、支柱の先を太い紐で一つにまとめ、その上にまた、布を被せ。

虫や小動物が入りにくくするように整えると、二人程度の広さがある簡易天幕の完成だ。


ライとフィラキで、分担して作業にあたったのもあるが、テキパキと動きあっという間に完成させた。

そして、寝心地を確かめるために、さっそく天幕に入り倒れ込んだフィラキだが、そこに疲れている様子は微塵もない。

ライも同じだ、今の歩速ならば。

朝頃に着くだろうクラナス村の距離を、そのまま歩き切ってしまうだろうと、その有り余る気迫がティクにも感じてしまう始末だ。


「慣れてるんだな」

「何回も野宿してればね」


何回と。十四の年のティクの姉とそう大きく、年齢が離れているように見えないフィラキが。そう言えるだけの長い間。

しかも、そのライとの呼吸のあった動き具合から、間違いなくその旅にはライがいたのだろう。

だが、ただでさえその美貌と、血の癒者という社会的価値を有するフィラキが、(ライ)と一緒にそう長い間旅が出来る物なのかと、ティクは不思議に思った。

奴隷だ。フィラキはそう、ライとの関係に答えたが、ティクは今までの彼らの行動を見て、それで納得出来るどころか、ますます疑惑が深まるばかりだった。


「夕食の準備してるから、寝てもいいよ。疲れてるでしょ」

「いいの?」


ティクは思わず、周囲から草やら枝を拾い集めて、持参している薪に火を起こしているライに視線を向ける。

てっきり、この天幕はライとフィラキだけが使い、その辺で。場合によっては耳を防ぎながら寝るのだろうかと、ティクは思っていたからだ。

そして、そこで駄目だとライが一言でも発すれば、主人と奴隷というのは建前で。

実際の所二人は恋人か、それに近い関係なのだと、まだ納得いくの解をティクは得られるのだが。


「地べたじゃ疲れは取れん。それに、休める内に休んどけ。明日はさらにキツイぞ」


明日に待ち受ける苛酷な運命を宣言をされたが、同時に同衾を許可されて深い疑惑はさらに深まった。

だが、それを考えるには棒のような足と、疲労した頭には不可能だった。

最近は、まともな寝床で寝ることが出来なかったティクには、簡単な壁と屋根があり、手入れが行き届いた布一枚でも、最高の寝具だ。


すぐに眠気が訪れ、まぶたを閉じると、張り詰めた顔が解け幼い寝顔を晒し。

くぅくぅと寝息が上がった。

その小さなティクの体に、フィラキは掛け布団用の薄布をかぶせると。ライに非難混じりの視線を向けて話しかける。


「もうちょっと。休ませてあげてもよかったんじゃないの」

「足手纏い為に、俺が合わせる理由はねぇ。こいつがいなければ、俺達はとっくにクラナス村に着いてた」


クラナス村は、街から一切の休みを挟むことなく。

ライ達の足で走りでもしていれば、半日程の時間があれば辿り着けていた。

それを出来るだけの体力と足が、ライとフィラキにはあった。

ティクの姉を思えば、黄金教団に手をかけられる前に、一刻も早く助け出すティクを置いて向かうのが正しい。

だが、そうしたら別の問題が発生するので、ライ達はそうしなかった。


「でも街に帰す気はなかったんでしょ。あの酒場にいた誰かがティクを逆恨みされない為にも」

「…………」


料理の準備を進める手は止めないが、ライの口が止まり。

ライにはない目で視線を、フィラキの輝く琥珀の瞳に向け。


分かっているなら、口に出すな。

そうライはフィラキに、視線で訴えるが。

口だろうが視線だろうが、ライが何かするまでもなく。ライの考えが分かっているフィラキは、にやにやとからかうように口端を上げていた。


「愛い奴め」

「うるせぇ手伝え」

「はーい」


怒るライが投げ飛ばした芋を手に取り、フィラキはやれやれと肩をすくめたが、素直に腕をまくり上げた。



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