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元禄・マジカル・プリンセス  作者: 沢田和早
第二十一話 たけのこ しょうず
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竹笋生その四 筍狩り

 翌日は曇り空でした。四月の強い日差しを雲が弱めてくれるので、汗をかく筍狩りにとっては良い日和と言えます。早目の朝食を済ませた恵姫たちはさっそく城門の前に集まりました。集まったと言ってもそこに居るのは奥の女中の磯島、お福、与太郎が浮気した小柄女中、そして恵姫を加えた四人だけです。


「なんじゃ、奥からはこれだけしか参加せぬのか。去年はもっと多かったのではないか」

「比寿家の財政が苦しい故、女中の数を減らし、住み込みもなるべく通いにしているのは姫様もご存じでございましょう。本日はいつも通りお役目がありますから、筍狩り如きに人を回せぬのです」


 磯島は機嫌が悪そうです。午前のお稽古事が潰れてしまうことに腹を立てているのでしょう。一方、お福と小柄女中は楽しそうです。二人とも筍狩りをするのは初めてなのです。


「恵姫様―!」


 城門の外から雁四郎の声が聞こえてきました。まだ登城の時刻ではありません。今日の筍狩りで恵姫たちを警護するために、わざわざ朝早く城山を登って来たのです。


「おう、雁四郎、待ちくたびれたぞ。おや、厳左はどうしたのじゃ」

「それが昨夕、急ぎの案件が入ったとかで、本日の筍狩りには同行できなくなりました。されど姫様たちの警護はこの雁四郎が責任を持って致します。ご安心くだされ」


 自分で今日の日取りを決めておきながら参加しないのですから、筍狩りも軽く見られたものです。それでも喧しい厳左が居ないのであれば、それはそれで気が楽です。


「では、出掛けるとするか」


 恵姫たち五人は城門を出て山を下り始めました。目指す竹林は城山の東側、ゆっくり歩いても半刻も掛からず着ける場所にあります。庄屋の屋敷は城下の東にあるので、黒姫と毘沙姫は直接竹林に向かっているはずです。


「お福殿、雀のヒナは大きくなりましたなあ」


 雁四郎はお福がぶら下げている鳥籠を覗き込んでいます。出掛ける前に餌をたらふく食わしてきたので、ヒナは鳴くこともなく大人しくしています。


「わらわとお福が丹精込めて育てておるからのう。丸々として旨そう、ではなくて、愛らしいであろう」


 歯の浮くような恵姫のお世辞です。もちろんお福の機嫌を取るために言っているのです。


「それにしても実に大きい。もはやヒナとは言えぬほどに立派な一人前の雀でございますな。これなら巣立ちも間近でしょう」

「それほどに大きいか、この雀……」


 一人前と言われて、恵姫も鳥籠を覗き込みました。毎日見ていたので、大きさの変化に気付かなかったのでしょう。確かに普通の雀よりも大きくなっているようです。


「あれだけ餌を与えれば大きくもなりましょう。恵姫様もお福も、雀なんぞに手間暇かけ過ぎでございます」


 どうやら磯島は、お福がお役目を中断させてヒナの世話をしていることにも不満を感じているようです。この様子ならばお福と磯島が手を組むようなことはないでしょう。一安心の恵姫です。

 やがて城山を下りた四人は東側に進路を取りました。山を回り込むように進んで行くと竹林が見えてきます。そこには二人の人影があります。


「めぐちゃ~ん、おはよう~」


 黒姫はいつも通り元気です。一方、毘沙姫は欠伸をして眠そうです。どちらも食いしん坊なので早起きして待っていたのでしょう。

 こうして七人になった筍狩り一行は竹林の中へと入って行きました。生えているのは真竹です。地下茎が浅いので掘る必要はありません。地表に出ている部分を折るように抜けばよいのです。手で抜けないものはもう固くなっているので美味しくありません。無理なく抜ける筍だけを集めていけば良いのです。


「おう、沢山生えているな」


 竹林一面に顔を出している筍を見て、眠そうだった毘沙姫の顔に生気が戻ってきました。さっそく折り取ると、皮を向き、口に放り込んでいます。一本、二本、三本、留まる所を知らない毘沙姫の食欲に、さしもの恵姫も注文を付けました。


「こりゃ毘沙。いい加減に致せ。そなた筍を食い尽くすつもりか」

「いや、だって食いに来たのだろう。食い尽くして何が悪い」

「阿呆、わらわたち城の者が筍を取り尽したとなると、領民が怒りだすわ。下手をすれば暴動が起こりかねぬぞ。初物を食うというのは建前。本来の目的は竹林の見回りじゃ。これから領民たちが筍狩りにここに来ても事故など起こさぬように、危険な箇所を見付け、それを取り除くのが今日の筍狩りなのじゃ。黒、毘沙に話さなんだのか。毎年の事であろう」

「もう、毘沙ちゃん、昨晩話したじゃない。忘れちゃったの」

「そうだったかな。筍を食うことしか覚えてない。忘れたようだ。すまん」


 毘沙姫は頭を掻いています。自分に都合の良い部分しか記憶に残っていないのは、なんとなく恵姫に似ているようです。


「とにかく毘沙。そなたはもう筍を取るな。わらわたちに付いて来い」


 こうして恵姫たち七人は筍狩り、兼、竹林の見回りを開始しました。筍を取るのはお福と小柄女中そして黒姫に任せ、恵姫たちは見回りに専念です。折れかかった竹があれば、毘沙姫に命じて完全に折らせて地に置き、折れた竹が邪魔をしていれば、毘沙姫に命じて邪魔にならない場所に置き、竹が密集している場所があれば、毘沙姫に命じて少し間引かせる、こんな感じで竹林を隈なく歩いて行くのです。


「やれやれ、少し草臥くたびれてきたのう」


 恵姫は歩いているだけなのですが、さすがに疲れてきたようです。筍を取っている三人も磯島も雁四郎も、恵姫同様足取りが重くなっています。一番働いている毘沙姫だけは最初と全く変わりません。体力も食欲同様、常人の域を越えているようです。


「どれ、この辺りで一服するか」


 恵姫の言葉に一同の足が止まりました。一様にほっとした表情をしています。そしてここからは磯島の出番です。持参した風呂敷包みを解いて敷物を広げ、まな板と包丁を取り出します。


「お福、取ったばかりの筍を渡しなさい」


 差し出された筍を受け取ると、皮を剥ぎ薄く切っていきます。毘沙姫に命じて割らせた竹にそれを盛り、片割れの竹にわさび醤油を入れ、箸と共に恵姫に渡します。洗練された無駄のない動きは、鯛を捌く恵姫に匹敵する華麗さです。


「姫様、どうぞ召し上がれ」

「うむ、間渡矢の初物の筍、有難くいただくぞ」


 箸で薄切りの筍を挟み、わさび醤油に付けて舌に乗せる恵姫。初夏の薫風の如き爽やかさが口の中に広がります。


「一年ぶりの味じゃ。夏の始まりを感じさせるのう」


 それからは皆で筍の刺身を味わいました。和気あいあいの雰囲気の中、野趣に富んだ竹林での会食は日頃の憂さを忘れさせてくれます。その頃にはヒナも腹を空かせてピーピー鳴き始めていたので、お福は左手に乗せて餌を与えていました。母が子に乳を与えるように、お福の顔は慈愛に溢れています。


「おい、恵。まだ筍が沢山あるだろう。早く食わせろ」


 人一倍食べておいてまだ食べようとする毘沙姫に恵姫は渋い顔です。


「ここで食うのはこれで終わりじゃ。残りの半分は明日の昼に城の者に食わすのじゃ。皆も初物を食いたいであろうからのう」

「もう半分はどうするんだ」

「わらわや黒、雁四郎の数日間の菜じゃ。炊き込み、煮物、汁の具、焼物、うむ、しばらくは楽しめるのう、じゅるじゅる。毘沙も庄屋の屋敷で食わせてもらえ」

「おう、それは楽しみだ。ふっふっ」


 顔を見合せてほくそ笑む恵姫と毘沙姫。なんだかんだ言っても、やはりこの二人は息が合うなと改めて感じる雁四郎ではありました。


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