とうろうさん
「ただいま、灯蝋さん」
「おう、悠か、はやかったのぉ
・・・と、鬼っ子も一緒か。
頼むから物は壊さぬようにな」
そういったのは俺の育て親であり、狐の妖怪である灯蝋さんだ。
彼女は九尾狐の一族なのだが、尻尾は一本だけの、出来損ないなんちゃって低級九尾である(本人曰く)。
その尻尾に比例でもするがごとく力も九尾狐には到底及ばない。
但し、妖術や妖怪の知識で勝負するのであれば九尾にも負けず劣らずの成績を納められる、知識だけで生きる妖怪。
それが灯蝋さんだ。
俺もその知識から、幾つかの妖術を教わっている。
「そんな灯蝋さんに聞きたいことがあるんだが」
「なんじゃ」
「神社壊した時ってさ、どうしたら良いんだ?」
「えぇぇ!?」
灯蝋さんが奇声をあげた。
いくつもの事件を知っている彼女でも驚く、ということは結構やばいんだな、神社破壊。
「え、え、えっ
その、聞くが、壊したのは森を抜けた所にあるボロい神社じゃ無かろうな!」
「え?
何で分かったんだー?」
「・・・ほんっとに貴様らはろくなことをしないのぉ!
・・・ちょっと外を見てみるがよい」
「ん?なになに?
ってうわぁぁぁ!?なにこの吹雪!
雪はずっと見てるけど、ここまで降ったことはないよ!?
どうなってるの!?」
七巴が叫んだ通り、外ではごぉぉ、と豪雪が降っており、三寸先をも曇らせていた。
どうなってんだこれ。
いや、検討はついてはいるが・・・認めたくない!
「灯蝋さん、もしかして、もしかしてなんですが・・・。
俺らのせいですか、これ」
「全くもってその通りじゃバカども!」
「すいませんでしたー!」
「謝っとる暇ではない!
さっさと神社に行くぞ」
灯蝋さんは厚い着物を羽織ると外へ飛び出した。
俺も、七巴もその後を追った。
俺達が道を確認する暇にも、灯蝋さんはグングン見えなくなっていく。
まぁ、鬼のような伝説は無いとはいえ、九尾狐も有名な妖怪だ。
端くれとはいえ彼女も九尾狐。ちょっと妖術を教えてもらっただけの人間と妖術など使えないパワータイプと鬼では、追い付くことも出来ない。
そんな俺達が少し遅れて神社に辿り着いた頃には、灯蝋さんはすでに神社を捜索していた。
「うぉぉ、綺麗に壊れておるのぉ・・・
どうしてくれるのじゃこの馬鹿ども」
「滅相もない」
「・・・しかし、まいったの、これは。
おいお主ら、この豪雪はここに隔離されておった神様の仕業じゃ」
「神様?」
「そうじゃ。
名を朱夏と言う。」
「夏とかいう字が名に入ってるのに起こすのは雪かよ
わかんねーなぁ、神様」
俺がそう言うと、隣にいた七巴がぼそぼそ、と何かをいう。
「どーした、なんか言ったか七巴」
「言った。
ちょっと行ってくる、とな!」
そう叫ぶと、彼女は凄い速さで森の中に消えた。
「お、おい!待てよ!」
「追いかけるな悠。
気持ちは分かるが、あの鬼っ子なりに責任を感じておるのじゃろう・・・
そっとしてやれ」
「アイツにそんな脳はねーよ、味噌しかつまってねぇよアイツの頭。
どうせ戦いにいったんだろ、神様と」
「バチ当たりも良いとこじゃのぉ
・・・すこしよいか?」
「何、これに関係あること?」
「そうじゃ。
まず始めにじゃが・・・鬼っ子は神には勝てんよ」
「そりゃそうだ。
流石に伝説の種とはいえ、神なんかにゃ勝てねーよ。」
「分かっといて追いかけんかったのか、薄情じゃなぁ」
「お前が止めたんだろ。
んで、どうやったら神様は何とか出来るんだ?」
「・・・それは、前の神にしか出来んよ
しかし、アイツは・・・」
「この際、何でもいい!
その神は何処にいるんだ!?」
俺が急かして聞くと、灯蝋さんは俺達が来た方を指差しながら言った。
「うちの地下じゃ」