冒険者ギルド
次の日。
俺はお嬢に連れられて冒険者ギルドへとやってきた。
「うわぁ···」
冒険者ギルドは他の建物に比べて大きかった。
他の建物は主に一階建てなのに対して、冒険者ギルドは二階建てなのだ。
俺はしばらくの間冒険者ギルドをポカーンと見つめていた。
「ゼノー?行きますわよ?」
「えっ?あっ、今行きます!」
俺はさっさと中に入っていくお嬢の後を慌てて追いかけた。
*
ギィ、という音を立ててウェスタンな感じのドア(西部劇とかに出てくる酒場に使われているあれだ。)を押し開けてギルドの中に入った。
中にはたくさんの人がいた。
装備に点検をしている者。
酒を浴びるように飲んでいる者。
テーブルに突っ伏して寝ている者。
などなど。
内装は入って右側に受付が3つあり、左にはギルド併設の酒場がある。そして、入って正面には依頼の書かれたボードがある。
酒場の奥には外に出れそうな扉があるが、二階への階段は見当たらなかった。
とりあえず、俺とお嬢は登録するためにカウンターに並ぶ···のだが、美人の受付嬢のところには長蛇の列が出来ていたのでガラガラの冴えないおっさんがいるところに並んだ。
「ん···?おう、グリモワールの嬢ちゃんか。いらっしゃい。今日は何の用だ?依頼か?」
「いえ、今日は新規登録をして欲しいのですわ」
「あん?新規登録···?ああ、後ろのやつか?」
おっさんは俺を訝しげに見て、言った。まあそうだよな。貴族が登録の手伝いをするって言ってるんだもんな。あやしいに決まっている。
「ええ。腕と身元についてはグリモワール家が保証いたしますわ」
「おいおい、何者だよ···。まあ、嬢ちゃんの紹介する奴なら少なくとも問題は無いか···。よし、ちょっ待ってろ。準備してくる」
そういっておっさんは奥に引っ込み、ごそごそと何かを探し出した。
「んー。これじゃないな。どこだろ···おお、あったあった。すまん、待たせたな」
「いえ、問題ありませんわ」
「そうか。とりあえず、無いことは無いと思うが登録料払ってくれ。銀貨5枚だ」
銀貨5枚···5000円くらいか。
なお、この世界の貨幣価値は以下のようになっている。
小銅貨···1円
銅貨···10円
小銀貨···100円
銀貨···1000円
小金貨···10000円
金貨···1000000円
白金貨···100000000円
金剛貨···10000000000円
金剛貨は特殊な貨幣で、国家予算などに使われるらしい。
···まあ、それはともかく。
お嬢は事も無げに銀貨5枚を出した。
「···よし、確かに銀貨5枚受け取った。それじゃあ、登録について説明するぞ。まずは、ステータスを測る」
···さて、どうしようね?
*
当然の事だが、俺には秘密が多い。
特に、ステータスなんていうのは機密も機密、トップシークレットと言ってもよい物だ。
だが、ここで測らないと登録はできない。
まあ、いざというときはお嬢を頼ろう。権力は偉大だ。
「肝心の測りかただが、この水晶···真実の水晶の上に手を置いてくれ」
俺は頷いて、水晶の上に手を置いた。
☆☆☆
名前:ゼノン·グリモワール
年齢:0
Lv:1
スキル:無し
☆☆☆
「···こいつ、大丈夫なのか?っていうか年齢0ってなんなんだ···?」
「色々と事情があるのですわ。この件は内密にお願いいたしますわね」
「あ、ああ、わかった···」
ガクガクとおっさんは頷いてから、コホンと咳払いをした。
「よし、ステータスの登録は済んだから次はランク付けだ。酒場の裏手にある修練場に来てもらう」
そうおっさんは言って俺たちを先導していった。
*
「試験は二つ。模擬試合と捕獲してある魔物との戦いだ」
おっさんが言っている側にやって来たのは身長180センチはあろうかという筋肉ダルマだった。
獲物は両刃のバトルアックス。かなり重量級のタイプだ。
「がっはっは!!小僧、お前が新しい登録者か!なよなよっとして、もやし見たいじゃのう!ガハハハ!」
「はい。新規登録するゼノン·グリモワールです。どうぞよろしく」
俺は静かに殺気を発しながら自己紹介した。
すると筋肉ダルマはその豪快な笑いかたをピタリとやめ、真剣な顔で俺を見た。
「···ふむ。お主、既に人を手に掛けておるな?ただのもやしかと思ったが···違ったようだな。ザックス、2つ目の試験は要らなさそうだぞ」
「そうか···なら、この試験だけでいいか。あれは魔物の子供であっても容赦なく殺せるかを見るだけだからな···仕入れ料も安くねぇし」
おっさん···もとい、ザックスさんはそう言った。
ザックスさんはやれやれ、とでも言うように首を振って
「両者、構えよ」
と言った。
その声で俺は体内から刀を取り出した。
すると、筋肉ダルマはほう、と言ったあと
「なんじゃ、お主?その珍妙な剣は?」
と物珍しそうに刀を見て言った。
俺はその不躾な視線にイラッときたので
「···それに答える義務はない。それに、これは俺しか扱えないものだ」
つい喧嘩を売ってしまった。
「そうか···なら、その扱いとやらがどの程度のものなのか見せて貰うとしようかの!」
筋肉ダルマは突然、そういい放つと襲いかかってきた。
「あっ!こら、まだ合図を言ってねえのに···!!」
ザックスさんが慌てるが、もう遅い。
筋肉ダルマがそのまま突っ込んできて、俺はなすすべもなく吹き飛ばされる···
わけがなかった。
日本には、『常在戦場』という言葉がある。
これは、『常に戦場に在る心持ちでいろ』という物だ。
俺はこれに乗っ取って、武器を持った時からずっと警戒し続けていた。
だから、筋肉ダルマが突っ込んできたことは想定の範囲内だったし、それに何より筋肉ダルマは···遅い。
普通の人から考えて見れば早いのだろうが、俺のSPDは300だ。比べるまでもない。
俺はわざと突進をギリギリでかわして、バトルアックスの柄を刀で切り落とした。
シャキンッ!!
綺麗な鍔鳴り音と共にずれ落ちるバトルアックスの柄。
端から見れば、交錯した瞬間にバトルアックスが切られたように見えたはずだ。
地面にゴトン、という音を立てて落ちるバトルアックスの刃を呆然と筋肉ダルマは見ていた。
「嘘だろ···?名品と名高いこいつが、切られただと···?」
「熟練すれば、鉄ぐらい簡単に切れる。いくら名品だろうと、ただの鉄じゃあな···」
俺は事も無げに言って、刀を収納した。
「···合格だ。特例だ。ランクはC」
「ランクC!?すげえな、初っぱなからそれかよ!」
ザックスさんは興奮気味に叫んだあと、はっと我にかえって罰がわるそうに頭を掻いていた。
その後、俺は無事に冒険者証を受け取って屋敷へと帰っていった。