旅立ち
すみません。諸事情により一時凍結していました。これからは再開していきます。
なんでこうなった。
俺は牢屋に鎖でつながれた状態のなか、ひとりつぶやいた。
あのあと。
素っ裸でナイフを振りかぶっている俺を見たお嬢は顔をバッと手で覆い、悲鳴をあげた。
『きゃああああああああああああああああ!!へ、変態さんですわああああああああああああああああ!!お父様たすけてええええええええ!!!』
ってな。
……そら、牢屋に入れられるわな、うん。
で、そのあと衛兵たちがやってきて…
現在に至る。
まあ、その気になれば簡単に逃げ出せるんだけど…それは嫌だからね。
さて、じゃあどうしよかな~…ん?誰か来るな。
何か話しているみたいだ。なになに…?
「それは本当なのか?」
「ええ。誰も入っていったところをみていないのに中にいたはずのゼノがいなくなっていて、知らない方が居るというのはどう考えてもおかしいのですわ。···それに、顔に見覚えが有りますわ」
「ほう?どこで見かけたのだ?」
「盗賊から助け出された時に···裸を見た気がしますわ」
やば。そ、そんな事言ったら···
「貴様ああああああああああああっ!!今すぐ処刑だこの変態があああああ!!」
「ぎゃああああああ!?り、理不尽だああああああああっ!!」
手に持った大きな鎌をブンブン振り回しながらおっさんがドアの蹴り開けて入ってきた。顔はゆでダコのように赤くなり、表情は鬼のように歪んでいる。まさに悪鬼羅刹。
···結局、お嬢が伝家の宝刀『パパなんてだいっきらい!!』を繰り出すまで俺は狭い牢屋の中で逃げ回ったのだった。
*
「ふむ。事情は分かった。だが、証明出来るものがないな。···というわけで模擬戦闘しようか?」
「どういうわけだかさっぱり分かりません···」
あのあと。
一通り事情を聞かれ、解放されるかと思いホッとしていたら何故か外に連れ出された。
おっさんは黒い笑みを浮かべつつ刃を潰された剣を俺に手渡してきた。
俺がそれを何気なく受け取ると、
「よし剣を持ったな戦闘開始だ死ねえええええええええっ!!!」
「ぎゃあああああああっ!?ふ、不意討ちだとっ!?」
いきなりファイアボールを飛ばしてきた。あぶなっ!?今、鼻先かすめてジュッていったぞ!?
「チッ。運のいいやつめ···」
「オイおっさん何しやがんだコラ」
「言っただろう?戦闘訓練だっ!」
そうおっさんは言い切ると俺に炎槍を放ってきた。
···あっぶねえ!?
俺は身を捻って何とか槍をかわした。
そして、炎の槍はそのまま飛んでいって······
ズドオオオン!!!
地面に着弾し大穴を開けていた。
パラパラと小石が降ってきて俺の顔に当たった。
········。
········。
········。
「殺す気かよっ!?あれ、当たったら死ぬぞ!?」
「大丈夫だ問題ない」
「あ、実は威力調整されてたり···?」
まあ、そうだよな。いくらなんでも殺すはずが·····
「ちゃんと線香をあげてやる」
「殺意しかねえぞっ!?」
やばい、殺される···!!
どうにかして、活路を開かなければ!!
と、ここまで考えたところで
「んじゃ、準備運動も終わったしそろそろ本気でいくかあ」
「え」
え、まって。あの威力でまだホンキジャナカッタンデスカ?
シンジャウヨ?このままじゃシンジャウヨ?
「いくぞ···並列展開、フルバースト!!」
「嫌な予感しかしねえっ!?」
次の瞬間。
ドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドッ!!
もの凄い速さで炎の槍が乱射された。その様子、まさしくガトリングガン。
このままだと、体に風穴があいて爆死してしまうだろう。HPも使いきっちゃって残りが無いし。
どうする、俺!?
とりあえず、体内にあるものでなんとか出来ないか考えよう。
リストアップすると···
肉
肉
血液
武器(大量)
岩(大量)
録なものが無かった。
どうしよう、どうしよう····!!
······あ。そうだ。
俺はあることを思いついた。
俺が喰うことの出来ないものは命ある物のみ。
命なき物ならば何でも喰うことができる。
そう。何でも、だ。
つまるところ···
(魔法って、喰えるんじゃないのか?)
そうとなれば話は早い。
俺は暴喰を発動させた。
襲い来る炎の槍をどんどん喰らう。
結果。
「な、何っ!?ありえん!無傷だと!?」
無傷。しかも体内にはさっきの槍がたくさんある。
俺は槍の魔力を喰らい、半分以下にして死なないようにした上で······
「お返しだっ!!」
「ぬわああああああああっ!?」
そのまま跳ね返した。
小規模な爆発がおっさんの周りで起き、おっさんは大火傷を負って気絶した。
*
「くっ···強いな。仕方あるまい。悲しいが、これも親の定め···。娘を頼んだぞ···」
「えっ?」
いきなり何を言ってるんだろう···?
「お前の強さならば、婿として申し分無い···」
「はぃぃぃぃぃぃい!?」
婿!?え!?なんでっ!?
一体、何が起きてるんだっ!
「えーっ···と。何でそうなるんですか?」
「ん?エレを賭けて戦ってたんじゃなかったのか?」
「いやあの俺は自分がゼノであることを証明するために戦っていたんですが···」
「·······························ああ、そういえばそうだった」
おい。何忘れてんだよおっさん。
「すまない。娘がお前の裸を見たと聞いてな。いろいろ吹き飛んでいた」
「ああ、あれですか···何分今まで服なんて着たこと無かったですからね。完全に忘れていたんですよ。ただの事故です」
「ああ······そうだったのか。てっきりそういう趣味かと」
「んなわけないでしょうっ!?」
少女に一物を見せつける青年。······確実に捕まるな。
おっさんは神妙な顔をして、頷いた。
「それもそうだな···。遅くなったが、エレを助けてくれてありがとう。助かったぞ。そして、これからも末長くよろしく」
「あ、すみません無理です」
「·······························································は?」
*
あのあと、戦場跡のようになった庭で話すのもちょっと···。ということでお嬢も呼んでリビングで話すことになった。
「······さて、さっきの『無理』とはどういう意味なのか教えて貰おうか?」
旦那は俺をジロリとにらみ、そう言った。
「···俺は、行かなければならないところがあるんです」
「ほう?何処だ?」
「ヤコマ山です」
「ヤコマ山か···。確か、お前がもともといた場所だったな」
あ、そうなの?地名とかはよく知らないからなんとも···
「でも、大丈夫ですの、ゼノ?ヤコマ山は遠いですわよ?」
「ああ、そうだな。道中にはわんさかと。魔物が出るしな。なんでそこに行くんだ?」
···この人達に女神のことを言ったら、信じて貰えるんだろうか?
ひょっとしたら、という期待はある。
でも、信じるわけがないという諦念もある。
だから、俺は···彼らに隠すことにした。
「···すみません。機密なので言えません。ただ···必要なことなんです」
俺は、強い意思を込めて旦那をみた。
「でも、ゼノッ」
「エレナ、やめなさい。···必要なこと、なんだな?」
納得出来ない、という態度のお嬢を旦那はたしなめて話を促した。
「···はい」
「悪いことでも、ないんだな?」
「···はい」
「···いいだろう。許可する」
「ありがとうございます」
「だが、条件がある。···せめてギルドで登録ぐらいはしておけ。登録料も出そう」
「何から何までありがとうございます」
今夜は泊まっていけ。旅に必要であろう物はこっちで揃える。
そう言って旦那は席を外した。
旅立ちと言ったな?あれは嘘だ。
···すみません。次回はギルドでの登録です。