事件発生
今回は短いです。
グリモワール家で飼われはじめてから二週間が経ったある日のこと。
お嬢が……盗賊に攫われた。
*
その日もいつも通りの一日だった。
朝起きてお嬢に抱きつかれてお嬢に抱きつかれてお嬢に抱きつかれて屋敷の探索をして部屋に帰ってお嬢に抱きつかれてお嬢に抱かれて食堂にいってお嬢に抱かれて勉強を見守って剣術の授業を見守ってお嬢に抱かれて食堂にいってお嬢と一緒に出かけた。
……今気づいたけど、俺、めちゃくちゃお嬢に抱きつかれてるな。
まあ、良いんだけどね。というか、むしろご褒美だ。
まあ、それはともかく。
今日のお忍びでいつも入っているカフェに行った時に、お嬢がトイ……ゲフンゲフン。お花摘みに行ったのだが、それから30分ほど経っても戻って来なかった。
不審に思い見に行った(※女子トイレです)が、誰も居らず、代わりに一通の置き手紙があった。
そこには……
エレナ・グリモワールはいただいた。もし令嬢の身が惜しいならば毎月白金貨50枚を用意しろ。
白金貨のやりとりはこの場所で行う。
という文面が書かれており、赤い印で取引場所が書かれている地図が同封されていた。
*
こんな大事は俺の裁量ではどうしようもないため、手紙を持って屋敷に帰っておっさん───クルト・グリモワール───に渡した。
……え?何で自分で行かずにおっさんに任せたのかって?
それはな、おっさんは俺が知る限りで最強の人物だからであり───
「うおおおおおお!エレエエエエエエエエ!!!」
───もの凄い親バカだからだ。
もしもこの事をおしえずにおれが勝手に出て行って、失敗したとしよう。
もしもそんな事になったら、きっと俺は欠片も残さずおっさんに消し去られるだろう。
もしかしたら、魂すら残らないかもしれない。
そして、アジトの場所がわからない。
アジトの場所がわからないと、お嬢を助けられない。
でも、一人ではアジトを見つけられない。
俺はお嬢を助け出したい。
くだらない見栄なんかよりそっちの方がずっと重要だ。
さて、そんなわけでおっさんの鶴の一声によって30秒で編成されたお嬢救出隊の隊長職と規模は以下の通り。
隊長:クルト・グリモワール(伯爵)
メインアタッカー
副隊長:レイナ(剣術指南役)
雑魚殲滅筆頭
平隊員:30名
雑魚殲滅補佐
隠密隊員:ゼノン・グリモワール(ペット)
敵の後をつけ、様子を確認してくる。
お嬢を助け出すための作戦はこうだ。
まず、待合場所におっさんが行く。
そして、鳥肉を食べたときに得た鳥の擬態や虫の擬態(バイト時に取得)を使って後をつける。
アジト内部に侵入したら、可能な範囲でアジトの探索を行い、機を見て逃走。
そして報告をしたあと、平隊員に混ざって敵を殲滅する。
以上だ。
……まあ、俺は人を殺したくないから、雑魚殲滅時は刀で峰打ちにするから、殲滅と言っていいのかわからないけれど。
*
俺は今現在鳥に擬態し、おっさんが乗っている馬車を追いかけている。
取引場所は見晴らしのよく、遮蔽物のない丘だ。
伏兵を警戒しての選択だろう。
だが、俺たちはそれを逆手に取る。
俺はこの後、アリに擬態して、下っ端の盗賊にくっついていくつもりだ。
虫が服……それも足にくっついていることに気がつけるやつは以外と少ない。
多分、奇襲などを警戒してやってくるのは死んでも構わない下っ端だろう。
盗賊の頭レベルの力があれば話は別かもしれないが、雑魚の下っ端程度じゃあ俺の存在には気づけまい。
しばらくして、馬車が取引場所についた。
おっさんは馬車から降りて、下っ端(身につけているものがボロいからな。下っ端で確定だろう)の盗賊に正面から向き合った。
「待たせたな」
「金は用意してあるんだろうな?」
「もちろんだ」
おやっさんは白金貨の入った袋を受け渡した。
「ふむ。確かに。これで貴様の娘の命は保証しよう」
そう下っ端は言って、止めてあった箱馬車の中に入った。
もちろん、俺をくっつけたまま。