初めての依頼
お久しぶりです。お待たせしてすみませんでした。
「あー…面倒くさい…」
俺は今、オアシス周辺都市ウルに来ていた。なぜならば床を壊した罰として、木材その他を買わなければいけなくなったからだ。自腹で。なお、その壊した本人は家で待機。
当然、俺は反発した。じいさんに抗議もした。
しかし…
『リオナは、とある事情から町に出すわけにはいかんのじゃ』
どうやらリオナは町に出してはいけないらしい。
だから、家の中で罰を受けさせるとのことだ。
そういうわけで一人で買い物に来た。
…とりあえず、買うもののリストを再確認するとするか。
俺はそう考えて体内から買い物リストを取り出した。
◆◆◆
買い物リスト
木材(種類問わず)100㎏
釘 40本
鍋 1個
机 1個
椅子 4個
◆◆◆
…うん。やっぱ、あれだよな。
「働かないと買えないよなぁ、これ…」
俺が旦那に貰ったのは小金貨一枚に銀貨5枚。うち手元に残っているのは小金貨1枚、銀貨3枚、小銀貨3枚、銅貨5枚。
で、買い物リストの品を買おうと思うとすべてで小金貨4枚は必要になる。
つまり、絶対に足りない。
というわけで。
*
やってきました、冒険者ギルド。
いやー、やっぱり金稼ぎといえばここだよな。といっても依頼を受けるのは今回が初めてなわけだが…。
俺は体内からギルドカードを取り出し、ギルド内へと入っていった。
「なんかいい依頼はねえかなぁ…」
中に入ると俺は真っ直ぐにボードへと向かい、依頼を確認した。
▽▽▽
ゴブリン退治
依頼者:ギルド
ランク:問わず
内容:ゴブリン5匹の討伐
報酬:小銀貨2枚
備考:常時依頼です。ゴブリン討伐数が1匹増えるごとに銅貨1枚を追加します。
▽▽▽
▽▽▽
薬草採集
依頼者:薬屋アルバ
ランク:問わず
内容:薬草20株の納品
報酬:銀貨2枚
備考:薬草の採取です。薬草の状態によって報酬の上下有。
▽▽▽
うーん…面白そうなのがないなぁ。
依頼のほとんどが銀貨数枚だ。
小金貨を稼ぐにはあまりにも時間がかかりすぎる。
何かないものか…そう思って端のほうまで見ると面白そうな依頼が一つだけ見つかった。
▽▽▽
恩人を探しています!
依頼者:故あって秘匿。
ランク:D以上
内容:恩人の発見
報酬:小金貨5枚
備考:さるお方が自分の命を救ってくれた恩人を探している。警備上の理由のため詳細はここには書けないので町の西にある楽園亭にて部下のマルクが詳細を話す。
▽▽▽
おお、これ面白そうだな。
地雷臭もするが…報酬も小金貨5枚とかなりいいしな。決めた、これにしよう。
そう思って俺はカウンターにこの依頼を持って行った。
カウンターは例のごとく美人さんのカウンターとおっさんのカウンターがあったが迷わず俺はおっさんのカウンターに並んだ。だって待つのだるいし。
しばらく並んでいると俺の番がきた。
「すみません、この依頼を受けたいんですが…」
「ん?どれどれ…おい、この依頼を受けるつもりか?」
俺が持ってきた依頼をおっさんに見せると、突然おっさんは顔を険しくした。
「え?はい…そのつもりですが?」
「…悪いことは言わん。やめておけ。こいつはいろいろと怪しい依頼だ」
おっさん曰く、何人もの冒険者がこの依頼を受けたが誰一人として達成できていないらしい。しかも、皆依頼の内容に関しては貝のように口を閉じて語らなかったそうだ。
…確かにうさんくさい。でも…
「…いえ、やっぱり受けます」
「…そうか。そういうなら仕方ない。成功を祈っている」
おっさんはそういうと、依頼の受理をしてくれた。
*
俺は早速町の西にある楽園亭へマルクという人物に会いに行った。
しばらく大通りを歩くと楽園亭に到着したのだが…
「で、デカい…」
この世界にしてはかなり大きめの宿だった。四階建てで、見ただけで高級宿だとわかる。
とりあえず俺は中に入り、カウンターで女将さんに話しかけた。
「すみませーん。マルクさんはいらっしゃいますか?依頼を受けたのですが…」
「ああ…マルクさんかい?今呼んでくるからそこで待ってておくれ」
女将さんはそう言うとのしのしと上に上がっていった。
~3分後~
「はい、マルクさんを連れてきたよ。…マルクさん、こちらの方が依頼を受けたそうだよ」
そう言って女将さんが連れてきたのは、緑の髪をしたキリッとしたスレンダーな美人さんだった。…マルクさんって女性だったのか…。名前からてっきり男性かと思っていたからびっくりしてしまった。
「わかりました。ありがとうございます女将さん。…さて、あなたが依頼を受けた方ですね?では、今から主に会ってもらいます」
俺がボーっとそんなことを考えていると、マルクさんにキロリッと睨まれてしまった。…うげっ、考えを読まれたか?
というか、ここからまた移動するのか。面倒くさいなぁ…いやまあ、仕方ないか。警備上の理由だし…。
マルクさんと共に町の中心部へとしばらく歩くとそこには…凄い豪邸があった。
大きな庭には噴水がついており、木々や芝生にも丁寧に手入れが行き届いている。門にも細かい意匠が施されていて、品を損なわず華美さを表現しきっている。
「うわぁ……すっげぇ……」
あまりの豪勢さに俺が思わずそう漏らすと、マルクさんは小さくクスクスと笑った。
…ちょっと、恥ずかしい。
「す、すみません。ついびっくりしてしまいまして…」
「いえいえ、驚いていただけたのなら何よりです。…ようこそ、我が主の別荘へ」
「へぇー…」
そうか…別荘かぁ。まあ普段住んでる場所ならこれくらい大きくても…え?別荘?
「って別荘!?家じゃなくて!?」
「ええ、別荘です。我が主ならば当然です」
俺が驚いて問いかけると、マルクさんはドヤ顔でそう答えた。見た目は宝塚っぽいのに、中身は少し子供っp……うわ殺気が!?
「マヌケ面を晒してないで早く来てください」
マルクさんはピシャリと言い放つと、俺を置いてどんどん先へと進んでいってしまった。
俺も慌ててマルクさんを追いかけて屋敷の中へと入っていった。
屋敷の内装も外と同じくらいに豪華だったが、それらに見とれている暇もなくどんどん進んでいくマルクさんを追いかけつづけた。
「ちょ、マルクさん!少し速すぎませんか!?」
「何甘いことをおっしゃっているのですか?この程度の速さにも追いつけないようでは依頼はつとまりませんよ?ええ。決して、決して子供っぽいとか思われて不快だから早歩きしているわけではないのです。いわば愛の鞭です」
「いやいやいや、めっちゃ気にしてるじゃないですか!」
「おや、まだまだ行けると?俺の限界はこんなものではないと?良い度胸です。さらに速度を上げましょう」
「すみません勘弁してください」
いくらSPD高くても好きで早歩きしたいわけじゃないんですよ!!
凄い速さで歩くマルクさんについていくと、ついに四階の最奥の部屋に到着した。
「着きました。この先に我が主がいらっしゃいます。決して、粗相のなきようにお願いします」
マルクさんは一礼し、扉の横に立った。
…この扉の先に依頼主がいる。
そう思うとやけに緊張した。
「し…失礼します……」
俺はそう言ってゆっくりと扉を開いた。
*
中には女の子が一人いた。
落ち着いた淡い緑の髪。
おっとりとした優しそうな目。
そして気品の高さがにじみ出る佇まい。
年齢は12才くらいだろうか。まだまだあどけなさが残っている。
まさしく…お姫様。
そう思わせる子であった。
「俺はゼノン。あなたの依頼を受けたものです」
思わず見とれそうになったが、俺は一瞬で思考を戻して女の子に話しかけた。
「………」
……あれ?反応がない。
女の子はこちらを凝視したまま固まっている。
「……あのー……すみません?」
「………」
はんのうがない。ただのしかばねのようだ。
…仕方ないので俺は無礼を承知の上で女の子に歩み寄り……
「えい」
パァーン!!と目の前で猫だましを打った。
「ぴいぃゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁあああ!!!???」
すると女の子は相当驚いたのか顔をのけぞらせて後ろに飛びずさった。
…なにこの子。面白い。
「あ、気づかれましたか?」
俺がしれっとそう言うと正気を取り戻したのか、女の子はコホンと咳ばらいをして一礼した。
「す、すみません。取り乱してしまいました…。私の名前は、マリーナ・ローゼン。ローゼン王国の第二王女です。マリーとお呼びくださいね」
「え……お、王女様ぁ!?すみません、とんだご無礼を!!」
……とんでもない大物だった。
俺は先ほど自分がしたことを思い出し、慌てて謝罪した。
「むー…王女ではなく、マリーと呼んでください!」
しかし、王女はどうやら気に入らない様子。
「し、しかし王女様…」
「マリーです!!様もいりません!!呼び捨てにしてください!!敬語も禁止です!!」
「えぇー…」
俺が呼び名を変えないと、王女はタコのようにふくれっ面になってしまった。
…仕方ないかぁ。
「えっと…マリー?」
「はいっ!なんでしょうか!?」
俺が試しにマリーと呼ぶと、王女は顔をキラキラを輝かせて返事をした。
…いやなんでだよ。
「その、いい加減依頼の話しをだな……」
俺は意を決してそういう。
するとマリーはあっけからんとして
「あ、もう依頼は達成したのでいいですよ。恩人様…もといゼノン様」
「……は?」
……え、俺が恩人?
「……すまない、助けた覚えがないんだが……」
こんな目立つ子を助けたらさすがに覚えているはずだ。
しかし、俺がそういうと彼女はきょとんとしてこういった。
「いえ、先日砂漠でサンドラゴから助けてもらいましたよ?」
「サンドラゴ…?…ああ!!」
砂漠。
サンドラゴ。
そして…豪奢な馬車。
つまり……
「あの馬車に乗っていた姫様って、君のことだったのか!!」
「はい♪」
あの使えない騎士団が言っていた姫様というのが、この子のことなのだろう。
しかし……
「……じゃあ、知っているんだろう?俺が、人間ではないことを」
俺はあの時、彼女達の目の前でスライムの姿になった。
つまり、彼女達は俺の正体を知っているのだ。
「……ええ、知った上で接触しました」
「何故だ?俺に音もなく殺されるかもとか考えなかったのか?言っておくが、あれは俺が狙われていたから倒しただけでお前たちのことは露ほども気にかけていなかったからな?」
……俺の力は、はっきり言って異常だ。
戦闘能力などという単純なものではない。
俺がいるだけで戦争が変わる。
武器はほぼ無限に供給され、しかも材料費がいらないのですべてタダ。しかも高品質。
兵糧はすべて俺が運べるので輜重隊もいらず、補給線もいらない。
しかも、個体での戦闘能力も高く、ほかの生物に化けれるため隠密性が高い。
国家からしたら喉から手が出るほど欲しいだろう。
ただのお姫様ならよかった。
だが、俺の正体を知っている以上…優しく接してやることはできない。
「…それでも、お礼が言いたかったのです」
「……理由は、それだけか?俺の力が目的じゃないのか?」
「っ違います!!いくら恩人様でも怒りますよ!?」
俺がそういうと王女は烈火のごとく怒った。
「じゃあ、俺に礼を言いたかっただけなんだな?」
「それは……違います。お礼だけではなく、会って欲しい方がいるのです」
「断る」
「なっ!?」
王女がわざわざ会わせる相手など、ロクなものではないだろう。
…潮時か。こいつに関わるのは危険だ。とっとと逃げるとしよう。
「もういい。何を企んでいるのかは知らないが、関わらなければ関係ないしな。じゃあな」
「まっ…!!」
俺は瞬時に移動し、窓を開け放ってトンボに擬態して飛び去った。




