恐ろしく冒涜的な……
「いや~……まさか、儂の腕を切り飛ばすとはのう。びっくりしたわい」
俺の戦闘不能によって模擬戦闘が終わったあと、じいさんは頭をぽりぽりと掻きながらそう言って笑った。
「いや、俺としてはじいさんのほうがビックリなんだけど……」
このじいさん、切り落とされた腕を気合いだけでくっつけやがったのだ。もうやだ。なんなのこのじいさん。身体能力が理不尽すぎるんだけど。
俺はそう考えて戦慄していると、何かを考え込んでいたじいさんが顔を上げた。
「ふむ……。ところでお主、剣術のスキルは持っておらんのか?」
「剣術?」
「うむ。儂の腕を切り落とした武器の名前はしらんがの、あの動き……何かの武術じゃろう?ならば、剣術かどうかはわからぬが武術系のスキルを得て然るべきなのじゃが……」
「……エ」
マジか。スキル持っていないとおかしいのか。なんでスキル生えないんだ?
「うーむ……。武術における基本的な攻撃はスキルによるものじゃからのう……。すまぬが、教えることはできても一流にはしてやれそうにもないわい」
「そ、そうですか……。では、基本の動きだけでいいのですべての武器の扱いを教えてくれませんか?」
「ふむ。まあ、それなら問題ないじゃろう」
よかった……。これすらも無理だったらどうしようもなかった。
「よし!では、新弟子加入者を祝い今宵はうたげとするかのう!」
こうして、俺は闘神の下に弟子入りした。
*
地獄。
地獄だ。
この光景はそうとしか言い表せない。
…ああ、どこで間違えたのだろう?
俺は頭を抱えた。
……事態の発生は、数分前まで遡る。
*
宴は非常に盛り上がった。
美味い料理に舌鼓をうち、理想の筋肉談義をしている筋肉フェチコンビに蹴りを入れ、リオナと額を突き合わせてにらみ合い、いきなり歌い出したじいさんの口に二人であわてて無理矢理チキンを突っ込んで黙らせたりしていた。
事が起こったのはそのときだ。
「ふうー……。喉が乾いちゃった」
リオナが喉が乾いたと言ってコップの中身を飲み干したのだ。
別に、何も問題はなかったはずだった。……中身が、酒でさえければ。
「んぐっんぐっんぐっ……ぷはぁっ!」
コップの中身を飲み干したリオナは机にドンっとコップを叩きつけた。
どうしたんだろうかと思い、リオナの顔を見てみると……真っ赤になっていた。
「おい、リオナ。どうかしたのか?顔真っ赤だぞ?」
俺はリオナを心配し、リオナの顔を覗き込んだ。……それが間違いだった。
「ぃ……」
「い?」
「ぃやああぁぁぁああああっ!!」
「ぐあぁあっ!?」
バシィン!というもの凄い音と共に俺は後ろの壁までふっとばっされた。壁が見えてるから、たぶん首が180度反対側をむいているのだろう。
「な、なんで人間がここにいるのよーー!!」
「は?いや俺、人間じゃ……」
俺はそこで気づいた。
リオナが正気を失っていることに。
なぜなら、あいつは俺が人間ではなく魔族であることを知っているはずだからだ。
となると、何を言っても無駄になる可能性が高い。ここはおとなしく、スライム状態に戻るべきだろう
そうかんがえた俺は擬態を解き、スライムへと変化した。
俺が擬態を解くと、リオナは人間が消えた!?とびっくりしていた。
俺はじいさんも当てに出来なかったし、リオナに絡まれるのも嫌だったので、早々にその場を退散しようとした。
だが、とあるものを見ておもわず足を止めてしまった。
見惚れてしまったのだ。
あまりの美しさに。
そう、とても綺麗で、魔性の魅力を持つ……
……そんな、リオナに生えた、銀色の狐尾に。
うわぁ、ふっかふかそうだなぁ……。ふりふりしてるじゃないか。なんだあのモフモフは。あんなものが存在していていいのか?いや、いいんだろう。むしろ存在していてほしい。いや、存在していてくださいお願いします。土下座だってするよだってモフモフだもの。
……そんなふうに湧いたことを考えていたからだろうか。リオナに捕捉されてしまった。
ああ、こりゃしぬかなぁ……。と思っていたのだが……。
「きゃ~~~!!なにこれ!?なにこのプルプルした生き物!!可愛い~~!!」
リオナは大はしゃぎして俺を抱き上げたのだ。
こうして俺はリオナに抱えられ、逃げられなくなってしまったのだった。
……とまあ、ここで終わればよかったのだが、リオナの次の一言が地獄を生み出した。
「そうだ!餌付けしようっと♪」
いいこと思いついた!と言わんばかりに顔を輝かせたリオナは、俺を抱えてキッチンへと移動し料理を開始した。
「えーっと、まずはお鍋に水をいれて……ベニダケを投入、と」
リオナはぶつ切りにした真っ赤なキノコを鍋に投入。……ちょっとまて。それ、毒キノコじゃね……?
「つぎは塩を少々……」
リオナは取り出した塩を一掴み鍋に投入した。……いやいやいや、塩分過多で死ぬだろそれ…。
「豚肉をきって投入して……」
生の豚肉がドボドボとぶち込まれる。……豚の血液がついたまま。
「蓋をして……煮るっ!」
リオナてめぇ……料理舐めてんだろ……?
こんなの料理じゃねえよっ!?やり直せ、切実に!!
しかし、俺の思いは届かず。
「できたーー!!」
料理(という名の生ゴミ)が完成してしまった。
リオナはそれを嬉しそうにテーブルへと運び、わざわざ自分のスプーンですくい上げてフーフーし……
「はいっ、あーん♪」
俺に差し出してきた。
……神よ、なぜ俺にこんな試練を与えるのですか……?
あ、神と言ってもあの駄女神なのか……。やっぱいいや。今の無しで。
さて、どうしよう……?
人生(魔生?)初のあーん。
それも、美少女のあーんだ。しかもフーフー付き。
男ならば、食べるないわけにはいけない。……たとえ、それがあからさまに毒であったとしても。
「どうしたの……?食べないの……?」
うっ……迷っていたら、リオナは不安になってしまったようだ。
酔っているせいで顔が上気しているリオナが、ちょっと目を潤ませてこちらを見てくる。
……しかたない、食べるとするか。
おれはそのスープ?をたべようと身体を近づけた。
そのとき。
[キシャアアァァァァアアアアッ!!]
「えっ!?」
スープがむくりと起き上がり、グパァと裂けた口を開いて威嚇した。
びっくりして俺とリオナが固まった隙に、スープはぴょんっ!とスプーンの上から逃げ出し……
[ゲキャキャキャキャキャキャキャ!!]
高笑いをしながら、床を溶かし、テーブルを引っくり返して去って行った。
俺とリオナは唖然として、その場でかたまってしまった。
しばらく固まっていたが、少ししてリオナは感心したようにポツリと呟いた。
「スープって、逃げるんだ……。これからは、気をつけて食べなきゃ!」
いや、普通のスープは逃げねえからな!?
つい書いてしまった……




