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2-3

(まぁ怖い)

 くすくすと笑われ、リアはドレスの裾を凝視した。

(あれが、魔物の花嫁になる予言をされた娘なんですって)

 顔があげられない。

 近隣の小国が集まっての、小さなパーティー。昼の時間帯、明るい日差しの中、芝目の揃った広い庭で、ティータイムが続いている。

 歳の近い娘達は、リアのことを面白おかしくはやしたてた。

 リアはこれまで、魔王の花嫁となる運命を嫌って、それを避けるために、武術や政治を学び、弟と机を並べて暮らしてきた。

 もちろん、ドレスを着て、淑女としての立ち居振る舞いも学んだけれど、女の子達は、自分達と違う者に対して冷たかった。

(あの子、見て。魔物みたいね、よろよろ歩いて)

 ちゃんと履きなれていたはずの靴でも、リアは気持ちがくじけて、うまく歩けない。ひそひそと扇に隠れて、けれど公然と悪口を言われる。

 部屋に逃げ帰るわけにもいかない。うつむいて、泣かないで踏ん張った。

 くすくすと、密やかな笑いのさんざめく、光あふれる庭で、リアはひとりぼっちで立っていた。

 しばらくして弟が駆けてきた。リアと同じ色の髪を振って、一人にしてごめんねと涙ぐむ。

 いいの。

 リアは首を左右に振った。

 いいの。私が。私の運命が。私の邪魔をする。

 私、かならず、運命を変える。

(あぁ……これは夢ね)

 夢だと分かっていても、夢の中のリアはちっぽけで、引き裂けそうな心を、大事に握りしめて立っているより他になかった。


「大丈夫だよ。心配しなくていい」

 穏やかな声がして、リアのそばに誰かが寄り添ってくれる。

 誰?

 弟よりも、息の深い声。

 心がくつろいで、深く、肺に空気が入ってくる。

 知らない間に、リアは息をつめていたのだ。

「君は愛されている。ここは危険のない場所。怖くない」

 ふわりと、誰かがリアの額にキスをした。

 眠れない日に、家族がしてくれたように。

 ほっとして、リアは、小さく頷いた。

 そして、その日はもう、夢を見なかった。

 まぶしい。

 直射日光が顔に当たる。どうも、カーテンが開け放たれた上、掛け布団まではぎ取られてしまったようだ。寒い。おまけに、ベッドからも落ちたようで、背中にごつごつとした固い床が触れている。

「ん」

 寝返りをうとうとして、あまりのまぶしさに薄目を開ける。

「おはよう、リア。気分はどう?」

 突然爽やかな挨拶をされた。夢の中で聞いた気もする、弟よりも低い声だ。

 リアは瞬きする。素通しの青い空と、きらきらと葉の端を輝かせる、森の木々が目に入った。

(森の中?)

 急に、体温があがった。

(森……! 私!)

 飛び起きる。すぐさま駆け出せるよう、心臓は倍速で脈を打っていた。でも、まだ何も食べていない。走り出しても、空腹ですぐに倒れてしまいそうだ。

「あ、起きた」

 数名分の声が、合唱した。

「リア。おはよう」

 にこやかな声を聞いて振り返ると、最近の記憶に違わず、つやつやした緑の蛙が、金色の王冠をかぶってちょこんと座っていた。

「気分はどうかな、」

「やっぱり嫌あぁ!」

 頭を抱えて後ずさったリアに、蛙がしょんぼりして胸を押さえた。

「……やっぱり……私は城に帰った方が、いいようだ……」

「カエルだけに。殿下もうまいこと言いますね。アライ感激」

 平板な口調で賛同し、帯剣した従者アライが、馬に荷をくくりつける。

「ほっ、本当に帰る……?」

(私、もしかして置いて行かれる……?)

 リアは妙に不安になった。

「殿下はカエルですよ」

 要領を得ない返事をして、アライがひらりと騎乗する。栗毛の馬は、前足をかいて鼻息を吐いた。

「ではアライはちょいと偵察に」

「偵察、って」

「魔物が殿下に近づけなくて違うとこで暴れてたら、貴方みたいにリンデンへ忍んでやってきたお客様が殺されてないとも限らないわけです。その、様子見でっす」

 アライは律儀に説明して、じゃ、と気軽に出かけていった。

 きらきらと音がしそうな、白くて明るい光が、木々の梢で弾けている。

 リアはぼんやりして、それから、ひっつめて結んだままにしていた髪をほどいた。背の中程まで、癖のある茶色の髪が流れ落ちる。

 ジークが跳ねてきて、結ぶのを手伝ってくれた。

 イディアーテがパンとお茶を温めた頃、アライが赤い実などを拾って戻ってきた。



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